D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
しゅんみんあかつきをおぼえず。
しょしょていちょうをきく。
やらいふううのこえ。
はなおつることしるたしょう。
「忘れ物は無い?」
音姉が芳乃家の玄関の鍵を閉める。
桜の木の制御に成功してさらに2年。俺と義之は付属3年になった。音姉は本校2年で生徒会長をしている。由夢も風見学園に入学、付属2年生である。学年が上がって1つ変わったことがあって、それは俺と義之が朝倉家の隣、即ち芳乃家の方へと移り住むことになった。音姉たちのお爺さん、純一さんの提案で、年頃の男女が1つ屋根の下で暮らすのは色々と拙いだろうということでのことだった。
「あ、弁当……」
ふとそう反応するのは、同年齢だけど、俺のほうがしっかりしてるとかで、一応俺の弟な義之である。
俺としてはどっちでもよかったんだけど、音姉と由夢、それからさくらさんの共通の見解で『俺の方が兄っぽい』らしい。義之もあれはあれでしっかりしてるんだけどな……。でも確かに、そこそこの頻度で俺が義之に何かしら小言を言ってるような気がしないでもないか。
「は?」
とにかく、そんな俺のイメージをぶち壊しにしてしまう義之があまりにも脈絡のないことをいいだすから思わず剣呑な声を上げてしまう。
いや、今日お前弁当じゃないだろと。昨日も今日の朝も何の準備もしてなかっただろと。
「もう、はやくとってきなさ……って義くん弁当だった?」
「いや、今日は弁当がいいなぁ~って思ってさ」
義之の悪いところその1。突発的なフィーリング発言。自由気ままといえば聞こえはいいんだが、たまにこうやって人を困らせることもあるものだから何とも言えない。
「でも、もう弁当作ってる時間ないよ~。ほら時計見て」
困った表情で、音姉が自分の腕につけた可愛らしい腕時計の針を義之に見せる。
しかし義之のその飄々とした笑顔は相変わらず消えることはない。
「いや、音姉ならできるって!」
「それに作るの私なんだ~……」
「だって音姉の作る弁当、美味しいからね」
おいバカ、この場において音姉を褒めるのはタブーだぞ。音姉はとにかく褒められることに弱いんだ。叱られても育つけど、褒められる方が圧倒的に成長率がいいタイプ。特に俺と義之が変に褒めると自分の意見を急に曲げてまで事を進めることもある。あの音姉が。
多分お姉ちゃんぶりたいところもあってそうなるんだろうけど、あまりあっさりと屈服すると、将来悪い奴に騙されないか不安だ。
「音姉の弁当が昼に待ってるとなると、授業に身が入るなぁ~」
義之、こいつそのこと全部分かっててやってるな?どうでもいいところで悪知恵が働くというかなんというか、だからあいつらに都合のいいように操られることを意識した方がいい。
「もう、いつもの3倍は張り切っちゃうね、マジで」
「……」
真剣な表情をつくって、踵を返して、ポケットから家の鍵を取り出して、それを鍵穴へと差し込んでいく。躊躇いのない、滑らかな動きには惚れ惚れする。
――がちゃがちゃ。
「って音姉、なんで鍵開けてんの?」
「お弁当」
「いや、今からじゃ間に合わないから」
義之が諌めて、音姉が本気を出し始める。立場逆転してんぞ、あんたら。
「義くん、世の中ね、あきらめなければ、不可能なことなんて無いんだよ!」
遂には意味不明なことを力説し始めました。そういうことはもっとこう、大事な場面で使いましょう。少なくとも遅刻の理由づけにしないでください、生徒会長。
「いや、無理だって無理。ほら時間」
「あのぉ~。お二人で朝からおあつい夫婦漫才をするのは結構なんですが――」
「いい加減置いて先行くぞ?」
「「……」」
どうやら由夢も俺と同じ感想を抱いていたようだ。
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登校中。桜並木。今日も1日いい天気。こんないい感じで暖かいと授業中寝てしまうだろうな。義之が。
しかし相変わらず冬にも拘らず桜が満開の初音島。とうの昔に慣れてはしまったものの、意識すると違和感というものは拭えなくなる。
「お弁当がほしいんだったら、前の日にちゃんと言ってね。そしたら、準備するから」
「いやぁ、今日はたまたま。俺って、インスピレーションで生きる男だからさ」
明らかに困り顔でそう言う音姉に対し、その物言いはどうかと思うのだが。しかしまぁ、義之がそういう奴だから色々と上手く行く面もあったりするわけで。
ったく、こいつは……。
「それって、悪く言えば行き当たりばったりって言うよな」
「だめだよ。ちゃんと計画的に生活しないと」
「無駄だよ、お姉ちゃん。だって義之兄さんいつもテスト前に一夜漬けの人ですから」
散々な言われようだな、義之。しかし自業自得だ。
これで成績がいいのなら文句はないんだけど、いかんせん悪いというか微妙というか。ヤマをかけたテスト勉強をしているんだろうが、極端にできる時とできない時の差が激しい。
「それはお前もだろうが」
「や、私は成績いいですから」
そう、由夢も確かに勉強はしない方なのだが、成績はいい。天才肌というか、そういう才能を持っているんだろう。確かにそれは事実なんだけども、こういうのを見るとちょっかいを出したくなる。ほら、こう、分かるだろう?
「だな。由夢は“学校では”完璧人間だもんな」
「光雅兄さん、なんで“学校では”のところを強調するんですか……?」
「いや、別に」
「……もう」
いつものことだからという理由で、由夢も追及を諦める。こんな会話も日常茶飯事、この二人は本当にからかいがいがあるってものだ。
そもそもこれは義之の役目なんだけど、義之が追いつめられてるとできないからなぁ。
相変わらず変わり映えのない桜並木をしばらく歩く。その見るからに華々しいというか花々しい風景とは正反対に、義之は少しばかり不貞腐れている。。
「まぁそう落ち込むなよ。今日一緒に学食いこうぜ」
「お、おう……」
その時――
「よっしゆっきく~ん!こ~がく~ん!」
朝からやたらとハイテンションな呼び声と。
「光雅、義之、おはよ」
それとは正反対の静かに届く声。
片やこの島中に咲き乱れる桜のように長くふわりとした桜色の髪と、ただの学生とは思えないような、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込む、まさに世界の女性の理想の体格を持った少女、片やそんな彼女とは正反対に、雪のように白い髪と、人形のように小柄な体型の少女。
クラスメイトの花咲茜(はなさきあかね)、雪村杏(ゆきむらあんず)である。
「おっす。杏。茜」
「おはようございます。雪村先輩、花咲先輩」
「おはよう」
「「おはようございます」」
それぞれがお互いに挨拶を交わすと、自然の流れか、全員の足が止まった。
「それにしても義之、光雅。朝っぱらから通学路でダブルデートだなんてあんたたちいい度胸してるわね」
「そうだよね~。暑すぎて近づいてらんないよね~」
「「何がダブルデートだよ……」」
唐突に何を言い出すんだろうか、こいつらは。何故姉弟で登校しているだけでそんないかがわしいことしてるみたいな言いがかりをつけられなくてはならんのだ。
ふと隣を見ると、音姉と由夢が頬を赤くしている。……何照れてんだか。思春期だからそう言うことを考えるのも分からんでもないが、兄弟相手にそれはないでしょうが。
「あら、息ぴったりじゃない。もしかして2人ですでにそういう関係なの」
「ちょ……杏~、茜~、待ってよ~……!」
仲良し二人組を呼ぶ声、女の子が息を切らして走ってくる。
「あら、エロエロ女王の降臨ね」
「小恋(ここ)ちゃんどんな妄想してゆっくりしてたの~?気になるなぁ~、小恋ちゃんの行動を鈍らせるほどの濡れ濡れな妄想が……」
エロエロ女王と呼ばれた、オレンジ色の髪を、四葉のクローバーを模した髪留めでサイドテールにした女の子は月島小恋(つきしまここ)。いつも茜と杏にいじられている。ちなみにエロくともなんともない。多分。
杏と茜、それから小恋。3人は誰がどこからどう見ても仲良しで、3人の苗字の頭文字から『雪月花』なんて呼ばれている。喧しくて鬱陶しいが、一緒にいて楽しい連中である。
「あ、義之、光雅、由夢ちゃん、音姫先輩、おはようございます」
送れてきた小恋に、同じように挨拶を交わす。
「それと杏、私エロエロ女王なんかじゃないもん!」
ひと段落ついてようやく突っ込んだ。遅いんだけど、小恋らしいというか。
天然素材100パーセント、何でもホイホイ信じ込んでしまいそうな馬鹿正直さは音姉に勝るとも劣らない。
「あら、そうだったかしら」
とぼけたような顔で遠い目をしながら、棒読みでそんなことを言ってみせる杏。しかし今ここにいるほとんど全員が知っているのだが、彼女には恐るべき才能を持っている。
雪村流暗記術――それはどんなものでも1度見たり聞いたりするだけで完全に記憶し、生涯決して忘れることはなくなるという。術というくらいなのだから何かしらの技のようなものを使っているのだろうが、その詳細は教えてもらったことはない。
話しながら前進、気がつけば校門前。背後から――
「こぉぉぉぉぉぉのラァァァァァァブルジョア野郎ォォォォォ!!!」
何かよく分からないことを叫びながら急接近、恐らく突進してくるだろう。
「喰らえ、光雅!!義之!!」
食らえと言っているのだから間違いなく攻撃してくる。相手から見て、俺は左、義之は右にいる。背後の野郎は左手を先に出すため、その手を一度引く。
掌が急接近、当たるか当たらないかのギリギリのところで左に回避、野郎は態勢を崩し、俺たちの視界に入る。
「わっとっと、お前なんで今のが避けれるんだよ?」
「渉(わたる)、うるさい」
鬱陶しそうな顔でぴしゃりと、杏は少年に言う。
茶髪にピアス、制服を着崩しては赤いシャツを着込んでいる軽薄そうな少年、この野郎は板橋渉(いたばしたる)、俺の悪友の1人である。
軽音楽部のドラム担当で、人懐っこく、ムードメーカーであり、ルックスもよいが、その下品さ変態さが全てを台無しにしてしまっている。まぁ、友達想いなのはいいんだけどな。
なお小恋が好き。多分好き。時々そう言う素振りを見せます。
「杏、ひどっ!そーゆー言い方は無いんじゃない?」
「……」
まるで渉をわざと視界に入れないようにするかのように、視線をそらす杏。
メンタルの弱い渉は恐らく次にまた妙なことを言い出す。
「ごめんなさい!お願いします無視しないでください杏様!何でもしますから!」
「そ。そういう態度が今後続けられるなら許してやってもいいわ」
杏の場合何でもすると言ったら本当に何でもさせるから質が悪い。それで過去に小恋が大変な事になった記憶がどこかにある。
なんか理不尽だしかわいそうだからそろそろ助け舟出してやるか。
「その辺にしとけよ。それにしても渉、なんでお前はそんなにもハイテンションなんだ?」
「別にいーじゃんか。それが俺のいいところだ!」
確かにそうなんだが、限度という言葉があってだな……。まぁはしゃいでエンジョイすることが人生の目的みたいな性格してるから一生治らないんだろうけど。
「悪く言えば、鬱陶しいだけだけどな」
と言って義之がほくそ笑む。それは言ってはいけないお約束じゃないか。
「いーんだよーだ!これが世界の渉様なんだよ!」
「という世界を舐め切った発言は置いといて、この面子なら奴がそろ――」
「呼んだか?My同志弓月よ」
突如俺の背後から、影が質量を持ったかのように現れる男。もはやこの現象にも慣れて、バカバカしさすら感じる。
ここで会ったが100年目、会いたくないし出会いたくなかったかもしれない人間の1人が俺の背後ゼロ距離でドヤ顔で立っているに違いない。
「呼んでないし同志でもないぞ」
こいつは杉並(すぎなみ)。悪友の1人。名前は……知らん。
長身で顔立ちも整っており、切りそろえられた黒髪と一番上まできっちりと止められた学ランのボタンを見る限り、只のイケメン優等生といった感じである。ルックスは渉よりちょい上で、運動神経抜群、頭脳明晰で、一見完璧人間だが、性格が破綻しており、UMAや宇宙人、怪奇現象などが大好きで、その実態は風見学園非公式新聞部部長である。
……非公式って。実際部員人数も部室も活動内容もほとんどが不明、こいつらのせいで生徒会や教師陣はてんやわんやしている。
なんてやりとりをしていると――
「じゃ、私向こうだから、またね」
「あ、じゃな」
「また」
「私もこっちなんで、失礼します」
二人以外は全員俺と同じ学年だ。学年の違う由夢と音姉と昇降口で別れる。
「ところで桜内、次のリレーカーニバルなんだが、1枚噛まないか?」
相変わらずの杉並の非公式新聞部の謎の活動を絡めての悪巧み。お願いだから巻き込もうとするのはやめてほしい。おかげで義之は学園でも問題児で有名人だ。
いい加減こいつら生徒会に捕まらないのだろうか?
「やだね。音姉に迷惑が掛かることはしないって」
「むぅ。ならば、弓月は?」
「俺もしねぇよ。リレカはゆっくり楽しみてぇからな」
リレカ。リレーカーニバル。元々行事大好きで他の学校と比べて行事の数が桁違いに多い我らが学び舎風見学園の行事の1つ。
「ふむ、そうか。まぁいい。雪村、例のものは手に入ったか?」
「もちろん。もうひとつのあれは茜が」
「よくやった。その調子で続きも頼んだぞ」
杉並の奴、本当にまたなんか企んでるな。ってか、杏と茜も一緒か。こいつはろくなことが無いぞ。
杉並の非公式新聞部を使った情報網と彼自身の馬鹿げた行動力、そしてそこに杏のパーフェクト知識といったコンビは他の追随を許さない。何が追いかけてくるんだろう。ヤクザかな?
「……何をするつもりだ?」
「外野に教えられるわけ無いでしょ」
「そ~だよね~。まぁ、何も知らない外野2人、義之くんと光雅くんがいちゃいちゃするのも面白いって小恋ちゃんも思ってるしねぇ~」
「ふぇ!?そ、そんなこと思って無いよ~!」
唐突に話を振られた小恋が困りに困り果てる。というか茜は茜でどこからそんな妄想が飛び込んでくるんだろうか。
「あら、本当にそうかしら。小恋の家の本棚って確かBL物が多かったような気がしたんだけど……」
「そんなことないもんっ!」
「でもぉ……」
「ねぇ」
見事な小恋いじりになってしまった。
どうしてこう、小恋は見事ないじられキャラになったのかは分からんでもない。2人がいなかったら多分俺がいじってる。だってそんなオーラが出てるもん。
「月島、お前……いや!どんな月島でも、月島は月島だぁぁぁ~!」
「ちょ、渉くんまで何言ってんのよ~!」
「月島の部屋の再調査が必要だな」
「怖いからやめて~!」
「小恋ちゃんの部屋には、杉並くんに見られたら拙いものがおいてあるんだぁ~」
「そんなのないもん……!」
あ~あ、小恋、涙目になっちゃってるよ。流石にやり過ぎだろ。
「そういや杏、俺たちの文化祭の出店なんだが、大まかなところはもう大丈夫か?」
「ええ、ほぼ完璧よ。メニューも完成、材料の注文先にもアポはとったし、後は店の外装とか、細かいところだけよ」
「あと少しだから、期待しといて」
文化祭の件は、杏と茜が代表して取り締まっている。普通にカフェやるだけだから、特に問題はないだろう。どこかしょうもないところで杉並が絡んでなければの話だけど。
「手伝えることがあったら手伝うよ」
「俺も!」
義之と渉も協力を申し出る。杉並は……既にいなかった。
本当にどこから出てきてどこへ去っていくのかさっぱり分からん奴だ。今度全力で尾行してみようか。無理な気がする。
「ありがと。でもいいよ。ホントにあとちょっとだから。困ったときは助けてね?」
「ああ」
はしゃいで馬鹿やってお偉いさんに怒られて笑い合って、そんな感じで、俺たちの日常は続いているのである。
渉「うらやましーよなー、お前ら」
杉並「この2人の周囲にはいつも誰かしら女性がいるというのは……ミステリーだな」
光雅・義之「「仕方ねぇだろ……」」
次回『大騒動!少年vs男の欲望』