準特級術師はカプ厨につき!   作:波間こうど

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 最近の悩み、書く量が増えると読む量が減ること。


第十四話 先輩につき

 

 夏の夜風が熱している感覚を冷ましていた。

 

 目の前にいる先輩は私たちの恩師と言ってもいい、いつもふざけて馬鹿なことをしている先輩だ。

 

 九条詩刀子準特級術師。

 

 術式の効果上術師相手に絶対的な有利を持つこの男は、上層部にとっての虎の子。私たち術師が裏切った時の処刑人であり、術師には勝つことができない素手No.1の相手。

 

「先輩と戦うって……なんでそんなことになるんだよ」

「ウチは上層部付きだよ? 準特級ってのはふざけた地位だけど伊達や酔狂で付けられた位じゃない」

「……天元様と理子ちゃんの同化は上層部からの決定だということですね」

「そう思ってもらって結構。君たちが理子ちゃんを逃がそうとするならウチが目の前に立ち塞がる……分かってたことでしょ?」

 

 長く垂らされた髪を背中へと回すように払えば、先輩はジッとこちらを見つめる。いつもは薄くしか見えない黒い瞳、口の先で何度も場所を変える飴の棒、耳にぶら下がったピアス。

 

 その全てがいつも見ているものだけれど、その全てに暖かさを感じない。

 

 普段は私たちのことを優しく見つめる先輩なのに。

 

 初対面の頃に感じていた得体の知れなさ。初任務の日に私を打ち負かしたあの不気味な雰囲気をまた纏って、彼は私たちを見つめる。

 

「どうする? ここで決着をつけたっていい。それか、ウチが相手ならって諦めちゃうのも手だね」

「…………」

「分かってるでしょう? 実際問題。君たちじゃウチに勝てない」

 

 柵から体を離して二歩、彼が前に進む。

 

 それだけで身体中から脂汗が吹き出るような気がした。身体中を緊張という針が刺して、身体中から恐怖の感情が湧き出してくる。

 

 武器は持ってない。ただの丸腰の人間が、私を殺す用意があると近づいてくる。……もう、ここは彼の間合いだ。

 

「……やってみなきゃ分からねぇだろうが」

「本当に言ってるの? なら、躾直そうか?」

「…………ッ!」

「いいよ。ウチはいつでも。いくらでも相手してあげる。訓練なら君たちに合わせてだってあげるさ……でも」

 

 先輩の指が絡む。中指と人差し指が絡んで、それは印へと昇華される。

 

「理子ちゃんを諦めないなら、ここで再起不能にして、同化まで寝ててもらうよ。五条一級術師」

「……待ってください、九条先輩」

 

 呪力の起こりを感知して私は咄嗟に先輩へと声をかけた。止める目的ももちろんあったが、それよりも、先輩の目的をハッキリとさせるために。

 

「先輩は天元様の側に着くということですよね」

「そう言ってるつもりだけど」

「じゃあ、なんであそこまで理子ちゃんに優しくするんですか? なんで理子ちゃんを今日高専に届けなかったんですか? 先輩の行動は矛盾してます」

「人生の最期を楽しませてあげようって気持ちがわからないかな?」

「それだけじゃないはずです。それだけなら……」

 

 貴方はあの子を見るときにあんなに優しい目をしないでしょう。

 

 その言葉は声にならなくて、グッと握り締められた拳が行き場もなくぶら下がった。彼のことを止めるだけの手立てが私にはないからだ。

 

「とにかく、諦めるんだね。天元様と理子ちゃんの同化は決定事項だ。天元様と戦う……その前にウチにボコされたくなかったから……」

「はぁ? 何言ってんの?」

 

 先輩が最終宣告をしようとしたらその時、悟が術式を展開した。無下限術式。五条家の相伝術式。

 

「やってみなきゃわかんねぇだろ」

「……五条一級術師。それは敵対する意図での術式ですか?」

「それ以外の何に見えるんだよ。馬鹿じゃねぇの」

「帷も下ろさず、こんなところでウチとやり合う。その意味が分かってるのなら結構。どうせ無意味になるんだ、虚勢くらい張らせてあげよう」

 

 先輩を中心として呪力が迸る。それは私たちのことを包み込む呪力の奔流——。

 

「待ってくれ悟! 先輩に敵対の意思はない!」

「はぁ? 何言ってんだよ傑。どう考えても敵側の発言だったろうが」

「そもそも理子ちゃんが同化を拒否したときの話で、わざわざ敵対する意思があるわけじゃないんだ……!」

 

 そうであってくれという気持ちも込めて先輩を見る。相変わらず何を考えているのかわからない瞳がこちらに向けられて、何を考えているのか伝えようともしないで立ち尽くしている。

 

「でも、天内が同化を拒絶したら俺は天内を天元様と同化させない」

「……そのせいで日本が滅ぶとしても? 天元様が暴走して、敵対する呪霊になったとしても? ウチと戦うことになっても? どんなことがあっても君は理子ちゃんを救うの?」

「そうだよ。傑もいる。俺と傑が揃えば最強なんだ。先輩にだって負けない!」

 

 私の肩を持った悟が声を荒げる。目の前に立ち塞がる壁、先輩を見つめる。強く、それでいて敵わない敵を見据える。

 

「それに——」

 

 悟がサングラス越しに先輩を睨みつけた。その瞳は夜の闇を振り払うほどの青空を、凝縮したようなスカイブルー。

 

「もう、友達だ」

「……………………ふふ、そっか」

 

 先輩が指を解いた。呪力の流れも消え失せて霧散する。その顔にはいつも通りの人好きのする笑顔が映っていた。

 

「いや〜、可愛い後輩を持つと先輩は大変だなぁ!!」

「……なんだよ気持ち悪い」

「星漿体を渡さないと天元様が暴走する。高次の次元へと至った天元様は人間の規格から逸脱するからだ」

「…………」

「その上で……“友達”を救うんだって息巻くその粋や良し。好きにするといいよ」

 

 カツカツと地面を鳴らして先輩が私と悟の間を通り抜ける。通り抜けざまにポン、と肩を叩かれる。

 

「ちゃんと見ててあげるからさ」

 

 振り返ると先輩はもうエントランスへと入っていったところだった。片手をポケットに突っ込んで、もう片方の手を背中越しに振って、髪を靡かせて。

 

 私たちの先輩は私たちのことを見守って、その背中を大きく示した。言葉で明確に敵対する可能性を示唆しつつも、私たちのことを肯定するように。

 

「…………全部バレてら」

「あはは、悟も私も悪くないだろう。むしろ理子ちゃんが同化を拒否する可能性があることを考えた上でのセリフなんじゃないか?」

「マジでアレで勉強できないの意味わかんねー……」

「そうだね……」

 

 二人してホテルの中へと消えた先輩の背中を、見えなくなった背中を見つめる。こんなにも近く、こんなにも手が届きそうに見えて、こんなにも——。

 

「遠いな」

「遠いね」

 

 沖縄の空は遠くて、あんなにも輝いて見える星がすごく、すごく遠くに見えた。

 

 

  × × ×

 

 

 き……聞きましたか? さっきの五条先生のセリフ。これはとてつもなく良質なカップリングじゃなかったですか? 誰もが興奮するような最高のカップリングだったと思うんですけどどうでしょう。ウチはそう思うんですが。

 

 ホテルに戻ってウチは一人でお風呂に入って、たっぷりと湯船に浸かりながらそんなことを考えていた。理子ちゃんが生き残るのは夏油くんにとっては闇堕ちを回避するためのルートで割と必要十分条件だと思っているから、是非とも二人には理子ちゃんを救って欲しいんだけど、どうなるかは神のみぞ……ってやつだ。ウチがいるから回避できるのか、ウチがいても回避できないのか……。

 

「極論言うと夏油くんが残ってくれた方が嬉しいけど、それだけだしな……」

 

 そう、それだけ。それ以上でも以下でもない。残ってくれた原作展開を逸脱したカップリングを見ることができるけど、それは原作で見たカップリングを見逃すことにも繋がる。だからウチはできる限りサポートこそするけど、最終的に決めるのはキャラクターだと思ってるんだ。

 

「うーん……鬼が出るか、蛇が出るか……」

 

 どうなっても、ウチは得しかしないけれど。

 

 兎にも角にも明日。原作の展開が決定づけられる。

 

 ウチはお風呂から上がって髪を乾かすと浴衣に着替えてから廊下に出た。するとポンッと横からあたられる。こんな可愛いことをしてくるのは歌姫ちゃんかな? と横を見てみるが、そこに歌姫ちゃんの姿はない。

 

「九条」

「……理子ちゃん?」

 

 ヘアバンドしてないから誰か一瞬わからなかった。が、これは理子ちゃんで間違いないだろう。可愛いなこの子。

 

「どうかしたの? みんなと逸れた? 迷子?」

「……違うわ間抜け。貴様を待っておったのじゃ」

「え? そんなことする意味ある?」

 

 ないだろ。なくない? 黒井さんとかどっかに隠れててなんかしたらボコられるみたいなこと? ……なんで中学生に誘惑されると思われてるんだウチ。美人局ってこと?

 

「感謝しておこうと思っての」

「感謝ァ? そんなの五条くんと夏油くんにしなよ」

「それはするけど……そうじゃなくて……」

 

 ゴニョゴニョと口を動かす。……この口の動きを見ると陀艮=天内理子説を思い出すからやめて欲しい。可愛いけどね? 可愛いんだけどね? それはさ、酷いじゃん。あんまりにもあまんまりじゃん?

 

「お金を出してくれてるの九条だって聞いて……」

「え? いや、経費で落ちるでしょ」

「歌姫は落ちないって言っておったぞ」

「嘘だろ」

 

 え……? とすると総合でいくらするんだ。正気の沙汰じゃないだろ。マジで言ってんの? ウチ財産吹っ飛ぶ?

 

「それに、今日沖縄に残るように誘導してくれたのも九条じゃと聞いた。歌姫や硝子を連れてきて男ばっかりじゃなくしたのも、明るく振る舞ってくれておるのも……」

 

 全部カップリングしたくてやったことだし歌姫ちゃんと硝子ちゃんのカップリング+君の百合域展開も見れたからマッチポンプでしかないんだけど……あと明るく振る舞ってるように見えるのは多分みんなが可愛くてテンション上がってるだけですね。ほんまごめんね、期待に添えなくて。

 

「じゃから感謝じゃ。明日には会えなくなるから」

「…………」

 

 中学生の女の子が、こんなにも覚悟を決めることあるだろうか。たった十四歳の女の子が、ここまで覚悟を決めて、自分の命を犠牲にすることを誇らしく話すことがあるだろうか。戦時中じゃないんだぞ。

 

「理子ちゃん」

「なんじゃ?」

「楽しかった?」

 

 ウチは極めて普通に、普段通りに言葉を吐き出した。これはただの自己満足の言葉で、正直なんで答えるのかはなんとなくぼんやり分かってた。

 

「うむ!」

 

 ……天真爛漫に微笑む彼女の笑顔を見て、ウチは。

 

 もし、叶うのなら生きていて欲しいななんて思った。

 

 

  × × ×

 

 

「恋バナしよう!!!!!!!!!!!!」

「うるさ」

「恋バナを!!!!!! しよう!!!!!!」

「なんでこんなにテンション高いの? 理子ちゃん知ってる?」

「知らんのじゃ」

「うるせぇ!!!!!! しよう!!!!!!!!」

 

 両腕を広げて声を上げる浴衣姿の詩刀子は胸元を大胆に広げながらヘラヘラと笑っていた。何笑ってるのよ押し倒すわよ。

 

「いやね……こんな修学旅行みたいな状況だとさ。恋バナでしょ恋バナ!!」

「修学旅行初めてなんですか?」

「よく聞いてくれたねナナミンッ!! そうなんだよ!! 色々あってさぁ!!」

 

 七海の頭をわしゃわしゃと撫でるだけ撫でた詩刀子は鼻を鳴らした。あんたの小中の頃の生活を知ってればそりゃ修学旅行なんて行ったことなさそうだと思うけどね。

 

「誰が好きなの? みんなの好きな子とか気になってる子とかいないの?」

「えー、私はいないですけど」

「硝子ちゃんはあの二人のどっちかなんてどう?」

「ははは、ありえねー」

「おい、傑。あの二人って誰のことだと思う?」

「七海と灰原じゃないかい?」

「どう考えてもあなたたちのことでしょう」

「そういうところがモテないのよ」

 

 さも当然だというように後輩を盾にした五条と夏油に七海が反撃する。その反撃に合わせて追撃しておいた。二人がモテているということを力説しているが、この男には敵わない。

 

「まぁ、だよねぇ……二人はモテるよねぇ……」

 

 色っぽく上気した頬。耳に髪をかけるところさえも艶やかで、私じゃない女性陣も目を逸らすほどの誘惑の姿は裸婦像もかくや、という様である。

 

「硝子ちゃんもモテそうだけど。歌姫ちゃんはモテるし……黒井さんも理子ちゃんもモテるでしょ? ……あれ? ハーレム?」

「七海、今先輩僕たちのこと忘れてるよね?」

「視界に映ってないんですかね……」

「そんなことないよ。雄やナナミンはおバカなこと言うなぁ……二人も今日はすごいイケメンだね……?」

「恐縮です!」

「…………どうも」

 

 なんでこんなことになっているのか。詩刀子はいつもブレーキが吹っ切れていて、暴走気味ではあるが、こういう姿を見せる時はいつだって一択だ。

 

「誰よ、こいつにお酒飲ませたの……」

「さっきお風呂の前で会った時には持ってなかったのじゃ」

「私と灰原のことをエントランスにまで迎えに来た時にはもう既にこうでしたよ」

「その間か……」

「先輩酔うとこうなんの? 面白」

「珍しいけどね」

 

 理子ちゃんを部屋に送り届けてから七海たちを迎えに行くまでの間にはそこまでの時間的インターバルはなかったはず……なら、その間に……。

 

「……硝子」

「いや、だって泡盛ですよ? 沖縄に来て飲まないわけにいかないじゃないですか」

「なに正当化してるのよ」

 

 こうなってしまっては手がつけられない。いつもハイテンションな奴だけど、お酒への耐性はあまりついていなくて。

 

「歌姫ちゃーん。やっぱり五条先生のこと好きなの?」

「なんでこんなのが先生なのよ」

「あ、好きなことは否定しないんだ!」

「否定するまでもないのよ」

「歌姫……ごめん……」

「何フってんのよ」

 

 あんたみたいなクズ好きになるわけがないでしょうが。と一言付け加えるともう限界を迎えてきた詩刀子が私の膝に倒れ込む。そうしてにこやかに両腕を広げた。

 

「歌姫ちゃんの好きな人五条先生じゃないの?」

「違うわよ、アンタよ」

「えっ、なんだって?」

「アンタよ」

「ナンジャモ?」

「誰よ」

「カルダモン?」

「スパイスじゃない。アンタよ、アンタ」

「? ……? カンタ?」

 

 なんでトトロに出てくるキャラが好きなのよ。ナメてんのか。

 

「あのねぇ……」

「あはは! 歌姫ちゃん可愛いねぇ……」

 

 ヘロヘロになった詩刀子が手を伸ばす。私の頬を撫でて、と腕が落ちた。

 

「…………寝たし」

 

 言いたいことだけ言って爆睡した私の好きな男はくぴーくぴーと可愛い音を立てながら寝息を立てている。なんなのよコイツもう……。

 

「……ん? 何よ五条」

「歌姫……先輩のこと好きだったの……?」

「そうだけど」

「知らなかったのかい悟」

「いや、お前は俺の横で「えっ」って言ってたじゃん!」

「知らなかったのかアンタらだけだよ。七海たちを見てみな」

「全く。家入さんの言うとおりですよ。ねぇ、灰原」

「え!? 歌姫先輩は詩刀子先輩が好きだったんですか!!」

「はぁ……」

 

 硝子と七海以外が驚きの声を上げるけど、そこまで驚くことだろうか。この馬鹿が気づいてないだけで割とオープンにしていたつもりなんだけど。

 

「歌姫は九条のことが好きなのか……」

「理子様気づいていらっしゃらなかったのですね……ずっと表情に出てらっしゃいましたよ」

「マジか」

「マジです」

 

 理子ちゃんと黒井さんはまぁ、仕方ない。そういうものだろう。むしろ初対面の黒井さんにバレてるのがどれだけオープンにしてるのかの証明だと言ってもいい。

 

「……結構恥ずかしいのよ馬鹿」

「んん〜……ぅ〜」

 

 抗議の意図をとってほっぺたを突いてみるけど彼女の反応は鈍い。全く、分かっているのだろうか。

 

「ばーか」

 

 頬っぺたを突きながら笑ってしまう。心の内側を湧き上がってくるこの感情を恋愛だというのなら、恋だというのなら、随分とドロドロとした感情だと思う。

 

「ふふ」

 

 頬っぺたを突いて夜が明ける。彼の悩んだ声と、五条たちの驚愕の声が響く。その声を聞きながら詩刀子が飲み残したお猪口を口につけた。

 

 

 





 皆さんのおかげでね、評価が1000に近くなりました。えぐくない? 普通に考えて評価されすぎですね。ありがとう。

 これからも皆さんに評価される物語を書いていこうと思います! もう少ししたらパパ黒も出てきますからね……あの人うまく動いてくれないんだよなぁ。

 それじゃあ、また明日です! これからもこの物語の応援よろしくお願いします!! もっと評価して!!(承認欲求モンスター)
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