大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び!   作:ポップ

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第七話:ティオナ「ポップさんって他にどんな事が出来るの?」ポップ「晴れた日でも、雨雲を呼んで雨を降らせたり出来るぞ。あとは、昼と夜を入れ替えたりも出来るな」 レフィーヤ・ティオネ「「……は?」」

ポップが補助呪文を使い、ティオナと激しい打ち合いを繰り広げた日の夜。

 

約束通りポップへ夕食をご馳走し、黄昏の館へ戻ったレフィーヤとティオナは、団長室の前に立っていた。

 

レフィーヤが扉を軽く叩く。

 

「レフィーヤです。今日のご報告をしたいのですが、今よろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

中からフィンの返事が聞こえ、レフィーヤは扉を開いた。

 

「失礼します」

 

「しっつれいしまーす!」

 

レフィーヤに続いてティオナまで入ってきた事で、フィンは少しだけ意外そうに目を向けた。団長室にはリヴェリアもおり、二人が入ってくると静かに顔を向ける。

 

「ティオナも一緒なんだね」

 

「はい。今日はティオナさんにも、ポップさんとの訓練に同行して頂きましたので、実際に戦った本人からも話を聞いて頂いた方が、正確にお伝え出来ると思いまして」

 

「なるほど。それで、どうだったんだい?」

 

フィンからの問いに、レフィーヤが答えようとする。

 

だが、隣にいたティオナの方が早かった。

 

「もう、物凄かったよ!ポップさん、魔導士のはずなのに、補助魔法を使ったら近接戦でもあたしとおんなじくらい強かったもん!」

 

「……なんだって?」

 

フィンの表情が変わった。

 

思わず聞き返した後、人差し指を口元へ当てて考え込む。ポップが只者ではない事は、これまでに見せられた武器や魔道具、各地での活躍から何となく察していた。

 

だが、まさかティオナの口からこれほどまでに高く評価されるとは、思ってもみなかったのだ。

 

リヴェリアも僅かに眉を上げ、ティオナへ視線を向ける。

 

「ティオナ。君と同じくらい強いというのは、勿論、近接戦でという話なんだよね?」

 

「そうだよ!ポップさんが補助魔法を使ったら、速さも力も昨日とは全然違ってて、あたしも途中から、かなり本気を出さないと危ないって思ったもん!」

 

「回復、結界に加えて、補助魔法か……」

 

リヴェリアが小さく呟いた。

 

ポップが複数の魔法を使える事は聞いていた。だが、それらを同時に維持したまま、第一級冒険者であるティオナと近接戦まで行ったという。

 

それだけでも、一般的な魔導士の常識から大きく外れている。少なくとも、リヴェリアが知る魔導士の戦い方では考え難いものだった。

 

フィンは次に、レフィーヤへ視線を向けた。

 

「レフィーヤ。君から見た印象はどうだったんだい?」

 

「そうですね……」

 

レフィーヤは今日見た光景を思い返しながら、慎重に言葉を選んだ。

 

「ティオナさんと同じくらい強い、というのは少し言い過ぎかもしれません。ティオナさんも本気ではありませんでしたし、戦いが続くにつれて、ポップさんの方が押され始めていましたから」

 

「えー?でも、本当に強かったよ?」

 

「はい。それは私も同じ意見です」

 

レフィーヤはティオナへ頷き、それからフィン達へ向き直った。

 

「自身へ補助魔法を掛けた後のポップさんは、ティオナさんの攻撃を何度も受け流していましたし、かなりその気になったティオナさんを相手に、自分から打ち込む事まで出来ていました。魔導士である私から見れば……少なくとも、近接戦を不得意としている方の動きには見えませんでした」

 

レフィーヤは少しだけ間を置く。

 

「ティオナさんと全く互角だったとは言えませんが、かなり近い水準で戦えていた様には思えました。それに、攻撃を受けた後は、戦いながら自分へ治癒魔法を掛けていましたし」

 

「戦闘中に治癒まで、か……」

 

「はい。武器を構えたまま、短い呪文一つで傷を治していました」

 

「そうか……」

 

フィンは椅子の背へ身体を預け、再び考え込んだ。

 

噂話だけでは、どうしてもポップの実力を正確に測る事は出来なかった。

 

モンスターの大群を撃退した。

盗賊団を壊滅させた。

街を守る結界を張った。

 

それらが全て事実であったとしても、相手の正確な強さまでは報告だけでは分からない。

 

だが、ティオナはレベル五の第一級冒険者だ。その本人が「かなり力を出さなければ危なかった」と評価し、レフィーヤも近い印象を抱いたという。

 

しかも、剣を使った近接戦は、ポップの本来の戦闘方法ではないだろう。

 

神の恩恵を受けていない以上、彼の力をこの世界のレベルへそのまま当て嵌める事は出来ない。それでも、少なくとも近接戦に限って見ても、レベル五の第一級冒険者に迫る力を持っている可能性がある。

 

そして、本来の得意分野である魔法まで含めれば。

 

評価は、更に大きく上がるかもしれなかった。

 

「あとさ、戦ってて思ったんだけど、やっぱりポップさんは、まだまだ手札をいっぱい持ってる気がするんだよね〜」

 

ティオナの言葉に、フィンが顔を上げた。

 

「そうなのかい?」

 

「うん。補助魔法は使ってたけど、本気の本気って感じには見えなかったし、あたしが当てても、すぐに治しちゃったしさ。他にもまだ色々出来そうだったんだよね」

 

「なるほど」

 

「だからさ、明日もまたお願いしてみようと思ってるんだー」

 

「あっ、私も!」

 

レフィーヤも思わず声を上げた。

 

「ポップさんが受けて下さるのでしたら、またお願いしたいと思っています!」

 

フィンは少し驚いた様にレフィーヤを見る。

 

それから穏やかな笑みを浮かべた。

 

「レフィーヤは、随分ポップの事を信頼する様になったみたいだね」

 

「あっ……」

 

言われて初めて、レフィーヤ自身もその事に気づいた。

 

出会ってから、まだ数日しか経っていない。

 

相手の過去も、正確な実力も、何故異世界から来たのかも、殆ど分からない。

 

それでも、昨日と今日の短い訓練の中で、ポップの言葉を疑おうとは思わなかった。

 

「……正直、私もまだお会いしてから数日しか経っていませんので、ポップさんがどの様な方なのか、全て分かっている訳ではありません」

 

レフィーヤは、自分の気持ちを確かめる様にゆっくりと言葉を続ける。

 

「ですが、あの人はなんというか……出会って間もないヒューマンの男性なのに、不思議と、とても頼れる方の様に思えるんです。私が失敗しても怒ったりせず、出来なかった理由を考えて下さいますし……無理をして続けようとした時には、しっかり休む様にも言って下さいました」

 

「へぇ……レフィーヤにそこまで言わせるなんてね」

 

フィンは感心した様に頷いた。

 

リヴェリアも、少しだけ表情を和らげる。

 

「少なくとも、お前に教える者としては問題なさそうだな」

 

「はい!」

 

「分かった。元々、レフィーヤへポップの下で学んでみる様に勧めたのは僕の方だからね。君達が明日以降も彼のところで訓練を続ける事について、ファミリアとして何か言うつもりはないよ」

 

「やった!」

 

「有り難う御座います!」

 

フィンから同意を得られ、ティオナとレフィーヤは揃って顔を明るくした。

 

ただ、フィンはそのまま話を終わらせなかった。

 

「ただし、彼の迷惑にはならない様にね?ポップにも商売や、自分の目的があるだろうし。君達の都合ばかりを押し付けてはいけないよ」

 

「はーい」

 

「はい。気を付けます」

 

「それと、報酬か……。金銭での謝礼は断られたんだよね?」

 

「……はい。高いお金を受け取るより、夕食をご馳走してもらうくらいの方が、気楽に出来るからと仰っていました」

 

「なるほどね」

 

フィンは机の上へ指先を置きながら、少し考えた。

 

ポップ自身が望んでいない以上、無理に金銭を渡せば、かえって気を遣わせる可能性がある。

 

ならば、金以外で彼が必要としているものを返す方がいい。

 

「例えばの話なんだけど」

 

フィンは二人を見る。

 

「もしロキ・ファミリアがギルドへ働きかける事で、ファミリアに所属していないポップにも、例外的にダンジョンへ入る許可が認められるとしたら……彼には、報酬として喜んでもらえると思うかい?」

 

「ポップさんが、ダンジョンに潜れる様になるの!?」

 

ティオナがすぐに食い付いた。

 

「まだ決まった訳ではないよ。僕達が身元を保証し、ロキ・ファミリアの団員が同行するという条件なら、ギルドと交渉出来るかもしれないという話さ」

 

「絶対喜んでもらえると思う!」

 

ティオナは大きく頷く。

 

「だって、今やってるお店、お客さん全然来てなさそうだもん!」

 

「ティオナさん、その言い方は少し……」

 

レフィーヤは苦笑した。

 

否定出来ないのが、余計に困るところだった。

 

「ですが……私も、ポップさんには喜んで頂けると思います。いつもお店では暇そうにされていましたし、オラリオのダンジョンにも、少しは興味を持っていらっしゃるかもしれません」

 

「分かった。これについては、ギルドがどう判断するか分からない。まずはポップ本人がダンジョンへ入りたいと思っているのか、それとなく君達から聞いてみてもらえるかい?」

 

「はい!分かりました!」

 

「了解っ!ポップさんとダンジョンに潜れる様になったら、それはそれで楽しそうだしね!」

 

「頼んだよ」

 

フィンが頷くと、二人は揃って団長室を後にした。

 

扉が閉まった後、リヴェリアが静かに口を開く。

 

「ダンジョンへ入れるとなれば、同行する我々としても、彼の本当の実力を把握しておく必要があるな」

 

「ああ」

 

フィンは穏やかな笑みを浮かべたまま、先程の報告を頭の中で整理していた。

 

異世界の大魔道士。

 

その名に隠された力が、少しずつ見え始めていた。

 

 

翌日。

 

ポップは昨日までと同じ場所で、再び露店を開いていた。

 

相変わらず客は殆ど来ない。

 

たまに立ち止まる者はいるが、値札を確認した後、そのまま去っていく。ポップは敷物の上にあぐらをかき、売れ残った武器や薬草を眺めながら、小さく溜め息をついていた。

 

そんな時、通りの向こうから、見覚えのある四人組が近づいてくる。

 

レフィーヤ。

 

ティオナ。

 

そして昨日まではいなかった、アイズとティオネ。

 

ポップは四人の姿を見た瞬間、思わず声を漏らした。

 

「げっ……」

 

「あーっ!」

 

ティオナがすぐに指を差す。

 

「レフィーヤ、聞いた!? ポップさん、今『げっ』って言ったよ!」

 

「ティっ、ティオナさん……」

 

レフィーヤは困った様にティオナを止め、それからポップへ丁寧に頭を下げた。

 

「あの、ポップさん。おはよう御座います」

 

「あっ、あぁ。おはよう」

 

ポップは少し気まずそうに返事をした後、四人を見渡した。

 

「ちなみになんだけどよ……今日は四人でどうしたんだ?」

 

「ふっふーん」

 

ティオナは得意げに胸を張った。

 

「実はさ、昨日ホームで『ポップさんは魔導士なのに、剣を使ってもメチャクチャ強かったんだよ!』って話をしてたんだ〜。そしたら、アイズとティオネも興味が湧いたみたいで、それで一緒に来たの!」

 

ティオネは小さく肩をすくめる。

 

「ティオナが随分楽しそうに話すものだから、少し気になっただけよ。邪魔をするつもりはないわ」

 

アイズも、ポップへ小さく頭を下げた。

 

「……おはよう」

 

「ああ、おはよう」

 

「ポップさんが戦うところ、見たい」

 

「そ、そうかい……」

 

その目を見るに、どうやらアイズもティオナと同じく、見学だけで済むかどうかは怪しそうだった。

 

ポップは困った様に頭をかく。

 

「俺としちゃ、のんびり店番でもしながらダラダラしてるのが理想なんだけどなぁ……」

 

ティオネが敷物の上へ視線を落とす。

 

「でも、お客さん、今日も来てないんでしょ?」

 

「ぐっ……」

 

事実を突かれ、ポップは言葉に詰まった。

 

敷物の上には、朝から一つも減っていない商品が並んでいる。

 

レフィーヤは申し訳なさそうに両手を身体の前で合わせた。

 

「そのっ、今日はこんなに大勢で来てしまって、すみません。それで、もしポップさんが構わないのでしたら……またお願いしたいのですが……」

 

「う〜ん、でもなぁ……」

 

ポップは腕を組み、露骨に悩み始めた。

 

昨日は夕食一回を授業料代わりにしたものの、ティオナの相手は、想像以上に疲れたのだ。

 

補助呪文を使えば身体能力は引き上げられるが、動かした身体へ掛かる負担や、消耗した体力まで消える訳ではない。

 

正直なところ、夕食一回では少し割に合わなかった気もしている。

 

しかも今日は、人数が二人から四人へ増えていた。

 

(まさか、全員相手にしろって言うんじゃねぇだろうな……)

 

ポップが警戒する様に四人を見ていると、レフィーヤがふと思い出した様に声を上げた。

 

「あっ、そういえば、ポップさん」

 

「ん?」

 

「もし、ロキ・ファミリアがギルドへ働きかける事で、ポップさんもダンジョンへ入れる様になるとしたら……嬉しいと思われますか?」

 

「……ダンジョンに?」

 

ポップの表情が変わった。

 

オラリオへ来てから、街の中心に存在する巨大な迷宮については、何度も耳にしている。

 

階層毎に異なるモンスターが現れ、深く潜るほど危険度も増していくという。話を聞く限りでは『破邪の洞窟』よりも遥かに広大で、神々が下界へ降りてくるよりも前から存在している地下迷宮らしい。

 

冒険者ではないので今は入れないが、ポップ自身、少なからず興味は持っていた。

 

「……そりゃ、潜れる様になったら嬉しいけどよ」

 

ポップは素直に答えた。

 

「もしかして、俺もダンジョンに潜れるのか?」

 

「いえ、まだ決まった訳ではありません」

 

レフィーヤは慌てて説明する。

 

「まずはポップさんに、その意思があるかを確認してほしいと団長から言われたんです。その上で、ロキ・ファミリアが身元を保証して、団員が同行するという条件で、これからギルドへ許可を頂けないか働きかける事になると思います」

 

「必ず許可されるとは限らない、って事か」

 

「はい。ですが、団長が話を進めて下さるのであれば、可能性はあると思います」

 

ポップは少し考える様に顎へ手を当てた。

 

ダンジョンへ入れるとなれば、露店で客を待ち続けるよりも、ずっと効率よく金を稼げるだろう。

 

「どう? ちょっとは乗り気になってくれた?」

 

ティオナが期待に満ちた目で尋ねる。

 

ポップはティオナの顔を見た。

次にレフィーヤ。

アイズ。

ティオネ。

 

四人全員が、こちらの返事を待っている。

 

「……お前ら、上手いとこを突いてくるよな」

 

ポップは苦笑しながら、敷物の上の商品を道具袋へしまい始めた。

 

「分かったよ。ダンジョンの話を進めてもらえるなら、俺も出来る範囲で付き合う。ただし、四人全員と戦えとか言うなよ?昨日は久しぶりに動いて、それなりに結構疲れてんだからな」

 

「やった!」

 

ティオナが元気よく両手を上げる。

レフィーヤも嬉しそうに頭を下げた。

 

「有り難う御座います!」

 

アイズは無言のまま、小さく頷いた。

ティオネは、そんな三人を見ながら少しだけ笑っている。

 

ポップは最後の品を道具袋へしまい、畳んだ敷物を抱えて立ち上がった。

 

「それじゃ、今日もあの空き地へ行くぞ」

 

「うん!」

 

五人は、ポップ達が昨日も使っていた空き地へ向かって歩き始めた。

 

その道中、少し後ろを歩いていたティオネが、隣にいるティオナへ小声で尋ねる。

 

「ねぇ。ポップさんって、本当にそんなに強かったの?」

 

「うん!」

 

ティオナは迷わず頷いた。

 

「昨日戦ってみた感じでも、近接戦なら絶対ラウルより強かったと思う。それに、他にも色々出来そうだったし」

 

「へぇ……」

 

ティオネは興味深そうに、少し前を歩くポップの背中を見つめた。

 

ティオナは単純なところもあるが、戦いに関して見る目が無い訳ではない。むしろ、自分が実際に打ち合った相手の力量については、かなり正確に感じ取れるタイプだ。

 

そのティオナが、ここまで楽しそうに褒めている。

それだけでも、興味を持つには十分だった。

 

アイズもまた、レフィーヤと話しながら前を歩くポップへ視線を向けていた。

 

魔導士でありながら、ティオナと打ち合える人。

昨日の話を聞いてから、ずっと気になっていた。

 

一方のポップは、背後から二人に観察されているとも知らず、レフィーヤからダンジョンの話を聞いていた。

 

やがて通りを抜けると、昨日まで使っていた空き地が見えてくる。

 

昨日までは二人だった生徒が、今日は四人。

 

ポップの青空教室は、本人の望みとは関係なく、少しずつ大きくなり始めていた。

 

 

空き地へ到着すると、ポップは改めて四人の顔を見た。

 

「それで?今日はどうすんだよ。まさか、本当に四人全員と戦えとか言わねぇよな?」

 

ポップは少し警戒した様に尋ねる。

 

昨日は補助呪文を使っていたとはいえ、ティオナ一人を相手にするだけでも、あれほど疲れたのだ。それが四人となれば、もう絶対に無理である。

 

「戦うのもいいけど、その前にさ!」

 

ティオナが楽しそうに一歩前へ出る。

 

「ポップさんって、昨日は補助魔法と治癒魔法を見せてくれたけど、他にもまだ何か出来るんでしょ?魔法以外でも、例えばスキルとかさ!」

 

「ちょっと、ティオナ」

 

ティオネがすぐに妹を止めようとした。

 

「無理に詮索するのはやめときなさいよ。ポップさんにも、隠しておきたい手の内くらいあるでしょ」

 

「えぇ〜!?でもさ、もしかしたら今度一緒にダンジョンへ潜るかもしれないんだよ?だったら、ポップさんが何が出来るのかとか、少しくらい知っておいた方がいいんじゃないの?」

 

「それは……」

 

常識を考えてティオネも止めに入ったが、言われてみれば、ティオナが言う事も間違ってはいない。

 

共にダンジョンに潜る可能性があるのなら、仲間に何が出来るのかを知っておく事は重要だ。それを知らないまま行動すれば、何かの拍子に、後々お互いの邪魔をしてしまう可能性すらある。

 

ティオネは少し考えた後、ポップへ視線を向けた。

 

「まあ、ポップさんが話してもいいと思う範囲でなら、私も聞いてみたいけど……」

 

アイズも静かに頷いた。

 

「……私も知りたい」

 

「お前らなぁ……」

 

ポップは困った様に頭をかいた。

 

「スキルってのは、こっちでいう魔法以外の特殊な力の事だったよな?正直なところ、俺にはそんな凄いもんはねぇんだが……う〜ん、昨日見せたやつ以外で、分かりやすくて面白そうなものか」

 

「うん!」

 

ティオナが大きく頷く。

 

ポップは腕を組み、少しだけ考え込んだ。

 

デカい攻撃呪文だと、周囲に被害が出るかもしれないし、そうなると何があったか……

 

自分達にとっては普通でも、この世界の魔導士には珍しそうなもの……

 

「そうだな……今みたいな晴れた日でも、雨雲を呼んで雨を降らせたり出来るぞ。あとは、昼と夜を入れ替えたりも出来るな」

 

「「……は?」」

 

レフィーヤとティオネの声が、見事に重なった。

 

アイズも僅かに目を見開いている。

 

そして、派手な攻撃魔法を期待していたらしいティオナは、一瞬だけ残念そうな顔をしたが、レフィーヤとティオネの反応を見て、どうやら想像以上に凄いものかもしれないと気づいた様だった。

 

「……ひ、昼と夜を、入れ替えられるんですか?」

 

レフィーヤが恐る恐る尋ねる。

 

「ああ。それで良かったら、今からやってみるけど」

 

ポップは何でもない事の様に答えてきたが、レフィーヤにとって、それはとんでもない話である。

 

昼と夜を入れ替える。

それは一体、どういう事なのか。

 

太陽を移動させる?

それとも、この星を魔法で回転させる?

あるいは、世界の時間そのものへ干渉するのだろうか。

 

仮に、もしそれが本当に出来たとして、突然昼が夜に変わってしまえば、絶対に大混乱になる。

 

ダンジョンへ向かおうとしている冒険者。仕事をしている商人達。太陽の位置を見ながら行動している人達。

 

それらが全て、滅茶苦茶になってしまうかもしれない。いや、それだけではない。真面目に考えていくと、もしかしてこれは大規模な天変地異や異常気象まで起こしてしまうのではないか。

 

「面白そう!でも、そんなこと本当に出来るの?」

 

ティオナが興味津々といった様子で尋ねてくる。

その言葉を聞いたポップは、ふふんと鼻を鳴らす。

 

「ふっふっふ……ティオナ君。君は一体、誰にものを言っているのかね?」

 

ポップは両手を腰へ当て、胸を張った。

 

「この大魔道士ポップ様にとっちゃ、天気や昼夜を変える事くらい、お茶の子さいさいってもんだぜ!」

 

「おお〜!」

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい!」

 

レフィーヤが慌てて二人の間へ割って入った。

 

「もし本当に昼と夜を入れ替えられるとしても、いきなりそんな大魔法を行使するのは危険です!絶対に大混乱が起こります!」

 

「そ、そうか?」

 

「そうですよ!」

 

「私も、それはやめた方がいいと思うわ」

 

ティオネも真剣な表情で同意する。

 

「本当に出来るのかは見てみたいけど、そんな大掛かりな魔法を軽はずみに試すのは危険よ」

 

アイズもポップを見ながら、小さく口を開いた。

 

「……雨なら、大丈夫?」

 

「雨なら、まあ……急に降れば驚くとは思いますが、昼と夜が入れ替わるよりは遥かに安全ですね」

 

レフィーヤはそう答えながらも、雨を降らせられるという事一つ取っても、天候を操作するなど、本来なら十分に異常な魔法である。

 

神々が下界へ降りる以前の時代なら、これだけでも神の御業として崇められていたのではないだろうか。

 

「分かった分かった。じゃあ、今日は雨だけにしとくよ」

 

ポップは苦笑すると、空き地の中央へ向かった。

 

「一応、少し離れてろ。あと、濡れても文句言うなよ?」

 

「はーい!」

 

ティオナは元気よく答え、四人は一旦ポップから距離を取る。

 

四人が十分に離れた事を確認すると、ポップはゆっくりと両腕を頭上へ掲げた。そして、先ほどまで雲一つなかった青空を見上げ、大きく息を吸い込む。

 

「ラ・ナ・リ・オーン!」

 

力強い声が、空き地へ響き渡った。

 

その瞬間、レフィーヤはポップの身体から、凄まじい魔力が空へ向かって流れ出していくのを感じた。

 

「っ……!」

 

思わず息を呑む。

 

最初に変わったのは風だった。

 

それまで穏やかだった空気がざわめき、空き地を吹き抜ける。周囲の木々が揺れ、乾いた土が僅かに舞い上がった。

 

次いで、遠くの空に小さな灰色の雲が現れる。

 

雲は風に流されてきたのではない。

 

何もなかった場所から湧き出したかの様に次々と形を増し、互いに重なりながら急速に広がっていく。

 

「……嘘でしょ」

 

ティオネが呟いた。

 

つい先ほどまで眩しいほどだった陽光が、徐々に遮られていく。

 

青一色だった空は、ほんの数秒の間に厚い雨雲で覆われてしまった。

 

辺りが薄暗くなる。

 

空気が冷え、土と草の匂いに、雨の気配が混じり始める。

 

アイズが静かに掌を上へ向けた。

 

その手の上へ、一滴の雨粒が落ちる。

 

「……雨」

 

次の瞬間。

 

ぽつり。

ぽつり。

 

小さな雨粒が空き地へ落ち始めた。

それはすぐに数を増し、瞬く間に本格的な雨へと変わっていく。

 

少し離れた通りからも、突然の雨に驚いた人々の声が聞こえてきた。

 

「本当に降ってきたー!」

 

ティオナは両手を広げ、空を見上げながら楽しそうに声を上げた。

 

金色の髪を濡らしながら、アイズは雨雲とポップを交互に見つめている。

 

ティオネは何も言えず、降り続ける雨を手の甲で受けていた。

 

そしてレフィーヤは。

 

雨の中で両腕を下ろし、まるで少し疲れた程度の顔で空を見上げているポップを、呆然と見つめていた。

 

異常である。

 

たった一人の魔法使いが空へ働きかけ、それまで快晴だった天候を、ほんの僅かな時間で雨へと変えてしまった。

 

「……信じられない」

 

降りしきる雨の中、レフィーヤはただ、自分達の知る魔導士という枠には到底収まりそうもない青年を見つめ続けていた。




お疲れ様です!
どうにか第七話が出来上がりましたので投稿させて頂きました!それでは、今日は21時半からラーメン屋さんで夜勤なので、ちょっと休憩してから行ってきます!

宜しければ、感想・評価・コメントなど宜しくお願いします!
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