大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び! 作:ポップ
「……信じられない」
降りしきる雨の中、レフィーヤはただ、自分達の知る魔導士という枠には到底収まりそうもない青年を見つめ続けていた。
だが、いつまでも驚いている訳にもいかない。今降り始めた雨は、この空き地だけではなく、オラリオの広い範囲へ影響を及ぼしている。遠くからは、突然の雨に慌てて商品を片付ける商人達の声も聞こえてきた。
「あっ、あの、ポップさん!」
「ん?」
「この雨なんですが……止める事も出来るのでしょうか?このまま降らせ続けておく訳にもいきませんし……」
「ああ、止められるぞ」
ポップは何でもない事の様に答えた。
そして、頭上へ掲げていた両手を軽く握り、そのまま降ろす。
ただ、それだけだった。
先程まで空一面を覆っていた雨雲が、中心から切り裂かれた様に割れていく。それまで降っていた雨も、まるで最初から降っていなかったかの様に勢いを失い、数秒もしないうちに完全に止んでしまった。
厚い雲の隙間から陽光が差し込み、濡れた地面を照らし出す。
「……止まった」
アイズが、掌に残った雨粒を見つめながら呟いた。ティオネも、空を見上げたまま言葉を失っている。レフィーヤに至っては、もう目の前の人物に何を言えばいいのか、さっぱり分からなくなってしまった。
詠唱は?
というか、こんなに簡単に、個人の意思で天気を変える事が出来ていいものなの?
……分からない。
今の魔法が一体どういう仕組みで発動しているのかも、どうしてあんな一言でこれだけの事が引き起こせるのかも、何が何だか全く分からない……
「すごーい!」
しかし、ただ一人、ティオナだけは驚くよりも先に、ますます楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「本当に雨を降らせて、すぐに止めちゃった!ねぇねぇ、ポップさん!他には?他には何が出来るの!?」
「えぇ……まだ聞くのかよ」
ポップは濡れた髪をかき上げながら、少し困った様に考え込んだ。
攻撃呪文は普通に危ない。
ラナルータは何でか分からないけど止められた。
それ以外で、見せたら面白そうなものとなると……。
やがて何かを思い付いたのか、ポップはニヤリと笑った。
「そうだなぁ……あとは、ドラゴンになったりも出来るぞ?」
「……ドラゴン?」
ティオネが聞き返す。
「ああ。『ドラゴラム』っていう、結構高等な魔法の一つに竜変化呪文ってやつがあるんだわ。ティオナが喜びそうなやつといったら、そういうのじゃねぇの?」
「ポップさんが、ドラゴンに……?」
アイズはポップの姿を見ながら、実際に竜へと変身していくところを想像している。
「あとは『モシャス』っていう呪文を使えば、他の誰かに変身する事も出来るな」
「他人の姿にもなれるんですか!?」
レフィーヤの声が裏返った。
……ちょっと待て。
天候操作。
治癒魔法。
結界魔法。
補助魔法。
二種類の魔法を同時に発動する技術。
剣の腕も魔導士とは思えないレベルなのに、更には、ドラゴンに変身出来る?他人の姿にも変身出来る?
何ですかそれは……
例えポップさんが違う世界から来た魔導士とはいえ、自分達の常識とはあまりにも違い過ぎる。
というか、普通は冒険者が生涯で得られる魔法は最大三つまでなのだ。自分やリヴェリア様のように、一部の人間はその限りでない事もあるが……ポップがこれまで口にした魔法の効果に関しても、そういったいち冒険者の枠には到底収まらない気がした。
「うわーっ!見たい!お願いポップさんっ!どんなのか気になるから、試しにちょっとドラゴンになってみてよ!」
ティオナが、待ち切れないとばかりにポップへ詰め寄ってくる。
「えっ?ここでか?」
「うん!」
ティオナの返事を聞き、しかしそれは流石にマズいのではないかとポップが言いかけたその時。
「ちょっと、ティオナ!」
ティオネが妹の肩を掴み、ポップから引き離した。
「アンタ何考えてるのよ!街の中で、いきなりドラゴンになってもらおうとするんじゃないわよ!そんな事したら、モンスターが出たと勘違いした冒険者達が集まってくるでしょうが!」
「あっ、そっか」
「そっか、じゃないわよ。まったく……」
ティオネの言葉に、レフィーヤも頷いた。
ドラゴンに変身出来る魔法も脅威だが、どちらかというと、他人に簡単になりすます事の出来そうな変身魔法の方が恐ろしい気がする……
いや、これは本当にマズいやつなのでは?私ですら、悪用しようと思えば幾らでも思い付いてしまう。
ファミリアの団員。
ギルドの職員。
商人や貴族。
極端な話、フィンやリヴェリア、あるいは神にすら成り済ませる可能性もあるのだ。
「確かに……これは一度、団長達に話を聞いてもらってからの方がいいかもしれません」
アイズが静かに口を開く。
「……私も、気になるかも」
ポップは苦笑した。
ティオネは軽く息を吐くと、全員を見回す。
「とにかく、一旦ホームへ戻りましょう。ダンジョンへ一緒に潜るかもしれない相手が、天候を変えたり、ドラゴンや他人に変身出来たりするなんて、私達だけで聞いて終わらせていい話じゃないわ。まずは団長達に報告するべきよ」
「そうですね」
レフィーヤも真剣な表情で頷いた。
「ポップさんも、一度黄昏の館へ来て頂けませんか?私達から説明するより、ポップさんご本人からお話しして頂いた方が、間違いなく伝わると思いますので」
「まあ、それは別に構わねぇんだけどよ……」
ポップは四人を見回し、少しだけ嫌な予感を覚えた。
俺はちょっと雨を降らせただけなのに、何故か話がどんどん大きくなってくる。
ダンジョンに潜れるかもしれないと聞いて、軽い気持ちで頷いてしまったが、やっぱり話を受けない方が良かったかも……
「あっ、それじゃあよ。例えば、今から一瞬でお前らのホームまで戻れる方法を見せれたとしたら、それも今日のやつの一つに数えてくれねぇか?」
突然の話に、四人はポップが何を言っているのか分からない。
「あんまり長時間拘束されるのもアレだからよ。それも一つに数えて、その後は何か簡単なやつで済ませる感じで……」
「えっ?あの、ポップさん、どういう事ですか?」
ポップが何かを提案してくれているみたいだが、話を聞いても、イマイチよく分かっていないレフィーヤに対して、
「まぁまぁ、いいからいいから」
と、笑いながらレフィーヤの疑問を受け流して、ポップは更に言葉を続ける。
「試しに、ちょっと俺の服の端を掴むか、どこかに触れてみてくれよ」
「掴まる?」
そう言われた四人は、今だにポップが何をするつもりなのかは分からなかったが、しかし既にある程度の信用は築けているみたいなので、特に怪しんだりせずに各々がポップの服を掴んだり、肩に手を乗せたりする。
「掴んだよ!」
ティオナが元気よく声を掛ける。
そしてポップは、四人がちゃんと自分に掴まっている事を確認すると、再び、悪戯っぽく口元を上げる。
「離すなよ?……ルーラ!」
ポップが呪文を唱えた途端、五人の身体が淡い光に包まれて、その場からオラリオの空へと飛び立ったのだった。
そして――。
◇
場所が変わって、黄昏の館の前。
「「「「……はっ?」」」」
それぞれ若干の違いはあるものの、大体こんな感じに思っていた。そして唖然とした顔をしている。先程までいた空き地は、どこにも見えない。
レフィーヤは、自分が掴んでいたポップの上着から、ゆっくりと手を離した。
あれ?
自分達は、今まで空き地にいた筈なのに、目の前には、もうホームの入口がある……何が起きたのか、まったく理解出来ない。
「よっしゃ!これでもう、今日はなんか軽いやつで終わりにしてくれよな」
といってポップは満足そうにニコニコしている。
しかし、レフィーヤは相変わらず混乱している。
えっ?
何が起きたの?
今だに状況が掴めていない中、ティオナが大声をあげた。
「えーーーっ!?今あたし達、もしかして空飛んだ!?」
一瞬の出来事だったので、レフィーヤには殆ど分からなかったみたいだが、ティオナは空き地から黄昏の館まで飛んできた軌跡を、ある程度目で追えていたらしい。
「おっ、結構一瞬の事だったのに、流石だなティオナは」
ポップは感心した様に笑った。
アイズとティオネにも、ルーラで移動した際の軌跡は見えていたようで、二人は黄昏の館とポップを交互に見ながら、呆然としている。
「……もう駄目だわ」
ティオネは疲れた様に額へ手を当てた。
「とにかく全部団長達に伝えて、後は任せましょう」
ほんの短い時間の間に、自分の常識がガラガラと崩れていって、諦めたようである。
「……転移魔法?」
アイズは、驚きながらもポップを見てそう呟いた。
その言葉を聞いて、レフィーヤが勢いよく振り向く。
「転移魔法っ!?」
転移魔法。
物語の中でしか聞いた事がない大魔法。
世の人々が「こんな魔法が使えたらいいな〜」と考えた時に、多くの人が思い付く魔法の一つであるだろう。
確かに、そんな魔法が使えたらなと思わなくもない。
しかし断言出来る。
この世界に、そんな夢みたいな魔法は無い!
少し考えてみれば分かる。
それだけの大魔法なら、使える人がいれば絶対に噂になるだろう。しかしそんな噂は、エルフの里で魔導士として教育を受け、オラリオへ来てからも魔法について学び続けてきた自分にも、一切聞こえてきた事がない。
つまり、少なくともレフィーヤの知る限り、この世界に転移魔法など存在しない。
存在しない筈なのだ。
それを、目の前の青年は……
「はははっ、今のは転移じゃねぇよ。まぁ、似たようなもんだけどな」
ポップはアイズの言葉を否定した。
「空を飛んで一瞬で移動してきたから、まぁ分類的には移動魔法だな」
良かった、転移ではなかった。
アイズさんの呟きに反応して一瞬焦ってしまいましたが……
……えっ?
空を飛んできた?
一瞬で?
あんな軽くしか触れてなかった私達四人を連れて?
いや、一瞬で移動出来るなら、殆ど転移みたいなものなのでは?というか、私には早過ぎて全く見えなかったので、どっちでも同じな気が……
もういいや。
リヴェリア様に報告して、私も後はお任せしよう。
さっきまで、今日もポップに近接戦の手解きをお願いしようと思っていたレフィーヤだが、立て続けに常識外れの魔法を見せられたからか、ちょっと疲れてしまったようだ。
「……とにかく、まずは中に入りましょう。ポップさんも、こちらへどうぞ」
そうして、五人は黄昏の館へと入っていった。
◇
「……何だって?」
場所は、ロキ・ファミリアホームの団長室。
室内には、フィン・リヴェリア・ガレス・ロキが既に揃っており、そこへレフィーヤとティオネが報告に来たのである。
「……すまないね。あぁ、二人ともかけてくれて構わないよ。それで、さっき急に降ってきた雨だけども、君達はポップがあれを降らせたというのかい?」
困惑気味に聞いてくるフィンに対して、レフィーヤが代表して答える。
「はい。私とティオナさんに加えて、今日はアイズさんとティオネさんも一緒に、ポップさんの所へ向かったのですが……」
レフィーヤは、本日の出来事を振り返りながら順序立てて話していく。
「ティオナさんが『ポップさんって、昨日は補助魔法と治癒魔法を見せてくれたけど、他にもまだ何か出来るんでしょ?』と聞いて下さったんです」
「待て」
しかし、リヴェリアが真剣な声で遮った。
「分かっているとは思うが、相手が何者であろうと、手の内を無遠慮に聞き出していい訳ではないぞ」
「はい。それについては、ティオネさんからもティオナさんへ注意して頂きました」
レフィーヤは慌てずに答えた。
「ですがティオナさんから、今後ポップさんと一緒にダンジョンへ潜る可能性があるのなら、互いに何が出来るのかを知っておいた方がいいのではないか、という話がありまして……。ポップさんにも無理にお願いした訳ではなく、ポップさんご自身が、話しても構わない範囲で教えて下さいました」
「そうか。それならばいい」
リヴェリアは短く頷き、先を促した。
「それで、ポップさんが仰ったのが……晴れた日でも雨雲を呼び、雨を降らせられるという事。それから、昼と夜を入れ替える事も出来る、というものでした」
「……ちょい待ち」
それまで黙って聞いていたロキが、片手を上げた。
「今、何て言うたんや?昼と夜を入れ替えられるやて?」
「……はい」
レフィーヤは改めて口にする事すら恐ろしいと感じながら、頷いた。
「ポップさんは、それくらいなら簡単に出来るといった様子でした。ですが、私達にも影響する範囲や、何が起こるのかまったく分かりませんでしたので、とにかくその場で使用するのは止めて頂きました」
「……当たり前だ」
リヴェリアの低く真剣な声が、団長室へ響いた。
「もし仮に、彼がそんな大魔法を行使する事が本当に出来るとして、待ち受けているのは、この星の終わりだぞ」
そして、それによって考えられる事態を想定しながら、尚もリヴェリアの考察が続いていく。
「太陽を動かすというのは確実に無理があるだろうから、可能性として考えられるものとしては、星の自転に作用するという事か?……いや、それでもやはり無理がある。とにかく、軽く被害を考えられるだけでも、世界中で音速を超えた超突風が発生するだろうし、海洋に限って言えば、高さ数千メートルの超巨大津波が巻き起こって大陸を飲み込んでしまうかもしれん……星の自転に影響を及したりすれば、地殻にも負荷が掛かるだろうから、そこからザッと想定出来るだけでも、世界中の火山が大噴火を起こし、大地震を引き起こすだろう……もし本当に、その様な形で昼夜を変える術なのだとすれば……それはもはや、魔法などではない。世界の理そのものを上書きする、神の権能に近いものだ」
団長室が静まり返った。
先程まで興味深そうに聞いていたロキも、流石に笑ってはいない。ガレスは腕を組んだまま、難しい表情を浮かべていた。
やがてフィンが、レフィーヤとティオネへ静かに問い掛ける。
「……レフィーヤ、ティオネ。ポップはそれを『出来る』と言ったそうだけど、実際にその場にいなかった僕達にとっては、どうしても荒唐無稽な話にしか聞こえてこない」
フィンは二人の表情を見ながら続けた。
「君達は、彼が本当にそんな事まで出来ると思った、という事でいいのかい?」
「……はい」
レフィーヤは少し迷った後、それでも明確に答えた。
「勿論私も、事の重要さに関しては理解出来ているつもりです。でも、ポップさんと話していた私達四人の感想をお伝えしますと、冗談を言っている様ではなく、本当に出来そうな感じに思えました」
フィンはティオネへ視線を移した。
「ティオネは?」
「団長。私も、レフィーヤと同じ意見です」
ティオネは真剣な表情で答えた。
「勿論、実際に昼夜を変えて見せてもらった訳ではありません。ですが、ポップさんは見栄を張っている様にも、私達を騙そうとしている様にも見えませんでした。流石に私達も、それを試してもらうのはマズいと思いましたので、代わりに比較的影響が少なそうな、雨を降らせる魔法を見せてもらったんですが……」
「それが、この快晴の日に突如雨雲が現れ、雨が降り始めた理由だと?」
フィンの問いへ、ティオネが頷いた。
「はい。ポップさんが両手を上げて、詠唱も無しに魔法名と思わしき言葉を叫んだ途端、突然何も無かった空に雨雲が集まってきました」
「……それだけで、先程の雨が降ったというのか?」
リヴェリアの声にも、動揺が滲んでいる。
「はい。私も驚きました」
レフィーヤが続ける。
「それで、突然の雨では街の人達も困ってしまいますので、ポップさんに『雨を止ませられますか?』と尋ねてみたのですが……すると、ポップさんが軽く手を握って、上げていた腕をそのまま下ろしただけで、途端に雨雲が散って、快晴に戻っていったんです」
再び、団長室へ沈黙が落ちた。
窓の外には、先程まで雨が降っていたとは思えないほどの青空が広がっている。
「……とにかく、ポップ本人から話を聞いてみないと、何とも言えないね」
フィンは考えをまとめる様に、ゆっくりと口を開いた。
「彼も一緒に来ているのかい?」
「はっ、はい。今はティオナさんとアイズさんが、お相手をして下さっています」
「分かった」
フィンは椅子から立ち上がった。
「僕達の想像だけで結論を出しても仕方がない。まずは本人から話を聞いてみよう。どうするかを考えるのは、それからだ」
リヴェリア、ガレス、ロキも、それぞれ席を立つ。
こうしてロキ・ファミリアの幹部達は、ポップの下へ向かう事になった。
噂や報告だけではなく、今度は本人の口から、その真偽について確かめる為に。
お疲れ様です。
遂にポップのお話も八話まできましたね。
…めっちゃ悩みました。
構想自体は昨日からあったのですが、今日はもう、朝の通勤途中から昼休憩、仕事中(考え)、帰りにドトールに寄って19時から22時の閉店前まで文章書いてて、帰ってきてからも22時半から今の24時半までずっと書いてました…
書く前は面白いと思っていたのに、出来上がった今は「これは本当に面白いと思ってもらえるのか?」と不安になってきています。
でも、もう駄目です。
頭が回らないので、とりあえずこれでいっちゃいます!
最近は、この作品を見て下さる方も増えてきたみたいですので、ガッカリさせないといいのですが…
あっ!あと、不安な点といいますか、許して頂きたい点がありまして。
「…」の多様について
これ、本当はダメなんですよね?
(なんかそんな話を聞いた事があるような…)
さっきAIに聞いてみたら、絶対にダメって訳じゃないとの回答をもらえてホッとしているのですが、ポップのお話は、オラリオの人達がビックリするようなシーンが沢山あって、ついついイメージが湧きやすいと思って使用してしまいます。
そこら辺、厳しい人には許して頂きたいです。
では!そんな感じで!
今日はそろそろシャワーして寝ます!
でわm(_ _)m