戦闘描写苦手マン。
理子ちゃんと夏油くんがトンネルの先に向かったのを見送ってから、ウチは道の真ん中に陣取った。その横に黒井さんが立っている。まぁ、夏油くんが帰ってきてからエレベーターに乗った方がいいからねぇ……乗れるのか別としてもね。だって襲いかかってきてる謎の不審者がいるしね。
「……九条さん」
「んー? なんです?」
「……五条さんは大丈夫でしょうか?」
「いいんですよ。理子ちゃんのことを考えて」
「…………」
「心配でしょ」
「それは……」
「ウチだって家族がそうなったら心配する……だろうから」
いや、あんまり心配しないかも。うん、しないや。
「理子様は……」
黒井さんがぼーっと空を眺める。遠い記憶を思い出すように。
「ずっと、星漿体であるからといろんなことを我慢なさっていました。だから、幸せに……幸せになってほしくて……」
「なら、呼び止めに行きますか」
「……え?」
ウチは異物だ。この世界の異物。生まれたときから、ずっとずっと、ウチはこの世界で巡っている呪いと一緒に生きてきた。そして、この術式を持って生まれたことには意味がある……と思う。
「ウチはね、高専の結界なんて割とどうだっていいと思ってるんだ。きっと、理子ちゃんじゃなくたっていい」
それは原作でも示されている。わざわざあんな可愛い子にしておく必要はないし……そもそも星漿体って存在自体があやふやだ。なんだよ星漿体って。漿って字、脳漿でしか見たことないって。
「今なら間に合いますよ。走って行ったらどうですか」
「でも……」
「貴女の大好きな彼女は、こんなところで消えてしまっていいんですか?」
「…………」
キッ! と黒井さんがウチのことを睨む。でも、それが八つ当たりだと分かって瞳が潤んでいく。
「……私は理子様を、引き留めてもいいんですか」
「……ウチは一応理子ちゃんを天元様に届けるために来た刺客……ってわけでもないんだけど、まぁ、そんな感じの人間なんだけど」
「…………」
「でもね、ウチもう理子ちゃんのこと好きになっちゃったから。友達には生きてて欲しいじゃん?」
「それは泣ける話だな? ところでお前ロリコン?」
聞き覚えのある声が耳朶を打った。ウチは咄嗟に左手を伸ばして黒井さんを突き飛ばす。刹那、腕が切り飛ばされた。
「……ぉ?」
「ハッ! 良い反応だな!」
「ッ!」
足を無理矢理振り回すようにして声の方向を蹴り飛ばす。が、抵抗虚しく、ウチの蹴りは空を切った。避けられたらしい。らしいというのは簡単で見えなかったからだ。
「お前本当に人間か? 痛がれよ」
「ウチ痛みには強いんだよねぇ……悪いんだけど、あんまり痛くないや……それで? 五条くんは?」
「あー、言った方がいいか?」
「おっけ、言わなくていいや」
どうせ反転を習得して必死こいて治してるところだろう。頑張って早く来て欲しい。
「黒井さん。走って理子ちゃんたち追いかけて」
「ですが……!」
「ごめん、役に立たないよ。相手が悪い。守りながらだと戦えない」
「…………!」
「それに……この先、言う必要ある?」
ウチは黒井さんの方をチラリと見た。視線が交差する。
「……死なないでくださいね!」
「うーん……ちょっと頑張ってみるね」
彼女が駆けていく音が遠くなっていく。それを聴きながら見逃してくれているパパ黒に視線を戻した。左腕……は、まぁ、血が出てるけど別にいいや。気にすることでもない。
「腕吹き飛ばされちゃお荷物片付けても戦力差はひっくり返らねぇだろ。ここらで終わりにしておかねぇか? 俺は星漿体が殺せたらそれでいいんだ」
「いやダメだなぁ……残念ながらこれが任務だから」
「術師ってのは大変だねぇ。世知辛いじゃねぇか」
「そうでもないよ。少なくともアンタほどじゃないよ」
「あ?」
ウチは貴方を知っている。
それは、原作という物語が存在しなくても、そんなものが存在しなくても知っているのだ。
「禪院家は居心地が悪かったかい? 禪院甚爾さん」
「………………今は婿に入ったからな。伏黒だよ。つーか、なんでお前が知ってんだ」
「いや〜、ウチのお師匠がフラれたって愚痴ってきてさ。いやはや、変だけどいい女だろうに。さては見る目がないな?」
「あ? フッた女のことなんて覚えて……」
そこでピタリとパパ黒の顔が固まった。その様子から思い出したのだろう。面倒な女を、ウチの右腕についたブレスレットはその師匠のつけてたものだからね。これみよがしに見せつけてあげよう。
「お前……! 九十九由基の弟子か!」
「
「やたらと俺の体が欲しいって言ってた面倒な女……」
「そんな変態な誘い文句してたの?」
それは弟子として謝罪させていただこうマジでごめん。
「天与呪縛のフィジカルギフテッド。呪力から脱却した身体は術式を持たず、呪力を帯びずして呪霊を五感で捉え、さらにはその卓越した運動能力、および戦闘能力は一級術師すら屠れる」
「五条家の坊みたいなのは面倒だけどな」
「あの子将来有望なんだけど」
「だったんだけど、だろ。もう死んだ」
「そうかな? 生きてるかもよ」
「いいやないね。脳天は貫いた」
あ、原作通り首とかチョンパしてるわけではないのね。なら十中八九生きてるだろう。五/条にでもならない限り生きてるからね……なんで生きてんだ?
「はぁ〜、ね、今からでも高専付きにならない?」
「ねぇな。居心地が悪そうだ」
「ハッハー、君にとってはそうだろうね……でも、結構いいんじゃない? 禪院家に復讐できるよ」
「興味ねぇよ」
「奥さんに随分牙を抜かれたみたいだねぇ……狂犬だって聞いてたんだけど? 禪院甚爾」
「……禪院じゃねぇって言ってんだろ」
パパ黒はそう言うと体に纏わせた呪霊からずるずると鎖を取り出した。うーん、
「俺もお前のこと聞いてるよ」
「え? 師匠から?」
「俺と合わせたら世界から呪いを断ち切れる可能性のある逸材。ここ1000年産まれてこなかった術師の天敵……」
その獣の瞳がウチを見据える。狩る側の目ぇしてら。
「腐ったみかんの懐刀、準特級術師の九条詩刀子」
「んぁ〜、まぁ、いいけどその呼び方ムズムズするねぇ」
「楽しいお喋りはもう終わりだ。通してもらうぜ?」
「通さないって言ってんでしょーが」
右手で印を結ぶ。そりゃお腹に印を出したり口の中に無数の手を出して印を結んだりはできないけどね? でも片手で印を結べるのって五条先生とウチだけなんだぜ? すごいだろうが。
「領域展開『
ぐわん! と練り上げられた呪力が世界を覆い尽くす。巡り巡って、拡散された呪力の波は、ウチとパパ黒を飲み込んで、世界を構築する。
それは宮殿。王の御前に差し出されたのはウチとパパ黒。空位の王座、鎧だけの近衛兵。世界はくるりと翻る。
古代は中華。中世はヨーロッパ。そして現時点はここにおいて。ウチらはいつだって弱肉強食の世界で生きてきた。王の権力の前には無力という圧倒的な不条理において、武装すら許されない。
「……片手で手印できんのかよ」
「いいでしょ? さ、それじゃあま、やろっか」
「うるせーよ、痩せ我慢」
グンッッ! と躍動感あふれる上腕二頭筋が腕を振るった。万里ノ鎖はウチに向かって伸びてくる。……だけどウチに全く届かない。
「あ?」
「
「…………」
「ウチの領域内ではどんな術式も効果を失う。そっちの呪霊の口の中に鎖の先端を隠すなんて狡い真似するね。でも今となっちゃそれもガラクタさ」
「あぁ、術式の開示ね」
「さて、ナマクラもガラクタだけだよ。降参しちゃう? それとも……ウチとやり合っちゃう?」
次の瞬間、パパ黒の足元が爆破したのかと言うほどの勢いで彼がすっ飛んできた。呪霊の口から刀を取り出してそれを強く握るのが見える。そして流れるように刀を両手で振り下ろした。ウチはそれを避ける。
「ナマクラでもお前のことは斬れるだろ」
「正解!」
術式を掻き消すことができるだけで武器としての特性を消すことはできません。
これは日車の術式で「ジャッジマン」が宿儺の呪具の術式を打ち消したのと同じ理屈だ。そもそもウチが呪具の術式効果を打ち消せるのもここで気づいたことだしね。術式の対象は術師も呪具も変わらない。対象になったものから術式を剥奪する。
だから、武器としての役割は果たせるってことね。この術式じゃ、呪具の武器としての役割までは奪えない。
グンッ! と腕が振られて切先がウチの目の前を素通りする。そしてウチが避けるともう片方の腕が鳩尾を目掛けて飛んできていた。それを右掌で弾いてさらに流れるように後ろ回し蹴りを打ち込む。だけどこの程度の蹴りが刺さる相手じゃないわけで、それをくるりと身を翻すことで避けたパパ黒はそのまま回る体の回転力を利用して刀を——。
「危なッ!」
「チッ、なんで避けれんだよ」
振り払われた刀を避けてバックステップで逃げるが、パパ黒が見逃してくれる訳がない。追い込むように一歩、二歩と踏み込んで腕を振るう。その鋭さたるや、当たってしまえば腕の一本や二本どころか体ごと斬り裂かれてしまいそうだ。脳筋がよッ! 振り回してるだけで一挙手一投足一殺じゃん。勘弁してくれ。
ウチとパパ黒の戦闘力の差は見ての通りだ。なんせウチの術式は対象が術師、つまるところフィジキフには効かないんだよ。
「お前の領域も縛りには効果がないみたいだな!」
「天与呪縛ってやっぱりダメだなぁ、相性が悪すぎる」
「ハッ! それはご愁傷様なことだ!」
いつまでも避け続けたいところではあるけど、そうもいかない。袈裟斬りを避けて、横一文字を避けて、出来る限り立ち回るけれどウチにパパ黒への有効打はない。ジリ貧の戦闘は続けば続くほど壁際にまで追い込まれていく。
「あばよ」
「言ってなよ」
パパ黒は勝ちを確信した笑みを浮かべた。そうして取り出した刀を振り上げる。そうしてそれに合わせて十文字の傷がつくよう真一文字に左手の刀を振るった。凶刃はウチの体を掻っ捌き、臓物が内側から溢れてくるのを感じる。そして念押しと言わんばかりに最後に袈裟斬りを叩きつけるようにして斬りつけた。太い血管を傷つけたのか血が吹き出して弾ける、地面に雨でも降り注いだかのように血の跡が飛び散り、ウチは前のめりに倒れる。目線の先にウチの斬り飛ばされた左腕が見えた。
「ま、ほぼ生身の上、片腕で俺とやり合ったんだ。誇っていいぜ」
「……冗……談だろ、本気じゃなかった癖に……」
「お前を殺して九十九由基の恨みを買うのは怠いからな、この程度にしておいてやる」
「普通に、死ぬだろ馬鹿か……」
「ハッ、死なねぇだろ。頑丈なんだから」
領域が解けていくのがわかる。身体から力が抜けていく。血と一緒に力と、生気が失せていく。
「じゃあな」
「お゛い……伏黒甚爾……」
「……まだ気があんのかよ。ガチでなんなんだお前」
ウチは遠のいていく意識を押さえつけながら、口を開いた。コヒュー、コヒューと、弱々しい呼吸が漏れる。
「その生き方は……向いてないと、ウチ、思うな」
「……………………お前に何がわかる」
「わからない……けど……」
パパ黒が恵ママのあまりの母性と、あまりの優しさと、あまりの善人性に全て捧げてしまって、彼女が死んでから自分の息子も、他人も、自分も尊ばない生き方を選んだのは知ってる。誰もそのキャラクターを知らなくても、誰も彼女のことを知らなくても知ってる。知ってるよ。
貴方が自分の息子に「恵」って名前をつけたってことを。どれほどの価値があるのかってことを。
「その先は、地獄だ…………」
「…………」
「ウチは…………」
もう声も出ない。ウチは、ただみんなに生きてほしい。みんなのカップリングを見せて欲しい。だから……これ以上奪わないであげて欲しいんだ。だって。
『もう友達だ』
『うむ! またじゃ!』
あの輝きを、ウチらは、
右腕を伸ばす。パパ黒には届かない。数メートル。たったそれだけの距離が、遠い。歩けば二、三歩のその距離が遠くて遠くて……。
「と……ぉ、ぃ……」
力なく腕が項垂れていく。ウチの意識はそこで途絶えた。
最近たくさんのありがたい評価をいただき感謝の限りです。
⭐︎10とか⭐︎9ってめっちゃおもろいやつにつけるやつですよね? マジで? ハッピーなんだが。感想もお気に入りも全部全部嬉しいです。じわじわ評価も伸びてまして爆発! って感じじゃないですけど、皆さんに応援されて書けております。ありがとう。
アンケートの結果としても原作の方に進む形になりそうですので今まで考えていたエンドから少し伸ばして、原作介入の方に進めていこうと思います。
しみじみと感謝の念を書き示しつつ、毎日読んでいただいている皆様にお礼をしてまた明日とさせていただきます。また明日です!!
懐玉・玉折以降の原作展開に突入するべき?
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懐玉・玉折以降の原作展開へ突入する。
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綺麗に終わるなら懐玉・玉折で終わり。