「さあ、ヒフミ。みんなの所へ帰ろう」
「嫌です!先生、離してください!」
私はヒフミの、風が吹けば吹き飛ばされそうな、そんな軽い体をお米様抱っこ(俵担ぎ)して、急いでこの場を離れた。
ヒフミには申し訳ないし、悲しい顔は見たくないけれど、私は先生として生徒たちを導くために、辛い選択をしなければならない。たとえ、この事でヒフミに嫌われたとしても、この選択は正しいことなんだ。だから……
「待ってもらってるから、すぐに帰ってテストを受けるよ!後でいくらでも埋め合わせするから!!」
「後じゃダメです!今じゃないとダメなんです!すぐそこに、手の届くところに……
ペロロ様のゲリラライブ会場があるのにぃぃぃぃぃぃ〜!!」
〜およそ30分前〜
なんということでしょう!本日、ペロロ様のゲリラライブが開催されるという情報がッ!今から行けば、最初から間に合います。…しかし、今日はテストの日。それに今回に限って先生が担当してくれるだなんて…。
私たちのことを思って、担当してくれる先生を裏切るなんてことは…。でも、同じぐらいペロロ様も大事なんです……。
「ううっ、私は一体どうすれば……」
悩んでいるうちに私は、トリニティ総合学園の前までやってきてしまいました。このまま門をくぐれば、ペロロ様に会えるのは今日の午後。それも終わり際、ギリギリになってしまいます。
しかし、ペロロ様のライブに行けば、先生にご迷惑を……。
いやいや、何度も先生にご迷惑をかけているのですから、今日はちゃんとテストを受けて、ペロロ様にも会いに…………えッ?!
この瞬間、私の体は門から離れていきました。そんなの当然です!!午前からペロロ様グッズの販売が行われていると知ったら、行かざる負えません!
ごめんなさい、先生!私はペロロ様に会いに行き……
「ヒフミ、どこに行くのかな?」
その声に、私の足が止まりました。いつもの優しい声のする方へ体を向けると、そこには笑っているのに笑っていない、いつもと違う先生がいました。
「先生?!え〜っと……あ、そ、そうです!忘れ物をしてしまって…」
「テストを受けるだけなのに、何を忘れたのかな?それに、ヒフミのお家はペロロ様の所じゃないでしょ?」
私の行動は気付かれているようで、先生はジリジリと近づいてきます。私はその気迫に押され、1歩ずつ後ろに下がって…
「ごめんなさい!」
私は、この場から逃げ出しました。
こうなってしまっては、後戻りはできません。なので、ペロロ様グッズを手に入れたら、すぐに戻って先生に謝罪することにしました。
「あの角を曲がれば、後は真っ直ぐに……え?」
「ダメじゃないか、ヒフミ。いきなり走って逃げたりしたら。
通算4度目のテストからの逃走、仏の顔も三度までなんだよ。今日という今日は、きちんとテストを受けてもらうよ」
そこには、先生がいました。私の後ろを追いかけていたはずなのに、私から20mぐらい先に、先生が立っていました。
私はすぐに、別の道へ進みました。先生も私の後ろを追いかけて来ます。
「どこに行こうと言うのかな?待ちなさい、いい子だから」
その声は優しいはずなのに、冷たく聞こえるほど怖く感じました。
怒られることは分かっています。しかし、それ以上に私の中で、ペロロ様は優先しなければならないことなんです。
先生に捕まってしまえば、ペロロ様は手に入らなくなります。それだけは避けたいことですから、急いで別ルートで、ペロロ様の元へ!
幸い、入場口は複数あるので、先程とは違うところから……
「無駄な抵抗はやめなさい。今ならまだ間に合うから、テストを受けに戻るんだ」
「なんで……どうして、どうしてッ、どうしてッ!」
先生は、私が入ろうする入場口にやってきます。それも、私より先に、待ち伏せしているわけではなく、20mぐらい先から現れて、こちらへあるいてきます。
どこで曲がっても……
「先生のこと、嫌いになったのかな?」
どのルートを進んでも……
「ここは、通行止めだよ」
その先には……
「私は、ちゃんとお話したいだけなんだけどなぁ」
必ず、先生が私の前に立っていました。
もう、ロボット、分身なんて言われても信じられるほど、今の先生に驚きと恐怖を覚えます。
こうなったら、最後の手段を取るしかありません!
幸いにも、この会場は駅から近いので、踏切を利用すれば先生を撒くことができます。踏切を越える道はそれぞれが離れた2箇所なので、先生を見つけてすぐに渡れば、先生の足止めができます。それに、渡った先に先生が居たとしても、すぐに踏切を渡れば別のルートへ行けます。
私は、電車の時刻を確認し、渡った先で見つかっても戻れるタイミングで向かいました。
「こんなところにいたんだね。さあ、学園に向かうよ」
突然現れても、もう驚きません。予定通り、踏切を渡っ...て……ッ!そんな?!遮断機が降りているなんて!!
「ああ、ここで私を撒こうとしたんだね。その様子だと、今日は予定がズレるって情報を知らなかったんだ。」
絶望の光景を目にし、へたり込む私の後ろから、先生が肩を掴む。
「チェックメイトだよ。さあ、ヒフミ。みんなの所へ帰ろう」
「嫌です!先生、離してください!」
こうして、私は先生に俵担ぎをされ、目の前に見えるペロロ様のゲリラライブ会場から、トリニティ総合学園へと連れて帰られてしまいました。
この事はナギサ様にも伝えられ、補習授業部の皆さんと共にお説教をされました。
……この後、周辺全てのペロロ様関連イベントを無くされ、テスト漬けにされるだなんて、この時の私は知る由もなかったのでした。