D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
眠りし者を全て夢から覚ます至高の技。
俺はそれを確実にこなしていく。
「ほら、義之、起きろ。着いたぞ。」
長旅途中で疲れてバスの中、それも俺の隣で転寝している義之を起こす。
無論、非常識な方法で。
「んあ゛ぁ゛~~~、痛いっ、痛いっての!分かった分かった、起きる!起きますからっ!」
俺がとった行動は、洗濯バサミ(リングに紐付き)をポケットから取り出して、義之の耳たぶ――なんて生易しいことは言わずに、反応されないように高速で唇にセットし、紐で加減しながら引っ張ってやった。
ガキレベルの遊びほど本気でやって楽しいものはないと思うんだ。
各自自分の荷物を纏めてバスを降りる。
そして――。
降りてすぐ、目の前にはスキー場のゲレンデ、その白銀の世界が広がっていた。
足元にもアスファルトを離れれば、既に地面は雪である。
やべぇ、滾ってきた……。
「とりあえずまずはペンションでチェックインして荷物を置いてから滑りに行きましょう」
全員返事をして、ペンションの方向を確認しようとしたら。
「うお゛~~~~~~~~~~~~!」
渉が唐突に吠え出した。
うるさいし意味が分からん。
「なんだ、うるせぇな……」
「待ってたんだ、こういうシチュエーション!」
「「シチュエーション?」」
あの杉並までが理解に苦しんでいる。
「ゲレンデには恋がいっぱい落ちているそうじゃないかー!」
……。
うん。
「ペンションってどっちだっけ?」
「えーっと、あ、こっちこっち」
「それじゃ、みんな、れっつごー!」
「スキーなんて久しぶりですね、お姉ちゃん」
「久しぶりだねー」
「あんまり浮かれて滑って転ぶなよ?」
「私大丈夫かな……?」
「積雪量、雪の質も申し分ない、思い切り楽しめそうだな」
「杉並、張り切ってんなー」
「無論」
雑談を交わしながら、ペンションまでの道のりを数分歩いていった。
途中で、奇襲的な感じで雪玉をつくってぶつけたり。
ぶつけたり。
ぶつけたり。
ぶつけられ――なかったり。
ぶつけたり。
主に被害は義之です。
だって渉いないんだもん。
「……おーい?」
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ペンションにチェックインして荷物を置き、ここでウェアを着る人はスタンバイして、ペンション入り口前に集合した。
そしてそのままスキー場へ。
ペンションからスキー場へは定期的にバスが運行しているのでそれに乗って移動。
そこで初めて触れてくれました。
「光雅くんのそれって何?」
「ああ、これはスノボ。スノーボードだよ」
「えっ、光雅スノボ出来るの!?」
「スノボとは……(ピピピピピ)……なるほど、そういうものか。」
おい、機械音自重しろ。美夏がロボットだってばれるだろうが。
というかようやく俺のスノボが話題の中心になってくれたんだが。
「ああ、光雅のスノボは本当に芸術的だからな」
「あの身体能力があれば、冬季オリンピックに出場出来るんじゃない?」
「年齢制限かかるし、出たくないし」
「私はテレビで活躍する光雅くん見てみたいんだけどなー?」
「俺はテレビで歌っているななかを見てみたいぞ」
「そんな、それほどのものじゃないよー」
なんというか、俺の周りには謙遜上手が多い。
代表はなんといっても小恋だよな。
褒めたら瞬間反応で即謙遜。
もうこれは特技といってもいいのかもしれない。
音姉もそうだな。
何かにつけて完璧なのに、こちらも褒めると謙遜します。
この2人はなんかもう見慣れたので謙遜が嫌味に聞こえない。
実は杏もいつもはああだけど、真面目になるというか、問題事で何か褒めると謙遜します。
ええ、本当ですとも。
クリパの準備中も時々ありましたね。ハイ。
杉並は自重しない、謙遜しない、加減しない。
だめだこいつはやくなんとかできません。
無理です。
誰か国連軍連れてきて。
「俺はスキーよりスノボの方が好きだからな。かといってスキーが苦手なわけでもないけど」
「ふぅ~ん。ここにて光雅くんの新しい一面、発見!」
「そりゃどーも」
「その袋の中、ボードのデザインは黒と白のスカル、そしてアクセントに蛍光色の黄緑のライン、だったか?」
「何で知ってるのさ?」
訊くだけ野暮だけど多分杉並は訊いてほしいんだろう。
それにしても、本当に彼はどこからどうやって情報収集してるんだろうね?
非公式新聞部は半世紀前から続いてるっていうけど。
とりあえずいつもの杉並の情報自慢はスルーして、バスが到着するのを待つ。
バスがゲレンデに到着して、全員一旦板やシューズを選び、準備を始める。
俺はブーツだけを自分のサイズにぴったりなのを選び、すぐにスノボのセッティングを始める。
まずは兎にも角にもブーツを履き、ビンディングに乗ってあるセンターディスクの角度を確認して、ビンディングがブーツにしっかりはまるかを確認して1度外す。
全てばっちりだ。
あとはみんなが来るのを待つだけだ。
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「それじゃ、みんな集まった?」
杏は軽く辺りを見渡して全員がいるのを確認し、説明に移る。
「ここのスキー場には、ファミリーコース、初級コース、中級コース、そして上級コースの4コースあります」
これは結構重要な話の内容である。
自分が上手でもないのに中、上級コースに向かってしまえば、後で怖がって上ったリフトに乗って他の客の冷たい視線を浴びながら帰ってくる羽目になる。
「そうだな。まずみんながどのくらいのレベルか把握しないと」
「そ。そういう訳で、これから全員でファミリーコースを滑りたいと思います。それじゃ、リフトに乗るからついてきて」
そして杏についていってリフトに乗るのだが、ここで珍しいことが起こったんだ。
なんでも、美夏が話があるとかで一緒にリフトに乗らせてくれと頼んできた。
これを見た連中は大騒ぎ。
渉はいつもどおり悔しがるし。
杏や杉並、茜も変に冷やかしに入るし。
音姉やななかは顔は笑ってるけど目が怒ってるし。
美夏は全部気付いてないし。
まぁ、断る理由がないから許可したけどね?
という訳で現在美夏の隣でのんびりしております。
「なぁ光雅」
「ん?」
「すきーというのは、本当に面白いものなのか?」
「ああ、楽しいよ?」
「ふむ、このただ板を履いて雪の斜面を下る移動手段がなぁ……」
身もふたもない言い方だな。
「そんなこと言うなよ。それが楽しいのさ。言葉にするのは難しいけど、とにかくやってみればわかるぞ」
「あ、ああ……」
美夏の様子がいつもと違う。
いつもなら思ったことはすぐに口に出す美夏が、珍しく歯切れの悪い回答をした。
これは他に何かいいたいことがあるはずだ。
それはきっと今俺が思っていることと一致している。
「話変わるけどさ、お前、人間を信じたいみたいなこと前に言ったよな?」
「――ッ!?……まぁ、そうだが……」
「それなら、みんなに本当のことを打ち明けてみないか?」
「でも、それは――!」
分かってる。美夏、お前の言いたいことは。
「確かに、それがきっかけでお前は捨てられるかもしれない。でも、俺はどうだった?俺はそれが怖くて1人逃げ出そうとした。それでもあいつらは俺を追いかけて、弱ってた俺に手を差し伸べてくれたんだ」
「……」
美夏の気持ちは手に取るように分かる。
みんなには本当の自分を知ってもらいたい。
でも、それがきっかけでまたあの時の恐怖、寂寥、絶望を味わいたくはない。
今のままでもいいじゃないか、変わらないのは楽だ。
ただみんなと上手くやってけたら。
でも、それじゃいけない。
俺だって変わらなきゃいけない。
そのためにも、俺は美夏を変えなくちゃいけない。
偽善でも。
思い上がりでも。
自惚れでも。
自己満足でも。
俺は、みんなを幸せにしたいから。
それが俺の生きる理由だから。
「そんなあいつらなら、きっとお前を認めてくれるさ。むしろ渉あたりが『なんでそんな大事なこともっと早く言わなかったんだ』ってキレるかもしれないけどな。自信、持てよ」
「……分かった」
美夏の表情はこれまでにないほど覚悟を秘めていた。
「それじゃ、それまでは思いっきり羽伸ばして楽しもーぜ!」
「ああ!」
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リフトから降りて、全員集合した後、誰から滑るか順番決めをして、いざ滑ることになった。
基本的に指導については上級者である義之が担当していた。
義之の指示で、滑る順番が確定する。
「とりあえず杏から行ってこい。お前のはいい手本になりそうだからな」
「了解」
杏がゲレンデを滑走する。
そのスタイルはボーゲン。
だが、ただのボーゲンではなかった。
「みんなよく見てろよ。あれがボーゲンの究極だ。あれを手本にするんだぞ」
「さすがだな」
「杏ちゃんすごーい!」
「杏せんぱーい!」
杏のボーゲンは本当に完璧だった。
例の記憶術で筋肉の動きとかも記憶することが出来るのだろうか?
「それじゃ、次由夢な」
「はい」
由夢も滑り出す。
彼女は既にボーゲンを卒業していて、ジグザグに動きながら滑っている。
それでも少し焦りが見えているところからまだまだ中級者といったところか?
「次、音姉」
「光くん、行ってくるねー!」
ああもうだめ、音姉いちいち可愛過ぎる。
「んああ、いってらっしゃい」
その俺の反応を見たのか、茜が。
「ふぅ~ん?」
「なんだよ……?」
「ベツニナンデモアリマセーン!」
いいや、こいつの相手すると疲れる。
「それじゃ、天枷行ってみるか」
「いっくぞー!」
美夏は思い切りストックを雪に差込み、そのまま体を押し出して一気に降りていった。
俗に言う、直滑降ってやつだ。
「直滑降!?」
「ヤッホーーーーーーーーーーーーーーーううぃ……」
楽しそうだな。いっちょ追いかけてみるか。
「俺追いかけて注意しとくから、義之とななかで渉と小恋どうにかしててくれ」
スタンバイして、一気に飛び出す。
姿勢を低くし、空気抵抗をなるべく減らして、美夏と同様直滑降で対象を追う。
「ひゃっほう!」
美夏のスキーイングは初めてとは思えないほどの技術で、転んだりするようなことはなかった。
しかし、俺のスノボは達人級だから追いつけないはずがない。
「さすがに光雅には追いつかれるか……」
「あんまり調子に乗って雪達磨になっても知らんぞ?」
「なに、その心配は無用だ!」
そうやってくだらないことを言い合いながら下まで降りていった。
いぃやっほーーーーーーーーーーーーう!!
各々のスキル向上のために一旦別れて練習に移る。
きっと楽しい旅にしようと、それぞれの思いを胸に雪原を滑る。
1人少女は、楽しそうな2人を見て、寂しそうに微笑んだ。
次回『雪の中での猛練習』