大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び! 作:ポップ
前回。露天で商売を始めたら、やって来た女の子達に全部買い上げられてしまってから少しした後。
レフィーヤに先導されて黄昏の館へ到着した時、ポップは思わず建物を見上げていた。
幾つもの塔が重なって出来ている立派な外観。高い城壁。広い敷地。門の奥には、訓練場らしき場所や、幾つもの建物が見える。オラリオに来て間もないポップでも分かる。これは、そこらの金持ちの屋敷という規模ではない。
「……こりゃまた、随分立派な所だな」
「ここが私達のホームです!」
レフィーヤが少し誇らしげに言った。ティオナは「すごいでしょー!」と笑い、ティオネは呆れた様に妹を見る。アイズは相変わらず静かだったが、ポップが館を見上げているのをじっと見ていた。
中へ案内されると、通りとは違う空気があった。外は冒険者や商人達で騒がしかったが、館の中には落ち着いた緊張感がある。廊下を歩く団員達は、レフィーヤ達が見知らぬ男を連れてきた事に気づき、ちらりとこちらへ視線を向けていた。
ポップはその視線を受けながらも、特に怯む事はなかった。これでも、幾つもの死線をくぐり抜けてきた大魔道士なのである。昔の様なヘタレな自分は見せまいと、気をしっかりと持ってレフィーヤに続いていく。
「あっ、そういえば店主さんのお名前を伺ってもいいですか?」
廊下を進んでいる途中、レフィーヤが思い出した様に振り返った。
「あぁ。ポップっていうんだ。宜しくな」
「わかりました。それではポップさん、しばらく応接室で待ってて下さいね」
「おう」
レフィーヤは軽く頭を下げると、アイズへ視線を向けた。
「アイズさん。まずは団長に報告しに行きませんか?」
「うん」
アイズが短く頷く。ティオナとティオネは、ポップの方に残る事になった。
「じゃあ、ポップさんはこっちね!」
「私達は、彼を応接室へ案内しておくわ」
「ティオナさん、ティオネさん、有難う御座います」
そして、レフィーヤはそういって団長室に向かい、ポップはティオナ達に連れられて応接室へと向かった。
◇
レフィーヤとアイズが団長室へ向かうと、そこにはフィンだけでなく、リヴェリアもいた。ちょうど何かの話をしていたのか、二人は資料を机に広げている。レフィーヤは一瞬だけ緊張したが、すぐに背筋を伸ばした。
「団長、リヴェリア様。少し宜しいでしょうか?」
「やぁ、レフィーヤ。どうしたんだい?」
フィンが穏やかに顔を上げる。その隣で、リヴェリアもアイズとレフィーヤを見る。
「実は先ほど、街で少し変わった露店を見つけまして……」
「露店?」
リヴェリアが眉を上げた。
「はい。そこで売られていた商品が、何といいますか、とても珍しい物だったんです。アイズさんが確認した剣も、普通の武器とは思えない性能で……」
レフィーヤが言うと、フィンの視線がアイズへ向く。
「アイズ、今レフィーヤが言っていた剣だけど、君から見てどうだったんだい?」
「…とっても軽かった」
アイズは布に包んだ「はやぶさの剣」を軽く持ち上げた。
「振りやすいし、軽いから戻しが速い。一息で、二回斬れる剣なんて中々ないと思う」
「一息で二回?」
フィンの目に、わずかな興味が宿る。
「品質だけなら、第一等級武装には劣るかもしれません。でも、アイズさんの様な剣士が使えば、かなりの価値があると思うんです。それが、実は三万ヴァリスで売られてまして…」
「三万ヴァリス?」
リヴェリアの声に、明らかな違和感が混じった。
レフィーヤは頷き、今度は「魔道士の杖」と「理力の杖」を取り出した。
「それだけじゃありません。こっちの杖は、使用者の魔力を使わずに火を出せるそうです…しかも、魔剣の様な回数制限はないと」
「……見せてみろ」
リヴェリアが「魔道士の杖」を受け取る。軽く確認し、慎重に魔力の流れを探る。派手な装飾はない。だが、内部には確かに何らかの仕組みが組み込まれている。
リヴェリアは小さく息を吐くと、燭台の近くへ杖先を向けた。すると、小さな火が灯った。今の使用感から推測すると、火力自体は大きなものは起こせないだろう。だが、自分の魔力を消費した感覚が全く無い。詠唱もなく、ただ道具として発動出来ている。
「これは……」
リヴェリアの目が細くなる。
「こちらの理力の杖は、魔力を込める事で打撃力に変換出来る武器だそうです。あとは、装備していると体力を少しずつ回復出来るという、いのちのゆびわという物もありました」
「露天に、自動回復付きの装備品まで置いてあったのかい?」
フィンの声が少しだけ低くなった。
レフィーヤは頷く。
「はい。それも、一万五千ヴァリスで売られていました。あまりにも安過ぎるので、今売られていた物は全て買い取ってきました」
「良い判断だね」
フィンはすぐにそう言った。レフィーヤは少し安堵する。
「はい。それで、団長やリヴェリア様にも話を聞いて頂きたくて、そこの店主…ポップさんという方をお連れさせて頂いたんですが……」
「ポップ?」
フィンがその名前に反応した。
どこかで聞いた名だった。
フィンは隣のリヴェリアを見る。リヴェリアも、同じ事を思い出したのか静かに頷いた。
「……異世界の大魔道士か」
フィンの呟きに、アイズとレフィーヤが揃って首を傾げる。
「異世界の大魔道士……?」
「ポップさんが、ですか?」
「あぁ。それについては後で説明させてもらうよ。今は待たせてあるんだよね?」
「あっ、はい! ティオナさんとティオネさんが応接室で応対して下さっています」
フィンはすぐに立ち上がった。
「分かった。リヴェリア、行こうか」
「あぁ」
リヴェリアもフィンに続いた。そして、レフィーヤはその後ろを歩きながら、少し驚いていた。まさか、あの露店の店主を、団長達が知っているとは思わなかったのだった。
◇
一方その頃、応接室ではティオナが早速ポップに話しかけていた。
「ねぇねぇ!さっき見せてくれたやつも凄かったけど、他にも売り物があるんでしょ?どんなのがあるの?」
「ちょっと、ティオナ。今はまだ様子見って言ってたんだから、あんまり詮索するのは……」
ティオネが妹をたしなめる。だが、ポップは特に気にした様子もなく苦笑した。
「いや、別にいいぜ。さっきはこんなに早く売れるなんて思ってなかったからな。まだ次に何を出すかとかも、全く考えてなかったんだわ」
そう言いながら、ポップは腰の道具袋を軽く叩く。
「そうだなぁ。さっきは、はやぶさの剣に驚いてくれてたみたいだから、剣にするか……」
「……えっ?というか、迷うくらい沢山あるの?」
さっきは露天に商品を7つだけ並べていたのだから、てっきり小さな店かと思っていたので、ティオネが少し驚いた様な顔をする。ポップは道具袋の中を探りながら、何でもない様に答えた。
「まあ、売れるかどうかは別として、物だけなら色々あるぞ」
その言葉と同時に、ポップは道具袋から二本の剣を取り出した。
片方は、刀身に赤い輝きを宿した剣。
もう片方は、触れてもいないのに冷気を漂わせる青白い剣。
ティオナとティオネは目を丸くした。今出した二本の剣そのものも目を引くのだが、何より、それを取り出した袋がおかしい。腰に下げられるぐらいの普通の袋から、どう考えても入りきらない長さの剣が二本も出てきたのだ。
「その袋も、どうなってんのよ……」
「便利だろ?」
「……便利で済ませていいものじゃないと思うけど」
ティオネが呆れた様に言う横で、ティオナはすでに剣の方に興味を抱いていた。
「ねぇねぇ!それはどんな剣なの!?」
「こっちが炎の剣で、こっちが吹雪の剣。どっちも魔法の剣で、道具として使うと、閃熱系の攻撃が出来たり、そこそこの吹雪が出せたりするんだわ」
「剣から炎に吹雪!?」
ティオナの目が輝いた。
「ねぇ!軽くでもいいからさ、それって、ちょっとここで試せないかな!」
「部屋の中で炎は危ないからな、それじゃあこっちにするか」
ポップはそう言って、道具袋から紙を一枚取り出した。何も書いていない紙を軽く指で挟み、少し離れた位置に置く。
「じゃ、軽くな」
ポップは吹雪の剣を手に取ると、刃先を紙へ向ける。
次の瞬間、剣から白い冷気が走った。
部屋全体を吹き荒れる様な吹雪ではなく、明らかに指向性を持った冷気が、刃先に置いてあった紙を包み込む。ぱきり、と小さな音がした。
紙は一瞬で凍りつき、薄い氷の膜に覆われていた。
「まっ、こんなもんかな」
ポップは軽く剣を下ろす。
「凄い凄ーい!!!ティオネ、今の見た!?部屋の中なのに剣から吹雪が出てきたよ!」
「えぇ……これは、確かに凄いわね……」
ティオナは素直に感動していたが、ティオネは笑っていなかった。いや、驚いていない訳ではない。むしろ、驚き過ぎて考え込んでいる。これが商品として出回るとしたら、一体どうなってしまうのか…。
使い手の魔法枠を使わず、剣から直接冷気を放てる武器。それが一つや二つではなく、他にもあるかもしれない。
この店主、本当に何者なのか。
ティオネがそう考えていた時、応接室の扉が開いた。
入ってきたのは、レフィーヤとアイズ。そして、フィンとリヴェリアだった。
「……寒い?」
応接室に入ったフィンが、最初にそう言った。
ティオナが嬉しそうに手を上げる。
「待ってる間、ポップさんが他の武器も見せてくれたんだよ!剣から吹雪が出て、紙が凍ったんだ!」
「剣から吹雪が?」
フィンの視線が、すぐにポップの手元へ向かう。リヴェリアも凍った紙を見て、目を細めた。
だが、まずは挨拶が先だった。
「初めまして。僕はフィン。このロキ・ファミリアの団長をしている」
「リヴェリアだ。同じく、ロキ・ファミリアの副団長をしている」
「あぁ、これはご丁寧にどうも。俺はポップ。さっきは、そこの子達に商品を買ってもらえて助かったよ」
ポップも立ち上がり、軽く頭を下げる。フィンはその仕草を見ながら、思っていたよりも普通の青年だなと感じた。
ただし、普通に見える事と、普通である事は違う。それは今、応接室に漂う冷気と、机の上に置かれた武器達が証明していた。
「さて……アイズとレフィーヤから話を聞いたんだけど、どうやら面白いアイテムを持っているそうだね」
「いや、それ程でもねぇんだが」
ポップは少し苦笑する様に頬をかいた。
「正直、こんな大きなファミリアに来るとは思ってなかったから、こっちもちょっと驚いてるよ」
「ロキ・ファミリアは、探索系のファミリアの中ならオラリオでも一、二を争う規模だからね。そう言ってもらえると、僕達としても誇らしいよ」
フィンは穏やかに笑った。その口調は柔らかいが、視線はポップの反応を丁寧に見ている。そして、ポップもそれに気付いていた。
このフィンという男は、ただの人の良い団長ではなさそうだ。穏やかに話しながら、こっちの言葉、態度、その全てを見ている。ポップは内心で少し感心した。
「それで、さっきはそこにある2本の剣を見せてもらっていたのかな?」
「あぁ。炎の剣は閃熱系の熱攻撃が出せて、吹雪の剣は軽い吹雪を出せるんだ。まあ、さっきはどんなもんか試してみたいって言われたんで、部屋の中で火を出すのは危ないから、ちょっと吹雪の剣だけ軽く試させてもらったんだ」
「成程……」
フィンは凍った紙と二本の剣を見比べる。
剣として使えるだけでなく、魔法の様な効果を発揮する。さっきのレフィーヤの話と、今の試しに使ってみたという言葉からも、恐らく回数制限というものもないんだろう。しかも、それをポップは特に大げさに扱っていない。
フィンは、そこがむしろ気になった。
「ポップ。まず一つ、商売について話させてもらってもいいかな?」
「商売?」
「あぁ。露店で売る事自体は、特に何かを言うつもりはないよ。ただ、アイズやレフィーヤから聞いた話と、今見せてもらった商品は、オラリオの価値基準からするとかなりの価値を持っている。安値で出回れば、他の店にも影響が出るかもしれないし、そういう特殊な武器やアイテムは、犯罪を生業としている物達にも目を付けられやすい」
「……あー、やっぱそうなるか」
ポップは苦い顔をした。
元の世界でも武器を扱う以上、誰に何を売るかは重要な事だった。ましてや、ここは自分の常識が通じない場所である。
「もし君が良ければ、オラリオでも最上位の武器を扱う鍛治系ファミリアのヘファイストス・ファミリアを紹介させてもらうけど、興味はあるかい?」
「ヘファイストス・ファミリア?」
「鍛冶と武具を専門にしているファミリアだ。君の持っている品を正しく見るには、彼らの目も必要だと思う」
リヴェリアも頷いた。
「魔法的な性質なら、私にもある程度は分かる。だが、武器としての構造や素材については、専門家の意見を聞いた方がいい」
「なるほどな……」
ポップは腕を組んだ。
目の前の二人の言葉に、今のところ不自然な所はない。安く買い叩こうとしている訳でもなければ、強引に奪おうとしている様子もない。
むしろ、こちらに損が出ない様に話を進めようとしている。少なくとも、信頼出来そうな相手ではあった。
「僕らとしては、オラリオの相場を知らない君から安値で買い叩くよりも、信頼を築いて良好なパートナーになってくれる事を望むよ」
ポップは軽く息を吐いた。
「そういう話なら、こっちも助かる。こっちとしても、オラリオには今日着いたばかりなもんでな。正直、売ってもいい物はどのくらいまで出してもいいのか悩んでるのと、売る気はない物まで色々あるんだわ。……で、売る気はないけど、物としてはかなり良いやつとかもあるから、そういうのは条件次第で貸すくらいなら有りかなっていう考えもある」
「レンタル、という事かい?」
「あぁ」
ポップは道具袋へ手を入れた。
次に取り出したのは、一本の槍だった。
ただの槍ではない。不思議な装飾が施されている、見た事もない形の槍だった。
さらに、もう一つ。
ポップは腕輪を取り出した。
見た目はそこまで派手ではない。だが、目の前の男が今この場で出した腕輪がただの装飾品でない事は、その場にいる者達なら当然分かった。
「これは?」
フィンが静かに尋ねる。
「こっちの槍は、鎧の魔槍っていってな。アムドっていう掛け声で鎧を装着出来る。その魔法耐性もかなり高い。で、こっちのやつが星降る腕輪。装着すると、素早さが大体二倍になるっていう優れものさ」
一瞬、ポップ以外の呼吸が止まった。
誰もすぐには口を開けない。
素早さが二倍になる。
その言葉の意味を、この場の冒険者達が理解出来ないはずがない。
素早さが二倍になるという事は、単純に速く動けるだけではない。先手を取れる。避けられる。踏み込める。攻撃の間合いも、撤退の判断も、全てが変わる。
それが腕輪一つで得られるというのなら、価値など到底測れるものではなかった。
「片方は昔仲間が使ってたやつで、もう片方は俺が個人的に見つけたやつなんだけどな……正直、槍の方は思い入れもあるから手放す気はねぇし、腕輪の方もなぁ……このレベルのアイテムになってくると、適当な奴に売る訳にもいかねぇし」
ポップは、頬をポリポリかきながら苦笑いした。
「だから、レンタルっていう形で良ければ、そっちから提供してもらえる条件次第で、こういうやつの貸し出しも考えてみてもいいかな〜って思ってる」
フィンはしばらく鎧の魔槍を見つめていた。
そして、静かに口を開く。
「……使ってみてもいいかい?」
「あぁ、勿論だぜ。まずは試してみてくれよ」
「じゃあ、じゃあ! 私、腕輪の方を試してみたい!」
ティオナが勢いよく手を上げる。
「いきなり危ない動きはするなよ。素早さが倍になるって事は、止まる時も慣れがいるからな」
「分かった!」
ティオナは星降る腕輪を受け取り、手首に装着した。
その瞬間、何かが派手に光った訳ではない。
だが、ティオナが軽く足を動かした瞬間、部屋の空気が変わった。
「うわっ!?」
彼女自身が驚いた様な声を上げる。
一歩。
ただ一歩踏み出しただけなのに、ティオナの身体は予想以上の速度で前へ出ていた。慌てて止まる。だが、それでも速い。
アイズが大きく目を見開く。ティオネとレフィーヤは言葉を失っている。
「すご……何これ、身体がとっても軽いよ!」
フィンはその様子を見て、次に鎧の魔槍へ視線を向ける。
「では、こちらも試させてもらうよ」
「おう。少し離れた所で使ってみてくれ。掛け声はアムドだ」
フィンは槍を手に取り、皆から少し離れた。小柄な身体に、その槍はやや大きく見える。だが、フィンの手に収まると、不思議と違和感は少なかった。フィンは一呼吸置き、静かに唱えた。
「アムド」
その瞬間、鎧の魔槍が動いた。
槍が変形し、金属の音が応接室に響く。
ガシャン!
ガシャン!
槍に纏っていた鎧が、まるで生き物の様にフィンの身体を覆っていく。腕、脚、胸、肩、腰……瞬く間に装甲が組み上がり、最後に兜が装着される。
応接室にいた全員が、今の変形に驚いた。
フィンは手の甲を目線の高さまで上げ、自分の身体を確認する。指を動かし、肩を回す。鎧を纏っているはずなのに、動きが鈍る様子もない。
「これは……」
フィンの声には、純粋な驚きが混じっていた。
ポップはそれを見て、少しだけニヤリと笑う。
「どうだ?」
「重さはある。でも、動きの邪魔になるほどじゃない。何より、鎧としての質は、僕から見てもかなり高そうだという事が分かるよ」
「だろ? そいつもかなりの代物だぜ」
ポップは腕を組む。
「気になるなら、さっきの炎の剣と吹雪の剣の効果を使って、その鎧の耐性を試してみねぇか?」
フィンは少しだけ考えた後、頷いた。
「面白いね。早速訓練室へ移動しよう」
◇
訓練室へ移動すると、フィンは鎧の魔槍を纏ったまま中央に立っていた。周囲にはアイズ、レフィーヤ、ティオナ、ティオネ、リヴェリアが距離を取って見守っている。
ポップは炎の剣をアイズへ渡した。
「使い方は難しくねぇ。剣に意識を向けて、どういう風に力を出すか念じる。持ち主の意思に応じて、武器が応えてくれるはずだ。ただし、軽くだぞ。あんまり全力でやるなよ」
「うん、わかった」
アイズは短く頷き、炎の剣を構えた。
フィンも頷く。
「アイズ。やってみてくれ」
アイズが剣に意識を集中させる。次の瞬間、刀身から赤い輝きが走った。
閃熱。
ただの火の玉とは少し違う、灼ける様な熱の光が一直線に伸び、フィンへ向かう。
「団長!!!」
ティオネの声が訓練室に響いた。
だが、フィンは動かなかった。
剣から放たれた熱がフィンの纏っている鎧に当たり、熱が周囲へ広がったが、フィンには全く影響がない。
「……なるほど」
フィンは自分の胸元に手を当てる。
「これは凄いな…ダメージを全く感じない…」
「次、私もやっていい!?」
ティオナが吹雪の剣を受け取る。ポップが「軽くだぞ」と念を押すと、ティオナは笑顔で頷いた。
吹雪の剣が冷気を放つ。
白い風がフィンを包み込む。訓練室の床に薄い霜が走り、レフィーヤが思わず肩を震わせた。だが、フィンはやはり、全く影響を受けていなかった。
「冷気のダメージも殆ど感じないね」
「その鎧の魔法耐性は、かなり高いけども絶対じゃねぇからな」
ポップが軽く解説する。
「電撃系の魔法とかだと、着用者本人へのダメージは防ぎきれないっていうのもあるしな。でもよ、そこそこの魔法なら簡単に弾いてくれるし、槍自体の性能も高い。正直、武器としてはかなりの代物だと思うぜ」
リヴェリアは黙ってその説明を聞いていた。
まるで、実際にその武器の使用者と、相対していたかの様な口ぶりだった。単に道具として持っているだけではない。過去に、この武器が使われる場面を何度も見ていたのだろう。
いや、もしかすると。
この武器の本来の持ち主と共に戦っていたのかもしれない。
そう思わせるだけの実感が、ポップの言葉にはあった。
◇
応接室へ戻る頃には、フィンの中で一つの判断が固まりつつあった。
「レンタルについては、前向きに考えさせてもらいたい」
フィンはそう言った。
「条件については、こちらでも整理しよう。君にも不利が無い形にしたいからね」
「助かる。俺も、変な奴に貸して面倒事になるのはごめんだからな」
ポップはそう言って立ち上がる。
「じゃ~今日はそろそろ帰らせてもらうわ。色々話も出来たしな」
「宿は決まっているのかい?」
フィンが尋ねると、ポップは軽く首を振った。
「いや、さっきも言ったがオラリオには来たばっかりだからな。適当に安いとこでも探すよ」
「それなら、良ければうちのゲストルームを使うといい。今日はそこで泊まっていくといいよ」
「…いいのかよ?」
「なに、とんでもない品を見せてもらえた事への御礼さ。それに、今から宿を探すのも大変だろうからね」
ポップは少しだけ迷った。
だが、フィンの言う事も一理ある。ぶっちゃけ、今から宿を探すのはかなり面倒だった。
「それじゃ、遠慮なく世話にならうわ」
「ティオナ、案内してあげてくれるかい?」
「はーい!ポップさん、こっちだよ!」
「おう、ありがとな」
ティオナに案内され、ポップは応接室を出ていった。
扉が閉まる。
その瞬間、室内の空気が少しだけ変わった。
フィンは静かに椅子へ腰掛けると、残っている者達を見渡した。
「……どう思った?」
最初に口を開いたのはリヴェリアだった。
「……異常だな。持っているアイテムもそうだが、本人の感性も少しズレている気がする」
「ポップさんの感性が……ですか?」
レフィーヤが首を傾げる。
「あぁ。あれだけの品を持っていて、特に怯えているという事も無ければ、偉ぶっているところもない。なんというか、あれだけの物を持っていても、自然体でいるところが、特にな……」
「……確かに」
リヴェリアの言葉に、フィンも思うところがあったのか、納得した。
「それに、あの星降る腕輪よ」
ティオネが真剣な顔で言う。
「素早さが二倍になる装備なんて、普通に考えたらあり得ないわ。あれを誰かが悪用したら、本当に厄介よ」
「そうだね」
フィンは頷いた。
「だからこそ、今ここであのポップという青年と出会えた事は、ロキ・ファミリアとしても僥倖だったよ。もし彼が、フレイヤ・ファミリアや他のファミリアに囲われてしまったらと思うと、ぞっとするね」
フィンは苦笑する。
笑ってはいるが、その言葉は冗談ではなかった。
単純に、オッタルの素早さが2倍になった事を想像してみれば、その脅威度はLv8を上回るのではないかとも思えてしまう。
ポップが持っている品々は、単なる珍品ではない。使い方次第で、冒険者の戦い方そのものを変えかねない物だ。その持ち主が、オラリオの相場も、ファミリア同士の力関係も、全く分かっていない。
ならば、誰が最初に手を伸ばすかで、今後の流れが大きく変わってくるだろう。
「言うまでもない事だと思うけど、ロキ・ファミリアとしては、今後彼とは良好な関係を築いていきたい。皆にもそのつもりでいてほしい」
「はい」
レフィーヤはすぐに頷いた。
「……うん」
アイズも静かに頷く。ティオネも異論はなかった。
やがて、アイズ達が部屋を出ていき、応接室にはフィンとリヴェリアだけが残り、少しの沈黙が落ちる。
フィンは窓の外へ視線を向けた。夜のオラリオは、昼とは違う静けさに包まれている。だが、その静けさの中で、何か大きなものが動き始めた様な感覚があった。
「異世界の大魔道士か……」
フィンが小さく呟く。
リヴェリアは、机の上に残された凍った紙を見つめながら、静かに答えた。
「あぁ……これは、思っていたよりもとんでもない存在かもしれないな……」
あわわ…(;´Д`)
今日は、14時くらいからこのお話を書いていて、今の20時14分まで、勿論ご飯とか食べながらだけども、ずっと書いてた気がします…
銭湯行きたかったけど、21時から夜勤なのでお風呂屋さんは明日に持ち越しですわ(笑)
しかし、ポップが主人公のお話も、遂に3話目になりました。拙いお話ではありますが、どうぞ良ければご覧になって頂けますと幸いです。
また、今後のやる気にも繋がってきますので、少しでも面白いと思って頂けましたら、どうか「お気に入り」「評価」「感想」などを頂けますと嬉しいです。
それでは、失礼します。