暑すぎてヤバい。なんかじわじわ暑くてだるいです。今年の夏はなるべく外に出ないでいたい。無理なんですけど。
夏油くんの初任務のあと、ウチは頭を抱えながらも自分の行動を振り返っていた。
ま、ま、まぁ? まぁまぁまぁまぁまぁ? ちょっとミスはあったけど良かったんじゃないだろうか? うん。先輩ムーブしながら、夏油くんの頼れる先輩ポジを確保し、さらには任務も達成! 闇堕ちを防ぐための伏線も張れた、上々な任務だったんじゃなかろうか。
そう、夏油傑といえば闇堕ちを想像する人も多いだろう。
ウチだってそうだ。夏油傑は闇堕ちして、呪術高専と敵対する特級呪詛師……むしろ、そっちの方が前に押し出された存在であったはずで、五条先生との青い青春はあとから本誌で加筆されたもの。本来なら乙骨くんの敵としてのイメージの方が先行してて然るべきだ。
そんな彼が闇堕ちしたのは弱者と強者の差。人と、人ならざるものの差。つまるところ、彼は境界線に悩み、あまりにも優しすぎたからその闇に呑まれた哀れな少年なのだ。闇堕ちの理由が優しすぎるからってのも菜々子美奈子辺りで描写されたしね。
ところで、ウチとしては離反はまず味だ。
いや、色々悩むところはあるんだ。悩むところはあるんだけどね? でも、推しがさぁ〜、イチャついてるの見れないのってさぁ〜、オタクとして困るからさぁ〜……もっともっと五条悟と青春してくれ……お前たちの光に漏れがなるから……漏れにお前たちの青春を見せてくれ……(血涙)
その後のメロンパンとかぁ〜、虎杖とかぁ〜、死滅回游とかさぁ〜、宿儺とか色々今後とも見たいキャラクターは居るんだよ? カプ厨としては五悠とかね? 悠恵とかさぁ、脹虎とかね? 居るけどさぁ〜、居るけど違うじゃん? 居るからって、五夏を幸せにしたくないオタクはオタクじゃないじゃない? だから幸せにしたいんだよ〜! 夏油傑はウチが幸せにするんだよ〜……あ、違う。ウチのことはどうでもいいから幸せになって……。
『聞いているのか! 九条準特級術師!』
「んぁ?」
いけないいけない。思考の海でバタフライしてたンゴ。ちょっと聞いてなかったや。えーっと……ヤガセンのシュークリーム食べた件だっけ? 違うか。
「ごめん。聞いてなかったからもっかい話してくれない? ウチちょっとボケて来てて……いやぁ、ボケって怖いですよね。おじいちゃん?」
『貴様……! よくもまぁ抜け抜けと……!』
呪術高専東京校。その上には呪術界の重鎮たち……腐ったみかんたちが鎮座する場所がある。うーん、少年漫画の上の機関って役立たずなことが多いよね。ここしかり、BLEACHの中央四十六室しかり、エヴァのゼーレ……は少年漫画じゃないか。それにアレはマダオと冬月先生が有能過ぎただけだっけ?
おじいちゃんたちはこんなジメジメしたところで集まってないで縁側とかで日向ぼっことかしてた方がいいと思うの。セラトニン? とか出て、ヘモグロビン? とかあっていいと思う。
『夏油傑二級術師が四級や三級といった呪霊を大量に保有するようになった理由は知っているか?』
「知りませーん」
『では五条悟一級術師の術式の練度が上がっていることは、貴様の入れ知恵か?』
「記憶にございませーん」
耳に小指を入れながら適当に話を聞く。チュッパチャップスって色んな味があって実験的な目でも楽しめるからお得。たまにゲテモノが混じってて百味ビーンズ食べてる感じになる。
『五条悟一級術師や夏油傑二級術師が力をつけること自体に異論はないがな……彼らが暴走する可能性は考慮しているのか?』
「なんで最初から暴走すること考えてるんですか。アホですか。あの二人が一級最上位……なんなら特級とかになってくれた方がウチとしては術師の負担も減っていいと思うんですケド」
『貴様は特級術師の脅威を知らんからそんなことが言えるのだ!』
あー、現状は九十九由基さんだけだもんね。特級術師。そもそもその由基さんがバケモンだってことが示されたのも呪術の後半も後半だし、あのズル技みたいな術式なんで羂索に負けたんだってところあるし……虎杖ママの体に刻まれてた「
ウチとしては脹相とのカプとか素敵だと思う。お兄ちゃんが本当の……頼れる姉のような、母のような相手を見つけるって考えたらとっても萌えるシチュだし。ただまぁ、由基さんって変人だから原作のときに脹相にかけた声って善意と実験くらいの気持ちしかないんだろうけどね。
おじいちゃんたちはぐちぐちネチネチと何やら小言を垂れているが正直カップリングすらないようなおじいちゃんたちが何言っても聞く耳持てないから黙っててもらって……ウチが利用されたり死なないために取り入ってるだけでお互いが適度にwin-winな関係築いて行きましょうや。玉縄会長もそう言ってるって。知らんけど。ロジカルシンキングで論理的に考えていくべきだよ。お客様目線でカスタマーサイドに立とう。
『御三家や特級術師に対するストッパー……我らの身辺警護こそが準特級の仕事だということを忘れるでないぞ』
「勝手に言ってなよ。ウチは現場の味方だ。もしウチに言うこと聞かせるために後輩たちに手を出すならウチが敵になるってことを忘れないでよね」
面倒になっておじいちゃんたちを背後に部屋から出た。なんかまだなんか言ってるのが聞こえてくるけど……もう小一時間も捕まったんだから許してほしい。なんでこんなジメジメしたところに何時間もいないといけないんだよ。しばくぞ。
……腐ったみかんの皆さんがウチのことを特別視している理由はたった一つだ。わざわざこんなところにまで呼び上げてネチネチした小言を聞かせる理由。
ウチは無下限、呪霊操術……あらゆる全ての術式の弱点。ウチの『天逆処調』は「天逆鉾」が行方不明となってしまっている現在、何よりも優秀な術師への対抗策なのだ。ウチこそがどんな術師に対してもストッパーとなり得る存在であるから、お偉いさん方はウチに準特級術師とか偉そーな肩書を与え、ウチを懐柔しようとしているというわけである。
愚かだけどアホじゃないからね。このまま行ったらしばらくして、五条悟が呪術のトップに君臨することがわかってるのだろう。そのときに五条先生のことを止められる存在を求めているのだ。
で、それがウチってわけ。自分で止めろや。
いや、原作では根絶やしにされてたんだけど……ごめん、やっぱアホです。
「ウチはみんなの絡みを見れたらそれでいいんだけどなぁ」
上層部から離れるようにして高専校舎へと歩みを進める。今日も空は青く開けていて、どこか遠くで全てを包んでくれているようだ。
カプ厨として、みんなの幸せを、絡みを、ネットリした幸せを、湿度の高い関係性を。
それが見たいだけだ。それを見るためなら、継続して見るためなら、推しカプのためなら頑張れる。それがウチ。
それに、
「詩刀子せんぱーい。どこ行ってたんですか?」
「先輩組み手付き合って!」
「あ、私も参加していいですか?」
カプ厨であることを抜いても、こんなにも可愛い後輩たちから青春を奪い取るなんて許されないんだよなぁ、何人たりともね。
「おかえり、粗相しなかったでしょうね」
「ウチがぁ〜? 信用ないなぁ」
「あるわけないでしょ」
「えぇ〜……歌姫ちゃんウチに厳しくない?」
こんな青春が続かないことを知っていても、それを繋ぎ止めようとする努力を、ウチはしないといけないんだ。
× × ×
夏の、空が透き通るほど晴れた日だった。
蝉の声がこだまする山奥……東京都立呪術高専は、個人的な過去最高気温を更新していた。本当に暑くて仕方ない。こんな状況下で訓練してる同級生の二人は頭がおかしいんじゃないだろうか。解剖すると新たな発見できそう。人類にとっての進歩になるのなら是非とも解剖させていただきたい。逃げるだろうけど。
五条と夏油の組み手を見ながら、私と歌姫先輩は近くの自販機で買ってきたドリンクを片手に、運動場へと至る石畳の階段に腰をかけていた。カラッとした暑さは喉の渇きを促し、私たちの気分を落としている。こんな日に限って教室の扇風機が壊れて外の方が涼しいなんてことになるなんて、高専はもう少し機材とか直した方がいいと思う。老朽化進み過ぎ。お金かけて修繕しろー。
「暑いですねー」
「そうねぇ……で、私なんでここに呼び出されたの? 自分の部屋で甲子園見たかったんだけど」
「えー、私一人であのバカ二人見てられるわけないじゃないですか」
「見てなくてもいいじゃない。部屋に居たってあの二人も、誰も咎めないわよ」
「だって暇ですもん」
「今年は甲子園が熱いの。五条と夏油の組み手の汗を眺めるくらいなら部屋で甲子園球児の友情、努力、涙、勝利を眺めてた方が有意義だわ。硝子も一緒に来る?」
確かにそれは魅力的な提案だ。私だって五条と夏油のことをダラダラと眺めるだけで高校一年生の貴重な時間を使いたくない。
でも、私の目的はそこじゃない。逃げ場のない状況に追い込んで、歌姫先輩から言質を取りたいのだ。そのためにわざわざここを選んだのだ。逃げ場を消すために。
「そう言わず恋バナしましょうよー」
「恋バナって……なに、アンタあのクズ二人のどっちか好きなの? やめた方がいいと思うわよ? あんなクズ共」
「はは、そんなわけないじゃないですか。ありえねー」
いくら歌姫先輩とはいえ流石に失礼だ。私の見る目が泥にでも塗れてないとありえない選択だろう。あの二人は絶対にねー。
そんなことよりも……と、私はペットボトルのポカリスエットを煽り、喉を潤してから満を辞して口を開いた。
「歌姫先輩って、やっぱり詩刀子先輩のこと好きなんですか?」
「ブッ……!」
「ちょ、何してるんですかぁ」
ゲホゲホとコーヒーを吹き出した可愛い先輩のことを頬杖をついて眺める。顔を赤くしているところを見るに私の予想は当たっていたようだ。まぁ、見てたら誰でもわかるくらいの視線を向けてたけど。鈍感クズ同級生には分からない感情だろう。うん。頭の中がエッチなことでいっぱいな二人としてはそういう考えは難しいだろうから、知っているのは私だけ、それが少し優越感。
「な、な、な、なな……!」
「わかってますからそんな顔しなくてもいいですよ〜。わかってないの本人だけでしょ」
「…………誰にも言ってない?」
「言いませんよ〜。可愛いなぁ〜」
口元を拭きながら先輩が訊ねてくるけどこんな面白いこと誰にも言わない。というかあのクズ二人が聞いても大爆笑するだけだろうし、私は先輩二人の恋路を応援するだけの優しさを持ってる。あのクズ二人とは違う。
「なんで詩刀子先輩なんですか?」
「なんでって……さぁ……なんでなのかしらね」
歌姫先輩は山の上から降りてくる詩刀子先輩を見つけて目を細めた。詩刀子先輩もこちらに気づいたのか手を振っている。手と一緒に体が揺れるから後ろの髪が揺れている。
「理由なんてわかんないわよ。よりにもよってあんなバカだし、勉強できないし、一回教えたことすぐ忘れるし、気持ち悪い話し方するときも多いし、デートだと思ったら変なオタクのイベント連れていかれるし、コスメ私よりも詳しいし、私と五条が怒鳴り合ってる時もニヤニヤしてるし、家族に紹介できるような術師の家系でもないし……でも」
ダラダラとたくさんの先輩のダメなところが羅列されていく。どれもこれも恋愛対象から外れるには十分なものだった。
だけど、先輩の頬は緩んでいた。「けど」の言葉が、その後の言葉を彩っていた。
「それでも、底抜けなあの優しさが、きっとダメなのね」
愛しいものでも見るような瞳で歌姫先輩は詩刀子先輩を見つめる。私が目の前にいるのに、私のことなんて記憶から抜け落ちてしまったようだ。いつも言い争いをしたり、巫山戯たりしている相手を、こんなにも愛を込めて見つめられるのは、どこまでの感情なんだろうか。
恋。
私にはあんまりよく分からないもの。告白されたこともあるし、それなりにカッコいいなと思う人だっていたけれど、恋だとは思えなかった。
恋愛ってなんなんだろうか。愛しさってなんなんだろうか。
その全てがわからない。だけど、
「詩刀子せんぱーい。どこ行ってたんですか?」
「先輩組み手付き合って!」
「あ、私も参加していいですか?」
こんなに後輩に慕われている先輩が、歌姫先輩にお似合いな相手なのは一目瞭然で、きっと、私もそのうち恋をしたときに、彼女の気持ちを理解するのだろう。あんなに優しい瞳をして、愛しい相手を見つめるのだろう。
「おかえり、粗相しなかったでしょうね」
「ウチがぁ〜? 信用ないなぁ」
「あるわけないでしょ」
「えぇ〜……歌姫ちゃんウチに厳しくない?」
でも、その時はあんな視線を向けられてなお、ケロッとした顔をしている相手だけは嫌だなって、そんなことを思った。
ちまちまとした更新。5000字程度で書いていますが、毎日更新ってクオリティ確保すると難しいですねぇ。
これからも書き綴りまして、物語を続けていきます。たくさんの人が高く評価してくれているので、すごく嬉しいです。ありがとうございます。これからも頑張ります! なので評価とかお気に入りしてね!(承認欲求モンスター)
今後ともよろしくお願いします!