D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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取り戻した日常。
待ち構えている未来。
選択した先にあるのは、希望か、絶望か。


セマルミライ

その後、義之は無事退院――したのはいいんだが、結局俺と音姫、義之と由夢が付き合い始めたせいで、芳乃家がなんかカオスになってしまった。

俺たちは全員で2人を祝福し、その仲を認めた。

但し、あくまで家では疑似的な、というか、ご近所さん的家族、ということで、今までの通り、とはいっても由夢が以前に増して素直になってしまったが、俺、義之、さくら、アイシア、まひる、由夢、音姫の7人家族(純一さんは芳乃家にかったるがってこないから芳乃家じゃなくてもいいよね?一応家族だけども)ということで生活している。

そして、そんなある日――

 

「ど、どうですか……?」

 

由夢を隣にして、義之が味噌汁を食している。

由夢のその表情は、さしずめ期末試験の結果が返される前のそれそのものって感じだ。

そんなに真剣にならなくても……。

義之がお椀を置いて、一息つく。

そして由夢の方を見て、一言。

 

「うん、美味い」

 

「本当!?」

 

「ああ、大分上手になったな」

 

俺がご教授してやったんだから、美味しくないわけないだろ。

それにしても、本当に平和になったよな。

 

「おめでとう、由夢ちゃん!」

 

「よかったですぅー!由夢さん!」

 

「ようやく由夢ちゃんも台所に立てるようになったんだねー!」

 

と、アイシア、まひる、さくら。

ってさくら、何気に酷いこと言ってねーか?

 

「や、その、ありがとうございます……」

 

みんなから感激されたので、由夢が赤くなってもじもじする。

と、そこで、義之も由夢から視線を逸らす。

 

「という訳でだ由夢、ご褒美に、これから俺と一緒に買い物に行かないか?ちょっと商店街の方に用事があるんだ……」

 

「えっ……」

 

義之、それは婉曲的にデートのお誘いってことでいいよな?な?

案の定、俺を含めて2人以外は甘々カップルを見てはニヤニヤしている。

 

「ま、楽しんでこいよ」

 

「や、えと……はい……。そ、それじゃ、準備してきます……」

 

そういうと、由夢は足早に居間を出ていってしまった。

 

「反応がうぶだねぇ。なぁ、音姫」

 

「うふふ、そうだね」

 

いやぁ~、青春、青春。

俺もその只中にいる訳ですけど。

恋人がいるってだけで、ホント毎日が色鮮やかになるぜ。

義之も、その幸せを、いつまでも続けてほしい。

そのためには、やらなくちゃいけないことがある。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜。

俺は縁側に出て、夜風に当たっていた。

最近は10時半頃の夜の風が気持ちいいんだ。

そこに。

 

「うにゃ、光雅くん、こんなところで何してるの?」

 

さくらが俺に気付いたのか、俺の傍まで来て密着するように俺の隣に座った。

 

「近いよ、さくら」

 

「そうだね……」

 

さくらは微笑んでいる。

でも、ここまでさくらが無口ですり寄ってくるのは、決まって少し寂しい時。

 

「考え事?」

 

「そんなところだ」

 

「何を考えているの?」

 

「あの桜だ」

 

あの枯れない桜は、何者によってかは知らないが、システムを上書きされて、どんな願いでも叶えてしまうようになってしまっている。

そして、それが原因で、島のあちこちで原因不明の事故や事件が多発している。

そして、システム書き換えの際に、管理者の権限がさくらから剥奪されて、さくらでも制御が出来なくなっている。

 

「……どうするの?」

 

どうするべきか。

もう1度あの桜の様子を調べて、手を打つしかなさそうだ。

 

「今はまだなんとも言えないな。明日、決める」

 

「……そっか」

 

「心配いらんさ。さて、俺はそろそろ寝るな」

 

「うん、おやすみ」

 

そう、この問題は、早く解決しないといけないんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝月曜日。

 

「でぇ~、どこまで行ったのぉ?義之くぅん?」

 

「ぜひとも聞かせてもらおうかしら」

 

相も変わらず杏と茜が義之に迫っている。

んで、それを義之が何とかはぐらかそうとするんだけど……。

 

「キスはもう、したんでしょ。光雅から聞いたわ」

 

俺、何も言ってないんですけど。

 

「ふぇ、義之、キス、したの……?」

 

「光雅ぁぁぁぁあああ!お前、何言ってんだぁぁぁぁ!」

 

「あら、しちゃったの」

 

「しちゃったんだぁ」

 

「ガーン……」

 

「お前、やっぱ馬鹿だな」

 

勿論俺はプライバシーのために言っていない。

 

「よ、義之、お前……!」

 

渉まで聞いていたようだ。

 

「うわーーーーん、義之くんのばかーーーー!」

 

渉は走り去った。

太陽に向かってまっすぐと。

涙を流しながら、一目散に。

どこぞの青春ドラマのように。

メンドクセェ。

 

「相変わらず騒がしいよなぁ、お前ら」

 

と言うのは、ロイ・シュレイドだったりする。

なんでも少しの間だけ留学生扱いで風見学園に厄介になってるんだとか。

勿論優香も来ているらしいが、彼女はななかと同じクラスである。

結構仲良くやっているらしい。

ちなみに、この2人、編入当初から異性にやたらと人気がある。

特に北欧出身のロイは外国から来たってだけで珍しいのに、色白の人懐こいイケメンということで、廊下を歩くと軽く女子生徒の人だかりが出来ることもあるらしい。

優香の方も、同じく廊下をななかと一緒に歩いていると、野郎どもに2度見されるくらいの見栄えのよさで、物凄い人気を集めている。

携帯のカメラに収めようとして先生に見つかり、携帯を没収されるヤツがあとを絶たないんだとか。

まぁ、いずれにしてもエリカレベルの人気を誇っているようだ。

 

「あれぇ、ロイくん、そんなところでかっこつけてないで、一緒にお話ししよ~♪」

 

そう言って茜はロイの腕を絡め、引っ張る。

そうすると自然に茜の恐るべき破壊力を持ったアレの感触がロイの腕に当たるわけで。

 

「うわわわわわわわわわわわわわわぁ!」

 

――ブシャァアアアアア!

 

盛大に鼻血を噴出した。

おいおい、まだ慣れないのかよ。

どうやらこいつは優香以外の女性とまともに付き合ったことがないらしく(優香も恋人ではないが)、ちょっとアレなことがあるとすぐにこう過剰な反応を示す。

 

「茜さん、やっぱ、サイコー……」

 

――ガタン!

 

教室の扉が急に開く。

そこに立っていたのは、阿修羅の顔をした、優香だった。

 

「ロイ先輩、お話しようと思って来てみれば、これは一体どーゆーことですか……?」

 

ロイはしゅたっと素早く立ち上がって優香と対峙する。

 

「うるせー!お前みたいなヒンソーな胸してるヤツに、この幸せは分からんよー!ヒャッハー!」

 

言うなり、ロイは俺にも視認出来なかった優香の手刀を飛んで回避して前転で着地し、そのまま廊下へと逃げていってしまった。

 

「待ちなさい!」

 

優香もそのあとを追いかける。

果たして今度こそこの鬼ごっこに決着はつくのだろうか……。

今日も平和だなぁ……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜。

俺とさくら、義之と朝倉姉妹で、枯れない桜の下に来ていた。

理由は勿論、真実を話すため。

俺たちがここに来るに至った、全ての始まりを知ってもらうため。

そう、『桜内義之』という存在が、どういうものなのか、そして、これからどうなるのか。

 

「光くん、こんなところに集めて、何をするの?」

 

「光雅……?」

 

「さくら、これから俺は、全てを話す。いいな?」

 

「え……?」

 

そう、これから俺が何をすべきか。

俺は覚悟を決める。

みんなを救うために。

 

「全ては、この桜から始まった。そこにいる、芳乃さくらが、この桜の木を植えたんだ」

 

「さくらさんが……?」

 

さくらの方をみると、悲しそうに俯いていた。

長年溜め続けた思いの、言うなれば捌け口。

ずっとずっと寂しい思いをした先に、耐えられなくなり、身に余る願いを叶えてしまった。

その罪を、弾劾されているようにも聞こえたのかもしれない。

 

「この桜はな、正真正銘の魔法の桜なんだよ。本来は、人々の想いを集めて、それを糧に、純粋な願いを叶える手助けをする力を持つ、桜の木だった」

 

「願いを叶えるっていう噂は、本当だったのか……」

 

「実は、その願いを叶える桜の木だったんだが、それ自身は半世紀以上前から存在していた。だが、それは、ある魔法使いによって枯らされたんだ」

 

そこまで言って、俺はさくらに視線を向ける。

さくらは頷いて、俺の後に続いた。

 

「その木は、ボクのおばあちゃんが植えた木でね。小さい頃ボクが苛められないようにって、ボクを守るために植えられたものだった。でも、それには致命的なバグがあって、枯らさなきゃいけなかった。だから、ボクが枯らした。それから、ボクはアメリカに渡って、ずっと枯れない桜の研究をしていた。誰もが幸せになれる世界、ボクは、そんな世界があってもいいんじゃないかって思ったんだ。何年も、何十年も、研究に明け暮れた」

 

そこで、さくらの表情に、寂しさが浮かんできた。

それは、俺がここに来た時に、初めてさくらと出会った時と、同じような表情だった。

 

「でもね、ボクがそうやって研究をしている間に、ボクが大好きだった人たちがみんな結婚して、子供が出来て、幸せな家庭を築いていった。……ボクは、いつまで独りぼっちでいなきゃいけないんだろうって、そう思ったんだ。そしてボクは、やっちゃいけないことをしてしまった。ボクは――」

 

さくらが義之を見た。

それは、親が子を見る視線。

 

「ボクは、願ったんだ。家族が欲しいと。ありえたかもしれない現在の、もう1つの可能性を見せてくださいって」

 

「「「――ッ!?」」」

 

「その願いから生まれたのが――『桜内義之』くん、キミなんだ……」

 

「じゃあ、俺は――」

 

そうだよ、義之。

さくらは、お前の、本当の母親なんだ。

もうそれくらいでいいだろう。

あとは俺が、説明してやる。

 

「だが、さくらが植えたその枯れない桜も、またバグがあった。それは、願いを選別するシステムに少しばかりの欠陥があったことだ。もしこのまま願いを蓄え続けていれば、枯れない桜は暴走し、どんな願いも叶えてしまうようになり、初音島は、恐ろしいことになっていただろな」

 

だが、そこに、俺という異分子が現れた。

本来存在するはずのない、トチ狂った力を持った少年。

 

「義之が生まれたと同時に、俺はこの世界に呼び出された。そして、初めて出会ったさくらに、このバグを治すことができると、そう言った。そして、それは確実に成功したはずだった」

 

だが由夢たちの事件が起こる少し前から、異変が起こり始めていた。

 

「何者かによって願いを叶えるルーチンを書き換えられ、暴走した桜と同じようなシステムへと変わってしまった。そして、その上書きの際に管理者の権限がさくらから剥奪され、さくら自身でさえ制御不能になっている。だから、この暴走を止めるには――桜を、枯らすしかない」

 

「……いやだ」

 

さくらが、ぼそっと呟いた。

 

「いやだよ!桜を枯らすってことは義之くんが消えるってことなんだよ!?確かに自業自得かもしれない……。でも、ボクの大切な家族なんだ!失いたくないんだ!」

 

違う、さくら、違うんだ!

俺は、義之を犠牲にするなんて一言も言ってねぇ!

 

「ちげーよ、俺がなんでここにいるか、忘れたか!義之は失わせねぇ!そんなことしたら、みんなが悲しむ!何より、由夢が辛い思いをするんだ!やっと幸せになれたこいつらを、みすみす引き離すことなんて出来るかよ!俺は絶対にみんな幸せで終わらせる!」

 

そう、俺はそう決めたじゃないか。

誰もが全員一致で幸せだと思える世界にするって。

 

「……でも、どうやって?」

 

さくらが落ち込みながら俺に訊ねる。

さくら自身、義之を召喚できたのはいいが、桜が枯れた後、義之の存在を残すにはどうしたらいいか、というのを考えていなかったようだ。

俺が桜の修正をしたことで、それをする必要がなくなったからだ。

でも、今では、その必要が出てきた。しかし、手段はない。

さくらにとって、打つ手はなかった。

そう、さくらにとっては――

 

「桜を枯らせば、義之は消える。義之はそもそも、桜の魔法があってこそ存在できたんだ。その支えがなくなった義之は、この世界の『矛盾』として認識され、強制的にこの世界から排除される。存在そのものをな。でも、そこに、“埋め合わせは存在しない”。だったら、今度は、世界ではなく初音島のそれぞれ個人に矛盾が出来る。義之に関連した事柄から、義之がいなくなる。そしたら、そこに誰かがいたはずだって、誰もが思う。その違和感は、消失感は、やがて大きな『想いの力』へと発展するはずだ。『そこにいたはずの誰かを取り戻したい』と。そこを利用する。その想いの力と一緒に、機能を失った願望器の内部に侵入し、本当の存在をもつ、『桜内義之』本人を引っ張り出す。……なに、勝算はあるさ」

 

「……大丈夫、なんですか?」

 

由夢が、不安げに訊ねる。

ようやく恋人同士に、本当の意味で大切な人同士の関係になれた矢先の、別れ。

永遠の離別に対する、恐怖、絶望。

耐えられるわけがないだろう。

 

「由夢、お前、義之が消える未来を見たんだったな。確かにその未来は現実になる。だが、その先は確定しちゃいない。未来の先の未来を、俺が変えてやる」

 

「光雅兄さん……」

 

「みんな、覚悟してくれ。これから、芳乃家の家族を救うついでに、島の人間全員を救う作戦を遂行する。みんなを信じろ。俺を信じろ。絶対に成功させてやる。義之は、きっと取り戻す」

 

俺は義之の方を見る。

義之は、力強く頷いた。

義之の覚悟は、既に固まっていた。

 

「じゃあ、音姫、桜を枯らしてくれ。『正義の魔法使い』の役目を、今、果たすんだ」

 

「……分かった」

 

音姫が、桜の幹に手をつき、瞳を閉じる。

しばらくすると、桜の木が薄く発光し始めた。

そして、たくさんの願いを叶えてきた枯れない桜は、その花弁を散らせて、再び、深い眠りへと就いた。




きっと、いや、絶対に義之を取り戻して見せる。
義之がいるから、この世界は幸せであり続けることができるのだ。
義之だけでない。
みんな、みんなそうなんだ。
俺は、そんなこの島が、この家族が好きだから――

次回『夢の集う場所』


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