準特級術師はカプ厨につき!   作:波間こうど

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 伝家の宝刀も抜かねばナマクラ。軽率に抜いていくのが大事。


第十七話 そこは曇天につき

 

 黒井さんと九条先輩から離れてトンネルを歩く。その間に会話はない。流石にここまで来ると理子ちゃんも緊張した面持ちで生唾を飲む音が聞こえてくる。

 

 ……こういうとき、あの能天気でマイペースでパッパラパーな先輩が頭に浮かぶ。先輩はいつも騒がしかったけれど、その分、悩んでる私たちの背中をいつだって押してくれたし、落ち込んでいる時は手を引いてくれた。笑っては一人でいる私たちを誰かと引き合わせてくれた。そんな器用なことは。私にはできない。

 

 トンネルを抜けると大樹を基盤とした町に辿り着いた。後輩してしまって苔が生えたり木が伸びたりしているが人が住んでいたことを思わせる町。

 

「ここが……」

「あぁ、天元様の膝下、国内主要結界の基底」

 

 私も初めて来る。だが、夜蛾先生の話で、九条先輩の噂で、その場所の名前は知っていた。

 

薨星宮本殿(こうせいぐうほんてん)だ」

 

 天元様のお膝元。呪術界の結界の基盤。ここがあるおかげで“帷”が一般人に対して絶大な効果を発揮する、まさに結界の基だ。

 

「階段を降りたら門を潜って、あの大樹の根元まで行くんだ。そこは高専を囲う結界とは別の特別な結界の内側。招かれた者しか入ることはできない」

「……」

「同化までは天元様が守ってくれる」

「……」

 

 用意してきた言葉は思ったよりもスラスラと出てくれて、それは理子ちゃんの耳に届いたらしかった。だけど、返事はない。返事なんて口にできるわけがない。

 

 それでも構わない。聞こえていたらそれでいい。私はさらに追い討ちをかけるように口を開いた。

 

「それか引き返して、黒井さんと一緒に家に帰ろう」

「……え?」

「……担任からこの任務について聞かされた時、あの人は“同化”を“抹消”と言った。あれはそれだけ罪の意識を持てということだ。うちの担任は脳筋のくせによく回りくどいことをする……そういう脳筋が二人もいてね」

 

 一級術師であり、次期学長になることが確定している術師、夜蛾正道。先輩に「特級の資格がありそうなものなのにその実力を誇示してないのはなんでなんだろうね」なんて言われる男も、タイマン最強の術式「天逆処調(あまのさかとこのしらべ)」持ちの準特級術師九条詩刀子(しとね)も。二人とも理子ちゃんを天元様のところに連れて行くことを“是”とした。

 

 だけどそれは理子ちゃんを虐げるためではない。彼らは彼らで、理子ちゃんのことを慮っていた。

 

「先輩は君が同化を拒んだら彼自身が敵になるって宣言した。自分が、術師特攻の、一番最強に近い彼がね」

「それは……」

「だけど、その覚悟があるなら好きにしなよとも言った。彼は厳しいんだけど、私たちにはすごく甘いんだよ」

 

 先輩は『君たちが理子ちゃんを逃がそうとするならウチが目の前に立ち塞がる……分かってたことでしょ?』と言っていた。それは当然だ。私たちの行動は術師としては謀反と捉えられてもおかしくない。だけど、先輩は最後に、笑って……。

 

『いや〜、可愛い後輩を持つと先輩は大変だなぁ!!』

 

 あの笑顔の先輩が、私たちを甘やかさないわけがないのだから。

 

「悟とも話がついている。九条先輩もきっと了承してくれる。昨日まで一緒にいた術師たちも同様だよ。彼らはきっと理解してくれる」

 

 仲間を増やすために、何かあった時に私たちの側に人が居れるように、理子ちゃんの側に人を残せるように、味方を作るように、そのために“彼”はみんなを呼んだのだろう。全く、素直じゃない先輩だ。

 

 

「悟と私がいる。私たちは、最強なんだ」

 

 

 それはただの事実だ。変わらない事実。私と悟がいるなら、きっと、この子の未来も保証できる。そうだと胸を張って言えた。

 

「私は……生まれた時から星漿体(とくべつ)で……危ないことを避けて、この日のために生きてきた。みんなと離れ離れになっても、きっと時間が解決してくれるって思ってた……」

 

 溢す言葉はただの中学生が溢すのにはあまりにも優しくて、あまりにも切ない言葉。自分のことを蔑ろにしてでも世界を守ろうとした優しくて切ない少女の独白だ。

 

「でも……」

 

 だけど、そんな願いは、そんな想いは今日まで。

 

「理子様……!」

「黒井……?」

 

 トンネルを抜けて黒井さんが走ってきた。理子ちゃんに抱きつく瞳には涙が溢れていて、力強く抱きしめている様からはその愛情が伝わってくる。小さな声は「どこにも行かないでください」と確かに聞こえた。私に聞こえたんだ。理子ちゃんに聞こえてないわけがない。

 

「……夏油」

「なんだい」

「やっぱり私……」

 

 その瞳に涙が溢れる。想いは、溢れる。

 

「私……もっとみんなと一緒にいたい……!」

「そうか。なら、帰ろう」

 

 刹那、銃声が響いた。

 

「理子様……!」

 

 黒井さんが理子ちゃんを抱きしめて転がる。銃弾を肩に受けたのか血でメイド服が赤く染まっていた。その様子から見ても重傷なのは見てわかるが、幸い命に別状はないらしい。

 

「でもおーおー……感動の再会って感じ? どうすんだよ。あのガキのせいで折角の計画がパァじゃねぇか」

「…………どうしてお前がここにいる?」

「どうしてって……あぁ、そういうことね」

 

 そこに立っていたのは黒いインナーに白いパンツ姿の男だった。筋骨隆々といった姿に刈り込まれた短髪、体に呪霊を巻きつけた男の口元には傷がついている。

 

「五条悟も九条詩刀子も、俺が殺した」

「そうか、死ね」

 

 呪霊を一気に召喚して男を襲わせた。それが切り裂かれるのがどこか他人事に思える。

 

 戦闘はあっという間に終わった。

 

 

  × × ×

 

 

「知らない天井だ……」

「知ってるでしょ馬鹿」

 

 ウチは目を開けるなり様式美としてそう呟いた。ぶっちゃけどこにいるのかなんてわかってるどころか心当たりしかなかったわけなんだけど、でもまぁ、言っておくしかないじゃん。出来る限り声優に寄せて言いました。「ミサトさん!」とか叫んだ方が良かったかしら。

 

 嗅ぎ慣れた消毒液の匂いに、固いベッド。高専の救護室である。まぁ、負けた人間が寝転んでいるのには向いてる場所だよね。

 

「歌姫ちゃんじゃん。やっほ」

「…………」

「あれ、周り見たら結構みんないるね? ……ってか五条くん居るじゃん! 死んだんじゃなかったの!?」

「…………先輩のが重傷なんだけど」

「それはガチでなんでだよ」

 

 それはガチで意味わからんけど? なんで喉と脳天刺されたやつのが治り早いんだ。反転術式ってなんでもありか?

 

「理子ちゃんと黒井さんは?」

「…………無事です」

「嘘つき。本当は?」

「命に別状がないのは本当。肩に銃弾を受けた黒井さんを今理子ちゃんが看病してるわ」

「え、それだけですんだの」

 

 つまり生き残ったということか。なんという僥倖。つまりあれか? パパ黒から理子ちゃんと黒井さんを守り切った? マジ? なら大分偉業だと思うんだけど。

 

「伏黒甚爾強かったでしょ。よく守り通せたね」

「虹龍の口に入れて逃した。時間稼ぎに一級と特級の呪霊が狩られたけど……」

「先輩が時間を稼いでくれたおかげで俺が間に合った」

「はへぇ〜」

 

 ウチが乱入した弊害がこんなところで。というか高専結界の基盤みたいなところでそんなドンパチしてよかったのだろうか。ただでさえ夏油くんの術式だけでも危なそうなのに。虚式「茈」まで打ったってことでしょ? 天元様も家の近くで大事故起こったようなものでしょ、よく無事だったね。

 

「……ねぇ」

「ん? なに、歌姫ちゃん」

「なんでアンタそんな顔してるのよ」

「そんな顔?」

「なんでそんなにケロッとしてんのって聞いてんの」

 

 歌姫ちゃんは瞳に涙を溜めていた。周りに立っているみんなは泣いているよりも……怒ってる? といった方が適切な顔でウチのことを見ている。なんで?

 

「どしたのみんな」

「アンタねぇ、分かってないの?」

「何が?」

 

 体を腹筋の力だけで戻す。目の前にいる歌姫ちゃんは涙を流しても綺麗だ。

 

「腕、ないのよ……!?」

「あぁ、そのこと」

 

 ウチはだらんと垂れた病衣の左裾を無理やり動かすように二の腕を動かしてみた。そこについ数時間前……だか、数日前だか(どれくらい寝てたのかわからないので)にあったウチの左腕はなくて、空気だけが包帯を撫でている。

 

「あるはずのものがないって考えると変な感じだね?」

「…………」

「伏黒甚爾が使ってたの、あれ釈魂刀(しゃっこんとう)でしょ? 魂を知覚してたら魂ごと斬れるって特級呪具。魂への攻撃だから反転術式が効かないんだよね」

 

 悲しいかな。そもそもウチは反転術式が使えないので、硝子ちゃんの術式で治せないなら、もう治る見込みはないということだ。それこそ真人に腕生やして貰うとかが一番可能性としては有り得るのか? まぁ、そこまでのリスクを求める必要性もないんだけど。

 

「……なんで知ってるんですか」

「いや、ウチにとって一番怖いのって武器持ちじゃん? 素手での戦いがほとんどなんだからさ。だから呪具については詳しいよ? めちゃくちゃ勉強したからね」

「ねぇ」

「まぁ、理子ちゃんも黒井さんも無事だったならよかったじゃん。オールOK! まさしくウチらの大勝利! やったぁー! 九条さん大勝利〜!」

「詩刀子!!」

 

 歌姫ちゃんが涙を流しながらウチのことを呼んだ。そんな大声出さなくても聞こえてるけどな。

 

「どうし——」

「ッ!!」

「——ッブ!?」

 

 彼女の方に視線を向けると思いっきり左頬をビンタされてしまった。左腕がないのでガードというわけにも行かず頬にモロ喰らってしまう。視界が歪むほどの衝撃が頭を貫いた。

 

「アンタのそういうところ嫌い……! 大ッ嫌い……!」

「…………」

 

 歌姫ちゃんが椅子を倒して立ち上がる。そのままみんなの静止も関わらず外へと飛び出した。

 

「…………えぇ?」

「詩刀子先輩、歌姫先輩のこと泣かしちゃいましたね〜」

「……え? なんで?」

「なんでも何もねぇだろバーカ!」

「歌姫先輩可哀想……」

「あ、五条くん慰めてきてよ」

「うっっっっっっっっっっっわ」

「え? なんなのみんな」

「詩刀子。頭を出せ」

「ヤガセンに賛成なんだけど俺も殴っていい?」

「奇遇だね。私もいいかな?」

「歌姫先輩泣かせた分私も殴っとくわ」

「私は先輩方ほど力が強くないので……ナタを持ってきていいですか?」

「はい! 術式って使っていいですか!!」

「よし灰原、思いっきり使おう」

「わかりました!!」

「え? ウチ今から死ぬの?」

 

 なんでみんなそんな怒ってんの? 意味がわかんないんだけど。ウチ怪我に対して適性があるんだからそんなに気にしなくていいのに、というか、そこまでウチの怪我程度で怒る? え、本当に呪力纏ってない? ちょ、病人だよ? あ、違った。怪我人だぞ、分かってるのか、待て、ほんとに、ちょっと!

 

「話せばわかる!!」

 

 高専に響き渡るような轟音が鳴ったのは、それから数秒後のことだった。

 

 

 





 評価に喜び一喜一憂。波間です。お気に入りも感想も評価も嬉しい。⭐︎10とか⭐︎9とかたくさん貰えてhappyなんだ。ありがとうございます!!

 伝家の宝刀は抜いてなんぼだという思うので抜きました。僕は曇らせの民……人は曇れば曇るほど美しい……いや、純愛大好き人間なんですけどね。

 パパ黒に負けて左腕を失った詩刀子! 左腕を犠牲にして理子ちゃんと黒井さんを守りきれたじゃない!! これで正解なのよ!! これで貴方はカップリングを守り切ったの!! 胸を張っていいわ!!

 もうこれで夏油くんの離反はないんだから!!

 ……ということで、この物語はこの調子で進んでいきます。原作から逸脱した物語が、これから巻き起こす最高の青春をお楽しみください!!

懐玉・玉折以降の原作展開に突入するべき?

  • 懐玉・玉折以降の原作展開へ突入する。
  • 綺麗に終わるなら懐玉・玉折で終わり。
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