給料日前ってなんでかお金ないよね。
競馬場の近くにあるたこ焼き屋で適当にたこ焼きを買っていると孔から電話が来た。耳と肩で挟みながら携帯の向こうから聞こえてくる声を聞く。連絡の内容としては五条たちが星漿体を連れて高専に戻らなかったという報告だった。
「なんだ、アイツら高専に戻らなかったのか。ラッキーだな。これで賞金につられるのがバカからまともな馬鹿になる」
『いいのか?』
「何が?」
たこ焼きを口の中に放り込みながら電話越しの孔から疑問の声が飛んでくる。
『賞金は盤星教からオマエに支払われる手付金3000万、それにボディガード殺したときの金はオマエのポケットマネーだろ。星漿体がやられたら手付金はパァ、下手したら成功報酬もないぞ』
「あぁ、その話ね」
『オマエに依頼せずとも初めから賞金を、という話になるからな』
「あっちには五条悟がいるんだぞ。うん百年ぶりの六眼と無下限呪術の抱き合わせ、五条がそばにいる限り、星漿体はまず殺せない」
『……オマエもか?』
「さぁね。とりあえず、この制限時間で五条と五条の周りの術師の神経を削る。どうせ殺せねぇからタダ働きだ」
たこ焼きを全て口に放り込んで咀嚼していると孔から更なる疑問が飛んでくる。こいつ、なんでも知りたいボーイかよ。
『じゃあボディガードを殺すって条件はなんだ』
「それは……アイツらのめんどくせぇ先輩を引き摺り出すための口実だ。気にするな」
『先輩?』
「ま、そのうち出てくるさ。俺の聞いてる話そのままならトリッキーなソレが出てくる前に俺から罠として呼びつけておきたい」
五条を相手取りながら星漿体を殺すのは面倒だができなくない、問題はお上の秘蔵っ子が飛び出してくることだ。
「面倒ごとはこっちで管理しておかないとな。ボチボチ俺も向かう。思ってたより展開が早そうだ、3000万しっかり戻せよ」
『馬鹿言え、その辺の匿名掲示板じゃねぇんだぞ。掲載料・手数料その他——』
「電波がわりぃわ」
携帯を放って背もたれにもたれかかる。さて、どうしようか。五条悟もそうだが、それよりも……
『君が笑える手段がある』
どこかで会った金の長髪を腰まで流した女のことを思い出す。なんで今なのかは分からねぇけど……胸が逸るようなそんな予感がした。
× × ×
呪霊が祓われてからの私たちの反応は早かった。すぐさま校舎内に移動し、廊下を駆ける。
「天内は!?」
「この時間は音楽なので音楽室か礼拝堂ですね」
「レーハイドゥ!?」
「音楽教師の都合で変わるんです! ここはミッションスクールです!!」
「とにかく悟は礼拝堂、黒井さんは音楽室、私は
「承知いたしました!」
「傑! 先輩と連絡ついた! とりあえず呼んどく!」
黒井さんを後ろに連れて礼拝堂へと走る悟と別れて祓われた方角に向けて走り出した。出した呪霊自体はそこまで強いものでもない……3級程度のもので、一番強くても2級程度のものだったから大したものではないが、そのレベルを特に問題ともせず祓えるレベルが敵にいるということになる。この場合は呪詛師、と断定すべきなのだろうが考えをそこで止めるわけにもいかない。
呪霊を祓った
盤星教の手のものならまぁ、比較的マシだが、相手にするのは少し面倒だ。非術師に私たちは手を出せない。術式が術師特化の九条先輩は非術師への対応も一般人と同じ程度にまで落とされるらしいが、私たちは術式を使えば非術師なんて鏖殺できてしまう。それは上の連中も避けたいのだろう。
「とはいえ、対処法自体はいくらでもあるんだけどね」
「なんの対処法じゃ?」
「!」
曲がり角の先で鉢合わせた老人が札から式神を生成しながら訊ねてきた。独り言は聞くものじゃないですよ。
……高専の制服を見て多対一を想定。式神で前後を挟んだ。この爺さん慣れてるな。
「わしの式神とは違うな……術師以外の呪力……呪霊操術か!」
「ご名答。流石、長生きしているだけあるね」
こっちを観察してくる爺さんの視線を受けながらチラリと視線を窓にやった。ふむ、どうやら敵は予想通り多人数らしい。
腰を落として迎撃の姿勢をとる。一言で私の今の行動を表すのなら撒き餌だった。相手の心を奪い、口に針を差し込む撒き餌。
「なんか色々考えてるみたいだけど、意味ないよ」
「なっ……!」
廊下を覆い尽くすようなワーム型の呪霊を呼び出して老人に向かってけしかける。逃げ場をなくしたまま老人を飲み込むようにして壁まで突っ込ませて、完全に逃げ場を塞ぐ。
「さて、あと一人か」
わざとらしく呟いて呪霊を回収せずに後ろを向く、そうすると……ほら。
窓ガラスを割って老人が飛び出してきた。呪霊に喰われる前に窓を割って脱出、私のいる窓に飛び移って背後を取った……と、理屈だけを聞くと単純だ。予想していないなら驚くだろうね。ただ、その手の奇策は私も今まで散々試してきたから手に取るようにわかるよ。
「殺ったッ!」
ナイフが電気に照らされて輝いた。私に突き刺さるように逆手に持たれた凶刃が私に降りかかる。が、私はナイフを持った手をすかして左の肘で地面に叩き落とし、その勢いを殺さずに右手で老人の鼻面に裏拳をねじ込んだ。鼻血が吹き出し、眼鏡が吹き飛ぶが、お構いなしに胸ぐらを掴み、背中を支点にして投げ飛ばす。
壁に叩きつけられて肺の中の空気を吐き出した老人は壁でバウンドしてコンマ数秒浮かんだ。そうして浮いた腹にサッカーボールをボレーで打つように体を捻り右足を捩じ込む。老人がう゛ッ、と呻いてから血を吐きながら頭から地面に落ちて、鈍い音が響いた。
「誘゛っだな゛……!?」
「まぁね。アンタみたいな奴には勝ち筋を作ってやると良いって学んでるんだ。近づきたくてウズウズしてたろ」
地面にひれ伏した老人に近づくように膝を折った。目の前の呪詛師がそれなりのレベルであることは認めるが、それでも二級の呪霊を祓えるとは思えない。
「そんなことより、アンタ「Q」? 盤星教?」
「…………」
「私は気が長い方だけど……沈黙は感心しないな」
呪霊を呼び出して少し脅してみる。すると観念したのか老人は血塗れに膨れた顔をこちらに向けて笑った。
「……掲示板じゃよ」
× × ×
「う〜ん、わざわざ呼ばれて来たんだけどさ。これウチ来る必要あるかなぁ……」
原作だと太助の飼い主のお爺ちゃんと紙袋呪詛師の二人が来るだけでしょ? 五条先生と夏油くんの二人で事足りると思うんだけどなぁ……でも呼ばれたからには来なくちゃね。いや、このままだとウチ絡めないところだったからさ。歌姫ちゃんには悪いんだけどデートは振り替えにして、わざわざこの学校までやってきたということである。
新宿からタクシーを飛ばして二十分。妥当だろうか。
そもそも理子ちゃんのことをわざわざ郊外に置くわけないんだよね。もしもの時に手が届かない可能性があるから。それに、天元様は東京高専の下にいるから京都に置くのも変な話だし……だからいつだって呼び出せる東京にずっと滞在させるのが一番賢い選択肢だということだ。よって、ウチが新宿で遊んでいたのにすぐ来れたのはそういうことだ。都心にあるミッションスクールってあんまり数ないし、そもそも名前も知ってたから割と近場で遊んでいたということです。
「ウチが呼ばれる理由がわからないんだよなぁ……」
「来なかったら死ななくて済んだのにね」
「んぁ?」
沖縄辺りから何かと理由をつけて参戦しようと思ってたんだけど……と学校に足を踏み入れた瞬間、鋭く尖らせた刃のような呪力の塊がウチ目掛けて飛んできた。視認することができるそれをステップを踏んで避けると後ろに植えてあった木が真っ二つになる。あぁ……松の木……。
「あーあ……多分高い木なのに……」
「ねぇねぇ、あんた天内のボディガードだよね? 高専の制服着てるし。同業ってわけじゃないんだろう?」
そうウチに話しかけたのはよく分からない能面を被った男だった。背丈としては五条先生より低いだろうか……百八十前後と見たね。顔は見えないけど……まぁ、まず間違いなく原作のキャラじゃないな? 誰だオメェ。
「殺すなら黙ってやりゃいいのに」
「おいおい、同じ殺すにしたって苦しめて殺したいだろう? それで一千万まで入るんだから割りの良い仕事だわ」
「う〜ん、クズ」
男はヘラヘラ笑いつつそう言った。……なるほど、ボディガードを殺して一千万ってのはそういうことね。ウチが原作に介入するが故の破綻か。パパ黒が何を思ってこんな条件をつけたのかと思ったけど……こりゃ五条先生のこと想像よりもしっかりと狙ってるな? なんでだろ。ウチがいるせいで因果律でも狂ったのかしら。
「ウチ、今後輩に呼ばれてて、急いでるからウチの質問に答えてくれるなら見逃してあげてもいいよ?」
「は? なんで上から目線なわけ?」
「え? なんでって……」
原作キャラじゃないポッと出のキャラに優しくしてあげられるほどウチは人間ができていないからなんだけど……そもそもよ? カップリングの足しにもならないようなキャラクターはウチそこまで得意じゃないし……例えば呪詛師集団「Q」のメンバーとか唆られないもん。つまるところモブに興味がないのだ。だってカップリングないし……あ、五条先生辺りとイチャイチャしてくれるならいいよ。それもカップリングとして認めてあげなくもない。
それにしてもなんだか呪詛師のお兄さんはイライラしているらしい。なんでだろうか……あ、返事が遅いからか。ごめんね、ウチ、メールの返事は早いけど会話のテンポはマイペースってよく言われるんだよね。
「だって君弱いもん」
言ってからこれ五条先生のセリフだってことに気づいた。なんかワロタ。なんか時空を跨いで本歌取りしたな。本歌取りって和歌だっけ? これは一本! 絶対和歌のルールこんなんじゃないけど。5・7・5で書けば良いんだっけ? それは短歌ではないでしょうか? そうだっけ? ウチ学がないからわかんないや。
「今すぐその生意気な口を閉じさせてやるよ」
「え〜、無理だよ。ウチには勝てないよ」
術師はね。誰もウチに勝てないんだよ。
流れるように術式を展開した呪詛師に合わせるようにウチは中指を人差し指に絡ませた。呪力の起こりをお腹の奥で感じて、それを一気に解き放つ。世界を塗り替えるような感覚。もう何度も何度も味わった感覚。
「領域展開『天逆処』」
「はぁ!? そのレベルの術師なのかよ……!」
「はぁ!? って何さ。ウチを舐めてる君が悪いでしょ君が」
領域は相手を飲み込んで閉じる。この閉じられた領域の中で、ウチは最強なのだ。日向は木の葉にて最強! みたいなものだ。木の葉にて最強なのは白眼よりも写輪眼だと思うの。あと、うちはが強すぎる。でも語呂が良くて好きよ、日向の技。八卦六十四掌! とか。
「さ、質問していくよ〜? まず目的は?」
「言うわけねぇだろッ! 鎌鼬ッ!」
「はい。今一回死にましたよ。もう一回聞くね? 目的は?」
「…………は?」
術式が発動しない絶望が呪詛師を襲ったようだ。多くの術師にとって術式は大事だもんね。ゴリラ廻戦してた上澄みを見ると忘れがちになっちゃうけど、多くの場合は肉体の強度ってあげなくていい……はずなんだよね。理論上は。上の人たちはほとんど筋肉で語れるけど。
「ほら、目的教えてくれない?」
「……術式が使えないからなんだ? 舐めやがって……!」
「あぁ、そうそう。ウチの領域は相手の術式を封じるだけだよ。必中効果はそれに全振り! 基本的にウチから君たちに攻撃性の術式効果を当てることはない」
術式内容を開示しながらゆっくりと歩みを寄せる。そこそこ強そうなお兄さんがウチの話を聞かずに飛び込んできた。おぉ、どうしたん? 話聞こか?
その大振りの右拳を一歩体をずらすことで避けてから、ガラ空きの脇腹に左足の爪先をめり込んだ。大体肝臓、レバーがある部分だから結構効くんだよねここ。呪詛師が顔を歪める……多分。能面してるからわかんないけど。
「カッ……!」
「目的教えてくれたら解放してあげる。殺しはしない」
「舐めるなァァァァ!!」
おぉ、そんなに叫ばなくたって聞こえてるよ呪詛師のお兄ちゃん!! ウチ耳はいいんだよ? それはそれとして……聞き分けのない子は嫌いだ。
続け様に繰り出される体の大きさ、腕のリーチだけを利用した大振り、まさしく喧嘩戦法である。その大振りにわざと被弾……するような顔をしてその力を利用して呪詛師を投げ飛ばした。合気道と呼ばれる技術である。
結構すごいのにこれ使ってるキャラクターって少ないんだよね。有名どころだと名探偵コナンの「水もこの高さから落ちたらコンクリのように固うなる!」「せやかて工藤」「和葉ァァァァ!!」の名言で知られる服部平次くん……の幼馴染。遠山和葉ちゃんが合気道で大会に出てたりするかな。ちなむと合気道は相手の攻撃が前提の技術なので、演舞はあっても大会はないはずである。待ちだけで時間なくなるだろ。
投げ飛ばされた男が強く地面に背中を打ちつける。そうして隙を晒したその鳩尾に踵を踏みつけるようにしてめり込ませた。男が吐瀉物を吐き散らすが仰向けにして吐くので気管が詰まって……というか被り物のせいでそれだけで済んでなさそう。このままだと窒息死だ。
「さ、ちゃんと吐いてくれるなら殺さないであげる。ウチ、一応優しいんだよ? 人並みには」
人並み……まぁ、原作キャラにはという注意書きはつくけどね。それなりに優しくない? 夏油くんなら驚くほど優しいでしょ。ウチ、非術師全滅させたいとか思わないもん。小沢さんとか勘が良すぎて漏瑚から逃げ切れたフリーターのお兄さんとかも生かしたい。なお、術師だろうが原作キャラじゃなけりゃ死んでもいいと思ってるので……被害者は多分夏油くんより多いかな?
「ほら、吐きなよ。殺すよ?」
「ひっ……!」
外傷を負わせずに、ただ恐怖だけで心を折る。これが術師同士の戦いである。畏れを相手に多く与えた方が勝つのだ。……これは妖怪の戦い方だな。『ぬらりひょんの孫』ってどのくらい伝わるんだろ。ウチはゆらちゃんとリクオくんのカプ好き好き大好き。
「……お前ら星漿体のボディーガードを殺せば一人頭一千万円出るんだよ。賞金がかかってるんだ」
「それは知ってる。けど、なんでわざわざ……」
「さぁな、広告費ケチらずに掲示板のランキングに載ってたからそれなりの数の呪詛師が向かってきてるんじゃねぇか。俺らもそのうちの1グループだ」
「…………はい?」
1グループという言葉の意味がわからなくてつい聞き直してしまった。いや、もう既に嫌な予感はしてるというか、高い広告費の話とか知らないって感じだから、ビシビシと感じてるんだけども。だってそもそもこのお兄さん知らないし、ウチ。
「俺たちは呪詛師グループ「ARIA」5人グループの呪詛師だよ」
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