D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
俺は、本当は最初からこの人のことが――
雨の中、ただひたすらに走った。
確かに、命に別状はないはず。
しかし、精神的な面でダメージを受けていないとも限らない。
――音姉は、無事なのだろうか?
あいつらのおかげで、俺は全てに覚悟を決めることができた。
無論、みんなと共に歩む覚悟を。
俺の魔法は、守るためにある。
俺は、正義の味方でも、英雄でも、救世主でもない。
それでも。
周りにいる人たちの、かけがえのない笑顔を守る力を、俺は手にしたんだ。
自惚れでも構わない。
思い上がりでも構わない。
自己満足でも構わない。
――それで、みんなを守れるのなら。
――それで、1つでも多くの笑顔をつくれるのなら。
しばらく走っていると、目的地に到着する。
俺は、びしょびしょのまま病院内に立ち入る。
そして、知り合いの人を見つけた。
「舞佳先生!」
舞佳先生に声をかける。
振り向いた彼女は、俺の格好を見て驚いたようだ。
「あらあら、弓月君、その格好どうしちゃったの?」
「音姉は?」
「はいはい、そんなに慌てなーいの。彼女なら無事よ。会いに行ってあげなさい」
「はい。どこですか?」
「部屋番は、――号室よ。面会はできるけど、その前に、これでちょっと体拭きなさい」
そのタイミングで舞佳先生のμ、名前はイベールというのらしいが、彼女がバスタオルを持ってきた。
「あ、すいません」
そのバスタオルで、頭から豪快に水気を拭いた。
だが、服はどうにもならないだろうから、取り合えず学ランは舞佳先生、というかイベールに預かっていてもらう。
そしてエレベーターで階を上がり、案内板のとおりに通路を進んでいった。
場所はすぐわかった。
というのも、その部屋らしき扉の前に、美夏が椅子に座っていたからだ。
「……弓月か」
「美夏……」
美夏は、何かを言いたげに、こちらを見据えている。
「弓月、ここに入る前に、少し話がしたいのだが、いいか?」
「ああ」
「少し時間がかかるかもしれないが、それでもか?」
「言いたいことがあるならその時に口にしておいたほうが、後から楽だぞ」
「そうか。では聞いてくれ」
美夏は一呼吸おいて、そして話し始める。
「美夏は、間違っていたのかもしれない。」
「間違っていた?」
「ああ。美夏は、まるで自分が1人であるかのように錯覚していたのだ。ただ自分の怒りに任せて、敵を作り、勝手に復讐心を自分で煽り、それで他人に迷惑をかけるようなことばかりをしていた気がする」
美夏の表情は、今まで俺が見たことないほど真剣である。
「でも、ここ最近、いろいろなことがあって、事件があって、理解した。貴様のことも、少しだが分かった気がする。本当に孤独を抱えていたのは、貴様だった。美夏は、そんなことにも気づこうとしなかった」
「そりゃ、俺自身気づかなかったからな」
「そうなのか?まぁ、いい。貴様はそれでも、誰かと関わりを持つことを諦めなかった。1つの社会的生命体としての自分を捨てることをしなかった。悔しいが、美夏とは大違いだ」
いや、違う。それは、俺がただ逃げていただけなんだ。
でも、それでもいいじゃないか。
それが俺の人生だ。
誰にも否定はできない。もちろん、俺自身も否定できない。
俺は、その覚悟を決めたんだ。
「美夏は、貴様たちみたいな人間がいることを知らなかった。とにかく人間が悪者だと決め付けていた。でも、そんなことはなかった。杏先輩も貴様も、美夏を受け入れた。他の連中も、そうだったら嬉しい。だから美夏は思ったんだ」
美夏の心が少し変わった。
そのほんの少しの変化は、世界を変える。
「人間を、信じてみよう、と」
こいつは、自分なりに苦しんでいたのだ。
50年前の人間たちと、目の前の俺たちの態度の違い。
そのギャップに、ずっと悩まされ続けていたのだ。
どちらが本当か。
でも、美夏はやっと気付いた。
どちらも本当なのだと。
「だから、そのきっかけを与えてくれた貴様には感謝している」
もちろん杏先輩にもな、と付け加えて。
「だから、ありがとう。『光雅』」
……今こいつ、俺のことを下の名前で……。
「お前、呼び方……」
「んああ、友達というものは、下の名前で呼ぶのが普通なのだろう?だから美夏も、その作法に則らせてもらう。それに、光雅は最初か美夏のことを名前で呼んでいたからな。……嫌なのか?」
美夏にしては珍しく、不安げな瞳を向けてくる。
「ああ、これからもよろしくな。美夏」
俺たちは、硬く握手をした。
人間とロボットの、厚く固い壁に、ひびが入った瞬間だった。
「もう用は済んだ。貴様の無事な姿を見せてやれ」
「ああ。ありがとな、美夏」
それだけ言うと、美夏は俺が来た道を歩いて去っていった。
「さて……」
そのドアをノックする。
中から返事は――。
「どうぞ」
あった。
俺は、ゆっくりと、その扉を開けた。
6人部屋の一番奥、1人しかいないその部屋の窓際で、静かに外の景色を眺めている、よく知った人の横顔。
その顔が、ゆっくりとこっちを向く。
そして、2人の視線が交錯した。
俺の存在を認めるなり、音姉は、微笑んだ。
「おかえり、光くん」
その声を聞いて、俺は本当に安心した。
涙が零れそうだった。
「音……姉……、よかったっ……!」
つい感極まって、服がまだ乾いていないのを忘れて、ベッドに座っている音姉を抱きしめてしまった。
「うわっ、ちょ、ちょっと、光くん……?」
「本当に、よかった……」
「私なら大丈夫だよ。光くんが助けに来てくれたから」
「俺は、守りきれなかったのに……!」
「守りきれなくても、助けてくれたんだよ。だから、私はここにいる」
音姉の優しい手が、俺の頭を撫でる。
音姉が、ここまで姉らしく思えたのは、これが始めてかもしれない。
……いや、何か違う。
この感情は、そんなものじゃない気がする。
音姉がそばにいるだけで、こんなにも安心できる。
その理由は……。
大切な家族だから?
それもそうだけど、でもそれ以上に――。
――何もかも、簡単なことだったんだな、渉。
俺は、音姉のことが好きなんだ。
姉として、じゃない。
俺が1人の男として。
音姉が、1人の女性として。
そう実感すると、音姉を抱きしめていることがすごく恥ずかしくなった。
だから、悟られないように、そっと放す。
「音姉、いつになったら退院できる?」
「ああ、それならすぐにでも帰れるよ。一応病院にはお世話になっちゃったけど、別にどこか具合が悪いわけでもないしね。ただ、光くんが来る気がしたから、待ってたんだ」
「それは、割と長い間待たせちまったようで」
「それほどでもないよ」
「それじゃ、帰ろうか」
「その前に、着替えちゃうから、ちょっと待っててくれる?」
そういうなり、音姉はいきなり自分の服に手をかけ、脱ぎ始めた。
「うわっ!ちょ、ちょっと待った!出ていくからちょっと待って!」
「なんで?別にいいじゃない、姉弟なんだし」
もう俺にその理論は通用しない。
前から通用していたわけでもないが。
俺はもう、音姉のことを『好きな人』として認識してしまったのだから。
……ああ、考えるだけで恥ずかしい。
とりあえず、俺は急いで部屋を出て行った。
そして音姉は着替えを終え、舞佳先生に挨拶をして、学ランを返却してもらい、傘を1本もらって帰路へとついた。
そう、傘は1本である。
従って、同じ傘に2人で入っている状態。
嫌でも体が密着してしまう距離。
いつもなら俺が拙そうな顔で渋々くっつけているのだが、そばにいるだけでなんかこう、ねぇ……。
ああ、駄目だ、一度気付いてしまったら、どうしようもない。
とりあえず、今日はこのまま帰るとするか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
芳乃家前。
ようやく戻ってきた。
杉並と、由夢との約束を守って。
今ここにいるのが、奇跡なんだと思う。
そして、家に入る。
後ろから音姉も。
ただいま、と言ったのだが、返事はない。
みんないないのだろうか?
ふと気がつくと、客間から明かりが漏れている。
電気の消し忘れだろうか?
その部屋を覗いた時。
「「「「「「「「「お帰りなさい!」」」」」」」」」
そこには、いつも一緒にいる6人に、美夏、そして由夢、さくらさん。
俺が病院に向かっている間、速攻で準備したのだろうか、料理がテーブルに並んでいる。
これほどまでに、嬉しい瞬間はなかった。
幸せだと思えた瞬間はなかった。
俺は。
この幸せを、この世界を与えてくれるここのみんなに。
俺の大切な存在(ヒト)たちに。
心から、感謝をしたい。
第2章終了です。
さて、原作ではクリパが終われば次は各√の分岐があります――が、ここではアニメ√に沿ってスキーに行かせます。
勿論!スキーに行くということは、お約束の○○ゲーム、朝倉姉妹参戦でやっちゃう予定です!
とりあえず次回は今章におけるオリジナル設定みたいなのを上げます。