準特級術師はカプ厨につき!   作:波間こうど

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 青春したいなぁ〜!


第十九話 日常につき

 

 歌姫ちゃんとの喧嘩(一方的に怒られたとも言う)から、大体二週間が過ぎた。ウチはすっかり回復……といっても体の切られた部分は粗方反転で治癒してもらったものの領域外で釈魂刀に切り飛ばされた左腕はどうしても戻らなかったので、結局隻腕のままで、全快とは言えない状態だった。

 

 これでもSASUKEくらいなら全クリできると思う。両手使うやつはこう、足とか使って……無理か。無理かも。

 

 いかんせん、ウチとしては個人的にはもう回復したので全然任務とかいけます。自分、やれます、やらせてください! といったくらいやる気が有り余っていて、そんな折に職員室に呼ばれたので意気込んで呪具とか準備してから職員室に向かったのだが。

 

「お前、術師クビだそうだぞ」

「嘘だろ」

 

 ウチのことを待ち構えていたのはそんなセリフだった。

 

 つい先日歌姫ちゃんに特大の嘘をついたのにも関わらず、ウチの術師人生はこの場で終わりを迎えそうになっていた。マジで? こんな簡単に終わることある? 逃げ場とかある? 抜け穴とか……ありませんか?(そこにないならないですね〜)

 

「い、いやいやいや、ヤガセン何かの冗談でしょ? ウチだよ? アイアム準特級術師! ヤガセンより強い! 術師相手のワイルドカード! 九条詩刀子さんだよ!?」

「冗談ではない。貴様は肉弾戦がメインの術師なのにも関わらず片腕を欠損したんだから前線から退くのは当然だろう。そもそも対呪詛師のスペシャリストだったんだ。貴重な術式をみすみす捨てるわけにもいかん」

「なんだよ“だった”って。ウチは今でも対術師のスペシャリストのつもりなんだけど」

 

 頬を膨れさせて抗議するものの、ヤガセンの対応は変わらない。なんなら額を手に乗せてガッツリ項垂れながらため息をつく始末だった。失礼な。

 

「…………上層部、だけの命令ではない。貴様と関わりのある多くの術師から前線から退くよう嘆願があったのだ。全員、貴様の命を案じている」

「……? それが術師辞めるのとどう繋がるの?」

「…………これは歌姫が癇癪を起こした理由もわかるな」

 

 深すぎて地面に沈み込むようなため息をこぼしてからもう伝えることは伝えたから出ていけとヤガセンはしっしっとウチのことを追い払った。次期学長だと数日前までは浮かれていたのにいつの間にかこんなにもやつれてしまって……離婚したときみたいだね?

 

 マジか。ウチまさかのお払い箱? 呪術的にはお祓い箱? いや、呪術的にはコトリバコかな。これは呪いの箱なので調べなくていいよ。

 

「ッス〜〜〜…………どうしよ」

 

 【悲報】九条詩刀子二十歳。職を失う。

 

 どうしたものだろうか、これからどうやって生きていこう。というか、どうやってみんなの側にいよう……。

 

 ウチの悩みは大きくなるばかりで、悩みのあまりうんうんと唸るしかなかった。

 

 

  × × ×

 

 

「理子ちゃん、黒井さん、元気?」

「妾たちは元気じゃが……なんで貴様はそんなに元気なんじゃ……その腕、切り飛ばされたんじゃろ」

「うん? ウチ痛みに強い体質みたいなんだよね」

 

 術師を辞めさせられるかもしれないって状況に陥って、うちが初めにしたことはみんなで団結して救った理子ちゃんと黒井さんに会いにいくことだった。他のみんなは任務に出てたっていうのもあるけど、本来なら高専側で保護するわけにもいかない星漿体を、ウチと五条先生が無理を言って通している状況なので、そろそろ転居するのだ。その前に顔を見ておきたいと思ってね。

 

「痛みに強い体質だからと言って……」

「理子様、ダメですよ」

「……うん」

 

 理子ちゃんにガミガミと怒られてしまうがそれを黒井さんが嗜めてくれる。いや、割と真面目にありがたいんだよね。結構怒られてて萎えてるからさ……マジで出会った人みんなに「自分のことを大切にしましょう」って小学生の道徳みたいなこと言われる身にもなってほしい。

 

 小学生の道徳は暗記科目でしょ、『こころのノート』を丸暗記するのが鉄則って2ちゃんに書いてあったよ。

 

「理子ちゃんたちは引っ越しの準備進んでるの?」

「無論じゃ、もう家も見つけたし、断捨離も終わらせたぞ!」

「学校から程近くて何不自由なく生活できる場所……私も職が見つかりましたので」

 

 今まで星漿体であったからと支給されていた給付金はなくなったので、これから二人で生きていくためには援助なしで生きていかなければならない。ウチと五条先生、あと夏油くん? が少しはお金を給付するようにはするけど、それも理子ちゃんと黒井さんには「そこまでは……」と固辞されているので黒井さんが働くのは確定事項だった。

 

「そっかぁ……寂しくなるねぇ」

「……高専は貴様がおる限り騒がしいじゃろ」

「連日連夜パーティみたいでしたもんね」

「暴れ回っておったしの」

「暴れるだけ暴れてあとで皆さんに怒られるまでがワンセットですからねぇ」

「なに? なんでそんな目で見るわけ?」

 

 彼女たちにじぬろ、といった目で見られて困惑してしまう。いや、貴女たちが生き残ったんだからそれに伴って見られるカップリング増えたんだし、それはウチが全力でお膳立てしてでも見ておきたいじゃんか。違う?

 

「でも、二人がちゃんと生きていけそうで良かったよ」

「当然じゃろう。子供じゃあるまいし」

「義務教育中のガキンチョが偉そうなこと言うもんじゃないよ」

「は〜? すぐに卒業じゃし! いい高校に入って、いい大学に行って、おーえるするんじゃ!」

「その口調で?」

「職場では普通に話すもん!」

 

 可愛いセリフを吐き散らしながら地団駄を踏む。

 

 いい高校に行って、いい大学に行って、OLになる。そんな未来予想図が可愛いってわけじゃなくて、彼女が未来を空想して、考えてなかった未来を導くような予想図を頭の中にでも描くことができているのが嬉しいんだよなぁ……キャラクターとしての成長を感じられてとてもいいと思いました。

 

「…………なんで無言で頭を撫でる」

「そこに頭があったから」

「なんじゃその理論」

「そこに山があったからみたいに言いますね……」

「そのセリフ言った人は登山中に死んじゃうような山登りジャンキーの方ですからね。ウチもそこに可愛い頭があったら撫でちゃう撫で頭ジャンキーなのかもしれませんね」

「キチガイみたいな性癖を披露するでないわ」

「理子様から離れていただけますか?」

「あれ? ウチもしかして結構嫌われてる?」

 

 シクシクと片手で目元を押さえて泣くふりをしてみる。片腕ないから両手で顔を覆えないので、片手で目元だけを抑えるようにしてシクシクしてみるが、二人はヒソヒソと顔を近づけてウチのことを軽蔑した目で見てくるだけだ。なんでここまで嫌われてるんだ?

 

「ま、二人が元気でよかった。それでこそウチらが頑張った甲斐があるってもんだよ」

「……そうじゃな」

 

 ……この頃、理子ちゃんはどこか大人びた目をすることが多くなった。遠くを見つめるような瞳。

 

 五条先生が初めて恵きゅんに出会った時に「僕においていかれないように強くなってよ」って、言った時のような、そんな遠くて、寂しい瞳を。

 

「みんなが頑張ってくれた分まで、生きないとね」

 

 こうして、人は大人になっていく。

 

 青春を歩んで、少しずつ。少しずつ。

 

 子どもから大人に——。

 

 そうして、大人になっていくことを成長だと呼ぶのなら。理子ちゃんが大人になることができるって、この世界は、この特異点は、きっと子どもに優しくて幸せなものなのだろうと、ウチは無くなった左腕を撫でながらそんなことを考えた。

 

 

  × × ×

 

 

 明日は、理子ちゃんと黒井さんが引っ越す日だ。

 

 となると、その前に盛大にお見送りしたいと考えるのは人の性というものだろう。ウチはウキウキとしながらこの日に向けてしっかりと準備をしてきていた。食堂のおばちゃんにケーキや特別な料理を頼んだし、足りないものはコンビニなんかに買いに行ったりして、みんなで楽しむための準備を毛ほども惜しまなかった。

 

「そのはずなのにこれだよ」

「アンタ聞いてんの? 人の話」

「いや、うん……聞いてはいるけど」

 

 ウチは今寮の食堂の床に正座させられていた。理由はわからない。いや、わからないことはないんだけど、わからないということにしておいた方が座りがいい気がする。

 

「へい、ナナミン」

「なんですか、巻き込まないでください」

「なんでウチは怒られてるのん?」

「先輩が黙って外に出たからです!」

「ウチ灰原くんには聞いてないけど……」

「すいません! でも僕もうご飯食べたくて!」

「正座させられてる先輩への言葉はそれで間違ってないかい?」

 

 もし間違ってないなら飛んだ失礼野郎だけど?

 

 ウチはため息をつきながら今ウチのことを正座させている元凶である歌姫ちゃんへと視線を向けた。歌姫ちゃんら腕を組んでウチのことを睨むようにしながら足でリズムを取っている……貧乏ゆすりともいう。超絶圧かけてきてて草。

 

「…………高専の外に出る時はどうするって言ってたっけ?」

「一級以上の術師の帯同、もしくは庵歌姫準一級術師の帯同が義務」

「で、アンタ今回誰連れて行ったわけ?」

「天内理子一級術師」

「妾一級なのか?」

「お前が一級なわけねぇだろ」

「理子ちゃんも黒井さんも術式持ちじゃないからね。呪力が使いこなせるようになっても3級ってところじゃないかい?」

「英検みたいですね……」

 

 確かに乙骨くんが初めに「3級……? 英検?」みたいに言ってるシーンあるけども。英検ってそんなに汎用性高いものなの? ちなみにウチは英検4級に落ちた女なので、英語はわかりません。日本語も怪しいのになんで英語がわかると思ったんだよ。

 

「それで、申開きは?」

「そもそもウチ準特級だよ? ウチがいるんだから大丈夫だって。一応呪具も携帯して行ったし」

「あのねぇ……片腕になってるんだから心配だって言ってんのよ、みんな」

「でも誰も今日高専にいなかったじゃん。ヤガセン連れてコンビニなんか行ったらコンビニ店員さん泣いちゃうって」

「夜蛾先生のことなんだと思ってるんですか」

 

 普通にヤのつく人だと思ってます(激ウマギャグ)

 

「ほら、こんなのやめて理子ちゃんと黒井さんとの惜別の場を楽しもうよ。ウチ理子ちゃんと黒井さんとハグしないといけないんだ」

「片手で?」

「なんてこと言うんだ」

 

 五条先生って本当とうにデリカシーないよね。片手だってちゃんと抱きしめられるから! ワンピースの白髭も片手で抱きしめてたろーが! 「馬鹿な息子を、それでも愛そう……」って!!

 

「……みんな心配してるのよ?」

「心配なんてする必要ないって、だってウチ強いもん」

「根拠ないですね」

「詩刀子先輩って馬鹿だからぁ」

「詩刀子が阿呆なのは妾でもわかるぞ」

「なんなんだよってたかって」

 

 泣くぞ。

 

「まぁまぁ、九条様のことは私たちが見ていましたから」

「…………ごめんなさい、少し大事にしちゃって」

「いえいえ、この人が駄目な人なことはわかってますから」

「理子ちゃん理子ちゃん」

「なんじゃ?」

「さっきから黒井さんに刺されてる気がするのはなんで?」

「貴様が悪い」

 

 ウチに味方はいないのか。

 

 人の感情がわからないままのウチはうーんと首を傾げてから歌姫ちゃんの許可を取らずに立ち上がった。そのままみんなの方を見てご飯食べよーと合図をする。折角の祝いの場でこんなことばっかりしてても勿体無いしね。

 

「ご飯食べよー」

「ちょっと……! 話はまだ……!」

「歌姫ちゃんってば駄目だよ。折角のご飯が冷めちゃう」

「……」

「それに、食べ盛りの男の子の前にご馳走用意して食べさせないのも流石に酷いしね。ほら見て、灰原くん待てされた犬みたいになってるよ」

「ワン!」

「なんで自分から犬に寄せるんだ……」

「フフッ……灰原は可愛いね」

 

 え!? 予想外のタイミングで夏灰を回収できましたか!?!?!?!? やった!! ウチとしては最高に嬉しい誤算だよ!! こんなに可愛いところ見せてくれちゃってさぁ〜!! 君たちの絡みは少なくて空港で「夏油さんに良いところを見せたいからね!」ってのと、師匠が絡んだところの2パターンだけなんだから、日常の中で見れる絡みだけだってすごい価値があるんだよ!? わかってるのかな!?

 

「よし、灰原くん! 食べて良いぞ!」

「はい! いただきます!!」

「ナナミンたちも食べて良いよ。カスクートなくてごめんね」

「……なんでカスクート?」

 

 あ、これってあれか、社会人になってからなのか……そう考えたらあれだね、うん。今のはなしってことで。

 

「怒らないでよ歌姫ちゃん!」

 

 勿体無いよ、怒ったり泣いたり、それが誰かのためならのものなら素晴らしいカップリングだけれども、そうじゃないんだったら、ウチに向けたものなら勿体無いよ。ウチは壁になりたいんだ。

 

 ウチに感情を向けないで。

 

「楽しもうよ! この一瞬一瞬をさ!」

 

 君たちはこの一瞬一瞬の青を、青春を楽しんでくれなくちゃいけないんだ。だって、それがウチにとっては一番大切なことだから。ウチはそのために生きてるからね。

 

 





 物語って難しいですよね。書いててすごくそう思います。

 皆さんの感想全部返してます! お気に入りも評価もありがたく受け取っています!! 受け取らないって選択ができないってこともありますが!! でもどんな評価や感想も並べて等しく嬉しいです。ありがとうございます!!

 これからもこの物語を楽しんでくださいね!!

懐玉・玉折以降の原作展開に突入するべき?

  • 懐玉・玉折以降の原作展開へ突入する。
  • 綺麗に終わるなら懐玉・玉折で終わり。
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