D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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奇跡がなければ、誰もが平等にチャンスがある。
誰かが幸せにならなければ、誰かが不幸せになることはない。
そんな平等な世界が、彼の理想郷だったのかもしれない。


奇跡の起きない平等な世界

正直、驚いたなんていうレベルではなかった。

光雅が言うには、世界の存亡をかけるような、大きな戦いになる、なんて言ってたけれども、それならば負傷者が出ることは覚悟していた。

……いや、出ないに越したことはないが。

それでも、美夏ちゃんから連絡が入った時、耳を疑った。

ロイくんが左腕を失ったこと。

そして運び込まれた時、ロイくんには意識はあって、自分の足で歩いていたものの、本当に左肩から先はなかった。

魔法、なんてものを使って止血はしていたのだろうが、それでも、痛々しくて見ていられなかった。

それは茜もまひるちゃんも同じようで、あまりの出来事に、言葉を失っていた。

私たちじゃどうにもできなかったから、とりあえずアイシアさんに手当をしてもらったが、その直後に、優香さんも帰ってきた。

優香さんは全身に傷を作っていた。

とりあえず応急処置のために、ロイくんの横に仰向けにさせる。

そして、色々準備しながら、声が聞こえてきた。

 

「なー優香、俺、片腕失っちまった」

 

「そうですね」

 

「これじゃもう、『最強』引退だな」

 

「……」

 

ロイくんを慕っている優香さんからして、その言葉は頷けるものではなかっただろう。

だから、黙り込んでしまった。

 

「この戦いが終わったらさ、俺ちょっとバカンス行くわ」

 

「……え?」

 

「どーせもうまともに戦えそうにもないし、ハワイにでも行ってビキニ美女追いかけるのもアリかと思ってな」

 

「そんな体じゃ、みんな逃げますよ」

 

「向こうの女性はおおらかだ。腕1本ないくらい受け止めてくれるさ」

 

「そうですかね」

 

そこで、会話は止まった。

しばらく2人の間で沈黙が走った後、先に口を開いたのは、ロイくんだった。

 

「お前も、一緒に来ないか?」

 

「え……?」

 

「療養期間ってことでさ、1年くらい休み取って、ゆっくりバカンスしようぜ。それで、休暇が終われば、俺は俺みたいに世界で正義と平和のために戦う正義の味方を育てるための教官の仕事受けようと思う。その時は、俺のアシスタント、お願いできるか?」

 

「そんな……はい……!」

 

それは決して気を抜くことのできない戦いの中で、少し微笑ましい光景だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~由夢side~

 

走る。ひたすら走る。

背後から迫ってくる、よく分からない壁。

アレに取り込まれてはいけないと、光雅兄さんは言っていた。

何を意味するのは分からないが、それでも、光雅兄さんが必死な表情をしていた。

それならば、アレはそれだけ危険なものなのだろうと、とにかく必死に走って逃げた。

それでも、接近速度は異常だ。

私たちは、間に合わなかった――

 

「ガッ――!?」

 

隣で義之兄さんが跪く。

苦しそうに胸を押さえてもがく。

私は、それが何故なのか、一目で分かった。

義之兄さんが、消えそうになっている……!

どうして?

桜が枯れた後、義之兄さんの存在そのものをひっぱり上げたはずじゃ!?

 

「義之兄さん……!」

 

その光景は、以前、私が夢に見た、義之兄さんが私の目の前で苦しんでいる夢と、同じものだった。

でも、諦めちゃいけない!

あの時私は、消えそうな義之兄さんを見ていても、義之兄さんが消えた瞬間を見たわけじゃない!

だから私は!

 

「義之兄さん、しっかり掴まってください!この空間から、脱出します!」

 

私は、苦しむ義之兄さんを肩に背負って、ゆっくり、それでいて急いで、空間からの脱出を試みた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~光雅side~

 

俺の、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫が解除された。

これは、結界内の奇跡の力を無かったことにする、最悪の結界魔法。

それならば、義之だけは逃がす必要があった。

存在そのものがそこにあるとはいえ、彼の存在は奇跡によって引っ張り込まれたものだ。

そこに『奇跡』が付きまとってくることには変わりない。

だから、この結界に巻き込まれてしまえば、義之は、消える。

それならば、俺はなぜ消えないのか――それは、俺が、術者と同じ存在だからだ。

 

「さて、全力を出せない状態で、どこまで俺についてこれるか、やってみるとするか!」

 

兄さんは地面を蹴って、視認し辛い速度で肉薄してくる。

回避することを考えていては、それこそ相手にダメージを与えることはできない。

だから俺は、左手を握る。

そして、相手とタイミングを合わせて――

 

「ぐあっ!?」

 

兄さんの拳が腹部にめり込み派手に吹き飛ばされる。

マジで痛い。

威力が高いのもある。

でもそれ以上に――兄に殴られたことは、初めてだった。

 

「チッ……」

 

立ち上がり、もう1度兄さんを見る。

既に動いていた。

対応しようと体を動かした時には、もう彼の動きで空気が揺れるのを感じられるくらい彼の足が迫っていた。

また地面を転がる。

痛い。

体が、心が。

 

「オイオイ、その程度か。俺のこれまでの辛抱に応えてくれよ」

 

兄さんは、寝そべっている俺に、侮蔑の視線を向ける。

俺は立ち上がり、もう1度構える。

同じように兄さんは地面を蹴り、猛スピードで肉薄しては、攻撃を繰り出す。

俺もそれに合わせて、拳を繰り出した。

 

「ぐッ――!?」

 

だが、届かない。

全身に走る激痛を堪えて、しっかり目を見開けば、彼はその手に剣を構えていた。

その剣にはかつて膨大な力が秘められていただろうが、結界のおかげで今はただの剣。

しかし、その鋭利で美しい刀身は、人を斬るには十分過ぎた。

 

「カグヤもハヤトもやられた。あいつらはお前の仲間には勝てなかったみてェだ。それでよかった。中身そのものは違ったが、それでも、俺の中であいつらは誇りある死に方をしたンだよ。それだけで十分だ。でも、お前は、俺に殺されるべきだ」

 

俺は、その剣に見覚えがあった。

桜公園を歩いていた時、突然姿を現した兄さんの友達、月宮輝夜さんの姿をした存在が持っていた剣の内の1つ。

 

「氷剣『アウドムラ』、あいつが残した神器だ。これの力は使えないが、県としての本来の用途はまだ使える」

 

俺は先に相手に肉薄する。

相手に接近されて先に間合いに入られて負けるのなら、こちらから懐に入り込めばいい。

そして注意すべきは剣を持った時点で相手のリーチが伸びたこと。

だから俺が真っ先にするべきは――

 

「お前、血迷ったか――!」

 

激昂するように、侮辱するように上げた怒声。

当り前だ。

俺はあえて自ら不利な立場へと持ち込もうとしているのだから。

但し、それが本当の真っ向勝負であるのなら。

俺は右拳を引き込む。

目標は相手のどてっぱら。

そして相手の間合いに入る直前に、もう1度地面を蹴って急加速する!

スピードに乗って右拳を相手に叩き込もうとする同時に、相手の剣が俺の左上を切り裂く!

俺の右拳は間に合わない――だが!

 

――ガキン!!

 

剣が弾け、宙を舞う。

そして、遠い位置に、地面に落ちて刺さった。

俺は、最初から剣を弾きにかかったのだ。

そのために右拳ににあらかじめ全力を注ぎこみ、相手の腹を狙ったのだ。

そうすれば相手は、間合いを考えずに突っ込んできた馬鹿だと、俺にとどめを刺そうと、直接俺に攻撃を、斬撃を加えてくる。

そうなれば剣の軌道を読むのはたやすかった。

俺はあらかじめ剣を狙うことを優先していたし、俺の急所――頭を狙って斬りつけてくるのが分かっているのなら、対応も取りやすい。

そして、相手がひるんでいる内に、すかさず第二撃を叩き込む。

横隔膜への後ろ回し蹴り。

確実に決まり、兄さんは遠くへと吹き飛ばされる。

だがしかし、それでも彼は――歪に嗤っていた。

 

「そうだ、……それでいいンだよ。もっと全力でかかって来いよォ!」

 

一瞬だった。

かなり遠くにいたはずの兄さんが、瞬間的に俺の目の前に、出現した。

鳩尾に拳を叩き込まれ、俺は一時行動不能になる。

そのまま続けざまにラッシュを決め込まれる。

頬に、腹に、腕に、足に、それぞれの弱点に、拳を、蹴りを入れていった。

実に的確で隙のない猛攻、俺には掻い潜る術がなかった。

 

「ウラァァァァァ!!!」

 

顎への蹴り上げ。

あまりの威力に、俺は宙を舞った。

 

「光くん!?」

 

「光雅くん!」

 

ドサリ、と、俺は地面に叩きつけられ、刹那的に意識を飛ばす。

ダメだ、マジで歯が立たない。

恐らくあれは、ガチの格闘技術を取り込んでいる。

独学の俺なんかと違って、きっちりと型にはめ込んだうえで、それを自分の中である程度応用がきくように研鑽してある。

≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫が使えればまだ違ったんだろうが、今は使える状況じゃない。

ないものを欲しがっても、この状況は変わりはしない。

だが、それでも俺には、1つだけ、1度だけチャンスがあった。

俺はもう1度、あと1度立ち上がる。

俺はここまで何故ダメージを受けてきたか。

大分掴めてきた。

まだ、逆転のチャンスはある。

俺は、それに懸けるしかない。

兄さんはとどめと言わんばかりに、足の筋肉に力を入れ、これまでとは桁違いの速さで接近してくる。

その握りしめられた拳の終着点は、俺の顔面。

決まれば恐らく即死。

俺は、もう1度、拳を握りしめる。

左手の拳を、もう1度。

そして、お互いに間合いに入った瞬間、それぞれの拳は、前へと、繰り出された。




何年も、何十年も押し留め続けたこの想い。
誰かのための魔法。
誰かを守る魔法。
今、魔法使いの少女は、誰にも負けない想いの力を開放する。

次回『力と、想いの衝突』
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