D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

57 / 90
ずっと昔、俺には、取り戻したかった笑顔があった。
ずっと昔、私は、あの人から、たくさんの大切なものを貰った。

その笑顔を守るために。
貰ったものに応えるために。

――今、本当の想いを。


約束の始まり

温泉から出て、急いで体を拭き、準備していた服を着る。

軽く髪を乾かして、更衣室を出る。

2階からの物音はしない。

もうみんな支度は終わっているようだ。

俺もさっさと帰り支度を終わらせて、外に出た。

そこには、みんながいた。

杉並、渉、美夏、ななか、由夢、杏、小恋、義之、茜――藍もいるだろう――、音姉、それからロイに優香も。

 

「おはようございます。」

 

目を合わせると優香がお辞儀をしながら挨拶をしてきた。

 

「ああ、おはよう」

 

「おせぇーぞ、光雅」

 

「悪いな、風呂入ってた」

 

「それじゃ、そこに並んで頂戴」

 

杏がペンションのオーナーであるカメラマンから少し離れた場所で並ぶように指示する。

 

「ほら、光くん、こっち、こっち」

 

音姉が跳ねながら『こっちこっち』をしてくる。

そんなことされなくても初めからそのつもりですごめんなさい。

目をそらしながら頬をぽりぽり掻いて音姉に歩み寄る。

 

「一緒に写ろ?」

 

「ああ」

 

男連中は後列に並び、俺の隣に音姉、その隣に由夢。

輪中の隣にロイが立って、その隣には優香。

前列は雪月花に美夏、それからななか。

 

「あれ、杉並は?」

 

「俺はここにいるぞ!」

 

何、どこだ。さっぱり見当たらんぞ。

きょろきょろしていると、オーナーの隣に杉並を見つけた。

 

「ふふん、俺はオーナーにお願いして特等席を与えてもらったのだよ。みなが写っている右上に楕円型で抜き出してもらうのだ」

 

それってあれか、集合写真とかで休んだ人のためのあれか。

 

「バカヤロー、お前も写れ!」

 

「ふむ、そこまでいうなら仕方がない。オーナー、例のことはナシということで」

 

「ああ、別にかまわんよ」

 

杉並は堂々とした歩き方で一緒に写った。

そして、パシャッと一撮り。

こうして、俺たちのスキー旅行は幕を閉じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼になるまでお土産を見繕ったりして、それからバスに乗って夕方に初音島に戻ってきた。

 

「やっと着いたねー」

 

「ここまで来ると終わったって感じだなー」

 

「そうだな、もうなんかいろいろ疲れた。ウェルカム、寝正月」

 

「あはは、義之くんオヤジくさーい」

 

「オヤジ結構……」

 

バスを降りて、みんなそれぞれの思いを呟く。

公園前でみんな別れて、それぞれ帰路についた。

 

……なぁ、行くなら今しかないよな。

 

このチャンスを逃してしまえば、いつの間にか有耶無耶になってしまっている気がする。

だから。

 

「なぁ、義之、俺と音姉の荷物を3000円で運べ」

 

「はぁ!?」

 

「ちょっと用事だ」

 

「5000だ」

 

「いいだろう」

 

「ほら、よこせ」

 

音姉に用事があることを伝えて、義之に荷物を渡させる。

勿論音姉は渋ったが、義之の妙な熱意に負けて渡した。

 

「音姉、ちょっと来てくれ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~音姫side~

 

突然の光くんからの誘い。

一緒に歩こうと言われた。

こういう時は何かを話したい時だって分かっているんだけど……。

一体何が言いたいのだろう。

 

「ちょっとついて来てほしいところがあるんだ」

 

こんな夜遅くに、どこに連れて行くつもりだろうか。

きっとさくらさんも心配するだろうに。

……結局、自分の気持ち、この旅行の間に伝えられなかったな。

私はポケットの中にある『それ』を握る。

私は、ただ光くんについていくだけだった。

 

~光雅side~

 

音姉を連れて歩いてきたのは、あの時のあの場所。

桜公園をずっと通り抜けた先の、階段を上がったところにある、海が見渡せる高台。

音姉が初めて、俺に笑顔を見せてくれた場所。

そして――。

 

「音姉、旅行、楽しかったか?」

 

「うん、久しぶりにみんなで騒いで、新しい友達もできて、なんだか、夢のような気分だった」

 

新しい友達、ロイや優香のことだろう。

結局なんだったのかよく分かってはいないが、俺はまた、闘う運命にあるのは間違いない。

しばらく間を開けて、更に話す。

音姉に背を向けたままで。

 

「昨日の王様ゲーム、覚えてるか?」

 

「ああ、あれ……」

 

音姉が、なんだか寂しそうに返事をする。

 

「なんか、悪かったな。ゲームとはいえ、あんなことにつき合わせちまって」

 

「ううん、いいの。相手が光くんだったこともあるし」

 

「終わっちまったな……」

 

俺は覚悟を決める。

音姉に向き直り、深呼吸をする。

 

「音姉」

 

「な、何、そんなに改まって……」

 

決意は固めたはずなのに、不安が残る。

1歩踏み出すのに、ここまで勇気がいるとは。

 

「俺、やっと気付いた。あの日音姉が連中に拉致されて、なんとか助けだして、病院で音姉の無事な姿を見た時に」

 

そう、俺は、本当に何も見えてなかったんだ。

何もかも。

すべてを難解なものだと思い込んでいたから。

 

「本当は、ずっと前からそうだったんだ。俺は、昔から、何も変わっちゃいない」

 

「……光くん?」

 

「なんかいろいろあったけどさ、俺の言いたいことは、1つだけなんだ」

 

そして、ゆっくりと音姉に近づいて。

あと1歩前に出れば目の前になるくらいの距離で。

 

「俺は、音姉のことが――好きだ」

 

やっと言えた。

この言葉を口にするのに、なんでこんなに時間がかかっていたのか、未だに理解できない。

こんなにも音姉のことを愛しているというのに。

でも、そんなことはどうでもいい。

俺は、伝えることができたのだから。

 

「光くん……」

 

音姉の頬には、涙が伝っていた。

でも、その表情は、その瞳は、喜びに満ち溢れていた。

まるで、その言葉をずっと待っていたかのように――。

 

「私も、ずっと好きだった。姉弟としてじゃなくて、男の子と女の子として……。でも、ずっと言えなかった。光くんがずっと辛い思いをしていたから、気持ちを伝えると、光くんが耐え切れなくなって壊れてしまうと思ったから。それに、光くんには光くんなりの幸せがあって、それを壊すのが怖かったから……」

 

「そっか……」

 

音姉は、応えてくれた。

それだけで、満足だった。

 

「覚えてるか、この場所」

 

「……え?」

 

「音姉が初めて俺に笑顔を見せてくれた場所だよ。音姉がずっと1人で、家に帰ってこなくて、俺が探しに行って。音姉はここで、ベンチに座ってた」

 

そう、これは俺の中の大事な思い出の風景。

 

「ここで初めて音姉に魔法を見せたら、音姉は笑ってくれた。その時に音姉が出した和菓子も美味かったし」

 

「そんなことも、あったよね」

 

「そして、俺たちの、大切な約束――」

 

――こー君は、わたしと、いっしんどーたいでもいい?

 

――ああ、いいよ。

 

――じゃあ、約束の証に、ゆびきり。

 

――ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーます。

 

――ゆーびきーった。

 

「――っ!」

 

音姉の表情が驚きに変わる。

 

「……覚えてて、くれたんだ……」

 

「当たり前だろ。俺たちは、一心同体、だろ?」

 

残念ながら、俺の魔法の力は秘密にできなくなってるけどさ。

それでも、俺が音姉を大切に思う気持ちは、変わらない。

変わるはずがない。

 

「ねぇ、光くん」

 

音姉は安心した面持ちで、自分のポケットをまさぐり、何かを握って取り出す。

 

「私は、ずっと大切にしていたんだよ」

 

音姉がゆっくり拳を開く。

指の隙間から、ほのかな桃色の光が洩れていた。

そこにあったのは、その時俺が音姉にプレゼントした、あの桜の花びらの形をしたペンダントだった。

 

「……ずっと、持っていてくれたんだな」

 

「うん。いつかきっと、私と光くんが恋人同士になったら、その時に光くんにつけてもらおうと思って」

 

なんか、そんなに昔から俺は音姉に想われていたのかと思うと、無性に嬉しくなって、ところどころがこそばゆくなる。

そういうことなら、俺に任せろってんだ。

 

「音姉、それ、貸して」

 

音姉からペンダントを受け取ると、首の金具を外して、音姉の首に回す。

うなじのところで外した金具を止め、そっと手を放す。

1歩離れて、音姉を見る。

 

「どう……かな……?」

 

「凄く、よく似合ってる」

 

そして、このペンダントにはとある秘密があるんだ。

 

「それな、この桜の花びらを使って作ったものなんだ。この、願いを叶えると言われる桜の花びら、それはきっと、音姉の願いを、1つだけ叶えてくれるんだ。――そんなことはどうでもいいか。本当に似合ってるよ」

 

そう言うと、音姉は俺に飛びついて、俺の背中に両腕を回してきた。

俺も音姉を受け止めて、そっと、そして強く抱きしめる。

もう二度と手放さないために。

 

「今度は、ゲームの罰なんかじゃない」

 

そう言って、俺は音姉の唇に、自分のそれを、重ねた。

嬉しそうに微笑みながら涙を流す音姉を見て、俺はそっと囁いた。

 

「これからもよろしくな。音姉」

 

「……うん」

 

音姉はそのまま俺の腕にしがみついて、2人で一緒に帰途についた。

 

――さて、こうなった以上、もう1人俺のことを想ってくれている人を、あぶれさせてしまうことになる。

 

俺は、俺の家族が誰も寂しい思いをしない方法を、考えていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

音姉と別れて、芳乃邸へと帰宅する。

ただいまと挨拶をすると、部屋からさくらさんが出てきた。

 

「……おかえり」

 

俺は好都合だと思い、さくらさんを縁側へと呼び出した。

そして、俺と音姉が付き合うことになったことを告げる。

 

「そうなんだ。光雅くんは、音姫ちゃんのことが、本気で好きなんだね……」

 

「はい」

 

俺は、月を見ながら、強く頷いた。

 

「そっか……にゃはは、参ったな、こりゃ……」

 

今度はさくらさんが、寂しそうに笑う。

 

「ボクも、光雅くんのこと、ずっと大好きだったんだけどな……」

 

「知ってます。あれだけ大胆にアピールされたんですから。でも、俺はその気持ちに、応えることができません」

 

ごめんなさい、とは決して言わない。

俺は悪くない。

誰も悪くない。

俺は俺の幸せを選んだ。そうすれば、誰かが傷付くなんて、百も承知だった。

でも、いや、だから、の方が正しいか。

俺はさくらさんをそのままにしておくわけにはいかない。

応えることはできなくても、受け止めることはできるから。

 

「俺も、さくらさんのことが好きです。でも、それは、残念だけど音姉に対するそれとは少し違う。でも、それでも俺はさくらさんも幸せにしたい。だから、俺、決めました」

 

そう、さくらさんは、きっと人の温もりが恋しかったのだろう。

それは、魔法の、奇跡の力を使ってまで、家族を創ったくらいに。

だから、その『距離』は、俺が埋めてやる。

長年の寂寥から、俺が解き放ってやる。

 

「俺が、さくらさんの、いや、さくらの、弟になってやる」

 

「――それって……」

 

「ついでに、俺は朝倉家から完全に家族としての縁を切る。そうすれば、俺は音姉と、いや、音姫との関係で、姉弟という関係に甘んじることもしないだろうし、俺がさくらと距離を近づける、立派な『建前』になるだろ?」

 

「光雅くんっ……!」

 

さくらは、これ以上にないほど泣きそうな顔になっていた。

 

「今から俺は、芳乃さくらの弟、芳乃光雅、だ」

 

「うっ……、ひっく……」

 

「泣きたいなら泣けばいい。俺はさくらの弟だ。初めて会った時みたいに、遠慮なく俺の前で泣いてくれ。それで、すべて解決、だろ?」

 

さくらの感情が崩壊し、堰を切ったように涙が溢れ出した。

俺は、その小さな体を、落ち着くまで支えてやった。

しばらくしてさくらが落ち着いた後、さくらはふとしたことを口にした。

 

「光雅くんは、これからも闘い続けなきゃいけないんだよね?」

 

「そうなるな。旅行中に出会った強力な助っ人もいるし」

 

「……ボクも、光雅くんと一緒に戦いたい」

 

「さ、さくら、急に何を言って――」

 

「危険なことなのは分かってる!光雅くんがボクを巻き込みたくないのも!でも、ボクはずっとこれまで光雅くんに助けられてばかりだった!ボクだって、この家族を、みんなの笑顔を、この島を守りたいのはキミと同じなんだ!」

 

さくらの覚悟、それは、憧れなんかじゃ、羨望なんかじゃなかった。

ただ、守りたいと。

一途にこの島の平穏と幸せを願って。

 

「ボクだって、光雅くんの力になりたい。これでもボクは、魔法使いなんだよ?」

 

俺は、さくらの気持ちを、決心を、覚悟を受け止めた。

 

「分かった。さくらに、闘うための魔法の使い方を教えてやる。但し、やるからには本気でやるぞ。生半可にやるのは、一番危険だからな。俺に、ついてこれるか?」

 

「もちろんだよ。ボクは、おばあちゃんの血を継いでるんだ」

 

さくらの瞳には、この小柄な体と、普段の性格からは考えられないような、熱い決意の炎がたぎっているように見えた。

きっと、なんとかなるだろう。

何故だか、そう思えた。

こうして、旅の終わりと、そして、新しい生活の始まりが、同時に迎えられたのだった。




どうだ見たか、『超』がつくほどの短絡的思考を!
でもまぁ、俺としてはこうやって落とすのが最善だと思ったもので……。
とにかく、これでスキー旅行編終了です。
次章は年末年始のちょっとした出来事というか、とにかくつれづれなることを描こうと思っております。
その際、遂に『あいつら』が登場します。
んで、そうなると今の台本形式?に不都合が生じるので、台詞前の名前の頭文字をなくしたいと思います。
これで文章的にマシになるよね?
それでは、この作品をわざわざ読んでくださっている皆さん、これからもよろしくお願いします。
感想とか、待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。