D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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最大の分岐。
彼がいない世界と、いる世界。
ボクは、彼に助けられる。
願いは、彼に守られる。


三日月の光る夜に

~4、三日月の光る夜に~

 

俺が転生して、早7年。

音姉と義之と俺は風見学園に入学。音姉は付属3年、俺と義之は付属1年である。音姉は年齢が増えるに連れて、お姉ちゃんぶる態度にも拍車がかかってきた。勿論態度だけではなく、彼女はそれに見合うくらいの誠実さと責任感のある行動を示していて、嫌味なところなんて何もない。多分、世界で最高のお姉ちゃんだと思うんだがどうだろう。

一方由夢は、いつからだったか俺たちに対してつっけんどんな態度をとるようになった。いつの間にか挙動不審になって、妙に俺や義之を避け始めて、かと思えば声をかけてやれば少し嬉しそうにする。あれか、ツンデレという奴か。

そして俺は――

 

~さくらside~

 

あれから、7年、か。長かったようで、短かったような。……って、しんみりしてるのもボクのキャラじゃないよね。……にゃはは。

相変わらず長い年月を経ても桜は枯れることはない。それがボクの夢の成果で、そして罪の結晶。まるで出会いと別れ、そんな相反する意味を内包する桜は、耐えることなくその花びらを舞わせていた。

光雅くんは、毎日放課後に枯れない桜に行って、その実態を把握しようとしている。時間を掛けているのもきっと、義之くんのため、いや、義之くんを取り巻く周りのみんなのために、慎重に事を運びたいんだろうね。

 

「調子はどうかな?」

 

芳乃家の縁側で舞い散る桜とそのずっと向こうにあるお月様を眺めていると、光雅くんがこっちに来てくれた。

そんな彼とお話がしたくて、ボクは咄嗟に声をかける。すると光雅くんもこっちに気が付いて一緒に縁側に腰を下ろした。

 

「ああ。枯れない桜か。はい、順調ですよ。今のところ、あれのシステムのうち、正確には68.7%解析に成功しました。そのうち、バグが生じていた部分が、13.8%です。ホント、解析の途中にも、穢れた願いは少しずつ蓄積してるんで、除去しながらの作業は大変ですよ」

 

「そうなんだ……」

 

やっぱり、いくら光雅くんでも大変なんだなぁ。

この島の真ん中に存在する、この島で最も大きな桜の木、通称枯れない桜。枯れない桜の正体はそもそも、人々の想いや願いを桜の花びらを媒介に枯れない桜に届け、そしてそこに蓄積された想いの力を魔力へと変換し、そしてその力で人1人の純粋な願いを叶えてあげる、そんな魔法の木、そして光雅くんがやっていることは、その桜の持つ魔法システムの状況をチェックし、そしてその中で見つかったバグの部分を抽出して調査、そしてそれを修正するための上書きプログラムを創造して再稼働させる、そんな感じ。

光雅くんは夜空を見上げている。月光を浴びて、風に肩にかかるほど長い黒髪をなびかせ、優しい紫色の瞳が付きの明かりでほんのりと光っている光雅くんの横顔はとても綺麗だった。

 

――にゃはは、何考えてんだろ、ボク……

 

光雅くんが来る前は、ボクはずっと1人だった。

みんなが幸せになれる世界は無理だけど、願いの力で、困っている人を助けてあげられる、みんなが笑顔でいられる、そんな世界を創るために、ボクはずっと1人でがんばってきた。でも、その世界の中に、ボクは入り損ねた。

 

――いや、入る資格なんて無かったんだ。

 

でも、光雅くんはそれを許さなかった。

彼は1度死んでいるから、本当にみんながハッピーな世界、というものの核心に一番近い。自己犠牲が、周りに迷惑をかけることも承知している。

ホントに、光雅くんはすごいや。

 

「あと、2週間くらいかかります。その間、桜に悪い願いが蓄積しないよう、さくらさんも協力してください」

 

「うにゃ、もちろんだよ」

 

ボクも3日に1日くらいの感覚で枯れない桜の下に光雅くんと行って、そして無差別に蓄積されていく人々の穢れた願いを除去している。1人では大変だったけど、光雅くんとなら短時間で2倍、いやそれ以上の成果が得られるんだ。

 

「じゃあ、俺はそろそろ戻ります。おやすみなさい、さくらさん」

 

あ、もう10時か。もう少し一緒にいたかったな。

 

「うん。おやすみ。光雅くん」

 

~光雅side~

 

あぁ~疲れた。

俺の魔法≪魔術創造(マジカルクリエイト)≫は、体力と精神力を消費しちまうから、1日2%解析するだけで、フルマラソンを全力疾走するくらいに疲れる。長時間の使用は本来避けるべきなんだけど、俺の魔法は、ほぼこれを達成するためにあるも同然だ。無理は通してナンボって奴だ。

だけどまぁ、みんなには心配掛けないようにしないとな。

 

「ただいま~」

 

「おかえり~」

 

「あ、光雅兄さんおかえりなさい」

 

リビングに上がると、音姉と由夢が迎えてくれた。

義之は恐らく自室だろう。

音姉はキッチンに立って、コンロに火をつけた

 

「今日は遅かったんだね。ご飯は食べた?」

 

授業が終わってすぐ、枯れない桜の下へと訪れて枯れない桜のチェックを行っている。

心身疲労で正直そこまで気が回っていなかったけど、腹は大分減った。

 

「どこ行ってたの?」

 

由夢が俺に訊いてくる。

別に何かを疑っているわけでもなく、非難しているわけでもない。

純粋な、疑問。

 

「いや、ちょっとさくらさんとお話してた」

 

「そうですか」

 

そっけない返事をして、由夢は部屋に戻っていった。

リビングを抜け、そのまま食卓に向かう。

音姉の作ったビーフシチューの香りが俺の舌と腹を挑発する。

 

「はい、光くん、温めなおしたよ」

 

「おお、サンキュ。……んじゃ、いただきます」

 

スプーンでシチューをすくって口に運ぶ。

薄すぎず、濃すぎない、絶妙な風味が舌を包む。

簡単に言うと、美味い。

 

「どうかな?」

 

音姉が不安そうな目で覗き込む。

 

「音姉の料理が不味いわけないだろ。めちゃくちゃ美味いよ」

 

音姉の料理は、料理の天才じゃないかと思われる音姉と由夢のお母さん、由姫さん直伝の料理スキルで作られた絶品だ。そして更にそこに自己流のアレンジを加え、もう一段階進化させている。

既に由姫さんはいなくなってしまっているけど、音姉の料理はいつだって彼女を思い出させてくれるし、何より美味い。こと和食になると音姉の料理じゃないと満足できなくなるくらいだ。

 

「そ、よかった♪」

 

音姉の料理は本当に美味しい。そしてそれを直接彼女に褒めると、何回同じことを言っても鼻歌を歌うくらいに機嫌がよくなる。そして今日もまた例外ではなかった。

すると、階段から足音が聞こえてくる。その音はリビングまでやってきた。

 

「お、光雅おかえり」

 

降りてきたのは、自室にいたであろう義之だった。

 

「おう、ただいま」

 

「あ、義くん、どうしたの?」

 

「いや、ちょっと喉が渇いただけ」

 

「そうなんだ。今日りんごジュース買ってきてるから、飲んでいいよ」

 

「流石音姉、気が利くね」

 

義之は冷蔵庫からりんごジュースを取り出し、グラスに注いで、一気に飲み干した。

 

「ご飯食べたら、お皿洗いしとくから、お風呂入っちゃっていいよ」

 

食事中の俺に対して音姉がそう言うが、その言葉に義之が反応したようで。

 

「いや、皿は俺が洗っとくよ。音姉は部屋でくつろぐか、テレビでも見てなよ」

 

些細なことに気が回る義之。大事なことはすぐに忘れるのに、こう言った小さなことは見逃さずにそっと手伝ってあげる、それが彼のクオリティでいいところである。

おまけになかなか整ったベビーフェイス、その気になればカノジョの1人や2人くらい簡単に作れるんじゃないだろうか?

そう言えば大分前に知り合った幼馴染の女の子も義之に懐いてたよなぁ。なかなかの天然ドジっ子で可愛らしかったけど。

 

「でも、悪いよ~」

 

「気にしない気にしない。音姉も疲れてるだろ?」

 

音姉は少し考える素振りを見せて、苦笑しながら義之を見る。

 

「そうだね。お言葉に甘えさせてもらおっかな」

 

音姉がリビングでテレビをつける。

流れているのは、今人気のバラエティ番組。

 

「そういや、光雅、お前いつもさくらさんと何話してんの?」

 

「昔話だ」

 

「絶対嘘だ。お前そういうの苦手じゃなかった?」

 

「は?俺そんなこと言ったっけ?」

 

「ああ、俺がお前に桃太郎と浦島太郎、一寸法師と金太郎がサバイバルマッチをして、最後まで生き残ったものが天竺にいるサルとカニをペットにできるって話をしようとしたら、全力でスルーしにかかったろ」

 

あのカオスな話は正直意味不明だった。むしろ最後まで聞いて何かいいことがあるんだろうか?その話に財宝のありかのヒントが隠されていて、最後まで聞けば必ず見つけられるんだろうか?

全く持って馬鹿馬鹿しい話だった。俺は悪くない。

 

「あのな、そんな意味不明な話を最後まで興味津々を貫き通して聞こうとするほうがよっぽどおかしいだろうが」

 

「ええ?そうか?面白い話なのに……」

 

「そんな話を考える暇があったら、少しは勉強する姿勢だけでも見せてみろよ……」

 

「うっせ。じゃあ何話してんのさ?」

 

「何だっていいだろうが。……ごちそうさまでした。義之、皿頼んだ」

 

「あいよ」

 

俺はすぐに風呂に入り、明日の朝食当番もあるため、この日はさっさと就寝した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1週間後、いつもどおりに枯れない桜の元で、桜の解析を行っていた。

だが、今日はなんかやけに体がダルい。長時間の魔法の使用を数日連続で、そしてそれによる著しい体力の消耗で衰弱したか。風邪でも引いたかな?

でも、作業は進めなくちゃならない。

 

「みんなのためなんだ……」

 

そう言い聞かせて、自分を奮い立たせる。

桜に手をついて魔法をかける。

 

「解析率……83.2%……83.3%……」

 

くそ、前々から分かっていたことだけど、やっぱり進むのが遅い。こんな体だけに、余計ストレスと苛立ちが募って身体に悪い。悪循環にも程がある。

はぁ……はぁ……やっべ、ちょっとこたえたか……?

自分で呼吸が荒くなってきているのも、普段以上に寒気を感じているのも分かっている。

その時、一瞬、目の前が真っ暗になった。クソ、めまいがする……。てか、しんど……。

今日は、もうやめとくか……。

 

「はぁ……はぁ……くっ……はっ……はぁ……」

 

桜並木の途中、もう限界が近づいてきている。

両足の感覚が無く、頭も鉛が入っているかのように重い。

何とか朝倉家前まで帰ってきたが――

 

「もう……無理……」

 

そこで俺は座り込んでしまった。

足はこれ以上動かない。既に感覚は消えうせているし、思考が動きたくないと断固反対している。既に何度も体に鞭打ちしていたから脳内俺がストライキを始めたか……

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

ふと、薄れかかっている聴覚を澄ませると、玄関から音が聞こえてくる。誰か出てきたのか?

 

「……光くん!?」

 

甲高い声で、吃驚しているような、慌てているような、俺を呼ぶ声。

ああ、音姉か……。

音姉の手が俺の額に触れる。その手が嫌に冷たく感じて、思っている以上に体調は悪化していたことに今更気付く。ちょっと休めば治るかなくらいの感覚だったんだけど。

 

「やだ、すごい熱じゃない!ほら、光くん、お姉ちゃんに掴まって!」

 

音姉の肩を借りながら、動かない腕を音姉に引いてもらい、感覚のない千鳥足で玄関を通り靴を脱がせてもらって、何とか自室へと辿り着く。

 

「光雅兄さん!大丈夫ですか!?」

 

事態を聞きつけたらしい由夢が、慌ててバタバタを足音を立てながら勢いよく部屋のドアを開け、ベッド脇まで来て顔を覗かせる。

 

「は……はは、どうやら大丈夫じゃないっぽいぞ……」

 

「ほら、ちゃんと布団被って」

 

「ああ、すまん」

 

俺の腕が動かないのを察してくれたのか、中途半端にかかっている布団を肩までかけてくれる。

そしてそれとほぼ同時くらいに音姉が部屋に入ってきた。その手には何か握られている。

 

「光くん、お薬と栄養ドリンク、これ飲んで」

 

「ありがと」

 

先程音姉が一口サイズに切ったバナナを腹に入れたので、とりあえずは薬を飲んでも大丈夫な状態だ。

苦い薬と栄養ドリンクを飲み干し、体を横たえる。

 

「由夢ちゃん、私、明日のお弁当の仕込みをしないといけないから、光くん、お願いできる?」

 

俺の様子が発見当初より落ち着いて安心したのか、ほっとしたような面持ちで、由夢に訊ねる。

由夢もとりあえずは無事であることに安心したのか表情を緩ませて気持ちを落ち着かせている。

 

「はい。分かりました」

 

「ごめんね。あ、これ、氷水とおしぼり」

 

「うん」

 

「じゃ、ごゆっくり」

 

~由夢side~

 

「光雅兄さん」

 

「ん?」

 

いつも元気で病気したところなんて見たこともない光雅兄さんが、目の前でそれこそ病人の典型的な、というよりベタな恰好をしてベッドに横たわっている。

こう言ってしまったら失礼かもしれないけど、光雅兄さんって生涯病気も怪我もせずに一生元気でいられるような気がしていたのも事実。

 

「あんまり無理はしないでくださいよ?」

 

「ああ、悪いな」

 

「それにしても、光雅兄さんが風邪引くなんて珍しいよね」

 

光雅兄さんは風邪を引かない。偶に喉を悪くするか、鼻を啜る程度くらいは見たことがあるけど、さほど大事にも至ってないし、翌日には快復していたことが多い。

基本丈夫にできているのかもしれないけど、だからこそ余計に体調を崩されると心配になる。今日みたいに体が動かない程に衰弱なんてされたらなおさらである。

 

「俺もびっくりだよ」

 

「ホント、最近光雅兄さんいったい何してるんですか?」

 

「何って?」

 

「部活動してないのに、最近放課後家に帰ってこずに夜遅くに帰ってくるじゃない」

 

私の知らない光雅兄さんの生活事情。

光雅兄さんの性格はよく分かっている。兄というにはどこか遠く離れたような存在で、知らないことも多い。さくらさんが義之兄さんと一緒に連れてきたとは聞いたことがあるけど、それ以前は何があったのか知る由もない。

強くて、何でもできて、頼もしくて、でもそんな彼だからこそ、頼りたくない。一度頼ってしまえば、何でも彼に解決させようと思ってしまうような気がするから。それはきっと、光雅兄さんの身を滅ぼす未来を容易くつくりあげる。

 

「ああ、ちょっと街までナンパにな」

 

心配しているというのにもかかわらず、なんという軽い発言。

突然の言葉に、失望してしまった。怒りを通り越して何だか哀れになってくる。あれこれ光雅兄さんのことを色々考えてたというのに、そんな軽薄な行動をしていたなんて……!

 

「もう光雅兄さんなんて知りません!」

 

光雅兄さんの額に氷水を浸して絞ったおしぼりを叩きつける。むしゃくしゃしてやった。悪気はない。

 

「冷たッ!」

 

私は肩を怒らせて部屋を出て行った。

……冗談だって分かてるのにな。なんでこんなにムキになるんだろ。

少し落ち着いたら、また看病しよっと。

 

~光雅side~

 

あ~あ、怒っちゃった。はぐらかしてやる程度の軽い冗談だったんだけど、やっぱり由夢は冗談は聞かない性格(たち)だったか。

こりゃ復活してからの機嫌取りが大変だぞ……。

軽く雑談も交わせたし、由夢のおかげで少し楽になったかなぁ~、とか考えてたら――

 

「光雅くん、大丈夫なの!?」

 

金髪ちび少女がぱたぱたと慌ただしく部屋に入ってきた。

やっぱり事実上俺の保護者みたいな人だ。さくらさんも俺のことをひどく気に入っちゃってるみたいだし、こんなことがあれば心配するんだろうな。

しっかし、優しくて頼りがいもある人なのに、初見の人からすればただの金髪碧眼の幼く可愛い女の子で終わってしまうあたり可哀想なものだ。

 

「今なんか失礼なこと考えたでしょ?」

 

……す、鋭い……。さくらさん子供っぽいとか言ったら怒るもんな。とは言えその容姿からすれば仕方ないことなんだけど。

ってことも言っても起こるから言わないでおこう。

 

「いえ、そんなことないですよ」

 

「まぁいいや。で、大丈夫?」

 

「今はなんとか大丈夫です」

 

実際、風邪は引いてるっぽいけど、今のところ薬が効いてるのか、体がだるかったりすることはない。

病は気からとはよく言ったものだが、これだけみんなに心配されると申し訳ないと同時に何だか嬉しくなってしまう。そう思っていると自然と身体が楽になったように感じられる。

 

「そっか。たぶん、キミは無理をしすぎてるんだよ。キミの魔法は使うとそれだけ精神力と体力が削られるんだよね?それで体が弱ったから風邪ひいたんじゃないかな」

 

「まぁ、その辺が妥当でしょうね」

 

さくらさんの言葉に苦笑いを返してみせると、さくらさんも安心したようでほっと一息、柔らかい笑みを浮かべてそっと立ち上がる。動きに合わせて揺れる金糸のような長い髪が綺麗で思わず見とれてしまう。身体も成長すればきっと、モデルやアイドルも顔負けなくらいの美人さんになるんだろう。

 

「……光雅くんの無事も確認したから、ボクは戻るよ。あんまり無理しないでね。おやすみ」

 

「おやすみなさい、さくらさん」

 

さくらさんが俺のことを気にしながら退室していった。

色々考えてはみたんだけど、う~ん、疲れたな。そろそろ寝るか。

そのまま俺はまどろみの中に落ちていった。

 

~由夢side~

 

光雅兄さんの部屋の前に立ってはや7分、私はとにかく気持ちを落ち着かせていた。

さっきまでさくらさんが部屋にいたみたいだけど、何だか安心したような表情をしていた。多分光雅兄さんもある程度体調も安定しているみたい。

 

「……光雅兄さん、怒ってないかな……?」

 

ほんの少し扉を空けて隙間を作り、おそるおそる部屋を覗いてみる。光雅兄さんは向こう側を向いて横になっている。

 

「光雅兄さ~ん、起きてますか~?」

 

小声で訊ねてみる。しかし静かな寝息だけが聞こえてきて、返事の声は暫く待っても期待できない。

 

「寝てる、か」

 

起こさないように接近、ベッドの端に腰掛ける。

光雅兄さんの寝顔をそっと見つめる。

 

「……兄さん、か」

 

1年くらい前、夢を見た。義之兄さんが私のもとで苦しみ始める夢、光雅兄さんが何者かの手によって消される夢。どちらも酷く残酷で、辛くて、苦しい別れ。

今までは、兄さん2人にずっと助けられていた。でもこのままじゃ、2人とも私のもとからいなくなっちゃう。それは確定された未来で、覆ることはなくて――でも、諦めたくないから。

だから、私が強くならなければならない。

私が、兄さん達を守らなければならない。

 

「……全く、そんなことも知らないで、幸せそうに……」

 

静かな寝息を立てながら穏やかな寝顔をしている光雅兄さんの髪をそっと撫でて、苦笑いする。そうしていると――

 

「……まも……る……」

 

「へ?」

 

なんだ、寝言か。

 

「……ゆ……め……」

 

私の名を呼ぶと同時に、光雅兄さんの両手が私の背中に回り、そのまま私を抱き寄せる。

何が起こったのか自分の頭でも上手く理解できず、気が付けば光雅兄さんの胸板の上だった。

 

「へ?え?え?何?え、や、あと、その……」

 

い、いきなりなにするのよ……!?

なんて、焦りながらも、少し嬉しい自分がいる。私は、この家族が大好きで、お姉ちゃんも、さくらさんも、義之兄さんも、光雅兄さんも大好きで、いつまでもずっと触れ合っていられる日常があることを信じて。

 

「……もう……♪」

 

私もそこで寝ちゃいました。

翌朝、完全復活した光雅兄さんが困惑しまくってたのは、別の話。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~光雅side~

 

それから1週間ちょい経って、俺は今枯れない桜の根元にいる。

三日月が漆黒の天空で微笑むように輝いている。こんな時に変なことを考えているけど、やっぱり夜桜が月に照らされ、幽かな薄紅色の光を放ち、そして舞い散る花びらがそこに影をつくる、幻想的で美しい光景。

解析は100%成功した。あとは、そのうちの37.9%のバグを修正、運用するプログラムを創造するだけだ。

俺の体がもつか、そんなことは今はどうだっていい。この木さえどうにかできたら……。

木の幹に両手を添える。そのまま一気に魔法をかける。左眼が紅色になる。

 

「創造、バグ修正及び新システム運用のプログラム……、対象、枯れない桜……、オプションとして、プログラムのバックアップを添付……」

 

準備は整った。

後はこれを桜に埋め込むだけだ。

 

「操作を開始する!」

 

瞬間、桜がざわめき、ほんのりと輝きを放つ。

 

「推定必要時間、残り1時間38分47秒……」

 

 

……

 

…………

 

………………

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~由夢side~

 

午後9時、自宅。

私は妙な不安を抱きつつ、部屋でごろごろしていた。義之兄さんも帰って来て、お姉ちゃんも生徒会の仕事から帰って来て夕飯の終えたところだった。後は光雅兄さんが帰って来て、一緒に夕飯を食べるつもりだったんだけど。今日はいつにもまして帰ってくるのが遅い。普段ならもう帰っているはず。

ふと、今朝の夢を思い出した。そして鞄の中にしまってある手帳を取り出してパラパラとめくり、そして一番新しいページに書き込まれた文章を目で追っていく。

枯れない桜の根元で、光雅兄さんが倒れる、というものだった。

 

「もしかして……!」

 

夢の内容が現実になるというのなら、光雅兄さんは今頃――

ジャージのまま部屋を出る。階段を下りて、一言。

 

「お姉ちゃん!ちょっと出てくる!」

 

「え?ちょ、由夢ちゃん!?」

 

お姉ちゃんは困惑していたけど、相手にしている場合ではない。焦りながら靴を履いて、そして玄関を飛び出す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……光雅兄さん……」

 

走る。ひたすら走る。枯れない桜まで。

足がもつれようと、息が切れようと、脇目もふらず休むことなくただ走る。

延々と続く桜並木の風景がいつも以上に速く自分の背中へと流れていく。通りすがる人もいないようだったから、体裁を気にすることなく枯れない桜へと向かうことができた。

 

「……いた!」

 

枯れない桜の根元、暗くてはっきりとは見えないけれど、光雅兄さんが倒れている、というより、疲れ果てて寝ている。

私はふらふらの足を光雅兄さんの下まで動かして、何とかその疲れ切って寝ている表情を視界に収める。

 

「ほら、光雅兄さん、しっかり掴まって……!」

 

返事は無い。

 

「全く、心配ばっかりかけて……」

 

ちょっと引きずる形になってしまったが、仕方が無い。

それにしても、やっぱりしんどいな、とか考えていると、

 

「お~い、由夢~、何やってんだ~?」

 

義之兄さん。私の後ろから走ってついてきたのだろう、走るのは私よりも大分速いだろうから、多分結構遅れて家を出たのかもしれない、私と同じ、肩で息をしていた。

やっぱり、私の兄さんはすごいや。2人とも、誰かが困ってたらすぐに駆けつけて助けてくれる。私の、大切な家族。私の、私の大切な――

 

「おい、光雅!大丈夫か!?」

 

「えぇ、一応大丈夫そうです」

 

「そ、そっか」

 

「ありがと。義之兄さん」

 

私が義之兄さんにお礼を言うと、何故か義之兄さんは動揺した。

アレだろうか、私が素直にお礼を言うとは思ってなかったんだろうか。そうだったら失礼にも程がある。私だってちゃんとお礼くらい言えますし。

 

「あ、ああ、そ、それより、光雅をはやく家まで運ぶぞ」

 

「はい」

 

私は、家族に恵まれている喜びを感じながら、三日月の空の下、光雅兄さんを運んで帰るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~光雅side~

 

………………

 

…………

 

……

 

あれ、ここは……。

 

「あっ!光雅くん、大丈夫!?」

 

「え、あ、はい……」

 

あれ、俺は確か……。

真っ先に視界に入ったのは、金髪の少女、さくらさんだった。

 

「光雅くん、ありがとう。ホントに、ありがとう……!」

 

さくらさんは泣いていた。声が震えている。

さっきまで自分が何をしていたか、ぼんやりする頭で振り返って思い出してみる。確か、枯れない桜のバグを全部除去して新しくプログラムを書き換えるために一世一代ともいえる魔法を行使していたんだっけ。

 

「あの、俺、成功したんですか?」

 

「うん。桜のバグは綺麗さっぱりなくなってたよ。もう光雅くんには、感謝してもしきれないよ……」

 

「そんなことないですよ。俺はただやれることをやっただけです」

 

「それでもっ!ボクはキミに救われたんだ。ほんとに、ありがとう!」

 

ここまで喜んでくれるなら、俺としてもやった甲斐があるし、誇ってもいいのかもしれない。

そうか、俺はやったんだな。よかった……。

 

「でもね……」

 

「……はい?」

 

なんか、さくらさんの後ろにブラックファイアが……。

やばい!これは!いつかの事件の時に俺が心配をかけたことで怒りを超越したアレと同じ奴だ!

 

「光くん……」

 

「光雅兄さん……」

 

「光雅……」

 

さくらさんと由夢が起こるのは至極真っ当だとして。

義之、お前もか……!?

 

「「「「そこに正座」」」」

 

この説教、プログラミングより辛かった。夜なのにお構いなく1時間以上説教とかね、もうね。

純一さん、様子見に来て3人の雰囲気に震えてないで助けてくださいよ……。




毒舌な『雪』の少女。
天然真面目な『月』の少女。
なんかお姉さん、な『花』の少女。

オカルト好きな『バカ』その1。
変態ドラマーな『バカ』その2。

次回『悪友と悪友と雪月花』
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