D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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かつての家族と、今の彼。
その2つは、似て非なるものだった。
彼の幸せな表情を知っていて、今は、それとは真逆の顔をしていた。


再び会いまみえる時

~優香side~

 

相手のアウドムラの6方向からの同時攻撃に、同様に同方向へ鋼の刃を穿って対処し、更に接近する。

すると、相手はアウドムラを放り投げ、ギガスカリバーを両手で握りしめて、魔力を蓄えはじめる。

彼女はまだこれといったモーションを起こしたわけではないが、それでも彼女の射程距離、すなわち間合いに入ってしまえば、そこは既に死地であることは間違いない。

きっとそこには一瞬の中にたくさんの死線があり、それを全て交わして初めて生きながらの勝利を得ることができる。

そして、彼女のアレは、間違いなくギガスカリバーの真骨頂。

彼女の周りに、半透明で黄緑色に発光する無数の剣が出現していた。

それに対して、私は刀1本で十分。

私と彼女のそれぞれの得物が、剣戟音を響き渡らせて、交差した。

 

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193と587。

それが、死線の数。

私が剣を振るった回数と、彼女の斬撃の回数。

たった3秒で繰り広げられた死闘。

私は刀を杖のように地面に刺して体を支え、膝をついていた。

私では、手数で彼女に敵わなかった。

おかげで体中は刀傷でボロボロ。

跡が残れば、嫁にもいけないかもしれないな……。

 

「それでも私は――」

 

遠くに視線をやる。

そこには、数刻前に相対した彼女の――輝夜さんの体が横たわっていた。

私は、勝ったのだ。

彼女が手数と速度で勝負してくるのは間合いに入る直前から分かり切っていた。

そして相手の手数は、見た通り彼女の周辺の剣。

それらが彼女の意思通りで動き、私に襲い掛かってくる。

ならば、無傷で済むことはありえなかった。

だから私が取った選択は、究極の『肉を切らせ骨を断つ』戦術。

ぎりぎり意識の飛ばないレベルで相手の斬撃を受け入れ(・・・・)、私は隙を見つけて決定的な一撃を相手に叩き込んだのだ。

なんの魔法も使っていない、正真正銘の素の斬撃。

私は、自分の魔法使いとしてのプライドを守ることができた。

そして、ロイ先輩の、『最強』としての威厳を保つことができた。

今は、それだけでいい。

とりあえず、一度引き返して、月島さんたちに治療してもらおう。

 

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~光雅side~

 

「なぁ、本当にいいのか?」

 

「何が?」

 

俺の質問に、義之が間抜けな返答をする。

 

「これはもしかしたら、俺の家族の問題になるかもしれない。それをお前らにまで背負わせる道理はないと思うんだ」

 

そう、俺は考えていた。

先程俺の前に姿を現したのは月宮輝夜の姿をした存在。

そして、俺の予想が正しければ、ロイが向かった方には、同じく隼翔さんと同じ姿をした存在がいるだろう。

だとすれば、あと1人は言うまでもない。

 

「何を言ってるんですか、光雅兄さん」

 

由夢が何を今更とでもいうように不満そうな顔をしてこちらを見る。

その表情は、義之も同様だった。

 

「俺たちは、お前の戦いの最後を見届けたい。いや、お前の言ったことが正しいのなら、俺たちにはそうする道理がある」

 

「だって、私たちは、家族ですから」

 

この2人の言葉に、いやというほど納得させられた。

そして同時に、やっぱりこいつらは、俺の最高の家族だと、その感動をもう1度感じることができた。

さくらや音姫も、そんな彼らを見て、微笑んでいる。

 

「さて、すぐそこだ」

 

そして、俺たちが進んでいった先には、既に薄紅色の花弁を纏わない、暗い茶色の、少し湿ったような気の幹の色しか残らない、大きな桜の木が佇んでいた。

そして、その陰にもたれる男が1人。

その面影は。

あの時と、最後に別れたあの時と何ら変わってはいなかった。

その威圧するような、龍のような目と、かつての美夏と似通った、全てを嫌うような、憎むような雰囲気。

何も、変わっていなかった。

 

「久しぶりだなァ、光雅」

 

「ああ、ホント久しぶりだ、弓月龍雅(りゅうが)、兄さん」

 

俺の兄さん。

前の世界で、幸せを掴みかけて、それを壊された人間。

左目の鋭さは健在だったが、右目は、包帯で巻かれて見えなかった。

俺は、そんな彼を見て、どこか懐かしいような、悲しいような、複雑な感情を抱いていた。

 

~さくらside~

 

あれが、光雅くんの、お兄さん。

前に生きていた世界で、一緒に暮らしていた、本当の家族。

いや、光雅くんの話からすると、彼は本当のお兄さんではなかったようだ。

それでも、ボクと義之くんと同じように、まるで本当の家族のように暮らしていたのだ。

そんな彼が、何故光雅くんの前に立ち塞がる?

そして、何故『ドラゴン』として世界を崩壊へと導く?

 

「さァて、色々説明しないといけないな」

 

「そうだな。血が繋がってないとはいえ、兄弟なんだ。昔話の時間くらいあってもいいだろ」

 

光雅くんは、敵を目の前にして、余裕そうな表情で笑っていた。

 

「そうだな、俺はな、物心ついた時から、何かずっと心に違和感があったんだよ。俺はここにいるはずの人間じゃない、みたいな、な。何故か、俺はガキの頃から妙に冷めていて、冷静だった。そして、この世界が、どこか嫌いだった」

 

光雅くんのお兄さんは空を仰ぎながら、きっと光雅くんの前世の世界での出来事を独白していく。

 

「それでもよ、そんな俺に、お前は声をかけた。何度も何度も。ウザいくらいに」

 

それは、光雅くんと彼のお兄さんの、初めての出会い。

 

「俺は正直嬉しかった。みんな俺から離れていく。そんな中でお前だけが俺と接してくれた。そして、そんなお前と、兄弟に、家族になった」

 

そこで、お兄さんは光雅くんに視線を戻した。

目の前の弟を殺すような視線。

憎しみと、恨みと、そしてどことなく、羨望が感じられる視線。

 

「俺はそこで幸せを手にしたはずだった。それなのに、……奪われたんだ。勿論、お前にじゃないことくらいは分かってンだよ。俺は、この世界の不平等さを、運命を、運命なンかを作り出した糞野郎を憎んだ」

 

「不平等……?」

 

「俺の大切な友達は死んだ。お前を守って死んだ。……お前は守られなくても、死ななかったのにな」

 

そう、ボクは思っていたのだ。

電車の車両中に毒ガスが蔓延していて、それをどれだけ防ごうとしても、少年1人を助けることなど不可能なはずなのだ。

それが、どうしてその先もまだ光雅くんが生きていたのか。

 

「光雅、お前には最初から、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫の力が宿ってたんだよ」

 

「な……!?」

 

驚愕の真実。

そう表現するしかなかった。

何故彼が光雅くんの力のことを知っていたのか、そして、光雅くんには最初から魔法が使えるだけの素質があったということに。

 

「どうやって魔法がまともに使えるようになったのは知らねェが、とにかく、お前はそれで助かったんだ。月宮と、時川は、助からなかった」

 

それが、彼を狂わせた、不平等。

 

「その時俺は気が付いたんだ。自分の中で呻く声に。壊せ、と。終わらせろ、と。その声が誰のものなのかは分からない。それでも、それらを突き動かしていたのは、その時の俺と同じような感情だったに違いない。だから俺は、決めたんだ。俺の中には、たくさんの、世界の不平等に嘆く人間の遺志があった。そして、俺には世界を壊すだけの力があった。だから、決行しようと決めた。そのためには、お前の≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫が必要だった」

 

そして、彼の言葉が何を意味するのか、ボクには、そして、光雅くんには、分かったようだ。

 

「キミなんだね、あの夏の日に、音姫ちゃんを拉致して閉じ込め、光雅くんを怒らせた2人組を送ったのも、そして、クリスマスに佐久間英嗣を使ってあんな事件を起こしたのも!」

 

そして、光雅くんの力を覚醒させるためのキーとなる感情。

 

――力が欲しい。

 

――破壊するだけの力が欲しい。

 

そう、力の渇望と、破壊衝動。

どちらの事件も、光雅くんにそれを植え付けた。

 

「そーゆーことか。つまり兄さんは、俺の力を覚醒させて簒奪するために、わざわざ俺の大切な家族を傷つけるような真似をしたってわけか」

 

「ああそうさ。だがな、俺が味わった絶望はそんなモンじゃなかったぜ!最初から何も持たなかった俺にほんの少し与えられた幸福も、全部、全部奪われたンだ!こんな世界が、こんな不平等な世界が、誰1人として幸福になんかできるわけがねェ!誰も、誰もこんな不平等の世界なんて望んじゃいねェんだよォ!」

 

その瞬間、世界が揺れた。

きっと彼は、ありとあらゆる力を持っている。

そんな彼が世界を揺らしたのだ。

これは――戦闘態勢だ。

 

「そっか。それなら、俺と兄さん、世界史上最大の兄弟喧嘩を――始めるとするか」

 

光雅くんの宣言と共に、周囲に静寂が走る。

聞こえるのは、風で草がなびく音だけ。

そして、先に言葉を発したのは、光雅くんのお兄さんだった。

 

「≪加速運動(アクセラレート)≫、≪龍の魔眼(クリア・アイ)≫解放」

 

彼の体が2度発光する。

最初の1回は何の魔法かよく分からなかった。

もう片方は、体の中に宿す何かを、ほんの少し開放するような、そんな魔法。

 

「それじゃ、俺も行くぜ」

 

光雅くんも、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫を展開する。

実力的には、ほぼ互角と見える。

しかし、向こうが何か隠し玉を持っている以上、こちらも最初から全力で行くわけにはいかない。

すると向こうは、しゅるしゅると右目の包帯をほどき、その右目を露わにした。

 

「≪真空の境界線(フィールド・ゼロ)≫」

 

彼の体から、ドンと鼓動が伝わってきた。

物凄く、嫌な感じのする鼓動が。

 

「――!?由夢!義之を連れて遠くまで走れ!」

 

突然光雅くんが慌てながら由夢ちゃんに大声を上げる。

それだけの異変で、何が起こるのか、彼は察知したようだ。

それでも、義之くんを逃がすためなら、直接義之くんに声を掛けたほうが賢明だろう。

それを何故由夢ちゃんに?

すると、お兄さんを中心に、結界が広がり始めた。

速度は速い。

普通の人が全力で走ってもすぐに追いつかれるスピードで、その壁は接近してきた。

由夢ちゃんと義之くんは、それから少しでも遠くに逃げるように、全力で走り出した。

そして、ボクたちがその結界に巻き込まれた瞬間、ボクは、自身の中から魔力が空になったのを感じた。

これは一体?

魔法が、全く使えない!?

 

「卑怯と言うなよ。これも俺の立派な力だ」

 

「言わねーよ。卑怯と言うよりむしろ、ビビッてる」

 

これはもしかしたら、魔法を打ち消す、いや――

これは、奇跡の力の根源その物をなかったことにする、そんな結界だ。

だとしたら、光雅くんが由夢ちゃんに、義之くんと共に逃げるように指示を出した理由は――!




――奇跡などがあるから不平等なのだ。

奇跡のない、魔法の使えない世界で、彼は実力差に打ちのめされてゆく。
ただ一瞬のチャンスを掴みとるために、彼は立ち上がる。

次回『奇跡の起きない平等な世界』
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