D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
また、それと相反して。
多すぎる荷物には、恐怖と疲労が伴うのだ。
一旦家に帰り、準備どうすっかなーとか考えていると、音姉たちが芳乃邸に上がってくる。
「今年のお正月はどうするー?」
「そうだね、んー、そうだ、二日参りとか行かない?」
「それもいいけど、家でのんびりしてるのもいいなー」
「それもそうかな」
女の子というのは遠い先の話をするのが大好きである。
とりあえず、用件を述べよう。
「あのさ、音姉、由夢」
「「ん?」」
俺の声に2人が振り返る。
「俺たち、スキー旅行に行くことになった」
「は?」
「いきなりだね……」
由夢は混乱したようだが、音姉は理解したようだ。
「いきなりだな」
「いつから?」
「明日かららしい」
「明日ぁ!?」
由夢が素っ頓狂な声を上げる。
「本当にいきなりだね……」
「本当にいきなりだろ」
「それで、お正月にはいないの?」
捨てられた子犬のような顔で見つめられる。
「いや、29日には帰ってこれるってさ」
ふぅん、と音姉が安心した返事をする。
というかすげー嬉しそうだ。
正月はそれほどまでに家族で一緒に過ごしたいのだろう。
「それで、音姉たちもどうかなって」
「私たちも行っていいの?」
「杏が勝手に俺たち4人も頭数に入れて予約取ったんだってさ」
ずいぶんと思い切ったことをした、と2人とも同じ見解である。
「駄目な時は言ってくれれば、キャンセル料は俺から出しとくから」
「それで、旅費はいくらなの?」
「交通費とか宿泊代とかいろいろコミでジャスト1万円だってさ。安くない?」
「すっごーい……」
これには音姉も驚く。
俺も当初はもっと行くと思ってたからな。
「由夢ちゃん、どうする?」
「寒いのやだな……。でも、楽しそうだし……」
「美夏も来るってさ」
「天枷さんも?」
このタイミングで、テンションの高い家主が帰ってきた。
昨日の事件のことで、警察とかにいろいろ回っていたらしい。
さくらさんはこの島ではいろんな意味で有名人だから、どの方面にも顔が広い。
さくらさんが恐れるものは学園の理事の人たちぐらいだろう。
「なになに?何の話をしてるの?」
「ああ、さくらさん、お帰りなさい。今光くんたちがスキー旅行に行くついでに、私たちがどうするか話してるんです」
「スキー旅行?ボクも行きたいなー」
さくらさん、会話の流れを考えずに自分の願望だけを口にする。
「でも、ボクはお兄ちゃんたちと温泉旅行があるから、一緒には行けないや。ボクはボクで楽しむから、キミたちも学生らしく冬休みを満喫しちゃってね♪」
さくらさんもコタツに入ってヌクヌクし始めた。
「あったかーい……」
すると、いつの間に部屋をでていたのか、音姉がお茶の準備をして戻ってきた。
お礼をして、お茶を啜る。
このにごりがいい……。
「それで、どうするの?」
「兄さんたちもさくらさんもどこかにいくなら、私たちも行きましょう、お姉ちゃん」
「そんな意地張らなくても……。でも、確かに悔しいから、行こうかな?」
「了解。それじゃ、準備は今日中に」
「「はーい」」
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「そういえば義之ってスキー上手いよな?」
「まぁ、得意ではあるな」
音姉と由夢は中級者である。
去年の学校でのスキー旅行は、義之は運悪く高熱で休むことになった。
その時の様子を見るに、小恋と渉は真の初心者、杏は完璧なボーゲンで滑れる、同じく中級者。茜もボーゲンを卒業したばかりの中級者。
杉並はやはり上級者である。俺はスキーもできるが、どちらかというとスノボのほうが好きだ。
マイボードも持っていて、冬場が楽しみだったりする。
今年は非公式で旅行だから、持っていっても誰からも咎められない。
存分に滑るとしよう。
「お前、今年はスノボするの?」
「当然」
「小恋たちに見せるのは初めてだっけか?」
「そういやそうか。あいつらとは一度団体で公式に滑っただけだったからな。こいつは楽しみだ」
「ははは」
ちなみに、ここはスポーツ用品店である。
この冬場、シーズンのスキーやスノボ、そして冬用のウェアなどが大きく売り出されている。
冬休みなのもあって、客足も多い。
俺は別にグッズはある程度そろえてあるので、今日は主に新しいウェアを見に来たのだ。
コーディネートは大事ってね。
小遣いは大分あるので、多少値段が張っても大丈夫だ。
見た目良さげなニット帽を手に取る。
お値段、5千円。
かなり高いが、この帽子、防寒性がハンパないらしい。
高くてもおすすめ商品としてピックアップされているくらいだ。
なに、躊躇うことはない。すぐに買い物かごの中に入れる。
スノーグローブもついでに見る。
新しい、イカしたデザインのがあったため、これもかごに。
お値段、2千5百円。
ウェアは高いからこれだけでいいや。
「義之、こっちいいぞ」
「終わった?」
「あら、光雅?」
なんと偶然にも杏に出くわした。
「準備中?」
「そうだな。お前、まだ準備できてなかったのか?」
「ウェアを向こうで借りようかと思ってたんだけど、やっぱりそれじゃ面白くないから、買う事にしたの」
なるほど、やはり女の子も自分のオシャレは決めておきたいって寸法か。
「でも、どれにしたらいいか全然決まらなくて」
「見繕ってやろうか?」
「あら、今日で私は光雅色に染め上げられるのね」
「話が飛躍しすぎだ。戻って来い」
「紫の上ね」
「ちげーし。さっさと行くぞ」
義之にもう少し待ってもらうように言って、杏のウェア選びの手伝いを始める。
「これなんかどうだ?」
「ちょっと派手じゃない?」
「いや、スキー場だとかえって目立たなくなるから、割と派手なほうがいいぞ」
「みんながみんな派手なのを着るのね」
「そういうこと」
「それじゃ、これ、キープね」
即決じゃないのか。
やはり女。買い物には時間がかかる。
「私は小恋みたいになんでもほいほい買うような人じゃないの」
「あ、そ……」
そして杏はいろいろ吟味していく。
そしてひとつ気に入ったのがあったらしく、それを手にする。
「これはどうかしら?」
柄的にはいいのだが、杏に合うかといえばそうでもない気がする。
「確かに派手だが、それはお前には合わんぞ。それなら、こっちはどうだ?」
似たような柄で、杏がいつも私服として着ているゴスロリ調の服のデザインを考慮して、杏らしいと思う1着を選択。
「いいわね。それにするわ」
即決だった。
「お前、さっき自分で何を言ったか覚えているか?」
「私は何も言ってないわ。私は覚えていない、つまり私はあんたに何も言ってないのよ」
「嘘付け……」
とりあえず反応できるだけ反応したけど、どうもこいつには口では勝てない。
暗記術でモノにしているボキャブラリは、頭の回転の速い杏にとって、鬼に金棒なのだろう。
「それにしても、いいよな、お前の暗記力」
「別にいいことばかりじゃないわ。なんでも見聞きしただけで覚えられるってことは、忘れたいことだって忘れさせてくれないってことなの」
確かにそれはそうだ。人間、そう簡単に人生楽できないのだろう。
でも、その暗記術とやらを使わなければ、そんなことはないのではないか。
いや、そんなことが出来れば、今更そんなことを呟いたりはしないだろう。
訊くだけ野暮ってもんだ。
「何か忘れたい過去とか、あったりするのか?」
「そりゃ、人間生きてりゃ忘れたいことなんて山ほど出てくるでしょ」
「それもそうか」
「ほら、さっさと会計済ますわよ。義之も一緒なんでしょ?」
杏に促されて、義之を呼び、会計を済ます。
店の入り口で杏と別れて、自宅に戻った。
ちなみに、義之は新しい手袋を買っただけだった。
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自宅にて。
昼食を済ませ、早速明日の準備を進める。
とりあえず3日間だから、その分の着替えと、予備をもう1日分。
それと洗顔セットに、頭痛薬、腹痛薬。
バスタオルは……向こうにあるだろ。
それから、押入れから、マイボードを引っ張り出す。
今年もこいつの世話になるとは、なんとも感慨深い。
それと、その傍からスキー用ゴーグル。
かなり吹雪いてない限り、着用することはないが、オシャレには欠かせない必需品である。
スノボウェアも忘れずに入れておく。
買ってきたスノーグローブとニット帽も突っ込み、準備完了。
……そういえば。
もうひとつ、確認しておかなければならないことがある。
俺の新しい“力”。
≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫。
旅行途中にこいつが暴発してしまうわけにもいかない。
こいつがいったい何なのか、その概要を確認し、どんな時にでも制御しておく必要がある。
そういう訳で、久しぶりに能動的に使う魔法。
空間を作成する魔法、≪幻想空間(ヴィジョンスクエア)≫。
次の瞬間、俺は真っ白な空間にいた。
何もない世界。
だが、それでいい。
自分の袖を捲くり、腕の紋様を見る。
そして覚悟を決めて、展開。
力が欲しい、全てをぶち壊してやりたい、そんな衝動に駆られる。
これが俺の力の、『孤独』。
そしてこの力の驚くべき実態が分かった。
この能力、なんと、俺の中に存在する魔力が無限になる。
どうやら、先程の力の渇望、破壊衝動が想いの力となって永遠に魔力を喚起させているようだ。
つまり、力が欲しいと思えば思うほど、破壊の限りを尽くしたいと思えば思うほど、この力は強くなるのだ。
なんとまぁ、おぞましい力だろうか。
1歩間違えば、世界が滅ぶ、そんなチート級の力だぞ、これ。
試しに複数の浮遊物体を召喚、ターゲットとして配置する。
そして俺は雷撃を瞬間的に周囲に拡散させる。
壮大な爆発音。破壊力は凄まじい。
そして、攻撃を加える際、アシスタント的な機能が働いて、方向の調整を自動で行ってくれる。
だから命中率は100%。
やべぇ、これTUEEEEE。
こんなの、使いどころないだろ。
どこで使うんだよ、このチート。
更に、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫に記録されている攻撃魔法もあるようだ。
威力を鑑みるに、恐らくこの空間が吹っ飛びかねないので、使用は自重しておこうか。
こんな危険な力、野放しにしておいたらいつ暴走するか分からん。
あらかじめ圧縮して抑制しておこう。
力を仕舞い、その上から≪魔術創造(マジカルクリエイト)≫でラッピングしておく。
ぶっちゃけ、この作業だけでかなり体力と精神力が削られた。
もうだるいので、≪幻想空間(ヴィジョンスクエア)≫から離脱する。
さて、部屋に戻ってきたところで、音姉がいたことに気付く。
「光くん、お帰り」
「えっ、ちょっ、音姉、何でいるの!?」
「光くん準備済んだかなって」
突然の状況に頭が上手く回らない。
音姉のことが好きだと思え始めてからずっとこうだ。
「えーっと、す、済んでるよ。それより、音姉は?」
「私もばっちり!……なんだけど、ちょっと来てくれる?」
「あ、いいけど、どうかした?」
「ちょっとね。ほら早く」
音姉が俺の手を取って俺を連れて行く。
その動作に、ドキッとする。多分今の俺は誰から見ても顔が真っ赤だろう。
あ~あ、ホンットダメだわ、これ。
ただでさえ音姉は美人なのに、なんか変なフィルターが掛かってらぁ。
というかもう動作一つひとつに目が行ってしまう。
もういっそ告白してしまおうか。
……いや、それは俺のエゴだ。
もし音姉が今の家族のような関係を望んでいるのだとしたら、俺はその願いまでも踏みにじってしまうことになる。
今はまだ、いいだろ。
そして、久しぶりの音姉の部屋。
女の子の部屋特有のいい香りがする。
だからまた俺の心臓はバクバク言う。
そして、その部屋の隅に聳え立つものを見て俺は――。
「うわぁあああああああああああ!!!!」
恐怖した。
自称『出来損ないの魔法使い』が見た夢。
それは他の誰でもない、異世界から来た者の夢だった。
その夢に出てきた1人の少年。
彼の表情。
それら全てが、夢見る者の思考に引っ掛かっていた。
次回『夢の中の過去』