D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
わざわざスキーまで行ってD.C.特有の謎ドタバタのお話です。
旅行の準備(前編)
よかった。
何もかもがうまくいかないと思っていた中で、唯一救われた希望。
何もかもを諦めようとしていた。捨て去ろうとしていた。
渉はバカだが、かえってその直情的な言葉に、俺は胸を打たれたのかもしれない。
俺は、渉の言葉に救われた。
渉に救われるなんて、今まで一度も考えたことがなかったのにな。
とりあえず、夜になって、時間も遅くなったので、今日はみんな解散した。
そうして。
由夢がいつものジャージ姿で、コタツに入る。
そして、なにやら楽しげにニコニコしながらこっちを見てくる。
「……なんだよ、気持ち悪い」
「や、光雅兄さんが、ちゃんと約束を守ってくれたことが嬉しくて」
「その話はもうしないでくれ。俺の黒歴史だ」
「や、えと、ごめんなさい……」
それでも、感謝しているのは本当だ。
「ありがとうな」
「いえ」
その時、鼻に違和感を覚える。
ムズムズする。
鼻の奥から、何かがせりあがってくる。
「ハックション!」
くしゃみだった。
「ずっと雨に打たれてたんでしょ?風邪引く前にお風呂に入ったらどうです?」
「うーん、そうするかな」
俺は風呂場に向かって、脱衣所で服を脱ぎ捨てる。
そして、湯船の外で体を洗って。
浴槽に体を沈めた。
40度のお湯が体に心地よい。
「ふぅ~、極楽極楽……」
なんていうか、生きていることを実感する。
「光くん、湯加減、どう?」
「ああ、ちょうどいいよ」
誰か脱衣所に入ってきたと思ったら、音姉が湯加減を確かめに来ただけだった。
「そっか、よかった」
そうやって気遣ってくれるところに、いちいち喜びを感じてしまう。
これが、恋ってやつなのかな……。
だめだ、考えるだけで恥ずかしい……。
――シュルッ、サッ、パサッ。
扉の外で、なにやら衣擦れの音が。
心なしか、モザイク掛かっている扉の窓の向こうに、肌色の占める割合が大きくなっているような。
……ハハハ、まさかな。
まさかな……。
「入るよー♪」
「なん……だと……!?」
だが、誰も彼女の進行は止められない。
長い髪を頭のところで軽く括って、その滑らかな白い裸体にタオルを1枚巻いているだけ、というあまりにもおかしな状況に俺自身混乱してしまう。
「って、なんで入ってくんのさ!?」
「いいじゃない、断ったんだし」
「それ回答になってねぇ……」
「入るよって、ちゃんと言ったよ?」
「俺は了承していないのだが……」
だが、入ってきてしまったことには仕方がない。
無理に押し出して音姉が風邪をこじらせてしまっても嫌だし、何より俺自身が動けなくなりそうだ。
俺のアルティメットドラゴンが目を覚ましそうだ。
だって仕方ないだろ?
俺だって一応健康な思春期の男子なんだし、目の前にはもう1人の女性としか見ることができない人が半裸体で座ってるんだし。
って何考えてんだ、俺は!?
「それじゃ、体洗うねー」
何でそんなにのんびりとしていられるのだろうか。
俺はこんなにも焦って緊張しまくってるというのに。
……ちょっと待て。体を洗うということは、タオル巻いたままだと邪魔だよな?
となるとつまりその。
うわーーーーーーーーーーーーー!
駄目だ、何も考えるな。
あそこにあるのは、ただのシャンプーのボトルなんだと思えばいい!
そう、ちょうど音姉の格好してて、あまつさえ動くシャンプーのボトル・・・。
ってそれ結局音姉じゃん!
とにかく、端っこに小さくうずくまって、なるべくそれが視界に入らないように、反対を向いておとなしくしておく。
音姉が体および頭を洗い終えたようだ。
なんかすっげー長かったような気がする。
「それじゃ、おじゃましまーす♪」
「ゑ?うわあぁああぁあぁぁあああああ!!」
ちょっと振り返ったのが拙かった。
もろ視界に入ってしまった。
慌ててそっぽを向く。
「光くん、何で向こう向いちゃうの?」
俺のリミッターが外れてしまいそうだからです。
「いや、いろいろと拙いだろ、これ……」
「何で?姉弟だから、問題ないでしょ?」
「いや、普通姉弟でも、この年になって一緒に風呂とかありえないから」
「仲良し姉弟だから、いいじゃない。ほら、こっち向いて、お話しよ?」
ああ、もう、なんでもう、こうなっちゃうのかなぁ……?
「光くんが元気で、よかった」
音姉が静かな雰囲気の中、そう言葉を漏らす。
「……それはこっちの台詞さ」
「ううん、体のことじゃなくって、光くん、魔法を使うことを極端に避けて、自分を追い詰めているように見えたから」
確かにそうだった。
音姉から、魔法を使わないという十字架を貰って背負うことで、赦しを得たんだ。
「私は、光くんが、逃げているようにも見えたの。……あの夏の日から」
音姉は、渉たちと同じことが言いたいのだろうか?
「でも、私は、光くんに誇りを持ってほしかった。光くんが今までしてきたことに」
音姉は俺の左腕を取り、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫の文様を眺める。
「光くんは、この力に魅入られたとしても、自分を捨てるようなことはしなかった。それは、自分の力に誇りと、責任を感じている、っていうことじゃないかな?」
俺は自分の在り方を見つけた。
ただ力を授かって、何かを成し遂げたようで何もしていなかった自分に、その道筋を照らしてくれた俺の仲間たち。
そんな大切な存在をこれからも守り続けるために、その心に笑顔を咲かせられるように、俺の魔法を使いたい。
「ああ。俺はもう、逃げない。自分がどうしてここに来たのか、その目的も再認識させられたからな。もう、自分の力に踊らされることはないよ」
「それが聞けて、安心した」
音姉が、にっこり微笑む。
それを見て、俺はまた1人で悶えてしまうのだった。
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翌日。
俺の携帯が鳴り響いている。
こんな朝っぱらから、一体誰だろうと携帯を開いて時間を確認すると、既に9時を回っていた。
慌てて電話に出る。
「もしもし?」
『あ、光雅?今すぐ来なさい。場所は花より団子。義之も連れてきて』
「ちょっと待った」
電話の相手は杏だった。
唐突な呼び出しに若干動揺するが、杏はお構いなしに電話越しで話を続ける。
『問答無用。暇でしょ?暇よね?』
「まぁ、暇だけど」
『それなら早く来てちょうだい。話したいことがあるから』
――プツッ。
切れてしまった。
仕方がないから、義之起こして、行くだけ行ってみますか。
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「眠い……」
「帰って寝ろ」
それが何を意味するのか分かってるよな?
きっと杏があんなことやこんなことを……。
義之を叩き起こして、花より団子に向かう。
もうこの際なので、朝食はそこで済ますことにした。
そして、目的地に到着。
そこにいたのは、杏、茜、そして美夏だった。
「2人ともおはよー!」
茜は朝から元気である。
「あれ、天枷も?」
「なんだ桜内、美夏がいるといけないとでもいうのか?」
「いや、別にそんなんじゃないけど……」
はい注目、と杏が注意を引く。
そしてそのまま話し始める。
「私たちは明日から2泊3日でスキー旅行に行きます」
「……今なんて?」
「んもう!1回でちゃんと聞いてよ!いい、義之くん?もう1度祖しか言わないからよーく聞いてね」
そして深呼吸。
「私たちは」
「はい」
「明日から」
「はい」
「2泊3日で」
「はい」
「スキー旅行に行くことが決まったんじゃなーい!うわーっ、楽しみーっ!」
「はぁ?」
「みんなって誰?」
すかさず俺も質問を挟む。
特に気にする要素でもないけど、知っておいて損はないだろうと思った。
「私と、杏ちゃんと、小恋ちゃんと、白河さんと、天枷さんと、渉くんと、杉並くんと、それから、ア・ナ・タ・タ・チ!」
なにやらさっきから茜が嬉しそうである。
そんなにスキー旅行が楽しみなのだろうか?
俺は正直昨日の件もあって大変疲れてるんですが。
「悪いけど、もう予約金も払ってあるから。一応私が立替でね」
これはまた用意周到なことで。
「それはそうと、明日はちょっと急なんじゃ?」
「いろいろあったからね。それに、あんたたちが無事帰ってこれたことのお祝いだって兼ねてあるんだから感謝なさい」
「それはありがたいことで」
「それで、2人は行くのー?行かないのー?」
決まってしまったものは仕方がない。いつものことだから流されてやるか。
「今更行きませんなんて言ったら、結局キャンセル料取られるんだろ?楽しみだし、行くよ」
「おま、マジか!?」
「もちろん、オマエモナー」
「はぁ……」
はい、義之陥落。
「それと、もう2人――」
「大丈夫よ。音姫先輩と由夢さんでしょ?ちゃんと頭数に数えてあるわ」
「手回しがえらく早いな……」
「あんたなら2人を連れて行きたがると思って」
何故杏がそこまで気を配ったか、俺にはさっぱりわからなかったが、経験則というかそういったものでの判断なら、こいつは本当にすごいと思う。
「グッジョブ」
「崇めなさい」
とりあえず、その場で軽く朝食を取りながら、概要を説明してもらう。
値段は安く上がりそうだ。
問題は、あの姉妹が了解取れるかどうかだな。
一旦帰って、その辺確認しとくか。
義之「巻き添えは良くないと思うんだ。」
光雅「じゃあお前1人お留守番でその間電気、水道、ガス及び食料を一切使っちゃダメだぞ?」
義之「どうしてそうなる……?」
光雅「まあいいじゃねーか。お前スキー好きだろ?」
義之「んまぁそうだけど……」
後編に続く。(ウダダーウダダーウダウダダー)