D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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――あの子たちを、守ってあげて。

――はい。


光雅と姉妹とお母さん

悔しかった。俺はあの人を助けられなかった。

自分の力の無さに絶望した。

俺たちの母さん、由姫(ゆき)さんが亡くなった。

気が付いていたのに――彼女が何かしらの魔法のせいで衰弱していたことくらい。何度も使えそうにない魔法を起動させようとして、その度にもうやめなさいと諭すように止められて。そして彼女を助けられず、俺はこんなところで生きている。誰もが悲しみに暮れている中で。

それでも……それでも俺は、残された人たちを幸せにしてやらなくちゃならない。それが、由姫さんが俺に託した遺言であり、願いであったから。

 

由夢は悲しみに打ちひしがれていたが、立ち直った義之が、ずっと寄り添っていてくれたおかげで、少しずつ笑顔を取り戻していった。しかし、音姉(おとねえ)は、母の死をきっかけに、俺たち家族を避けるようになった。

 

ある日、音姉が家出をした。

いつもなら食事のときには一応帰ってくるのだが、今日は3時になっても帰ってこない。心配になった俺は、家を飛び出して音姉を探しに走り回っているのである。

 

「はぁっ……はっはっはぁッ……」

 

子供の姿とは言え転生する際に、魔法の使用に耐えうるような強靭な肉体と身体能力を秘めているみたいだが、それでも未熟な発達段階に全力疾走を継続させられる程の体力は存在しないようだった。息も絶え絶え、どこを探しても見つからない。

くっそ……。どこにいるんだよ。

もう日は暮れ始めている。もう5時といったところか。

 

「もしかしたら……あそこか?」

 

あそこにいなきゃ、もう当てはない。

彼女があそこにいることを願って、俺は脚を進めた。

桜公園の奥、海の見える高台へと。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いた。1人静かにベンチに座っている。栗色の髪を風に靡かせて、しかし透き通るような青色の瞳は悲しげというより、虚ろだと言った方が適切なほどに、何も映してはいなかった。

そんな彼女を刺激しないように、俺は音姉に話しかけてみる。

 

「音姉」

 

「……」

 

予想はしていたが、声をかけても返事はなかった。振り返る素振りも、何かしらの反応も、全く見せてはくれない。

 

「音姉。聞こえてる?」

 

「……聞こえてるよ」

 

やはり俺のことを避けている。まぁあれだけのことがあったからな。

音姉は誰よりもお母さんっ子だった。基本的に病院で入院生活を送っていた姉妹の母、由姫さんに会えると知れば、真っ先に喜んでその仏頂面を笑顔で輝かせたのは音姉で、逆に言えば、彼女が心の支えにして、唯一信頼し身も心も委ねられたのは由姫さんだけだったということに他ならない。

そして先日、その支えを突然にして失ってしまったんだ。

 

「なぁ、由夢と義之と純一さんが心配してるぜ?音姉のこと……。誰とも話そうとしないし、食事もまともにしない。そんなんじゃ、音姉がぶっ倒れるぞ?」

 

「……いいの、私は病気になりたいんだから」

 

「いいわけないだろ。みんな悲しむぞ?音姉も由姫さんみたいになるのは、みんな辛いからさ」

 

「いいの!」

 

音姉が声を荒げる。

あまりの剣幕に、その悲痛な表情に、次の言葉が見つからなかった。

 

「音姉……」

 

「……このままずっとごはん食べないで、病気になって……そしたら……」

 

唇を噛み締めて、ため込んでいる涙が溢れないように堪えて、音姉は、俯いた。

 

「そしたらお母さんと同じ所にいけるんだもん……!」

 

悲痛な声を上げて泣き出す音姉。その表情に希望は無かった。

 

「……いいの、もう……。だって……みんなには分からないもん。お母さんがいないと……。私一人だけなんて……嫌だよ……っ」

 

音姉は何かを訴えるような目でこちらを見ている。

俺は、舞い散る桜の花びらを1枚掴んだ。

そして形が崩れないようにそれを握り締め、魔法を掛ける。

 

「これ、やるよ」

 

拳を開くと、そこには桜色の光を放つ、桜の花びらの形のペンダントがあった。

うん、上出来。

 

「え、え、これ、どうやって?」

 

突然で、不可思議な出来事。

本来この世界で受け入れられない力、魔法。

それを目の前にして、音姉は目をまんまるに広げた。

 

「創ったんだ。魔法っていえば信じられるか?」

 

音姉がそっとそれを受け取る。

 

「魔法……」

 

俺は、音姉に自分に何があったのかを話した。

前世のこと、1度死んだこと、神のような人の話、転生、そして力のこと。全て。包み隠さず。それが2人を近づける切欠になってくれると信じて。

 

「そん……な……そう……だった、んだ」

 

さすがに驚きを隠せない様子。まぁな。全部信じろってほうが無理だろ。

 

「……キミも、魔法が使えたんだね」

 

――え?キミ“も”?

 

「じゃあ、おかえし」

 

音姉が手を握り、そして開く。そこには大福がちょこんと乗っていた。

これも魔法なのか。

俺が使うような派手なものではないけど、それは、笑顔が象徴されているように思えた。

魔法使い。それは俺やさくらさんだけではなくて、音姉もそうだったんだ。でも確かに由姫さんも魔法のことは知っているみたいだったし、彼女が魔法使いだったのならば、その娘も魔法使いになり得るのだろう。

そして、それはきっと、誰にも言えない、1人で抱えるべき秘密だったのだ。

 

「ふふ。和菓子、嫌い?」

 

「……ふふっ、そんなことない」

 

よかった。やっと音姉が笑ってくれた。

俺が大福を味わっていたら。

 

「私は、正義の魔法使いなの」

 

小さな体で精一杯胸を張って、自分は凄いんだぞとばかりにそう言う。

正義の魔法使い――いかにも子供らしくて可愛らしい名前だ。

 

「正義の魔法使い?」

 

最後の一口を放り込む。

 

「ふぅ。おいしかった」

 

おっと。ついうっかり独り言いっちゃったぜ。

 

「ふふ」

 

音姉はそれを聞いて微笑む。自分の出したお菓子に、そして魔法にある程度自信があるのだろう。それか、俺が音姉の魔法を認めたと思って嬉しく思ってるんだろうか?

 

「だからね、魔法の力はみんなに秘密にしてるの」

 

音姉は自慢げに俺にそう告げる。

他人にはない何かを持っていて、それでいてそれを共有できる者がいる、それは、嬉しいことなのかもしれない。

 

「だって、正義の味方って、正体を隠すものでしょ?」

 

やっぱり、まだまだ子供なんだな。

 

「そっか」

 

「だから、魔法が使えることは2人だけの秘密。いい?」

 

「ああ」

 

そういったことに魅力を感じてしまう俺も、まだまだ子供なのかもな。

 

「ねぇこー君、秘密をきょーゆーするってことは、いっしんどーたいになるってことなんだよ」

 

こー君、か。うん、悪くない。

 

「一心同体か……」

 

「こー君は、わたしと、いっしんどーたいでもいい?」

 

不安そうな表情で訊ねてくる。

 

「ああ、いいよ」

 

「じゃあ、約束の証に、ゆびきり」

 

「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーます」」

 

小指を絡めて、リズムに合わせて上下に振って。

音姉の声音は、弾んでいた。

 

「「ゆーびきーった」」

 

音姉は、今までに見たことの無い綺麗な笑顔で微笑んだ。

それからしばらく、音姉と2人で他愛無い話をしていたが、疲れていたのか、音姉は途中で寝てしまっていた。

仕方が無いので、俺が負ぶって帰った。

その間、音姉はずっと、幸せそうな寝顔をしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……う……う~ん」

 

あっと、音姉、目が覚めたか。

 

「もう家に着くからな」

 

「ふぇ!?え?あれ?」

 

あっれ?音姉顔が真っ赤になっちゃった。風邪か?

ずっと外にいたことだし、体も冷え切っているに違いない。食事もまともに採っていなかったのだから、体調に異変が生じるのも無理はない。

 

「ちょっと降りて」

 

俺は音姉をおろして熱を測るため、おでことおでこをごっつんこ。

 

「ふぁ!?……あわわわわわわ……」

 

ますます真っ赤になる。でも熱はないっぽいし……。

 

「うーん、まぁいいや。帰るか」

 

手を差し伸べる。音姉は照れながらその手をとる。

やっぱ顔赤いな。どしたんだろ?

 

「(こー君ってかっこいいな。なんか、白馬の王子様みたい……)」

 

家に帰って、音姉は家族みんなに謝った。もちろんみんな許してくれていたよ。あぁよかったよかった。これでみんな笑顔でやっていける。

 

……由姫さん、俺、がんばります。

 

それが俺の、由姫さんを救えなかった償いであり、そして俺の、新しい使命なのだと、そう信じて。




音姫「私は、こーくんのおおねーちゃんだから、いうこときかないとだめだからね」

光雅「義之、分かったな?」

義之「えっ?」

次回『とある厄日の数奇な出会い』
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