D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
誰がそんなことを言ったろうか。
所詮は、希望的観測。
何も装備することなく空を飛びたい、なんて、不可能なのだ。
それと同じ。
決まってしまう未来は、変わってはくれない。
~義之side~
翌日の朝。
俺は少し遅くまで寝てしまったようで、起きたのが9時過ぎ。
寝ぼけなまこを擦って下に降りると、台所から妙な音が。
何事だろうと覗いてみると。
そこには地獄絵図が完成していた。
由夢が、由夢が!
料理してる!?
「や、よ、義之兄さん、お、おはようございます……」
「おはよう……。じゃなくて、何やってんだお前!?」
「何って、見れば分かるでしょ、料理です。私だって台所に立ちたいときくらいあります。」
この状況を見ている人は、俺の気持ちを察してくれるだろう。
だって、由夢といえば、他人の前では猫かぶりで、料理が下手で、家ではジャージに眼鏡で、料理が下手で、天邪鬼だけど見てて可愛い妹で、料理が下手で、それなりに成績は優秀で、料理が下手で、学校では人気者で、料理が下手で、お風呂が大好きで、料理が下手なんだぞ?
馬鹿野郎、なんで正月早々地獄を見なきゃならんのだ……?
どうせ俺に毒見させるんだろ?
「今何か失礼なこと考えませんでした?」
――ガシッ!
由夢の持つ包丁の刃がキャベツと一緒にまな板に叩き付けられる!
こ、こええぇぇ……!
だが、ここで怯むわけにはいかない!
「お前、冷蔵庫の中の食材が勿体ないだろうが!貴重な食糧なんだぞ!?」
「……」
――ガシッ!ガシッ!
更に強力に包丁を叩き付ける!
怒りを抑え込んだのか徐々に威力は弱まって――
「あっ……」
由夢が何か困ったように声を上げる。
「なんだ、指切ったのか?」
「や、いえ、その――」
「ちょっと見せてみろ。あー、ちょっと皮膚切っちゃってるな……。血もちょっと出てるけど、すぐ直るだろ。」
傷口から入ってしまったであろう雑菌を吸うために、怪我した由夢の人差し指を咥える。
「――へ?」
5秒くらいして、こんなもんかと口を離す。
「な――」
「な?」
「なななななななななななな――!?」
って、ちょっと!?
俺、何やってんだ!?
仮にも妹とはいえ何の断りもなく唐突に指を咥えるのはどう考えてもタブーだよな!?
「す、すまんっ!」
これは俺が悪いと判断して、頭を下げる。
これは流石にアンパンチ確定か!?
バイバイキンか!?
「や、その……」
あれ……?パンチが降ってこない。
「あ、ありがとう……」
「お、おう……」
なんか、変な空気になってしまった。
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正午少し前、俺は昼飯も兼ねてちょっと散歩に出かけていた。
色々食べたいものはあったのだが、正直ウロウロするのも面倒なので、思い立ってすぐ近くにあったハンバーガーショップに入った。
そこでバリューセットを頼んで、受付横で待つ。
しばらくすると注文した品が出来て、俺はそれを持って適当に席を探す。
するとそこに、見覚えのある顔があった。
天枷。
「おおう?なんだ、桜内か」
「出会い頭になんだとは失礼だな」
「うるさい。今日は杏先輩と来ているのだ。邪魔をするならどこかに行け!と言いたいところだが、杏先輩の友達を無下に追い返すことは出来ん」
その態度はまるで『苦しゅうないぞ、近う寄れ』とでも言いたげだった。
なるほど、こいつもスキー旅行から帰ってきて多少は成長したんだな。
「サンキューな」
「ばっ!違う!美夏は別に貴様のことを想ってそうしたのではない!あくまで杏先輩のためなんだからな!」
天枷の完璧なまでに曇りのないツンデレっぷりを堪能したところで、杏がやってきた。
「あら、あんた私の美夏に何てことするの?」
「まだ何もやってねぇ!」
食品の乗ったトレイを両手で抱えて立ちっぱなしでどうやってこのバナナにちょっかい出せっていうんだ!?
「ま、いいわ、座りなさい、犬」
「犬じゃない」
「なんだっていいわ。ほら、わたしのここ、空いてるわよ?」
なんか杏が自分の脇を広げてもう片方の手でその空間を強調しているんですけど。
まるでここに来いとでも言わんばかりに。
仕方がないので天枷の隣に座る。
嫌がられるかと思ったが、そうでもなかった。
「あんたがこんな時間にここにいるって、どうかしたの?」
「いやな、昨日から光雅たちは魔法の件でちょっと外出しててさ、俺と由夢だけなんだ、残ってるのが」
「あら、アイシアさんやまひるさんも?」
「ああ」
一応まひるのこともみんなには連絡してある。
杉並がすんげー興奮してたぜ。
これが本物の幽霊か、とか。
にしても、光雅の傍にいるとやたらとファンタジックかつオカルティックな現象に巻き込まれるな。
「それにしても、1つ屋根の下で2人っきり。間違いが起きてもおかしくないわね」
「桜内、貴様、由夢に何かあったら許さないからなっ!」
「ちょっと待て!確かに昨日から由夢も俺んちのほうに泊まってるが、部屋は別々だ!」
「夜這いなんて簡単にできるじゃない?」
「アホか!?」
第一由夢は俺の妹なんだ。
そんなこと、あるわけないだろう。
いや、確かになんか最近あいつ心身成長して可愛いところもあるんだけどさ。
とりあえず、3人で昼食を終えて店を出る。
んで、こいつらにあったのが運のツキ。
さっそく荷物持ちやらさせてもらってる訳であります。
これじゃやっぱり俺は駄犬なのか!?
相変わらず女子のウインドウショッピングは、何がいいのか分からん。
手に入らないものをただ眺めて時間潰して次に移るなど、何のメリットがあるというのだろう?
「ほら桜内、次行くぞ?」
「あんたねぇ、こんな両手に花の状態でよくそんなめんどくさそうな顔してるわね」
「今のお前らは街中で出会う渉よりタチが悪いぞ」
「アレと一緒にされたくないわね」
渉、俺が引き合いに出してるのが悪いんだが、お前結構酷いこと言われたぞ……。
そしていろいろ物色して約2時間半。
お、俺、疲れた。
「ご苦労様。もういいわ。あとは大丈夫だから。義之は行くところがあるんじゃないの?」
「は?」
「は、って、あんたねぇ……」
杏に心底呆れられる。
なんだ?引っ張りまわしたのお前らだろ!?
「今日は由夢の誕生日だったはずだが?違うのか?」
――っ!?
そうだ、すっかり忘れていた。
約束の時間は――?
――6時。
現在4時過ぎ。
時間的にはまだ大丈夫か。
しかし、早めに帰るに越したことはない――が。
「なんかプレゼントとか買ってあげたほうが、喜ぶんじゃない?」
そうだよな。
俺は少しその辺を散策してから帰ることにした。
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~由夢side~
あとはこれを運んでっと。
よし、準備完了。
出来た。
パーティーの準備。
光雅兄さんは言ってた。
『俺はこれから少し用事があってでなくちゃならない。さくらと音姫とアイシアとまひるは連れて行くから、例のアレは2人で楽しめよ。なに、あれだけ指導して練習したんだ、上手くいくさ。』と。
ちょっと見栄えはお姉ちゃんたちみたいに上手くはいかなかったけど、味の方は自分でも味見をして美味しいと思ったから大丈夫だろう。
光雅兄さんは、多分知っているのかもしれない。
私の、本当の気持ち。
でも、私は義之兄さんの妹だから。
だからせめて、妹として義之兄さんの傍で、幸せを感じていたい。
ほんの少しでいいから。
そう、私はまた、夢を見たんだ。
義之兄さんが、私の目の前で消えちゃう夢。
そして、お姉ちゃんが、光雅兄さんの前で涙を流しながら、動かない手を握り締めている夢。
やっぱり、兄さんたちは私の前からいなくなるのかもしれない。
何度か、光雅兄さんは私の夢を少しでも変えてくれた。
でも、それも確率論に過ぎない。
今のところ、ほとんどが私の夢の通りになっている。
それに、義之兄さんは――。
ガラガラガラ。
家の外玄関の開く音。
義之兄さんが帰ってきた!?
私はずっと待っていたっていう態度を隠すために料理の置いてある部屋に戻った。
「宅急便でーす」
違った。
ここでがっくりしてしまうくらい、私は義之兄さんのことを待っているのだ。
とりあえず、荷物を貰いには出た。
――義之兄さん、帰ってきてください。
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~義之side~
俺はあれから、色々と回った結果、ある1つの結論を出した。
由夢と言えば風呂。風呂と言えばパジャマだな。
残念ながらあいつにはパジャマを着るという習慣そのものがない。
というかパジャマを持ってない。
だから、あいつのためにパジャマを買うことにした。
だから、少し前に杏たちと回っていたとある店のショーウインドウに可愛らしいパジャマがあったのを思い出して、急いでそれを購入したのだ。
由夢は元々素材で可愛い。
それなのに、あのグータラっぷりが残念にしてしまっている。
パジャマ1つ着るようになるだけで、随分変わるんじゃないか?
由夢がこのパジャマを着るのを想像する。
ってか十分可愛いんじゃないかと思う。
高かったけれども、いい買い物をしたと思う。
そしてショッピングモールの通路を抜けようとしたその時だった。
突然のサイレン。
けたたましく鳴り響く。
そして、なぜか急に出入り口のシャッターが下りた。
――完全に出られなくなった。
しばらくして警察が駆けつけて、調査を行ったのだが、原因不明で、何やら誤作動が起こったらしく、しばらく開かないらしい。
クソ!
こっちは急いでるんだ!
早くしてくれ!
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~由夢side~
――全部、分かってたんだ。
時刻は6時半。
6時を過ぎたころは、もう少し待ってみようと思ったのだけれど、30分遅れても義之兄さんは帰ってきてくれなかった。
全部、分かってた。
夢を、見たもの。
こうやって、暗い中独りきりでずっと待つべき人を待って、今みたいに諦めるしかないことを知ってしまう夢。
なんで期待しちゃったんだろう。
未来は、変わらないのに。
奇跡なんて、起こらないのに。
馬鹿みたいに楽しみにして、はしゃいで、料理なんかしたりして。
こんな期待、最初からしなければよかったのに。
そうすれば、傷つくことはなかった。
諦めがついた。
・・・今は、一番辛い諦め方をしている。
全部、私が、弱いから。
だから――。
だから、もう、『夢』を見るのはおしまいにしよう。
そうすれば、私は、最期の最期に、苦しまなくて、いいから。
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~義之side~
シャッターが開いて、俺はダッシュで家まで戻る。
携帯で時刻を確認したら、既に7時。
全く、とんだ時間食わせやがって!
こんな大事なこと、なんで由夢も言ってくれなかったんだ!?
・・・いや、違う、全部、俺のせいだ!
俺がそんな大事なことずっと忘れてて、朝だって料理までしてたのに、俺はそれを裏切っちまった!
畜生、由夢、すまん!
芳乃邸に到着、そのまま勢いを止めずに中に入る。
少し、料理の香りがする。
由夢の、努力の結晶。
でも――。
「由夢!わりぃ、俺!――っ!?」
由夢は既に、いなかった。
そこには、由夢がつくったであろう、料理が並んでいた。
本当は今頃、由夢と楽しくやっていたのかもしれない。
それを、俺のせいで、俺が間に合わなかったから――!
由夢が寝泊りしている部屋に行っても、そこには荷物すらなかった。
朝倉家に帰ったのだろう。
俺は、ただ、立ち尽くすしかできなかった。
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~光雅side~
さくらの修業は、順調に進んでいた。
既に英嗣クラスにはなっていると思う。
それだけさくらには素質と才能があった。
それに、桜の研究のために費やした50年間の知識が、そのレベル向上に大きく役立った。
今俺たちは、とある建物の中でゆっくりしていた。
「今頃由夢ちゃんたち、楽しくやってるかな?」
「ああ、あれだけ俺も手間かけたんだ、義之も由夢の進化っぷりに今頃度肝を抜かされてるぞ。」
音姫が俺の肩に寄り添う。
「2人とも、ホントにラブラブだよね」
「それにしても、さくらが好きになるのも分かるなー」
「羨ましいですっ!」
こちらは5人で楽しくやっているのだが、そっちも、大丈夫だよな?
離れていく大切な妹。
何もできない自分の弱さが、嫌になる。
俺のせいで、楽しかった日常が、歪んでいく。
消えていく。
次回『アキラメタユメ』