D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
ずっと昔、私は、あの人から、たくさんの大切なものを貰った。
その笑顔を守るために。
貰ったものに応えるために。
――今、本当の想いを。
温泉から出て、急いで体を拭き、準備していた服を着る。
軽く髪を乾かして、更衣室を出る。
2階からの物音はしない。
もうみんな支度は終わっているようだ。
俺もさっさと帰り支度を終わらせて、外に出た。
そこには、みんながいた。
杉並、渉、美夏、ななか、由夢、杏、小恋、義之、茜――藍もいるだろう――、音姉、それからロイに優香も。
「おはようございます。」
目を合わせると優香がお辞儀をしながら挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう」
「おせぇーぞ、光雅」
「悪いな、風呂入ってた」
「それじゃ、そこに並んで頂戴」
杏がペンションのオーナーであるカメラマンから少し離れた場所で並ぶように指示する。
「ほら、光くん、こっち、こっち」
音姉が跳ねながら『こっちこっち』をしてくる。
そんなことされなくても初めからそのつもりですごめんなさい。
目をそらしながら頬をぽりぽり掻いて音姉に歩み寄る。
「一緒に写ろ?」
「ああ」
男連中は後列に並び、俺の隣に音姉、その隣に由夢。
輪中の隣にロイが立って、その隣には優香。
前列は雪月花に美夏、それからななか。
「あれ、杉並は?」
「俺はここにいるぞ!」
何、どこだ。さっぱり見当たらんぞ。
きょろきょろしていると、オーナーの隣に杉並を見つけた。
「ふふん、俺はオーナーにお願いして特等席を与えてもらったのだよ。みなが写っている右上に楕円型で抜き出してもらうのだ」
それってあれか、集合写真とかで休んだ人のためのあれか。
「バカヤロー、お前も写れ!」
「ふむ、そこまでいうなら仕方がない。オーナー、例のことはナシということで」
「ああ、別にかまわんよ」
杉並は堂々とした歩き方で一緒に写った。
そして、パシャッと一撮り。
こうして、俺たちのスキー旅行は幕を閉じた。
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昼になるまでお土産を見繕ったりして、それからバスに乗って夕方に初音島に戻ってきた。
「やっと着いたねー」
「ここまで来ると終わったって感じだなー」
「そうだな、もうなんかいろいろ疲れた。ウェルカム、寝正月」
「あはは、義之くんオヤジくさーい」
「オヤジ結構……」
バスを降りて、みんなそれぞれの思いを呟く。
公園前でみんな別れて、それぞれ帰路についた。
……なぁ、行くなら今しかないよな。
このチャンスを逃してしまえば、いつの間にか有耶無耶になってしまっている気がする。
だから。
「なぁ、義之、俺と音姉の荷物を3000円で運べ」
「はぁ!?」
「ちょっと用事だ」
「5000だ」
「いいだろう」
「ほら、よこせ」
音姉に用事があることを伝えて、義之に荷物を渡させる。
勿論音姉は渋ったが、義之の妙な熱意に負けて渡した。
「音姉、ちょっと来てくれ」
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~音姫side~
突然の光くんからの誘い。
一緒に歩こうと言われた。
こういう時は何かを話したい時だって分かっているんだけど……。
一体何が言いたいのだろう。
「ちょっとついて来てほしいところがあるんだ」
こんな夜遅くに、どこに連れて行くつもりだろうか。
きっとさくらさんも心配するだろうに。
……結局、自分の気持ち、この旅行の間に伝えられなかったな。
私はポケットの中にある『それ』を握る。
私は、ただ光くんについていくだけだった。
~光雅side~
音姉を連れて歩いてきたのは、あの時のあの場所。
桜公園をずっと通り抜けた先の、階段を上がったところにある、海が見渡せる高台。
音姉が初めて、俺に笑顔を見せてくれた場所。
そして――。
「音姉、旅行、楽しかったか?」
「うん、久しぶりにみんなで騒いで、新しい友達もできて、なんだか、夢のような気分だった」
新しい友達、ロイや優香のことだろう。
結局なんだったのかよく分かってはいないが、俺はまた、闘う運命にあるのは間違いない。
しばらく間を開けて、更に話す。
音姉に背を向けたままで。
「昨日の王様ゲーム、覚えてるか?」
「ああ、あれ……」
音姉が、なんだか寂しそうに返事をする。
「なんか、悪かったな。ゲームとはいえ、あんなことにつき合わせちまって」
「ううん、いいの。相手が光くんだったこともあるし」
「終わっちまったな……」
俺は覚悟を決める。
音姉に向き直り、深呼吸をする。
「音姉」
「な、何、そんなに改まって……」
決意は固めたはずなのに、不安が残る。
1歩踏み出すのに、ここまで勇気がいるとは。
「俺、やっと気付いた。あの日音姉が連中に拉致されて、なんとか助けだして、病院で音姉の無事な姿を見た時に」
そう、俺は、本当に何も見えてなかったんだ。
何もかも。
すべてを難解なものだと思い込んでいたから。
「本当は、ずっと前からそうだったんだ。俺は、昔から、何も変わっちゃいない」
「……光くん?」
「なんかいろいろあったけどさ、俺の言いたいことは、1つだけなんだ」
そして、ゆっくりと音姉に近づいて。
あと1歩前に出れば目の前になるくらいの距離で。
「俺は、音姉のことが――好きだ」
やっと言えた。
この言葉を口にするのに、なんでこんなに時間がかかっていたのか、未だに理解できない。
こんなにも音姉のことを愛しているというのに。
でも、そんなことはどうでもいい。
俺は、伝えることができたのだから。
「光くん……」
音姉の頬には、涙が伝っていた。
でも、その表情は、その瞳は、喜びに満ち溢れていた。
まるで、その言葉をずっと待っていたかのように――。
「私も、ずっと好きだった。姉弟としてじゃなくて、男の子と女の子として……。でも、ずっと言えなかった。光くんがずっと辛い思いをしていたから、気持ちを伝えると、光くんが耐え切れなくなって壊れてしまうと思ったから。それに、光くんには光くんなりの幸せがあって、それを壊すのが怖かったから……」
「そっか……」
音姉は、応えてくれた。
それだけで、満足だった。
「覚えてるか、この場所」
「……え?」
「音姉が初めて俺に笑顔を見せてくれた場所だよ。音姉がずっと1人で、家に帰ってこなくて、俺が探しに行って。音姉はここで、ベンチに座ってた」
そう、これは俺の中の大事な思い出の風景。
「ここで初めて音姉に魔法を見せたら、音姉は笑ってくれた。その時に音姉が出した和菓子も美味かったし」
「そんなことも、あったよね」
「そして、俺たちの、大切な約束――」
――こー君は、わたしと、いっしんどーたいでもいい?
――ああ、いいよ。
――じゃあ、約束の証に、ゆびきり。
――ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーます。
――ゆーびきーった。
「――っ!」
音姉の表情が驚きに変わる。
「……覚えてて、くれたんだ……」
「当たり前だろ。俺たちは、一心同体、だろ?」
残念ながら、俺の魔法の力は秘密にできなくなってるけどさ。
それでも、俺が音姉を大切に思う気持ちは、変わらない。
変わるはずがない。
「ねぇ、光くん」
音姉は安心した面持ちで、自分のポケットをまさぐり、何かを握って取り出す。
「私は、ずっと大切にしていたんだよ」
音姉がゆっくり拳を開く。
指の隙間から、ほのかな桃色の光が洩れていた。
そこにあったのは、その時俺が音姉にプレゼントした、あの桜の花びらの形をしたペンダントだった。
「……ずっと、持っていてくれたんだな」
「うん。いつかきっと、私と光くんが恋人同士になったら、その時に光くんにつけてもらおうと思って」
なんか、そんなに昔から俺は音姉に想われていたのかと思うと、無性に嬉しくなって、ところどころがこそばゆくなる。
そういうことなら、俺に任せろってんだ。
「音姉、それ、貸して」
音姉からペンダントを受け取ると、首の金具を外して、音姉の首に回す。
うなじのところで外した金具を止め、そっと手を放す。
1歩離れて、音姉を見る。
「どう……かな……?」
「凄く、よく似合ってる」
そして、このペンダントにはとある秘密があるんだ。
「それな、この桜の花びらを使って作ったものなんだ。この、願いを叶えると言われる桜の花びら、それはきっと、音姉の願いを、1つだけ叶えてくれるんだ。――そんなことはどうでもいいか。本当に似合ってるよ」
そう言うと、音姉は俺に飛びついて、俺の背中に両腕を回してきた。
俺も音姉を受け止めて、そっと、そして強く抱きしめる。
もう二度と手放さないために。
「今度は、ゲームの罰なんかじゃない」
そう言って、俺は音姉の唇に、自分のそれを、重ねた。
嬉しそうに微笑みながら涙を流す音姉を見て、俺はそっと囁いた。
「これからもよろしくな。音姉」
「……うん」
音姉はそのまま俺の腕にしがみついて、2人で一緒に帰途についた。
――さて、こうなった以上、もう1人俺のことを想ってくれている人を、あぶれさせてしまうことになる。
俺は、俺の家族が誰も寂しい思いをしない方法を、考えていた。
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音姉と別れて、芳乃邸へと帰宅する。
ただいまと挨拶をすると、部屋からさくらさんが出てきた。
「……おかえり」
俺は好都合だと思い、さくらさんを縁側へと呼び出した。
そして、俺と音姉が付き合うことになったことを告げる。
「そうなんだ。光雅くんは、音姫ちゃんのことが、本気で好きなんだね……」
「はい」
俺は、月を見ながら、強く頷いた。
「そっか……にゃはは、参ったな、こりゃ……」
今度はさくらさんが、寂しそうに笑う。
「ボクも、光雅くんのこと、ずっと大好きだったんだけどな……」
「知ってます。あれだけ大胆にアピールされたんですから。でも、俺はその気持ちに、応えることができません」
ごめんなさい、とは決して言わない。
俺は悪くない。
誰も悪くない。
俺は俺の幸せを選んだ。そうすれば、誰かが傷付くなんて、百も承知だった。
でも、いや、だから、の方が正しいか。
俺はさくらさんをそのままにしておくわけにはいかない。
応えることはできなくても、受け止めることはできるから。
「俺も、さくらさんのことが好きです。でも、それは、残念だけど音姉に対するそれとは少し違う。でも、それでも俺はさくらさんも幸せにしたい。だから、俺、決めました」
そう、さくらさんは、きっと人の温もりが恋しかったのだろう。
それは、魔法の、奇跡の力を使ってまで、家族を創ったくらいに。
だから、その『距離』は、俺が埋めてやる。
長年の寂寥から、俺が解き放ってやる。
「俺が、さくらさんの、いや、さくらの、弟になってやる」
「――それって……」
「ついでに、俺は朝倉家から完全に家族としての縁を切る。そうすれば、俺は音姉と、いや、音姫との関係で、姉弟という関係に甘んじることもしないだろうし、俺がさくらと距離を近づける、立派な『建前』になるだろ?」
「光雅くんっ……!」
さくらは、これ以上にないほど泣きそうな顔になっていた。
「今から俺は、芳乃さくらの弟、芳乃光雅、だ」
「うっ……、ひっく……」
「泣きたいなら泣けばいい。俺はさくらの弟だ。初めて会った時みたいに、遠慮なく俺の前で泣いてくれ。それで、すべて解決、だろ?」
さくらの感情が崩壊し、堰を切ったように涙が溢れ出した。
俺は、その小さな体を、落ち着くまで支えてやった。
しばらくしてさくらが落ち着いた後、さくらはふとしたことを口にした。
「光雅くんは、これからも闘い続けなきゃいけないんだよね?」
「そうなるな。旅行中に出会った強力な助っ人もいるし」
「……ボクも、光雅くんと一緒に戦いたい」
「さ、さくら、急に何を言って――」
「危険なことなのは分かってる!光雅くんがボクを巻き込みたくないのも!でも、ボクはずっとこれまで光雅くんに助けられてばかりだった!ボクだって、この家族を、みんなの笑顔を、この島を守りたいのはキミと同じなんだ!」
さくらの覚悟、それは、憧れなんかじゃ、羨望なんかじゃなかった。
ただ、守りたいと。
一途にこの島の平穏と幸せを願って。
「ボクだって、光雅くんの力になりたい。これでもボクは、魔法使いなんだよ?」
俺は、さくらの気持ちを、決心を、覚悟を受け止めた。
「分かった。さくらに、闘うための魔法の使い方を教えてやる。但し、やるからには本気でやるぞ。生半可にやるのは、一番危険だからな。俺に、ついてこれるか?」
「もちろんだよ。ボクは、おばあちゃんの血を継いでるんだ」
さくらの瞳には、この小柄な体と、普段の性格からは考えられないような、熱い決意の炎がたぎっているように見えた。
きっと、なんとかなるだろう。
何故だか、そう思えた。
こうして、旅の終わりと、そして、新しい生活の始まりが、同時に迎えられたのだった。
どうだ見たか、『超』がつくほどの短絡的思考を!
でもまぁ、俺としてはこうやって落とすのが最善だと思ったもので……。
とにかく、これでスキー旅行編終了です。
次章は年末年始のちょっとした出来事というか、とにかくつれづれなることを描こうと思っております。
その際、遂に『あいつら』が登場します。
んで、そうなると今の台本形式?に不都合が生じるので、台詞前の名前の頭文字をなくしたいと思います。
これで文章的にマシになるよね?
それでは、この作品をわざわざ読んでくださっている皆さん、これからもよろしくお願いします。
感想とか、待ってます。