D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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人の願いには、様々な形や色がある。
希望、憧憬、期待、熱望――
絶望、嫉妬、不安、欲望――
それら全てが交わる、そんな場所に、俺たちは辿り着いた。


願いの集う場所

桜が枯れて、早1週間が経った。

何十年も咲き誇り続けた桜が突如枯れて散ってしまったことは、初音島自身にも、そして、日本中でも大きなニューストピックとなったようだ。

今まで当たり前のように咲き続けた枯れない桜。

それが急に普通の桜に戻ってしまったのだ。

そして、それによって大きな被害を被った者もいるらしい。

恐らく、桜に何かしらの願いを叶えてくれていた者たちだ。

そして、俺の周辺では、ななか、杏、茜がそれに当たった。

ななかは多分、心を読むことが出来なくなったのだろう。

杏は物覚えが悪くなった――雪村流暗記術は『方法』ではなく、魔法による副産物に過ぎなかったのだ。

茜は、よく分からないが、桜が枯れてからというもの、いつもの茜とは思えないくらいに落ち込んでいた。

そして、ここにもう1人、大きな桜の木の前に。

 

――桜内義之。

 

彼は、枯れない桜が枯れてしまってから1週間は、由夢から移ったインフルエンザということで、休学させておいた。

この世界では、もう存在しないものになっているだろう。

そんな中で、誰からも忘れられて悲しい思いをする義之など見たくもない。

もう3日くらい前から、彼の記憶は誰からも残らなくなっている。

普段一緒にいる俺とさくら、アイシア、まひる、音姫に由夢は例外だが。

そして今日だ、義之が消えるのは。

俺がそうなるように多少細工しておいた。

というか、存命期間を縮めたのだが。

義之が、桜をバックにこっちを向いて寂しそうな目をして立っている。

 

「これ、夢と同じだ……」

 

そう呟いたのは由夢だった。

きっと由夢はこの光景を、小さい頃に予知夢として見たのだろう。

その頃から、由夢は俺たちに対して天邪鬼になった。

俺は由夢の肩に手を置いて、大丈夫だと伝える。

 

「義之、時間だ。こっちの心配はするな。次お前が目覚める時、それは由夢の膝の上だから安心しろ」

 

「ちょ、光雅兄さ、何言って……!?」

 

「それも悪くないかな。――お前も、絶対に帰ってこいよ」

 

「大丈夫だって。サポートに音姫連れていくし、さくらにも内部干渉してもらって道筋を照らしてもらうからな」

 

「そうか」

 

そして、義之が淡く発光する。

そして、次第に義之の背後が透過するようになり――。

 

「義之兄さん、絶対に、帰ってきてください……」

 

「ああ、お前を、1人になんかさせるもんか。俺を、光雅を、みんなを信じろ。俺も信じてるから」

 

「そう、ですね……」

 

その言葉を残して、義之は、この世から。

 

――消えた。

 

「さて、始めるぞ」

 

「うん」

 

「ボクが内部干渉を始めるから、2人はすぐに準備して」

 

さくらの指示で俺と音姫は手を繋ぎ、そして桜の木に両手をついたさくらの背中に触れる。

小さくて、華奢で、愛おしい背中。

こんな背中で、何十年も誰かを幸せにするために孤独で研究に心血を注ぎ続けた。

その辛さは、想像を絶するだろう。

俺なんかが分かるはずもない。

そして――。

 

「準備オッケー。それじゃ、行くよ」

 

「ああ」

 

「うん」

 

俺と音姫は瞳を閉じて、桜の内部に融合するイメージをする。

そして、俺たちは桜の内部へと侵入した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

暴走していた桜の内部。

俺たちは無重力下にいるような感覚だった。

上下左右前後の方向感覚がなくなってしまいそうだ。

そして、そこはとてもおぞましい光景だった。

黒かった。

とにかくその一言に尽きる。

 

「うわぁ、凄いね、これ……」

 

「ああ、島中の邪な感情を蓄えまくってるのも伊達じゃないな」

 

地獄を再現するなら、こんなものなのだろうな。

ぶっちゃけ、吐き気がする。

音姫も鼻と口を覆うように手を当て、苦しそうな表情をしている。

 

「大丈夫か?」

 

「な、なんとか……」

 

そんなどす黒い世界の中、さくらが照らしてくれる道筋に沿って、俺たちは降りていくように進んでいった。

蛇がうねるように、こねられるスライムのように――いろいろな形をした黒い物体が周囲に数多に浮遊している。

 

「これら全部、島の人の汚い願い……ということなのかな……?」

 

「みたいだな。それがたとえ意識していないものでも、刹那的な殺意、後悔、恐怖、欲望みたいなのが溜まりに溜まった成れの果てってとこか」

 

とにかくこれは触れてはいけない。

触れたら最後、願いを叶える媒介として俺たちの精神、肉体を利用しようと襲撃を受けるだろう。

それだけは避けないといけない。

そしてゆっくりと、どれくらい時間を掛けたかわからないが、俺たちはある程度深いところまで来たようだ。

そこに、目的のものはあった。

義之の『存在』を感じさせる光の玉。

いわゆる魂ってやつか?

 

「これが、義くんの『存在』……」

 

「早いトコ持って帰ろうぜ。さくらと由夢が待ってる」

 

「そうだね」

 

音姫が手を伸ばし、それに触れる。

そして大事そうに抱え、こっちを見た。

 

「行こ?」

 

「ああ」

 

俺と音姫は、再びさくらの光を道しるべに、もと来た道を戻ろうとした――。

しかし、その瞬間、周囲の黒い物体が一斉にこちらに襲い掛かってきた!

数はおびただしい。

恐らく、俺たちが桜の中にある願いの1つに触れて、無理矢理に叶えようとしているから、他の願いもそれに触発されて、叶えて貰おうと俺を襲おうとしているのだろう。

 

「こっ、光くん!?」

 

「下がれ!」

 

俺は音姫を下がらせて、魔弾を出来る限り周囲に作り出し、襲い掛かる黒い物体に対応する。

 

「くそ、次から次へと数が増えてくる……!キリがねぇ!」

 

このままでは、俺も音姫も、元の世界に帰れないまま終わってしまう。

そうなれば、勿論義之も返すことが出来ない!

それだけは駄目だ!俺は絶対に義之を帰さなければならない!

 

「音姫!義之を連れて、先に上がってろ!俺も後から行くから!」

 

「で、でも!?」

 

「今のところそれが最善だ!こいつらを引きつけながら援護するから、頼んだぞ!」

 

「光くん、絶対に、絶対に帰ってきてね……!」

 

「当たり前だ!」

 

俺が、こんなところでくたばってたまるかよ!

 

~音姫side~

 

光くんは私に先に行けと言った。

光くんは私に道を作るためにおとりを買って出たのだ。

私は、光くんのその決断を無駄にしてはいけない。

光くんは、約束してくれたから。

絶対に帰ってくるって。

だから私は、光の道を頼りに、少しでも早くこの場を去った――。

 

「うぉあっ!?」

 

背後で動揺した光くんの声が聞こえた。

振り返ると、光くんは、黒い物体に絡まれて、身動きが取れなくなっていた。

 

「光くん!?」

 

光くんが襲われている。

助けないといけない。

でも、どうやって?

私は光くんやさくらさんみたいに戦える力は勿論、自衛の魔法だってろくに使えない。

そんな私に、何が出来る?

 

「音姫!俺のことは構うな!先に行け!」

 

「光くん!光くん……!」

 

私はただ悲痛に叫ぶ。

最愛の人が、戻ってこれなくなるかもしれない。

そんなことが、許されていいはずがなかった。

 

「さっさと行け!お前も巻き込まれら、元も子もないだろうが!」

 

光くんは黒い物体の中でもがきながら、私に話しかける。

私は、後ろ髪引かれる思いで、きっと光くんは帰ってくると信じて、その場を光の源まで辿り着いた……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

気がつけば、私は外の世界に戻っていた。

しかし、隣を見ても、そこに光くんはいない。

まだ帰ってきていなかった。

心配だよ、お願いだから、早く帰ってきてください……。

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「音姫ちゃん!」

 

さくらさんと由夢ちゃんが声を上げる。

 

「由夢ちゃん、これを持って。そして、義くんが戻ってくるように祈って」

 

「は、はい」

 

そう言うと由夢ちゃんは私がしたように光の玉をそっと胸に抱きしめ、強く願った。

すると光の玉が激しく発光し――。

気がつけば由夢ちゃんの胸元に――。

 

――義くんが眠っていた。

 

「義之……兄さん……」

 

由夢ちゃんはそのまま義くんを横たえ、その頭を自分の膝にそっと置いた。

膝枕、ちゃんとやるんだね……。

でも、まだ問題はあった。

 

「音姫ちゃん、光雅くんは!?」

 

光くんが、帰ってきていない!

 

「光くんは、桜の中で、黒い塊と戦ってます!」

 

「そんな……!」

 

すると由夢ちゃんが、泣きそうな顔で口を開いた。

 

「光雅兄さんが、義之兄さんの代わりに中に残ったって事ですか……!?」

 

「大丈夫、大丈夫だから……。もう少し、待ってみよう……」

 

きっと光くんも帰ってきてくれる。

そうだよね?

だって、そう、約束したのだから。

その時、花びらをつけない桜の木が、薄く発光し始めた。




あの人は、ずっと俺たちのことを見てくれていた。
誰よりも、家族のことを心配していた。
彼女は、温かくて、優しい母親だった。

次回『いつか交わした約束』
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