最近の悩みは毎日連載してると本を読む時間がとれないことです。
救護室から蹴り出されるようにして、ウチは外へ飛び出していた。ガチでブチギレたんじゃないかってほどみんなから怒鳴られて病衣のまま廊下に放り出されたかと思うとそのままドアを閉められたのだ。あり得る? ウチ片腕なくなった上に体三通りくらいで斬られた怪我人だよ?
「……歌姫ちゃん探せってことだよね、流石に」
そんなこと言われても、なんで怒ってるのかわからないんだからそんな奴に謝罪されてもウザいだけじゃない? とも思いつつ、今のウチに居場所はないので大人しく廊下をのそのそと歩いた。
髪の毛は刀に斬られたところを含めて切り揃えられていて、少し短くなっていた。夏で冷房が効かない校舎とは思えないほど廊下は冷えていて半袖だと寒い。ウチの足が長いせいで病衣の下も八分とか七分丈のようになってしまって、下からも空気が入り込んでいた。寒い。
しかも裸足である。酷くない? 靴くらい履かせてよ。
「え〜、どこだろ」
四年間、一緒にいた校舎だ。それなりに思い出の場所はある。ここ一年は特に濃かったから覚えている場所も多いし、その前の三年間が濃くなかったわけじゃないからそれなりに候補の場所はある。
「……足で探すしかないか」
ウチは諦めてトボトボと廊下を歩いた。その度にギシギシと床が鳴る。聞き慣れた音だ。
「歌姫ちゃーん。どこー?」
ドアを開けたり、閉めたり、階段を降りたり、登ったり、廊下に出たり、戻ったり、ラジバンダリ。ちなみにラジバンダリは意味がない言葉らしい。どうでもいい? そう……。
「歌姫ちゃーん。ねぇー、どこ〜?」
食堂を抜けて、体育館を覗き、プールを眺めて外に出た。ペタペタと歩いてグラウンドの方に目をやってから、粗方行き尽くしたので途方に暮れる。えぇ、どこだよ。
「……………………あ〜」
そこでウチは初めて一つの場所を思い浮かべた。
ウチと歌姫ちゃんが初めて出会って、それから喧嘩した場所。それと、仲直りの場所で、始まりの場所。
「……よし」
そうと分かれば善は急げ。ウチはその足で出来るだけ早く駆け出した。グラウンドの反対側、校舎の裏。そこは一見すると森で、というか、まぁ、まだ森で。でもカラッとした暑さと爽やかな風の吹き抜ける春の残した避暑地のような場所。
つい先日はここでナナミンと灰原くんの歓迎会をしたっけ。懐かしいなぁと思いつつもそれがまだ三ヶ月前だってことに驚きを隠せない。割とナナミンたちとも仲良くなった気がするんだけどな。二人の濃厚で濃密でディープな絡みも見れてるしね……ふふ、親友……。
「歌姫ちゃん」
「…………」
声は聞こえない。でも、多分桜の樹の下にいると思う。
「懐かしいねぇ、初めて喧嘩したときも歌姫ちゃんとここに来たね」
「…………」
「あの時もビンタされたなぁ……覚えてる?」
「…………」
「え、もしかしてウチ独り言してることになってる? いるでしょ、歌姫ちゃん」
ここ以外にいないから消去法なんだけど。そんなことは口に出さないで地面を踏みしめた。樹の裏側へ。そこにはちゃんと歌姫ちゃんがいて。
その目からは玉のような涙がポロポロ、ポロポロと滝のように溢れていた。
「え」
そんなに泣いてるとは露知らず……とんだご無礼を……。つかなんでそんなに泣いてるの?
「…………何しに来たのよ」
「なにしにって……」
「どうせ、硝子とか、七海……とか、みんなに言われて、理由も、わかってないのに追いかけて、来たんでしょ」
「…………あはは」
「何気まずそうな顔してんのよ……分かる、わよ、そのくらい」
バレテーラ。ウチは出来るだけ気まずさを緩和させられるように、気持ちばかりの笑みを浮かべた。こんなのがなんの役に立つのかわからないけど。
「あんたに、分かるわけない……私が泣いてる理由も、どうせ」
「確かに分かんないけど」
「ほらね」
「うん。分からんない。その上、みんなにウチが追い出されて追いかけてこいって言われた理由も分かんない」
「ほら、やっぱりそうなんじゃない」
「さらにさらに、ウチは謝るけど何が悪いかも分かってないよ」
「は?」
「ごめんて」
「舐めてんの?」
泣きながら、しゃくりあげるようにして歌姫ちゃんがなんとか想いを言葉にする。喉の奥に引っかかって形をなさなかったそれが、段々と形を成して、ウチの耳に届く……けど、その言葉の意味はあまり判然としない。
ウチは正直、彼女が泣いている理由も、みんなに怒られている理由もわからない。
「ただ、泣かないで欲しいなって思って、来たんだ」
「…………」
「泣かないで?」
涙を拭うように、目尻に右手の親指をやる。あぁ、こんなときに左手があればいいのに。でも、仕方ない。黒井さんを守れたんだからウチの左腕一本の価値はあったと言うものだろう。どうせ、女の子の涙ひとつ止められやしないのだ。
「あんたの……」
「うん?」
「あんたの、そういうところが……」
ほとんど睨まれている……んだろうけど、目尻が下がっていてほとんど子犬にしか見えない歌姫ちゃんを上から見下ろす。身長差大分あるからね。
「……嫌いよ」
「えぇ……」
「嫌い。嫌い、嫌い!」
「そんなに言われたら傷つくんだけど?」
「飄々としてる癖に情に厚いところが嫌い!」
「クールって言ってよ」
「なんも考えてない癖に人のことよく見てるのが嫌い!」
「そんなに見てないけど……見てないけど?」
「自分の実力をなんも理解してないのも嫌い!」
「ウチ割と身の丈を知ってると思うけど……」
「自分がみんなからどう思われてるのか理解してないところも嫌い!」
「…………」
「自分の身体も、痛みも、無視するところが嫌い!!」
歌姫ちゃんはそこまで叫んでから拳を握ってウチの胸に叩きつけた。……それは大した威力じゃなくて、暖簾に腕押しだってもっと強い力で叩くし、糠に釘すら刺さらない……そんな弱々しい、弱々しい力で。
「…………」
「…………なんも分かってない、自分のこと」
「…………ごめんね」
「……ここまで言われて、何も分からないあんたが嫌いよ」
拳は解かれて病衣の襟首を握られてしまった。そのまま無理矢理引っ張られてウチの胸に頭を押し付けると、そのまま啜り泣いてしまう。ウチはもう抱きしめるわけにもいかず、乙女の体に触るわけにもいかず、『カリオストロの城』のルパンのように両腕を広げるしかなかった。あ、片腕ないんだけどね?
でも仕方ないよね。なんで泣いてるのか本当に分からないんだから。
「…………歌姫ちゃん」
「………………」
「歌姫ちゃん?」
「…………………………」
「頑固だなぁ……歌姫ちゃん」
「…………なによ」
顔を上げた彼女の顔はぐちゃぐちゃで、メイクは崩れるわ目は赤いわで、同性(魂)から見て折角のお顔が台無しよ案件なのだけど、そんなことを言うタイミングじゃないことくらいは流石に分かるので、ウチはそのまま歌姫ちゃんの頭を撫でた。
「ごめんね、そこまで泣いて、ウチに言ってくれても、ウチには分からないや」
「…………そうよね、そういう奴だもんね」
「ごめん……でもね、歌姫ちゃんが泣いてるのは嫌だから」
しかもウチのせいで泣くのが最悪。それなら五条先生に泣かせてほしい。歌姫ちゃんとの喧嘩ップルな二人がさ、いつもの流れで喧嘩してて五条先生が言いすぎちゃって歌姫ちゃんが泣いちゃうとかどう? え? そんなの無限に味するよね? 神回確定。神回不可避なんだけど?
「だから、よく分かんないけど、でも、善処するから。泣かないように、頑張るから」
「…………わかってないのに、何を頑張るのよ」
「だから、日頃の行いとか……」
「日頃の行いもカスだけど」
「カス?」
なんか暴言吐かれた気がするけど……まぁ、いいや。一旦無視してそのまま次に進む。
「……とにかく、歌姫ちゃんを泣かさないようにするから」
「そういうところが、クズなのよ」
「クズ?」
ごめん、聞き逃せないや。ちゃんと罵倒されてて草。なんでなん? なんで怒ってるのかは分かんないけど誠心誠意謝ってるのに。
うーん、これはクズですね。迷うことなくクズでいいでしょう。自己申告します。
「…………じゃあ、もう、危ないことしないで」
「えっ」
「……なによ」
「そんなの術師するなら無理じゃない?」
「そうね」
「え? 術師やめろって言ってるの?」
「そうよ?」
「嘘でしょ?」
「本気」
「
「
マジでか。……え? 何? なんで術師辞めさせようとしてるの? 意味がわからん……なんで? 本気でなんで? 首を傾げるしかない。本気でなんでなのか分からなさすぎる。
「というか普通に考えて片腕で術師やるつもり?」
「そりゃ、ウチの本領は対人戦だし……」
「それで負けたんじゃないの」
「あんなバケモンノーカンでしょ。相手が悪すぎ」
天与呪縛のフィジカルギフテッドだぞ。脳筋の権化じゃん。ウチの術式の対象外だし……どう戦ったって負けてた。時間稼ぎが目的であの場に残ったわけだしね。それが功を奏して理子ちゃんも黒井さんも生き残ったわけなんだから最高の結果だ。ウチの腕一本で済んだなら代金としては格安、ハンマープライス。
「それに片腕で五条や夏油には勝てないでしょ。引退よ」
「いや、勝て……それこそ義肢つけるとか」
「ほら、自信ないんじゃない。あんなゴリラどもの蹴りとか拳を捌ける義肢なんてないわよ」
「ぐぅ」
でも、辞めるわけにはいかないんだよなぁ……だって辞めたら高専にいれないじゃん? そしたらカップリング見れないじゃん? なんのために術師してきたと思ってんのさ。
「わ、分かんないでしょ」
「それともなに、私との約束守れないわけ?」
「…………なんと言われても術師は続けるよ。ウチに助けられる人が一人でもいるなら」
それはただの建前でしかないけど。なんなら嘘に近いけど。
「それが術師を目指した理由だから」
君たちの側に居られるならウチはなんだってするよ。
「…………そっか」
「うん」
ウチは、歌姫ちゃんに初めて冗談やジョークじゃなくて、心の底から嘘をついた。汚くて、下劣で、最低なクズの心の底からの保身。ただそれだけの嘘。
歌姫ちゃんの啜り泣く声だけが響く。ウチはしばらくの間ぼんやりと木の枝を眺めていることしかできなかった。
毎日更新って楽しいですね。新しい発見がいくつかあって凄く充実してます。こんな快感味合わなきゃ損だと思うので皆さんもしてみませんか? なに、毎日5000字くらい書くだけですよ、すぐに良くなる。
僕曇らせ? とかよく分からないんですけど需要あるんですね。僕は純愛とか友情・努力・勝利! みたいなのが好きなんで相容れない存在だなぁ……そういう人もいるんだって思いつつ、これからも書き進めるとします。歌姫ちゃん! 涙の数だけ強くなれるよ!!
あ、今後ともよろしくお願いします!!
懐玉・玉折以降の原作展開に突入するべき?
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懐玉・玉折以降の原作展開へ突入する。
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綺麗に終わるなら懐玉・玉折で終わり。