二次創作難しいですねぇ……。
第八話 想定外の事態につき
「んー」
「どうしたんだい悟」
「いや、先輩辺りに連絡入れといた方がいいのかなって思ってさ」
「なんだい? 寂しんぼかい?」
「ちげーよ」
ガラケーをポチポチして依頼のメールを作成しながら、俺は親友の傑と一緒になってもはや瓦礫の山と化したマンションの一室に腰掛けていた。
「呪詛師集団Qはぶっ潰したし、
「けど?」
「ならなんで先輩は降りたのかなって。先輩ならこの程度問題なく処理できるだろ」
「まぁ、確かにね」
脳内に先輩を思い浮かべてみる。肉弾戦においては俺たちが二人がかりでも敵わない、文字通り化け物みたいな人だ。ヘラヘラ笑いながら俺のことを片手で投げ飛ばしながら傑の攻撃を弾いたりする人外の代表みたいな人。
ぶっちゃけ、あの人が任務に失敗するとは思えない。
「天元様は最初俺らじゃなくて先輩を指名したんだろ? なら、先輩にだって適正があったってことじゃん。なんでかって考えたら……先輩にも思うところがあった可能性が高い」
「ふむ、それは一理あるな」
「となれば、先輩からそこら辺について聞いておいた方がいいかなって」
「なるほどね。悟にしては冷静じゃないか」
「そりゃそうでしょ。逆に冷静にもなるわ」
足元に転がる十人単位の呪詛師たち、それに目をやってから俺は軽く舌打ちした。
「ヤガセンの話と違い過ぎるし」
呪詛師集団Qは話に聞いていた。なら、俺らが到着した時点で呪詛師集団Qと揉めていたこいつらはなんだ? そもそも、呪詛師集団なんてものがいくつも
「確かにね。知らない呪詛師もいたし、私たちだから問題なかったけど、普通に多い」
「こりゃあの先輩なんか噛んでるぞ。じゃなきゃおかしい」
俺は携帯を親指で連打しながらメールを作成する。あの先輩暇さえあれば携帯弄ってるし、返信はいつも早めだから今回のメールにも返信早いだろ。
「さて、とりあえず避難するか」
「そうだね。二人のことも避難させたいし、それに……」
ドアを蹴飛ばして突入してきた黒い能面を被った呪詛師を悟が蹴り飛ばす。壁に鈍い音を立ててぶつかった、そのままズルズルと落ちていく。
「ここは場所が割れてる。とにかく場所を変えた方が良さそうだ」
「だな」
俺が星漿体を抱き抱えると、その横で気絶していたメイドが目を開けた。つーか今時メイドって、アキバでしか見ねぇよ。先輩は好きだけどさ、歌姫がいつもすごい顔して見ててウケんだよね。
「貴方たち……理子様に何を……!」
「何をって、護衛だよ護衛」
メイドもやっと状況を理解したのか周りを見渡して、それから冷静になって体を起こす。そうしてようやく自分の状況に気付いたようだった。
「これは……」
「襲ってきてた呪詛師は処理した。大して手間取ってねぇけど感謝してくれていいぜ?」
「こら悟、そんな言い方をするものじゃないよ」
メイドに声をかける。この人も俺らが守らないといけない人間ということになるだろう。星漿体のガキのお付きだろうし。
「貴女たちを襲った人たちから貴女たちを守りに来ました。呪術高専の者ですよ。天元様の命です」
傑が手のひらから呪霊を呼び出して言った。そこにメイドを乗せると、ここからは俺たちが護衛を務める旨を説明する。その話を聞いてようやく安心したのかメイド(黒井と名乗った)はホッと息をついた。
星漿体の子どもを抱きかかえて廊下に出る。それに合わせて傑も黒井さんを乗せた呪霊を引き連れて後ろをついてきた。呪詛師集団の残党を適当に相手しながら移動していくと、俺の手のうちにいた天内の目がパチッと開いた。
「お、起きた」
その瞬間、俺が術式を発動するよりも早く掌が俺の頬目掛けて飛んできた。それを横っ面に食らって
「下衆め! 妾を殺したくばまず貴様から死んでみせよ!!」
「……超元気じゃねぇかガキ」
「プッ」
「何笑ってんだコラ」
傑が鼻で笑ってから天内に近づいた。右手を差し出すようにして敵意がないことを示す。あいつの胡散臭さってどっから出てんの? そういう呪霊飼ってる?
「理子ちゃん落ち着いて、私たちは君たちを襲った連中とは違うよ」
「嘘じゃ! 嘘つきの顔じゃ! 前髪も変じゃ!」
「……」
傑がくるりとこちらを振り向くと俺はこくりと頷いてみせた。そして二人で天内のことを持ち上げると、俺が天内の両足、傑が両腕を持ってギリギリと逆方向に捻る。天内の悲鳴が高級マンションの廊下に響き渡る。おもろ。
「お、おやめください!」
「黒井!」
「その方たちは味方です!」
傑の呪霊が運ぶ黒井さんは安心し切った顔をしていた。天内が目を覚ましたことに安堵しているのだろう。感動の再会なので両手を離してやる。あの場でどっちか……もしくはどっちも死んでたっておかしくなかったわけだし。死んでなかったのは呪詛師がポンコツだったからに他ならない。
「……何に乗っておるのだ?」
「これは、前髪の方の術式です!」
「その言い方やめてもらえます?」
前髪認定を食らった傑が不服そうに顔を顰める。ちょっとウケるな。その前髪も頑なに変えないけどなんのこだわりな訳? 初対面からそれじゃん。逆にこだわりないとおかしくね? それオシャレだと思ってるの?
「私の術式は呪霊操術。文字通りとりこんだ呪霊を操れるのさ」
「アグレッシブなガキンチョだな。同化でおセンチになってるだろうから気を使ってやろうって思ったのに」
「フンッ! いかにも下賤な者の考えじゃ!」
「あ゛?」
声を荒げるけど天内は気にした様子もなくそのままつらつらと言葉を続けていく。……このマイペースを絵に描いたようなところ知ってる人に似ててやりにくいな……。
『ウチのこと言ってる?』
頭の中で顔を出したマイペース筆頭みたいな人間を思考の外に追い出して天内の言ってることに耳を傾けた。
「いいか? 天元様は妾で、妾は天元様なのだ! 貴様のように“同化”を“死”と混同してる輩がおるが、それは大きな間違いじゃ!」
「悟、先輩からメールはきたかい?」
「あ、悪ぃ、今確認するわ」
「同化により妾は天元様になるが、同時に天元様も妾となる!! 妾の意思!! 心!! 魂は同化後も生き続け……!!」
「まだ来てねぇわ」
「そういえば悟、待ち受け変えた?」
「井上和香」
「聞けェェェェェ!!」
おっと、あまりにも興味がない話だったからついつい雑に話を流してしまった。つーか傑も待ち受け変えてんじゃん。何それ、先輩がバスケゴールにダンクかました時の写真? あとで送って。
「ま、なんにせよその喋り方じゃ友達もいないじゃろ」
「快く送り出せるのじゃ」
「学校じゃ普通に喋ってるもん!!」
キレ気味に素を出した天内の言葉に黒井さんがピクリと反応した。そして数瞬遅れてから天内がハッと顔を上げる。
「学校……! 黒井! 今何時!」
「お昼前です……ですが理子様、やはり学校は……」
「うるさい! 行くったら行くのじゃ!」
天内と黒井さんの会話に首を傾げる。この二人が何を言ってるのかを知ることになるのはここから一時間後の話だった。
× × ×
「はぁ!? さっさと高専に戻った方が安全でしょ!!」
『そうしたいのは山々だが、天元様のご命令だ。天内理子の要望には全て応えよと』
受話器越しに聞こえてきたヤガセンの声に苛立ちながら通話終了のボタンを押す。クッソ、めんどくせぇ……。
「ゆとり極まれりだな」
「そう言うな悟」
「あぁは言っていたが、同化後彼女は天元様として高専最下層で結界の基となる。友人、家族、大切な人達とはもう会えなくなるんだ」
友人、家族、大切な人達。誰にだって、俺に立っているそれらと会えなくなることの苦痛を、俺はまだわかってない。それを失うと考えたこともない。
だから俺はきっと傑の言うことをしっかりと受け入れるべきなのだろう。受け取るべきなのだろう。俺はまだ腑に落ちないまま首を縦に振った。
「好きにさせよう。それが私たちの任務だ」
「理子様にご家族はおりません。幼い頃事故で……それ以来私がお世話をして参りました。ですからせめてご友人とは少しでも──」
「それじゃあアナタが家族だ」
「……はい」
黒井さんが目を潤ませながら頷く。……天内にとって、黒井さんが大事な人なのもそうだろう。きっと、この件においてガキなのは俺だ。
「傑、監視に出してる呪霊は?」
「あぁ、冥さんみたいに視覚共有ができればいいんだけどね。それでも異常があればすぐに……」
「傑?」
「悟、急いで理子ちゃんの所へ。あと九条先輩にも連絡して」
「はぁ?」
傑が顔を険しくしながら振り返る。その顔には驚愕と、少しの焦りが滲み出している。
「5体祓われた」
俺はその報告を聞いてすぐに黒井さんと共に駆け出す。
正体不明の来客が5名、1対1という状況なら負けなしでも、天内や黒井さんを守りながらとなると話も変わってくる。負けるわけじゃなく、無傷で守り通すということの手間が増える。
「だから高専に帰った方がいいって言ったんだよ……!」
俺は携帯を開いてこの任務を断って何してるのかと尋ねたら歌姫とのツーショットを送ってきた馬鹿な先輩に怒りの着信を送り付けた。
× × ×
本編が開始した。懐玉・玉折編である。
キタ二タツヤの「青のすみか」がオープニングで使われたことで一般的に知られるようになったという面も多いであろう、まさに呪術を代表するシーズンである。呪術を代表するというか、マジで盛り上がったよねみたいな……ワンピースで言ったら「頂上戦争編」だし、BLEACHで言ったら「破面編」とかだろうか。いや、諸説あるけど。
二人が任務を受けたのをヤガセンが教えてくれたし、もう二人は理子ちゃんを見つけたころかな? ところで呪詛師集団みたいなのってこの団体しかでてないよね。本来ならもっといるのだろうか。でもウチ聞いたことないけどなぁ。たまに処理させられてる呪詛師の集まりをそう言うんだったらそうかもしれないけど。でも具体的に名前がついてるのすごいよね。
「さて……ウチはどうしようかなぁ……」
「何の話?」
「うぅん、こっちの話」
歌姫ちゃんがウチの横でデパ地下で化粧品を選びながら振り返った。あの……もう結構買ったよね? ウチの両手見て? この袋全部君が今日買ったものだよ? 分かってる? ウチ今日荷物持ちとしてきたけどさぁ、限度ってものがないかなぁ?
携帯をポチポチしながら掲示板を漁る、匿名掲示板ではない。呪詛師がよく使う掲示板サイトだ。一応登録に手付金がいるし、呪詛師としての身分みたいなものも必要なんだけどそこら辺はね、コネでね。
「さてさて……お、出てる出てる」
「何が出てるのよ……ちょっと、これ」
「ん~? 歌姫ちゃんは見なくていいよ。見て気分がよくなるものじゃない」
明後日の午前11時までを期限として三千万円ねぇ、原作通りだ。といっても? 少し条件がプラスされてるけど。
【ボディーガードを殺した場合は追加で一人頭1000万追加】
これ、五条先生と夏油くん狙いの言葉だよね。原作にはなかった条件だ。この後に何かを見据えて書いてるよなぁ。さて、何を見据えている? 何を求めている?
「うーん……前途多難だなぁ……」
「これ、五条たちが受けてる任務の護衛対象でしょ。なんでこんなことになってんの? というか、アンタはなんのサイト見てるの?」
「んー、違法サイトだよ。ちょっとしたコネでね。なーんかきな臭いなぁ」
歌姫ちゃんが携帯の画面を見ようとしてくるので少しかがんで見せてあげる。
「これってアンタが断った依頼じゃないの? アンタならなんとかなったんでしょう? 天元様のご依頼だったんだし」
「ウチがこの依頼を断ったのはウチに向いてないからだよ。ただ呪詛師集団Qを狩るだけなら別に大したことない……というか、ウチが一番向いてるだろうけど」
携帯の画面を見せるついでに歌姫ちゃんが手に持っていたクレープを一口貰う。うん。いちごとはわかってるじゃないか。僕もクレープは一番いちごがいいと思う。酸味と甘味がマリアージュしてるから食べやすいしね。
「あ、勝手に食べないでよ」
「美味しい」
「もう……それで? 何の理由があって断ったの?」
「時の器の会の処理はウチには向いて無さすぎる」
「時の器の会?」
「天元様を神として崇めるおっかなびっくり集団だよ」
ウチは頭の中にある情報を並べながら考える。うん。間違ってないよね? 金払いが良くて、術師としての才能がる人もちらほらいるけれど、実際のところは非術師の立場に甘えて、術師からの攻撃を回避してる小賢しい集団である。
「非術師にはウチ弱いからさ」
「あんたが非術師に負けるなんて思えないのよね」
「あのねぇ、ウチのコレ別に当たり術式じゃないって何回も言ってるよね?」
「でも私みたいにサポート系の術式からすると自分で道を開けるのは魅力的に見えるけど」
まぁ、別に悪いとまでは言わないけどさ。でもウチの術式が確かにそれなりに強いものであることは否定しないよ? でも。
「ウチは幾つかの縛りを設けて、そもそもの術式の出力をあげてる。その上で最終的にはステゴロで解決することを前提にしてるんだ。だからこそウチに普通の術師は勝てない。獲物を持ってないからね」
「獲物?」
「武器だよ。術師が武器を持つのがダサいって考えは禪院家が提唱したんだっけ? それにしてはブラブラって粗末なものぶら下げてるけど」
そもそもこれが直哉くんの考えなだけの可能性もあるけどね。でも何回か聞いたことがある考えなので、多分術師みんな持ってるんじゃなかろうか。素手じゃない人もたくさんいるけどね。
「だから武器を持ってる相手には弱いんだよ。もちろん、1対1……いや、5人くらいまでならなんとでもなるよ? じゃあ宗教の信徒がたくさん銃をぶら下げてきたらどうする?」
「あ……」
「ウチの術式が強くて五条くんや夏油くんに勝てたとしてもね、タイマン最強って言われるのはまぁ、いいけど、この手の任務には向いてない」
「だから今回の任務は断ったのね」
「そ。今回は五条くんと夏油くんの方が向いてると思った。推薦もしたしね。あの二人が揃って失敗するなんてことほとんどあり得ないから」
「じゃあ、前途多難ってのは?」
「それはて……そもそもこんなサイトでこんな募集かけるわけ? これのメリットって色々あるけど一番なのは五条くんと夏油くんがいること分かった上でお金に目が眩んで戦いを挑むバカを集められることでしょ。しかも二人を殺さなくてもいい」
殺せたらプラスなのと、殺さなくてもいいには絶大な壁が存在することなんて誰が考えてもわかるだろう。
「つまり、あの二人とやり合ってもいいなんて考える頭のネジの飛んだ馬鹿タレがたくさん金に釣られて集まってくる。しかも成功報酬は対象である天内理子ちゃんを殺せた場合に支払われるわけだからね、懐も痛まない」
「あぁ、つまりお金を見せびらかして腕自慢が五条たちに殺到するわけね」
「それだけならいいんだけどね……」
ここからは原作知識をひけらかすことになるんだけど許してほしい。ウチが知ってることを正当化しておく必要があるからね。
「もしこれが二人のことを削るために使われるとしたらどう思う?」
「削る?」
「消耗させるのさ。ウチだったらあの二人が万全の状態でやりたくなんてないね。だったら正常な判断ができないとか、正常な状態じゃない時に攻めるのが一番勝率ありそうじゃない?」
「アンタはあの二人が相手だろうが関係なく勝てるでしょ」
「まぁ、相性いいからなぁ……」
ウチは術師には基本的に相性がいいから。術師じゃなくて勝てない相手ってのもいるけれど。
ガラケーを閉じながら化粧品の匂いが充満した百貨店の地下で、ウチは原作を知ってるからこその確信を持って呟いた。
「帰ろっか、ウチの予感は当たるんだ」
セリフに被せるようにブーッ! と着信を示すバイブレーションがけたたましく鳴った。
投稿したころに比べてたくさんの人が読んでくれていて感謝。色々勉強になることも多く、色々と参考にしたり、初心を忘れることなく動くことが出来ていて今結構楽しいです。
たくさんの人が評価してくれてすごく嬉しいので、この調子で頑張ります!
今後とも詩刀子の活躍をお楽しみに!