「カンナ、遅いなぁ……」
ある日のシャーレの執務室。
今日はカンナが当番として来る予定なのだが、時間になってもやってこなかった。幸い、仕事はそこまで多くないため、私一人でも対応できる。しかし、カンナから連絡の1つもないとなると、不安になる。何か、大きな事件に巻き込まれたか、対応していると思うけど…。
そう考えていると、モモトークの通知音がなる。確認すると1番上にカンナの名前があった。
「現在、事件の対応に追われ、そちらへ向かえません」
カンナにしては珍しく、現状報告のみの文に違和感を覚える。いつもなら謝罪から入り、代替案を出すか、今日を含めた次の担当日までの埋め合わせなどの連絡をくれるのだが、今日の連絡にはその一切がなかった。
余程余裕がないのだろう。そう思った私はカンナのいるであろう場所へ向かった。
「クソッ!被疑者は一体何処へ行った!?」
「落ち着いてください、カンナ公安局長!」
勢いよく壁を殴り、手が血に染まるが、それ以上に怒りが私の思考を支配する。朝早くからの緊急連絡、そこから聞かされた「子供の誘拐」という言葉に。
子供達が学校に来ていないと保護者へ連絡が行き、この事件が発覚した。防犯カメラの映像を確認したところ、複数タイのロボットと不良生徒数人が子供たちを攫っている映像が確認できた。子供たちは3人1組で集団行動をしていたが、数人の大人の前では無力に等しい。
そんな子供たちを守らなければならないのに、今は何もかも後手に回っている。ドローンなどで空から捜索しても被疑者の位置も特定できず、ヴァルキューレを総動員してしらみ潰しに、ひとつずつ潰しているのが現状だ。
先生にも迷惑をかけてしまっている自分にも腹立たしく思っていると、部下のひとりがこちらへと走ってきた。
「局長!局長にお会いしたいという方が...」
「こんな時に誰だ!忙しいのは分かるだろう?!」
こんな時に私に会いたいというバカは誰だ?会うなら事前にアポを取って⋯
「シャーレの先生と名乗る方です。局長にすぐに会わせてほしいと」
「先生がッ!?」
部下が走ってきた方へ目線を向けると、いつもの優しい顔でこちらへやってくる先生の姿があった。
「やぁ、カンナ。現状はニュースで確認したよ。かなり大きな事件になってるようだね」
「先生、どうしてここに?」
「カンナなら、ここに居そうかなって」
いつものように優しい笑顔を向けてくるが、この時ばかりは、先生のことを恐ろしく感じた。
この事件自体、シャーレから離れた位置で起こり、被疑者達はシャーレから離れるように逃げたことが確認できている。そこは、キヴォトスの中でも廃墟が並ぶ地帯で、被疑者が隠れるにはもってこいの場所だ。シャーレ近くの警戒もしつつ部下を配置し、私は被疑者がいるであろう地帯の近辺を拠点として調査をしていた。
そんな所へ、先生は「ここに居そう」という理由できたのだ。
「私にも手伝えることがあるかと思ってね。これを見て貰えないかな?⋯カンナ?」
「あ、ああ。申し訳ありません。先生がここまで来たことに驚いてしまいまして。それで、これは一体?」
「ここ一帯の地図なんだけど、私なりに居そうな場所に印を付けてみたんだ。参考になればいいかなぁって⋯」
先生に見せられた紙の地図には、3箇所の印がつけられていた。どの位置もまだ調査しきれていないエリアであり、自分が目星をつけていた場所とは全く違う。それどころか、今いる場所からあまり遠くない位置だった。
「どうしてここのエリアへ?犯人ならさらに遠く、この辺りに逃げそうですが...」
私は自分が目星をつけている所へ印をつける。
「たしかに候補だけど、そこは最後かな。人質を連れている上に複数人で隠れるには適してないからね。この3箇所なら複数で隠れられて、囲われても抜け道が沢山あるんだ。子供たちの悲鳴も周囲の建物で拡散されやすいからね。だから、隠れるならこの3箇所。本命は⋯ここかな?」
「ここから1番近いところですね。しかし、なぜここに?」
「ほかの2箇所と比べて、1番適した場所だからだよ。恐らく、ここの周辺からヴァルキューレがいなくなったら、カンナの指した場所へ行くと思う。
だから⋯」
そこから、先生と被疑者確保までの計画を練った。部下をこの地区周辺へと集め、印のある3箇所に人員を配置。逃げ道、裏ルート、考えられるあらゆる方法を潰し、私は先生の本命へと向かい、一斉に突撃。
先生の本命は見事に的中し、油断していた被疑者は全員確保。誘拐されていた子供たちも無事に保護することができた。
事件に関わる全ての処理が終わった数日後の夜、私はいつもの屋台に先生を誘った。この事件の立役者である先生への感謝と、シャーレの当番へと向かえなかった謝罪も兼ねて。
しばらく談話を続け、落ち着いた頃に、私は今回のことで気になったことを口にした。
「そういえば、先生聞きたいことがありまして⋯。私があの場所にいること、犯人の潜伏先を当てたこと。どうして分かったのでしょうか?」
その質問に、先生は一瞬だけ驚いたあと、いつもの笑顔でこちらを見ながら、懐かしむように話してくれた。
「私はね、昔から何かを探そうとすると、直感が働くことが多くてね。特に【かくれんぼ】とかの鬼役は、誰にも負けないくらい強かったんだ」
「⋯かくれんぼ、ですか?」
「そう。隠れるのは下手だったけど、探す時は、なんとなくここにいるって思って行くと、見つかることが多かったんだよ。カンナを見つけたのも、シャーレの近くよりは遠く離れた場所だろうと思ってたから。
そのせいか、私は【歩く索敵機】と呼ばれていたんだ」
そう言われても違和感はなかった。事実、その現象を真近で見たのだから。
「かくれんぼで鬼をする度に、土下座してまで断られたこともあったなぁ。学生の頃は、落し物管理の役割を任されたり、生活安全部の子達に来るような依頼を受けて、解決する活動をしていたんだ。そんな経験が、カンナの役に立って良かったよ」
「……まったく、貴方という人は⋯」
嬉しいことを平然と言ってくれる。先生は本当に罪深いお方だ。
シャーレでなければ、他のところよりも一足先に、公安局に引き入れたいものだ。