D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
あの時嗅いだ異臭。
爆発音。
そして、友の重みを。
練習も終わり、ロッジに帰って夕食を済ます。
その後、みんなには一度俺らの部屋(俺、義之、杉並、渉)に集まってもらった。
理由は勿論、『俺』が何者なのかをみんなに知ってもらうため。
俺の部屋の男子は全員事情を知っているので説得も簡単に済んだ。
暫くして、女性陣が部屋に次々に入ってくる。
少し緊張。
それでも、みんなには知っていてほしい。
だから、俺のことを全て話す。
「それで、光雅くんの話って、何?」
「あー、それを聞かすためにちょっと集まってもらったんだが、若干ヘビーだから、心して聞くように。特に由夢とななか」
「なんで私たちだけなんですか?」
「他の連中は少しだが事情を知っているからな。あの事件の日に、現場にいた連中しか知らないことだ」
「あの事件って、音姫先輩が拉致されたって言う……」
あの時、由夢とななかはいなかったから、事情は知らない。
だから、これを機に、俺の周りにいる奴には全員に知ってもらいたい。
「という訳だから、早速、話すぞ」
思い出すのは、懐かしい、生前の記憶。
今もこの世界で生きているんだが、それでもやはり俺の元の世界は向こうだ。
「知ってる奴は知ってると思うけど、俺は、1度死んでるんだ」
「死んでるって、えーっと」
ななかも由夢も、俺が冗談を言ってるようにしか思えないのだろう。
ぶっちゃけ、俺も最初から信じてもらおうなんざ思っちゃいない。
「それなら、証拠とは言えないだろうけど、ちょっと面白いものを見せてやるよ」
俺は右手に意識を集中する。
そこに魔力の玉が浮かび、発光する。
俺の左目は、深紅に染まっていることだろう。
「あ、あ……、光雅兄さん、左目……」
由夢も俺の変化に動揺する。
右手に更に力を集中させ、一気に光を強くする。
辺りを光が包み込み、視界が光で閉ざされた時、俺は力を緩めた。
俺の手にもう光の玉はない。
「――所謂、魔法ってやつさ」
「魔、法……」
「これから話すよ。俺の、この魔法に行き着くまでの、全てを」
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俺は、前世では、小さい頃は孤児院で暮らしていた。
とはいっても、そのほとんどが物心ができる前だったから、その記憶なんてほとんど無いけど。
俺には、当時ずっと気にしていた人がいた。
……いや、異性とかそんなんじゃなくてな。
そいつは俺より3つ年上で、ずっと1人でつまらなさそうにしていた。
だから俺は、そいつと仲良くなりたくて、話しかけたんだ。
でもそいつは決まって無視。
その頃の俺からしたら、そいつほど怖いものはなかった。
でも、俺は諦め切れなかった。
このままだと、そいつがずっと独りなままになると思ったから。
それじゃ、俺が楽しくないから。
だからずっと、馬鹿みたいに遊びにいった。
少しずつだけど、そいつは俺の呼びかけに一言二言応じるようになった。
それは、うん、とか、いや、とか、その程度のものだったけど、俺にとっては、かなり嬉しかった。
そんなある日だ。
俺を引き取ってくれる人が来たらしい。
俺は嬉しかった。
物心ついた時から、すでに親はいない。
寂しかった。
だけど、これからは、本当じゃないけど、家族ができるんだって。
本当に、嬉しかった。
俺だけじゃなかった。
なんでも、俺がずっと話しかけていた、そいつも引き取るらしい。
余談だけど、その引き取り手っていうのは、若い夫婦で、子供が欲しかったんだけど、母親が、子供が産めない程に体が弱かったらしい。
だから、俺たちを引き取ろうとした。
『そいつ』も、嬉しかったんだろうな。
決して素振りには出さなかったけれど、心なしか微笑んでいるようにも見えた。
そして、その時、俺たちには新しい名前が付いた。
俺は、『ユヅキコウガ』。
そいつは、『ユヅキリュウガ』。
リュウガが兄で、俺が弟。
理想的な関係だった。
でも、兄さんは自分の感情をあまり表に出すような人じゃなかった。
父さんと母さんは、それでも俺たちのことを平等に可愛がってくれた。
兄さんも、少しずつだけど、会話に馴染むようになった。
少し家庭が明るくなった気がした。
兄さんも俺も、小学校に入学した。
兄さんは、思ったとおり友達を作ろうとしなかった。
そしてそのまま、小学校を卒業し、中学生になった。
その頃からだっけか、俺が母さんから料理を教わるようになったのは。
母さんは、料理は危ないものだから、慎重にやらなきゃいけないと、とにかく厳しく教えてくれたよ。
話は戻るけど、中学校に入学した兄さんは、友達ができた。
その過程なんだけど、どうやらいじめられてた女の子がいたらしい。
兄さんは、弱い癖して数の暴力でたった1人の人間を潰すのは賛同できない、潰すなら1対1でやれ、それができない雑魚は引っ込んでろ、と言ったんだと。
勿論場は荒れる。
いじめの集団は兄さんを襲う。
でも兄さんは強かった。
6人くらい相手に、たった1人で全員を鎮めた。
その時、兄さんと同じくいじめをよく思っておらず、それでも数相手に勝ち目がなかったからどうしようもできなかったクラスメイトがいて、なんだかんだでその人と意気投合して、兄さんとその人、あといじめられてた女の子の3人で過ごすようになった。
兄さんはその人たちの前で次第に笑顔を見せるようになった。
俺も、両親も、とても嬉しかった。
俺もたまにその輪の中に加わって、一緒に遊んだり、料理を披露したりした。
毎日が楽しかった。
そんな日が、ずっと続くと思ってた。
でも、全ては、たった1つの事件で奪い取られた。
ある日俺たちは、4人で少し遠くの街で買い物をしに行くことになった。
勿論遊びついでだ。
それで、いろいろ回って、いろいろ買って、いろいろ遊んで。
その帰り道、来た道を帰るために、俺たちは電車に乗った。
でもその時、兄さんはジュースを買ってくると言って、一旦電車を降り、売店に向かった。
それからだ、悪夢が始まったのは。
武装した集団が次々に乗車する。
完全に占拠されたのか、出発時刻もまだ来ていないのに、兄さんもまだ乗っていないのに、電車は出発した。
乗客は武力に脅され、何もできない。
そして、後ろの車両から、たくさんの人の悲鳴が聞こえる。
みんな恐怖に震えていた。
勿論、俺も、一緒にいた2人も。
でも、2人は、一番年下である俺を、震えながらもずっと庇おうとしていた。
そして、俺たちの番が来た。
犯人が数人車両に入ってきて、なにやら見張りと連絡を交わしていた。
その内容を聞き取ることはできなかったけど、それでも何か嫌なことが起こるのは明白だった。
連中全員は俺たちの前を通り過ぎ、車両を離れる前に、ガスの吹き出る玉、なんていうか、手榴弾みたいなやつを、車両に投げ入れて、去っていった。
物凄く臭かった。
それを嗅ぐと、意識が朦朧とした。
すぐに毒ガスだと分かった。
これでみんな死んじゃうんだって思った。
2人は、俺がそれを吸わないように、ハンカチで口を押さえたり、手当たり次第に物でガスを飛ばそうと扇いだりしていた。
だけど、しばらくして、その2人は、力尽きた。
俺は寝てるんじゃないかって、気絶してるんじゃないかって思った。
でも違った。
彼らは既に――死んでいた。
そんな時、急に電車が止まった。
そして爆発音。
警察が助けに来たんだって思った。
聞こえてくるのは犯人たちの罵声。
そして悲鳴。
その悲鳴は少しずつ近づいていた。
そして、俺のいた車両に、その正体が駆けつけた。
その時になっても、俺はまだ、死んでいなかった。
その正体は――俺の、兄さんだった。
その現場を見た兄さんは、怒り狂った。
悲しみに打ち震えた。
絶望に身を引き裂かれた。
全てに失望したんだと思う。
行き場のないそれらの感情は、たった1人の生き残りだった、俺に向けられた。
――なんでお前だけ生き残ってんだよ!
――俺たちはずっと4人で、4人で……!
――俺は、お前らとずっと一緒にいたくて……!
――なのに、どうして……!
俺は初めて、兄さんの泣く姿を見た。
兄さんの、涙を。
俺も、悔しかった。
自分だけ生きているのが。
誰も守れなかったことが。
目の前の兄さんを悲しませていることが。
何も報われなかった、俺たち4人が。
そして、ほとぼりの冷めたある日、兄さんは、家を出ていった。
俺を置いて、全てを捨てるように。
――いや、兄さんには、捨てるようなものなんて持っていなかった。
ただ、自分の死に場所を求めるように、俺たちの家を去った。
俺は、何もできなかった。
でも、それでも、それを償いたくて、俺は、決めたんだ。
――俺は、救えるモノは全て救う。
――全てを失った、兄さんのために。
俺の父さんは、優秀な刑事で、いろいろ危険な事件も関わってきた。
だから、俺は父さんにお願いして、俺にも捜査を手伝わせて欲しいって頼み込んだ。
父さんは最初は断ったんだけど、それでも俺の熱意と、それから兄さんのことを考えて、了承した。
それから俺は、やれることは全てした。
たくさんの人を事件から守った。
そんなある日だった。
父さんが関わっていた暴力団があって、それが秩序を無視して暴れまわっているらしかった。
なるべく現行犯で捕まえたかったから、俺は学校の行き帰りとかに辺りをうろうろしていた。
そしたら、男が1人、暴力団に囲まれて殴られたり蹴られたりしていた。
俺は迷わずそこに突っ込んで、男の人を助け出した。
俺がその男を逃がしたもんだから、当然連中は怒る。
俺はひたすら逃げた。
でも、相手は追うことに長けた暴力団だ。
すぐに捕まって、俺はそこで、17年の生涯をあっけなく終えたんだ。
それで終わったと思ったんだけど、俺はいつの間にか不思議な空間にいた。
そこに、1人の青年がいた。
ローブを着て、フードみたいなのを被ってたから、どんな人かまでは分からなかったけれど、その人は俺に言った。
俺に、破滅に向かいゆく人を救済し、俺自身が、そして周囲の人が全員一致で幸せだといえるような、そんな人生を送ってみろ、と。
でも、力がなくちゃ何も守れない。
俺が殺されたのも、力がなかったから。
だから、俺はその男にこの魔法の力を授かった。
そして、俺は、この世界に舞い降りた。
俺の報われなかった願いを、今一度叶えるために。
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「これが、俺の全てだ」
全てを話し終え、全員を見渡す。
その顔は、やっぱり辛気臭かった。
だが、まだ俺は俺の話したいことを話していない。
「それから、これだ」
俺が見せたのは、孤独の紋章。
≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫の証。
そして、この世界に来て、桜のことは除いて、これまでの経緯、つまりはあの夏の日のことまで語る。
「その日から、俺はずっと逃げていた。自分の力から。そして、みんなから。そんな時に、事件は起きた」
音姉が拉致され、俺は敵の魔法使いにコテンパンにされ、そして、彼は言った。
――力は、他を破壊するためにある、と。
そして、その時、俺にこの力が宿った。
この力で、その魔法使いを葬った。
人を殺したのは、2回目だった。
そして、俺は1人去ろうとした。
その時、俺を引き止めてくれたのが、みんなだった。
「だから、俺はみんなに本当に感謝している。それに、俺は自分にとって本当に大切なことを再確認した。俺はもう逃げない。後は、みんながこんな俺を認めてくれるかどうか、だけだ」
そして暫くの沈黙。
真っ先にその静寂を破ったのは、あの時と同じ、渉だった。
「認めるも何も、俺はずっとお前の味方だぜ?」
「無論」
「お前を嫌ったことなんて1度もないっての」
「私たちといることを後悔しないで頂戴」
「寂しくなったらいつでもこの胸に飛び込んでおいで~♪」
「わ、私も、光雅の力になるよ!」
「心配要らないみたいですね、光雅兄さん」
「美夏が認めた友達だ。今更何を言うか」
「そうだよ~。私たちはいつも一緒だよ」
俺は、本当に、こいつらと一緒で、良かった。
そして、何も言わなかった音姉に視線を向ける。
音姉は、本当に何も言わず、微笑んでくれるだけだった。
誰もかれも、仲間が大切だとかいうけれども、俺は、本当の意味でそれを理解した気がする。
――さて。
俺は乗り切った。
この場にはもう1人、乗り越えなくちゃならない奴がいる。
さぁ、踏み出すんだ。
――天枷美夏。
人間に作られて。
人間に捨てられて。
人間を憎んで。
人間を信じてみようと思って。
少女の決意は、今、固まった。
次回『ロボットと人間の架け橋』