大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び!   作:ポップ

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第二話:ポップがオラリオにやってきた!

前回、ポップが地上に戻ってきてから幾日が経過した頃。ところ変わって場面はオラリオに移る。

 

「異世界の大魔道士?」

 

フィンは、今リヴェリアから聞いたその言葉に、素朴な疑問を浮かべていた。異世界に大魔道士。どちらもオラリオでは聞き慣れない言葉だ。普通なら怪しさで眉をひそめるところだが、目の前にいるリヴェリアが口にした以上、ただの噂話として切って捨てられるものではないのだろう。

 

「あぁ」

 

リヴェリアは静かに頷いた。場所は、ロキ・ファミリアの本拠地である黄昏の館。その一室で、フィンとリヴェリアは最近オラリオの外で広がっている噂について話していた。

 

「最近、オラリオの外で活躍している凄腕の魔法使いらしいのだが……その様子だと、フィンもあまり知らないらしいな」

 

「初耳だね。どういう人物なんだい?」

 

フィンは椅子に腰掛けたまま、穏やかに問い返した。オラリオは世界の中心とも言われる都市だ。各地から冒険者が集まり、神々が集まり、商人も情報も集まってくる。そのオラリオにいて、フィンの耳に入っていない噂というのは珍しい。勿論、迷宮都市の外にも世界は広がっている。だが、それでも本当に大きな騒ぎであれば、何らかの形でフィンの耳に話は入るものだ。

 

「名前はポップ。歳は二十五ほどだという。本人は自分の事を、別の世界から来た人間だと話しているらしい」

 

「別の世界から?」

 

「あぁ。最初は、遠い異国から来た者が、大げさに話しているだけだと思われていた。だが、彼と話した幾名もの神達が、違う世界から来たという事を事実として確認している」

 

「神達が、か」

 

フィンの目が少しだけ細くなる。地上に降りた神々は、基本的に神の力を使わない。だが、それでも神は神だ。人では見抜けないものを見抜く事がある。相手が嘘をついているのか、本気でそう信じているだけなのか。あるいは、その魂や存在そのものに、こちらとは違う何かがあるのか。

 

細かい所までは分からない。だが、複数の神がそう判断したというのなら、ただの与太話として片付けるのは難しいだろう。

 

「それで、その異世界の大魔道士という人物は何をしたんだい?」

 

「いくつか報告が上がっている。ある街では、モンスターの大群に襲われていたところを救ったらしい」

 

「一人で?」

 

「あぁ。そして、彼はモンスター達を撃退した後、落とされた魔石を使い、街の周囲に結界を張った」

 

「結界?」

 

「マホカトール、と本人は呼んでいたそうだ。破邪呪文という分類の魔法らしく、外敵の侵入を拒む術なのだとか……」

 

フィンは眉を上げた。モンスターを撃退するだけでも十分な功績だ。だが、その後に街を守る結界まで張るというのは、ただの強い魔法使いというだけでは説明しづらい。しかも魔石を使ったという。この世界で魔石は、魔道具や設備に利用される重要な資源だ。しかし、戦場で即座に魔石を使い、街全体を守る術を組み上げたとなれば、その応用力は尋常ではない。

 

「その結界は今も?」

 

「あぁ。勿論永続という事ではないらしいから、効果が続いている間に冒険者を雇い、防備を整える様にと街の者達へ助言したそうだ」

 

「なるほど。ただ助けるだけじゃなく、次に備えろと伝えた訳か」

 

「そうだ。他にも、そこそこの規模の盗賊団から捕らわれていた人々を助け出し、そのまま壊滅させたという話がある。怪我人には治癒系統の魔法を使い、死にかけていた者も救ったそうだ」

 

「攻撃、結界、回復。それを一人でこなすのか」

 

「報告が正しければ、な。そして、面白いのはここからだ。その者は、ファルナを刻まれていない」

 

フィンの表情が、わずかに変わった。神の恩恵を受けていない。つまり、どのファミリアにも属していないという事だ。にもかかわらず、魔法を使い、モンスターの大群を退け、結界を張り、盗賊団を壊滅させ、回復まで行う。もし事実なら、相当に異質な存在である。

 

「神の恩恵が無いというのは、本当に?」

 

「あぁ。本人は、自分がいた世界の魔法体系だと言っているらしい。こちらの魔法とは、詠唱も発動形式もかなり違うそうだ」

 

「それは……確かに気になるね」

 

フィンは椅子の背に身体を預け、指先で軽く机を叩いた。凄腕の魔法使い。異世界から来た人物。神の恩恵を受けていないにもかかわらず、これだけの結果を出している。そのどれを取っても、オラリオ最大級のファミリアの団長として、無視していい話ではなかった。

 

「それで、今日はどうしてその人物の話を?」

 

フィンが尋ねると、リヴェリアは静かに答えた。

 

「どうも近いうちに、オラリオにやってくるらしい」

 

「オラリオに?」

 

「あぁ。情報の集まるこの街へ向かっているそうだ。目的までは分からない。ただ、神々とも接触している以上、いずれ話題になるだろう」

 

「なるほどね」

 

フィンは少しだけ考え込んだ。オラリオに入れば、きっとその人物は注目される。神々は面白がるだろう。ギルドは警戒する。これらの情報を掴んだファミリアであれば、勧誘を考えるかもしれない。だが、下手に囲い込もうとすれば、揉め事になる可能性もある。相手が本当にそれほどの実力者なら、尚更だ。

 

「リヴェリアはどう見る?」

 

「直接会ってみなければ分からない。だが、少なくとも噂だけで判断するなら、悪人ではなさそうだ。助けた者達からの評判も良い」

 

「だろうね。街を救い、盗賊団を潰し、怪我人を治す。分かりやすく英雄的だ」

 

フィンは穏やかに笑った。だが、その瞳は冷静だった。

 

「ただ、そういう人物ほど、本人の意思とは関係なく騒動の中心になりやすい」

 

「同感だ。もしオラリオで接触する機会があるなら、慎重に見極めるべきだろう」

 

「そうだね」

 

フィンは窓の外へ視線を向けた。迷宮都市オラリオ。世界最大のダンジョンを抱えるこの街には、毎日の様に新しい冒険者がやってくる。夢を抱く者。名声を求める者。金を稼ぎに来る者など様々だ。だが、別の世界から来た大魔道士などという存在は、さすがに前例がない。フィンの親指が、かすかに疼いた。

 

「異世界の大魔道士、か」

 

その声には、確かな興味が宿っていた。

 

「面白い人物が来そうだね」

 

 

それから、一週間後。

 

「……でけぇな」

 

つい先程都市に入ってから、ポップは思わずそう呟いた。目の前に広がる街並みは、これまで見てきたどの都市とも違っていた。人の数が多い。種族も多い。人間、エルフ、獣人、小人、ドワーフ、アマゾネス。色々な種族が当たり前の様に通りを歩いている。そして、街の中心には天を貫く様な巨大な塔がそびえ立っていた。バベル。この世界の神々と冒険者達が集まる、迷宮都市オラリオの象徴らしい。

 

「天界、魔界に続いて、今度は異世界かよ……」

 

ポップは軽く頭をかいた。まったく、思えば遠い所に来たものだ。大魔王バーンを倒し、世界は平和になった。ダイも見つかった。今では仲間達も、それぞれ別の道を歩いている。自分も実家の武器屋を継ぎ、ようやく少しは落ち着いて暮らせると思っていた。それなのに、気づけば魔界へ呼ばれ、揉め事を片付けた帰りに旅の扉を使い、辿り着いたのは別の世界。

 

しかも、別の世界だからルーラで帰る事も出来ないというのが、余計に面倒だった。

 

「俺は勇者でも何でもねぇんだけどなぁ……こういう展開はノーサンキューだっての。全く……実家の店でのんびりしてるぐらいが性に合ってるってのに」

 

そう言いながらも、ポップはすでにこの世界で目立っていた。モンスターに襲われていた街を助けて、盗賊団に捕まっていた人達を助け出した。怪我人の治療も呪文で行った。どうやらここでは、神の恩恵とやらをもらっていないと魔法は使えないみたいで、しかも使える魔法は三つまでなのだとか。

 

自分がそれを知らなかった事もあって、気付けば、妙な噂まで広がっている。異世界の大魔道士。自分で名乗った覚えはほとんどないが、相談したどこかの神が情報を流したのか、話に尾ひれまで付いている始末である。

 

「ま、悪い噂じゃねぇだけマシか」

 

ポップはそう呟き、通りの端に目を向けた。この世界では、1番の都会になるらしいオラリオ。とにかく、ここで暮らすのであれば、金が要る。これまで助けた街や人達からも報酬は受け取っているが、この街でしばらく情報を集めるつもりなら、追加で稼ぎも必要になる。最初はダンジョンに潜ればいいと思っていたが、話を聞いてみると、ダンジョンに潜るには基本的にファミリアへ所属する必要があるらしい。

 

神の恩恵(ファルナ)は、この世界の冒険者にとっては当たり前の仕組みだが、ポップにとってはイマイチまだよく分かっていない。元の世界へ戻る方法を探している中、軽い気持ちでどこかのファミリアに入る気にもならなかった。

 

「となると、まずは手持ちを売るのが一番手っ取り早いか」

 

ポップは腰に下げた小さな袋へ手を伸ばした。見た目は何の変哲もない道具袋。だが、これはただの袋ではない。破邪の洞窟を探索していた時に、ダンジョンの奥深くで見つけた不思議なアイテムだった。空間に干渉しているのか、見た目以上に大量の物が入り、重さもほとんど感じない。最初に見つけた時は、ミミックかなんかの罠じゃないかと疑った。何しろ、破邪の洞窟の奥に落ちていた物である。便利な物も沢山あったが、うかつに触ると危険がある。

 

だが、実際に使ってみると、これは本当に便利なアイテムだった。それ以来、ポップは自分で見つけた物や、魔界や破邪の洞窟で手に入れた物、魔法使いの自分では使わない武器、防具、まだ店に並べていない品などを色々と放り込んでいた。実家の武器屋に戻ったら、いつか整理しよう。そう思いながら放り込んだままの品も多い。つまり、ちょっとした露店を開く程度なら、まったく困らないだけの品揃えがあるのだ。

 

ポップは、人通りの邪魔にならない場所を選んでから敷物を広げた。その上に、道具袋から取り出した売り物を並べていく。オラリオでの需要がどの程度あるのか分からないので、とりあえず様子見である。使用者の魔力を使わずに小さな火を出せる「魔道士の杖」が五千ヴァリス。魔力を込める事で打撃力に変換する「理力の杖」が五千ヴァリス。「鋼の剣」が五千ヴァリス。軽くて扱いやすく、一息で二度斬り込める「はやぶさの剣」が三万ヴァリス。ドラゴン系のモンスターに強い「ドラゴンキラー」が一万五千ヴァリス。装備者の力を少し上げる「ちからのゆびわ」が五千ヴァリス。装備していると、微弱だが少しずつ身体が回復していく「いのちのゆびわ」が一万五千ヴァリス。

 

値段については、正直かなり適当だった。この世界の相場を、まだよく把握出来ていないというのもあるが、高過ぎても売れないだろうし、安くし過ぎるのも、武器屋の店主としてどうかと思うので難しい……

 

確か、ダイとレオナがまだ姫さんだった頃に、デパートで見かけたドラゴンキラーの値段がこんなもんだった気がする。あと、この世界じゃ魔道士の杖とかはかなり珍しいみたいだしな。なので、とりあえずこのぐらいなら買う奴もいるだろうという感覚で付けた。元の世界なら、それなりに価値のある品も混じっている。だが、それも今のポップからすれば、別に必ず必要という訳でもない。とりあえず売れて金になり、この世界での生活資金に出来るなら、それでいいだろう。

 

敷物の前に腰を下ろし、ポップは通りを行き交う人々を眺めた。実家の武器屋とは勝手が違うが、店番そのものは慣れている。それにしても、思えば遠い所に来たものだ。

 

ダイなら、こういう時でも真っ直ぐに進むんだろうか。アバン先生なら、何かしら面白がりながら調べるだろう。ヒュンケルなら、黙って歩き出す。マァムなら、困っている人を放っておけないだろうし。レオナなら、まず情報を集めて状況を整理する。……なら、自分の場合はどうか。

 

「……まずは金稼ぎか。現実的になったもんだぜ、俺も」

 

ポップが苦笑した、その時だった。

 

「ねぇねぇ! 置いてあるの、見させてもらってもいい!?」

 

明るい声が、頭上から降ってくる。ポップが顔を上げると、四人の少女達がそこにいた。一人は金髪金眼の少女。無表情に近いが、その瞳は並べられた武器をじっと見つめている。一人はエルフの少女。どこか真面目そうで、杖や指輪へ興味を示している様だった。残る二人はアマゾネス。片方は元気そのものといった様子で、すでにドラゴンキラーへと目を輝かせている。もう片方は落ち着いた雰囲気をしているが、視線は鋭い。こいつら、絶対にただの一般人じゃないだろ……冒険者というやつか。しかも、かなり腕が立ちそうだ。

 

「あぁ。良かったら見ていってくれよ。多分、ここらじゃ珍しいものだと思うからさ」

 

「やった!」

 

元気なアマゾネスの少女――ティオナが、真っ先にドラゴンキラーの前へしゃがみ込んだ。

 

「何これ、カッコイイ! ドラゴンキラーって名前も強そう!」

 

「それは、名前の通りドラゴン系のモンスターに強い武器だな。相手にもよるけど、普通の武器よりは効きやすいぞ」

 

「へぇー! いいなぁ、こういうの!」

 

ティオナは楽しそうに目を輝かせる。その隣で、アイズは静かにはやぶさの剣を見ていた。

 

「……持ってみてもいい?」

 

「あぁ。刃には気をつけてくれよ」

 

ポップが頷くと、アイズははやぶさの剣を手に取った。その瞬間、わずかに目を見開く。

 

「……軽い」

 

「だろ?軽さが売りの剣だからな」

 

アイズは剣を軽く振った。ただ、それだけだった。だが、レフィーヤにはその剣筋が殆ど見えなかった。アイズの剣が速い事は、今さら驚く話でもない。訓練でも、彼女の剣筋を目で追えない事など珍しくないのだから。でも、今のはいつも以上に凄かった。

 

アイズも驚きの表情を作っている。剣そのものがあまりにも軽く、振り抜いた後の戻りが異様に速いのだ。

 

「え……?」

 

レフィーヤは思わず声を漏らした。ティオネも目を細める。

 

「今の、かなり速かったわよね……?」

 

「……軽いから、戻しやすい」

 

アイズが短く答える。ポップは感心した様に頷いた。

 

「お〜、アンタやっぱりかなりやるなぁ。そいつは、はやぶさの剣って言ってな。とにかく軽くて、振った後の戻りが速いんだ。それなりの剣士なら一息で二度斬り込める。その分、剣そのものの耐久力は低くなってるから、使いこなすのに少し慣れがいるけどな」

 

「一息で、二度……」

 

レフィーヤの声が震えた。

それは、さらりと言ってしまってもいいものなのだろうか……

 

単純に手数が増えるという事は、その分、攻撃の機会が増えるという事だ。武器としての品質だけを見れば、第一等級武装には確実に劣るかもしれない。それでも、アイズの様な腕の立つ剣士が使えば、その価値は計り知れない。それが、この値札を見る限りだと三万ヴァリス……えっ?これ、安過ぎないですか?

 

「ねぇ、こっちも持ってみてもいい?」

 

ティオナはドラゴンキラーを指差した。

 

「あぁ、勿論」

 

「ありがと!」

 

ティオナはドラゴンキラーを持ち上げ、嬉しそうに構えた。

 

「おおー、形がいい! ドラゴンに効くって感じがする!」

 

「感じだけじゃなくて、実際に効くぞ」

 

「すごいじゃん!」

 

ティオナは完全に楽しんでいた。一方で、ティオネはちからのゆびわを手に取り、ポップへ視線を向ける。

 

「これ、付けてみてもいいかしら?」

 

「どうぞ」

 

「ありがと」

 

ティオネは指輪をはめた。何かが劇的に変わった訳ではない。だが、腰に下げていた武器を持ち、軽く腕を動かすと、身体の芯にほんの少し力が上乗せされた様な感覚があった。劇的に強くなるという訳じゃない。でも、確かに違う。冒険者にとって、その少しの差がどれほど大きいか、ティオネはよく分かっていた。

 

「……本当に変わるわね」

 

ティオネは自分の手を見下ろし、それから指輪へ視線を落とした。

 

「驚いたわ。指にはめるだけで筋力を補助してくれるなんて……」

 

「まあ、上がるのは少しだけどな。結構貴重な物なんだぜ」

 

「少しでも十分よ」

 

ティオネは真面目な顔で言った。その横で、レフィーヤは魔道士の杖を手に取っていた。

 

「これは……小さな火が出る、とありますけど」

 

「ああ。戦闘用ってよりは、旅や野営で使う物だな。弱いモンスター相手なら牽制にも使えるぞ」

 

「使用者の魔力は使わないんですか?」

 

「使わずに使えるぜ。杖にそういう仕組みが組み込まれてあるんだ」

 

「回数制限は?」

 

「ないぞ」

 

「……回数制限が、ない?」

 

レフィーヤの目が大きく開かれた。

 

「魔剣の様に、使い続けると壊れる訳ではないんですか?」

 

「魔剣ってのは、回数制限付きの魔法の武器の事だよな?これは、そういうのとはちょっと違うんだわ。無茶な使い方をしなきゃ、普通に使い続けられるぞ」

 

「それが、五千ヴァリス……?」

 

レフィーヤは値札を見て、もう一度ポップを見た。

 

「あの…本当にこの値段で、いいんですか?」

 

「ああ。実は、オラリオにはさっき着いたばかりでさ。ここに来るまでに金も使っちまったし。それで、とにかく持っている商品を売りたかったから、とりあえずこのぐらいかなって値段を付けてみたんだよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、レフィーヤの中で何かがピンときた。この人は、相場を全く分かっていない。それも、少し安いとかそういうレベルじゃなくて……これらの品が、今のオラリオでどれほどの価値があるのかを、まったく理解出来ていない。

 

レフィーヤは続けて、敷物の上に置かれた指輪へ目を向けた。

 

「こちらの、いのちのゆびわというのは……」

 

「ああ。それは、装備していると少しずつ体力が回復していくんだよ」

 

「……付けているだけで、ですか?」

 

「あぁ。でも回復量は微量だぞ?大怪我を治せるとか、そういうもんじゃない。小さな傷や疲労の回復なら、付けてたら早く回復するって感じかな」

 

「それが、一万五千ヴァリス……」

 

レフィーヤは言葉を失った。微弱とはいえ、自動回復機能付きの装備品。それが、たった一万五千ヴァリス。あり得ない。ダンジョンに潜る冒険者にとって、回復は命に関わる。ポーションにも費用はかかる。ヒーラーがいない状況もある。深層であれば、ほんの少しの回復が生死を分ける事さえある。そんな機能を持つ指輪が、この値段で売られている。しかも店主は、特に自慢する様子もなく、当たり前の様に説明している。

 

間違いない。この人は、商売の素人だ。

 

レフィーヤは、じっとポップを見た。本人は売れるかどうかを気にしながら、どこかのんびりとした顔をしている。その顔を見て、レフィーヤは思った。この人を、このまま路上に放置していくのはまずい。売りに出している商品がこれで全部かどうかも分からないし、それが悪意のある人物・ファミリアの手に渡ってしまったら大変な事である。

 

「店主さん」

 

「ん?」

 

「とりあえず、今置いてあるものは全部買わせてもらいます!」

 

「……全部?」

 

ポップは目を瞬かせた。ティオナは大きく頷いた。

 

「いいと思う! これ、全部面白いし!」

 

「団長にも見せたいわね」

 

ティオネも賛成する。アイズははやぶさの剣を見たまま、小さく呟いた。

 

「……これ、すごい」

 

その一言だけで、アイズがかなり興味を持っている事は分かった。レフィーヤは財布を取り出しながら、真剣な顔で言った。

 

「はい。全部です。表示されている値段で、本当にいいんですよね?」

 

「ああ。こっちとしては助かるけど……いいのか? 結構な額になるぞ」

 

「大丈夫です」

 

レフィーヤは即答した。むしろ、この額で済むなら安過ぎる。ロキ・ファミリアの遠征で使う装備品や消耗品の費用を考えれば、この程度の金額でこれだけの品を手に入れられる事の方が異常だった。

 

ポップは代金を受け取ると、ぱっと顔を明るくした。

 

「いやぁ、助かった。まさか初日から全部売れるとは思ってなかったよ」

 

本当に嬉しそうだった。その顔を見て、レフィーヤは胸の中で少しだけ複雑な気持ちになる。この人は、多分いい人だ。けれど、オラリオの相場に関しては物知らず過ぎる。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「他にも売り物は、まだあるのでしょうか?」

 

ポップは少し考えてから、腰の道具袋を軽く叩いた。

 

「あぁ。結構あるよ。今日は様子見だったから、あんまり出してないだけなんだわ」

 

「結構……」

 

レフィーヤの顔が引きつりそうになった。今並べていた物だけでも十分おかしい。それが、まだ他にもある。しかも、様子見。この人は、いったい何をどれだけ持っているのか。

 

「あの、良ければ、うちのファミリアに来て頂けませんか?」

 

「ファミリアに?」

 

「はい。団長達やリヴェリア様も、店主さんの売り物にはきっと興味を示すと思うんです」

 

「リヴェリア?」

 

ポップはその名に首を傾げた。レフィーヤは少しだけ背筋を伸ばす。

 

「はい。ロキ・ファミリアの幹部で、九魔姫と呼ばれる方です。私の憧れの魔法使いで……とにかく凄い方なんです!」

 

途中から熱が入り、レフィーヤの声が少し大きくなる。ポップはその様子を見て苦笑する。

 

「へぇ。そりゃ一度会ってみたいな」

 

この世界の魔法使いに、この世界の魔法体系。そして、元の世界に戻る手掛かり……。オラリオに来た目的を考えれば、強いファミリアと接触するのは悪い話じゃない。

 

勿論、警戒は必要だ。神の眷属。ファルナ。ダンジョン。まだまだ分からない事は多い。

 

でも、目の前の少女達からは全く悪意を感じなかった。少なくとも、この子達は良い子で間違いないだろう。それに、売り物を全部買ってくれて、今後の上得意になってくれるかもしれない客からの誘いだ。繋がりを作っておくというのも悪くない。

 

「分かった。それなら、迷惑でないなら少し寄らせてもらってもいいか?」

 

「本当ですか!?」

 

レフィーヤの顔が明るくなる。ティオナも嬉しそうに笑った。

 

「やった! じゃあ案内するね!」

 

「団長も驚くでしょうね」

 

ティオネは、どこか楽しそうに言った。アイズは静かに頷き、はやぶさの剣を丁寧に布で包んでいた。ポップは敷物を片付け、荷物なんかも道具袋へしまい込む。その様子を見て、レフィーヤがまた目を丸くした。

 

「えっ?……その袋、何だかちょっと入る容量おかしくないですか?」

 

「ん? ああ。便利だろ」

 

「便利、で済ませていい物なんでしょうか……」

 

レフィーヤの呟きに、ポップは苦笑した。

 

「まぁ、世の中には、まだまだ知られてない便利な道具が意外とあったりするからな」

 

「……なるほど」

 

ポップの言葉を聞いて、レフィーヤも納得出来た訳ではないが、とりあえず一旦引き下がっておく事にした。気になるなら後で聞けばいい。今のちょっとしたやり取りでも、絶対悪人には見えないし……それに、オラリオの悪い人に捕まるよりは、絶対うちで商売の話をしてもらった方がこの人の為にもなるだろう。

 

そう考えたレフィーヤは、案内する為にポップに声を掛けてから歩き出した。アイズ達もそれに続き、ポップは軽く道具袋を肩に掛け直してから、四人の後を追う。

 

オラリオに来て早々、露店を開いたらいきなり全部売れて、今度は大手らしいファミリアの本拠地へ連れて行かれる事になった。普通に考えれば、なかなか大変な流れである。

 

だが、不思議と悪い気はしなかった。

 

「……ま、話が早いのは助かるか」

 

ポップは小さくそう呟くと、賑やかな通りの中を歩いていく。その先にある黄昏の館で、自分が更に注目を集める事になるとは、この時のポップはまだ知らなかった。




どうも皆さん、お疲れ様です。
ドラクエ3の遊び人がダンまちの世界にやってくる話を別で書いているんですが、書いているうちにポップが主人公になった小説も書いてみたくなって、それでこの度2話目のお話を投稿させて頂きました。

拙いお話ではありますが、どうぞ良ければご覧になって頂けますと幸いです。

また、今後のやる気にも繋がってきますので、少しでも面白いと思って頂けましたら、どうか「お気に入り」「評価」「感想」などを頂けますと嬉しいです。

【追伸】
活動報告で、今後の展開の案を募集させて頂こうと思います。採用出来るかは分かりませんが、もし宜しければそちらの方も是非(^^)


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