D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
波の音。
……海?
走りよってくる影は、私の想い人だった。
…………
……
「夢……か……」
『今年は絶対に海に行こう!』
全てはある日の晩飯の、音姉の一言から始まった。
夏休みの話をしていると、音姉が急に海に行くなどと言い出した。俺は別に構わないんだけどさ。
義之は宿題終わらせそうにないし、由夢も『かったるい』病が発動している。でも、我らが保護者のさくらさんが、行く、と決めてしまったので、そういうことになってしまった。
週末に商店街へ荷物持ちとして駆り出され、準備も終了。もちろん、3人が水着を選び終えるまでに4時間以上かかったのは言うまでもない。ってか、なげぇよ!!9割5部5厘くらい見て回ってただけじゃねぇか!
学校では、杉並がいつの間にか情報を掴んでいたせいで、かなりの大人数となってしまった。
メンバーは、俺、義之、音姉、由夢、杉並、渉、雪月花、ななか、保護者としてさくらさん、と、総勢11人となっております。これは、大変なことになりそうだ……。
当日。今日から1泊2日の海水浴旅行に行きます!イェ~イ!
……ということでバスの中。
「茎(くき)」
「きなこ」
「コンドル」
「えっと……る……る……ルールブック!」
「蔵人頭」
「何それ?」
「分からなければ日本史をしっかり勉強しなさい」
「ふぅん」
「続けるよ~。うずら~」
「ラー油♪」
「ふむ……雪国」
「任侠!」
「瓜(うり)」
「り……ってまたかよ!」
なんでしりとりってこんなにも盛り上がれるんだろう?
ちなみにそのまま渉はアウト。可愛そうに。
そんなこんなで1時間、ようやく島外の海水浴場に到着。
「あれ?予約してた場所と違うね?」
「そうですね?」
確かに、海岸も綺麗だし、広いし、いい感じの海水浴場だが、明らかにパンフと違うし、人が1人もいない。
「フン、普通の海水浴場だと人が多すぎて話にならん。そこでだぁ!!」
「わわ、びっくりしたぁ!」
背後から突如出現して耳元で大声を上げる杉並に、小恋が飛び上がった。
「この俺がロマンティックでビューティフルなプライヴェートビーチを提供してやったのだぁ!」
「杉並ならやりかねないわね」
「ほんと、恐ろしいね……」
「褒めるなよ、照れるではないか、花咲」
「褒めてない……と思う」
「パラソルとかは男で準備しとくから、女の子は先着替えてきていいよ」
まあ確かに義之が言うように、準備は俺たち男だけでどうにかなるだろう。
「うにゃ、いいの?」
「もちろん」
「じゃじゃ、みんな、いこ♪こっちだよ~♪」
さくらさんが女性陣を連れて更衣室に向かった。
「おい、義之」
「なんだよ」
渉が義之を誘って、なにやらよからぬことをやろうとしているようだ。
「いくぞ」
「行くってどこに?」
「決まってんだろ!……(ごにょごにょ)」
「おまっ、まじか!」
「まじもおおまじ!ほら、これ見ろよ!」
渉が義之に紙切れのようなものを見せる。
「こ、これは……!いや、でも……」
おい義之、流されてどうする。
お前の人生、それでいいのか?
もう渉は知らん。
そういう星に生まれてきているみたいだから、手の施しようがない。
「ここまでしたんだ。行くぞ!」
「あ、ああ……」
義之が渉に引っ張られてどっかに行ってしまった。
やっぱりあいつも男ってことか。
「弓月、始めるぞ」
「あ、ああ」
杉並と準備を進めるが、あの2人、大丈夫だろうか?
~杏side~
杉並のプライベートビーチ、これは何があってもおかしくないわね。おおかた、渉の覗きにでも協力してるんでしょ。
更衣室の前にきたけど、特に変わった様子もない。みんなが中に入ろうとする。
「待って」
「どうしたの?杏ちゃん」
「ここは杉並のホーム。何が仕掛けてあってもおかしくないわ。みんな、ちょっと静かにして」
……。
監視カメラの類のものはないみたいね。
「ちょっとここで待ってて頂戴」
裏に回る。
あった。ここまで大胆にするとは……。そこには映し鏡くらいの大きさのガラスが……いや、マジックミラーか。
表に戻る。
「いいわ。入って」
「大丈夫なの?」
「ええ。但し、中に入ったらしばらくは私の指示に従って頂戴」
「指示って?」
「中に入ったら鏡があると思うの。しばらくの間は着替えないで、鏡を見続ける。それだけ」
「それだけですか?」
「ええ。最初からにらめっこする必要はないけどね」
ふふ。渉、いまに見てなさい……。
~渉side~
ぐふふふふ……あと少しで……あと少しで麗しの女神(ヴィーナス)たちの生まれたままの姿を拝見できるって訳だッ!うおおおおおおおおおおお!
「ほら義之、ぐずぐずしてないで行くぞ!」
「でもなぁ……」
ったく、なんでこいつはいつもこうかねぇ?
このラブルジョワ野郎はもしかしていつも見てたりするのか?
「腹を括れ!禊は既に済んだ!後は楽園を眺めるだけなんだよ!な!」
「あ、ああ……」
よし、目的地まであと10m。裏に回ってマジックミラーで一方的に眺め続けられるってわけだ!
「な、なぁ、俺ここで待ってるからさ、お前先一人で行ってこいよ。人が多いとばれちまうことだってあるだろ?」
「そ、それもそうだな。なら、先に行かせてもらうぜ?大丈夫だったら合図だすからよ!」
「お、おう……」
更衣室へ、1歩、また1歩。緊張と期待で胸がいっぱいになる。
到着。マジックミラーの向こうを見る。
「……?」
あ、あれ?なんかみんなこっち向いてる……?
ま、ま、ま、ま、ま、まさか、ばれてる!?
それもみんな、怒っているというより、なんか人ではないものを見るような目で、何人かは不思議な物を見るような目で見てくる。
――にやり。
杏が不敵な笑みを浮かべた。
背中に一滴の冷汗が流れる。
終わった。
義之、まさかこれ知って……?
「ひゃあ、ご、ごめんなさいでしたぁ~!!」
これはやばい!
俺は全速力でそこから逃げ出した。
「うわあああああああああああああああああ!!」
義之が不思議そうな目で見てくる。
やめてくれ、俺は、終わったんだ……。
~義之side~
渉の気合の入った説得に流されちゃったけど、気がのらねぇなぁ。今回はみんなで楽しむために来てるんだから、欲望全開で行動するのもどうかと思うわけで。
「うわあああああああああああああああああ!!」
なんか馬鹿が叫びながら走ってくる。ばれちゃったのかな?
面倒なことになる前に、ここから立ち去るか。光雅の作業でも手伝うか。
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~光雅side~
ビーチパラソルやベンチなどの準備を全て終え、杉並はなんだか仕込みに行くとかでどこかに消えた。俺は退屈なのでベンチで横になっていた。すると――
「あ……ああ、ああ……」
渉がゾンビのように顔面蒼白になって帰ってきた。後ろから義之も。
「渉、どうした?」
「……」
「さあ?」
「ふぅん?」
何があったかは知らないが、まぁいいか。
暇だ。ストレッチでもするか。
体を起こし、ベンチから降りる。
近くで右足で立ち、左足の爪先を持って、その踵が尻につくように持っていて、腿の筋肉を伸ばす。
時間を置いて反対も。
「光く~~~~ん!」
音姉が呼んでいる。渉がびくっとするが、気にしないでおくか。
「見て見て!どう?似合う?」
音姉はオレンジ色の水着を身につけ、くるくる踊っていた。何をそんなにはしゃいでんだか。
「うん、よく似合ってるよ。」
「本当?よかったぁ~♪」
「ちょっと、お姉ちゃん、待ってください!」
由夢は薄い黄緑色の、フリルのついた水着。
「ほぉ~……」
義之、さては見惚れたな?
「義之兄さん、あんまりじろじろ見ないでよ……」
由夢が照れながらモジモジする。
こっちも似合っている。
「やっほー!光雅くーん!義之くーん!」
さくらさんが走ってくる。ってか、スク水!?
「えっと、あの、その、何故にスクール水着なんですか?」
「これはねぇ、前におにいちゃん達と一緒に海に行ったとき、おにいちゃんに『スクール水着が似合う』って言われたからねー♪光雅くんのハートを鷲掴みにしちゃおうと思ってー♪」
「さいですか……」
後からみんながやってくる。もちろん杏も。
「ふふふ……」
杏が渉に視線を向け、不敵な笑みを浮かべた。
「!!」
ああ、なんとなく分かったよ。
ちょうどいい玩具を手に入れたといわんばかりの杏、顔面蒼白で帰ってきた渉、特に変わったところのない杏を除いた女性陣。大方、渉が覗きをしようとしたところ、杏がそれに勘付き、何らかの方法で、覗きがばれている、と全員が思っていると渉に錯覚させ、渉がそれにひっかかったが、杏は理由を言わずにみんなに指示だけ出したため、他の人にはわかってない、といったところか。
そういうことなら、渉を元気付けてやるか。
「渉、たぶん大丈夫だ。気づいているのは杏だけだ」
「あら光雅、何があったか知ってるの?」
「そりゃ、渉の性格と、今の状況から判断すれば、大体はわかるだろ」
「流石ね」
「とりあえず、渉、ジュース奢るから元気出せよ」
「そ、そーですねー……」
よし、渉がしゃべった!あと少しだ!
「俺たちも着替えにいこーぜ、渉、義之、杉並。」
「「ああ」」
「俺はもう着替えているぞぉ!!」
「あれ?さっきまで普通の服だったよね!?」
確かに。15秒前に帰ってきたときにはまだ私服だったはずだ。いつの間に……。
「俺くらいの達人になれば、着替えに時間の概念など無くなってしまうのだよ。どうだ白河、非公式新聞部に入らんか?このくらいの技術ならば、いくらでも身に着けられるぞ?」
「どーしよっかなー?」
「まぁ、考えておいてくれたまえ……」
「うん」
ななか、やめておいたほうがいいぞ……。
「そんなことより、お前ら行くぞ」
そうして、俺たちの海は開幕を迎えたのである。
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いま、俺たちは全員で、円になって2つのボールを使ってビーチバレーをやっております。
ルールは簡単。落としたり、ミスったりしたらペナルティ+1。ペナルティ3で、次のぺナ3が出るまで円の中央で砂風呂。いや~、盛り上がるね~。
現在のペナルティ
義之2 渉2 茜1 小恋2 ななか1 音姉1 由夢1 さくらさん1 他0
小恋→茜→由夢
「あわわわわわ、茜!」
「うふふ~、由夢さん、いっくよ~!」
さくら→義之→由夢
「義之くーん!えい!」
「おっと、由夢!」
「え?え?ちょ、待ってください!」
2つのボールが由夢を襲う。
「(どっちかひとつでも返さないと……!)」
由夢→ななか
「白河先輩!」
「はーい!」
義之から来たボールを由夢が繋ぐ。しかし、茜のボールを拾うことはできなかった。
「はーい、由夢ちゃんペナルティ2!」
「はうぅ……」
「次、行きましょ」
「そうだね!」
ボールは由夢とななかからスタート。
由夢、ななか→光雅
「光雅兄さん!」
「光雅くん!それ!」
2つきやがったか。だが、俺にとっては2つ来ようが、10来ようが、全部拾ってやるぜ!
「行くぜ!音姉!杏!」
俺の俊敏なターンで2つとも的確に繋ぐ。ふっ、楽勝……。
「流石は我が同志だ、やはり、このまま捨て置くにはもったいないなぁ……」
だからてめぇの同志なんかじゃねぇって……。
光雅→音姫→渉
「光くんのボール、絶対繋げるね♪」
割と緩めのコース。
「板橋くん!」
「おっしゃあ!音姫先輩からのボール、命に代えてでも拾ってやるぜ!」
完全復活した渉が気合で燃える。
「杉並!」
光雅→杏→小恋
「ふふ、行くわよ、小恋」
「ふぇ!?また!?」
「はい」
杏が小恋にボールを繋ぐが、割とキツめのライン。
「うわぁあ!」
拾えなかった。ぺナ3。
「そんなぁ……」
「小恋ちゃん、ペナルティ3だよね~。ほら、真ん中で寝た寝た♪」
「うう……」
小恋が中央に仰向けになり、みんなから砂をかけられる。ついには頭しか見えなくなった。
「これ恥ずかしいよ~……」
「罰ゲームなんだから我慢しなさい」
「はうぅ……」
「次行こうぜ」
ボールは杉並と小恋の隣の由夢からスタート。
杉並→茜
「行くぞ花咲!俺の美しき放物線を描く、究極のボールを受け止めよ!」
「ちょっと、なにそれ……?」
「ゴンザレス!」
謎の掛け声と同時に飛び出す剛速球。
y=-x^2の放物線の癖に速い。
「うっそ!?速くない?」
とりあえず拾うことには成功した。
「ゆ……由夢さん!」
由夢→杏
「そうですね……。雪村先輩!」
「オッケー」
「あ、向こうからも!」
茜→由夢
「え!?ちょっ!?」
茜が放ったそれはかなり遠くに飛んでいく。
「はぁっはぁっはぁ……きゃっ!」
由夢が砂に足を取られ、転ぶ。
「あいったたた……」
「由夢さん、大丈夫?」
「え、ええ。でも、少し疲れたので休憩を取りますね」
「ごゆっくり」
「失礼します……」
「……」
義之がベンチに戻っていく由夢を見つめる。
「俺、ちょっと行ってくる」
義之もベンチに向かっていった。
「義之ってホント優しいよな」
「そうだね」
音姉も同様の感想を持っていたようだ。
~由夢side~
ビーチパラソルの下のベンチから遠くを眺める。聞こえてくるのはお姉ちゃんたちの歓声、潮の音、鳥の鳴き声。1人になったことで開放されたのか、ほんの少し眠気が襲ってきた。
「ふぁぁああ~」
伸びをひとつ。楽にしているのはいいが、やはり1人はなんとなく寂しい。
遠くから足音がこっちに向かってくる。誰だろう。
「由夢」
義之兄さん?
「どうしたんですか?」
「いや、ゆっくりするとはいえ、1人は寂しいだろ」
「べ、別に寂しくありません!子供じゃないんだから……」
図星だった。本心がばれるのは恥ずかしいので、慌てて目をそらす。
「私のことはいいですから、みんなのところに戻ったらどうです?」
「なんだ?そんなに俺と一緒にいるのが嫌か?」
「や、そういうわけじゃ……」
「じゃ、こうしよう。俺も休憩。別に由夢と話しに来たわけじゃない。これでどうだ?」
「す、好きにしてください……」
隣のベンチに義之兄さんが腰掛ける。私の想い人が隣にいる。今の私の顔はきっとトマトのように赤いだろう。
そう、私は義之兄さんが好きだ。光雅兄さんもいいけど、義之兄さんはお母さんが亡くなった後、私にいつも寄り添っていてくれた。義之兄さんはとても温かかった。優しかった。いや、今も温かいだろうし、優しい。時には意地悪にもなるけど、それでも、私にとっては最高の兄であり、最高の男性だった。
「なぁ、由夢」
「なんですか」
「旅行、楽しんでるか?」
でも、義之兄さんはそんな私の気持ちに全く気付いてくれない。私の2人の兄さんは、本当に鈍感だから。それとも、私が素直になれないから?
「ええ、まぁ」
「そっか」
今も、義之兄さんが隣にいなかったら、『なんとなく寂しい』気持ちを1人で抱え続けただろう。義之兄さんがいてくれるおかげで、安心していられる気がする。
「義之兄さんはどうなんですか?」
「そうだな、……楽しいよ。杉並がいて、渉がいて、杏や茜、小恋やななか、音姉に光雅、いつも仕事で忙しいさくらさん、それから由夢。みんながここにいるんだ。来て良かったって心から言える」
そうか、そうだよね。義之兄さんはみんなのことが好き。それは、仲間として。そして、私たちは家族として。光雅兄さんも、義之兄さんも、『仲間はずれ』が嫌いだからね。
「だからさ、お前が何か1人で悩んでるような顔してたからさ、ちょっと心配になったんだ」
義之兄さんは、私のこと“も”ちゃんと見てくれている。もちろん、『家族』として、大切な『妹』として。嬉しいけど、ちょっと悔しかった。
「別に、悩み事なんて、ないよ……」
「そうか?まぁ、あれだ。なんかあったら、遠慮せずに言えよ?俺でも、光雅でも、音姉でもいいからさ」
「う、うん」
「ちょっと、行ってくる」
そういって、義之兄さんはみんなのいる方向とは少し違う方向に歩いていった。どこに行ったんだろう。
義之兄さんがどこかに行くと、眠気が襲ってきた。少しだけ、そう、少しだけ眠ろう。
……。
――ぴちゃ。
額に冷たい何かが触れた。
「冷たっ!」
目を開ける。そこには義之兄さんが立っていた。
「いきなり何するんですか!」
「せっかく人がジュースを奢ってやるってのに、帰ってきたら眠り姫になってたから、キスの代わりにこいつで起こしたんだよ」
「――っ!?」
キスのほうがいい、なんて言えない。
「ほら、飲めよ」
義之兄さんからレモン味の炭酸飲料を受けとる。ふたを開けると、プシュッと爽快な音が鳴った。
「えと、その、あ、ありがと……」
やっぱり義之兄さんは優しいな。
そんな義之兄さんに、私はますます惹かれていくのでした。
後編に続きます。
この小説、アイシアとかまひるとかの出番あるかなぁ……?