D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
「それが、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫が亜種方面に覚醒した形態か……」
兄さんは俺の力を感じてそう呟く。
確かに、俺のこの力は決して孤独の力のみで成立したものではない。
確かにそれもあったが、その先に様々な人の想いに触れ、様々な感情を知ることによって昇華した力だ。
本来は、かの言霊のように誰も寄せ付けない、ただ無益に破壊し続けることに特化した力が発言されただろう。
そういった点で、俺のこの力は、本来の≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫とは違う、別の何かなのだ。
睥睨する金色の双眼は相手を射止め、その想いを受けて、更なる力とする。
「兄さんも、そろそろ本気出せよ。俺だってあまり茶番に付き合う気はない。なるべくさっさと終わらせて、元の日常に戻るんだ」
「そんな日常、俺がなくしてやるよ。なくならなければならない」
再び、空が揺れる。
力が集約されてゆく。
兄さんに向かって、強い何かが集まってひしめきあっている。
「全ての後悔と絶望は、やがて大きな力となる。俺の持つ全てを、今ここに!≪第三の龍の解放(リリース・ラスト)≫!」
彼の足元を中心に、巨大な魔法陣が描かれる。
そして彼の足から伝うように、その魔法陣の帯は徐々にせり上がり、そして彼の体を離れだした。
そしてそれは彼の周囲で球を構成し、新たなる魔法陣を作り出した。
立体型魔法陣。
最強で、最恐で、最凶で、最狂。
美しく整ったその陣形からは、本当に恐ろしいほどの魔力が、プレッシャーが放出されていた。
「なるほど、これが兄さんが『ドラゴン』と呼ばれる所以ってか。これなら世界を滅ぼすとか言っても冗談じゃ済まされねぇ」
ただ1人くらいの想いの力じゃ確実に成立しない魔法。
恐らくは、彼の言った通り、それこそ全人類の絶望とか後悔をかき集めた者なのだろう。
「さて、始めるとするか」
次の瞬間、俺と兄さんは飛び出した。
速度にして互角。
但し、相手も俺も高速で接近しているため、接近速度としては更に早く感じられる。
刹那という間もなく、お互いは間合いに入る。
そこで始まったのは、殴り合いではなかった。
魔弾や光線による、超近接での弾幕の張り合いだ。
数立方メートルにもならない程の空間の中で繰り広げられる怒涛のラッシュ。
もはや動体視力など役に立たない。
研ぎ澄ますのは勘と第六感だけだ。
とにかく、当たりそうなものを弾いて躱して打ち返す。
俺の戦闘スキルじゃその程度のことしかできない。
一方兄さんはどこからどれだけの光弾が来ているのかをしっかり把握しているようで、冷静に反応している。
このままでは技術の差で負けてしまう。
ならば、こちらはさらに物量を増やせばいいだけの話だ。
俺が持つ能力の真骨頂は、無限。
増やそうと思えば、いくらでも増やすことができる。
そう俺が念じた瞬間、俺の周囲の弾幕の数が自分でも吃驚するくらいに増殖した。
そして目の前の相手はその状況に苦い顔をして後ろに飛び退く。
俺はそれを逃さないようにホーミング弾で追いかける。
だがそれはいとも簡単に撃ち落されてしまった。
距離が離れ、遠くで相対するようになってもやはり、その立体型魔法陣は美しかった。
「やっぱり、強いな」
正直な感想。
まともに相対しただけでは正直勝ち目などない。
より戦略的に、相手の裏を突くような戦術を駆使しなければならないか?
いや、それでも戦闘的視野は相手の方が広い。
ならば、結局ごり押しってわけか。
「当り前だ。変革を起こす人間が力を持たないはずがなかろう。力だけでも、想いだけでも成立し得ないんだよ……」
「ああそうだな。俺がお前をぶっ倒すことにだって、想いも力も必要だ。それは結局、信念っていうんじゃないの?」
「信念、ねェ。いい言葉だよ。でもな、俺はそんなものは持ち合わせてはいない。俺にあるのは、ただの強迫観念のみだ」
強迫観念。
彼は自ら、何かに動かされていることを是としている。
「俺はいつでも、誰かに囁かれている。現実を正せ、世界を変えろ終わらせろ、愚者を消せ、目の前の敵を葬り去れ、そういった人間の意志の総意で、俺は動いているンだよ」
兄さんの右手にはハルバードが握られている。
それを両手で握り直し、こちらに向かって構える。
そして、ハルバードと立体型魔法陣が、共鳴するように光を放った。
「ああそうかい、だったら俺は、みんなの幸せを守りたい、明日へと繋ぎたい、そんな俺の、俺だけの意志で戦わせてもらうよ」
俺は両手に二振りの剣を召喚する。
『長江』と『黄河』。
そして地面を蹴る。
兄さんに肉薄するが、彼は距離を保つように宙に浮遊して飛び回り、俺との間合いを開ける。
それなら上等と、俺も速度を上げて空中戦に持ち込む。
刃が交差し、金属同士のぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
刺突、斜め斬り上げ、水平斬り。
次々に手を緩めることなく斬撃を加えていく。
兄さんはそれら全てを躱し、受け止め、受け流しながら、俺の攻撃の隙を見つけて反撃を繰り出す。
「ハァァァ!!!」
体を捻ってハルバードを思い切り振り抜いた時、巻き上がった風が集いそこにはサイクロンが出来上がった。
それを、2つ、3つ。
再び彼の魔法陣が光を放ち、そのサイクロンを自由に操り始めた。
3つの暴風が俺を襲う。
俺は剣を振るって濁流を作り出し、かろうじでうち1つを相殺する。
しかしまだ2つ残っている。
周りの木々を薙ぎ倒しながら恐るべきスピードで、うねりながらその口を俺の方に向けて迫りくる。
俺は――次の手を打った。
「禁呪、≪偉大なるテュポーンの術≫!!」
周囲に台風クラスの風を発生させ、更に俺の魔力で強化する。
俺の風はサイクロンのそれを圧倒し、簡単に消し去ることができた。
しかし、その結果、兄さんを見失ってしまった。
ふと、背後から強力な魔力反応。
振り返ればそこには、兄さんが魔力チャージを完了させて砲撃の準備に入っていた。
俺は慌てて双剣をしまい、迎撃の準備に取り掛かる。
しかし、相手は既に完成させているため、こちらは抜き打ちでの迎撃態勢になる。
俺がそう状況判断を終わらせる間もなく、極太の光線が迫ってきた。
「≪隷従する熾天使の聖火(セラフィムフォール)≫!」
発動の速さの割に高い火力を叩きだす、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫の中に内包された攻撃魔法の1つ。
俺ができる最大限での威力での発動だというのに、押されているのが手に取るように分かる。
ならば――念じろ、力が欲しいと、この光線を打ち砕くほどの力が欲しいと!
そして、光る。
力の拮抗にゆがみが生じ、バランスが崩壊したせいで爆発音が周囲に鳴り響いた。
何も見えない中で、ただ後方に吹き飛ばされていくのは分かる。
地面に体が叩きつけられるのを、痛みをこらえながら確認すると、受け身をとって両足でしっかりと着地する。
向こうも同様だったようだ。
光が晴れて、視界が良好になる。
そして俺は――感じていた。
――決めるなら、今だ。
俺は、俺の中にある全ての感情を、欲望も、羨望も、嫉妬も悲哀も憤怒も全て受け入れて、それを想いの力へと、≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫の力の源へと変換する。
全てを昇華させ、完全な『無限(リミットアウト)』を手に入れた俺に、負ける気はしなかった。
「……行くぞ」
そう呟き、俺の、きっと最後になるだろう攻撃の準備に入る。
「≪冥王の
俺の中の全てが、かざした両手の平に収束されていく。
そしてそれは次第に魔法陣を展開させ、幾重にも折り重なっていく。
誰もが願っていたはずだ。
幸せになりたいと。
誰もが恐れていたはずだ。
絶望したくないと。
けどそれは、みんな生きているから。
誰もが生きているから、人はみな傷つけあって、恐れあう。
でも、だからこそ、俺たち人間は幸せを求めてひたすら歩き続けるんだと思う。
最初に桜を植えたさくらのおばあさんだって、さくら自身だって、それに、純一さんや音夢さん、由姫さんに、義之に由夢に音姫に、そして、俺自身もそうだし、きっと、兄さんも、かつてはそうだったはずだ。
なくなってしまったら、確かに存在と共に、不平等もなくなるだろう。
でも、そこから先は、本当に何もなくなってしまうんだ。
苦しんだことも、悲しんだことも、楽しかったことも、嬉しかったことも、俺たちが生きてきた証も。
俺は、それが嫌だから。
この幸せな世界を、失いたくないから。
何千人、何万人とこの世界を恨んでいようと、俺は、この平和な世界が、想いに、希望の夢に溢れた世界が大好きだから。
俺は俺の幸せのために、そして俺を取り囲む全ての仲間の幸せのために。
――兄さん、あんたを倒す。
「いっけえェェェェェェェェ!!!!!」
轟音と共に、巨大な魔砲を発射させる。
一直線に、兄さんの方に伸びていく。
「≪終焉を誘う悲哀の聖槍(トリシューラウィング)≫!!!!」
兄さんの立体型魔法陣が変形していく。
それは次第に蛇のような形を成していき、ところどころが刺々しくなっていく。
胴から生えたその翼は更なる威圧感を放ち、その羽ばたきは巨大な風を作り出す。
彼がつきだした右手に沿うように、その生き物の悍ましくも美しい頭は、口を開いていた。
――龍。
それが彼の本質。
その漆黒の体を持った龍のブレスは、間違いなく星1つを破壊しかねない。
つまり、ここでの押し合いに負ければ、それは完敗を意味する。
龍の砲口の先端近くに、先程彼自身が纏っていたような立体型魔法陣が、幾重にも重なって出現する。
その中で黒い塊を作り出し、その大きさを徐々に大きくしていく。
そして俺の砲撃とほぼ同じくらいの大きさになった時、それは弾けた。
お互いの魔砲がぶつかり合い、再び光を撒き散らす。
俺は、俺の全力を注ぎこんでいる。
にも拘らず、押されている。
負けるのか……こんなところで……!?
「幸福なンてマヤカシなんだよ!どれだけ必死に腕ン中で抱きかかえても、いずれ奪い去られてしまう……」
ふと、兄さんの声が聞こえた。
「俺はお前に話しかけられて、兄弟に、家族になって幸せになったのかもとか考えてたんだ!実際に友達と呼べる相手もできて、なんか楽しかったよ……!でも、でもそれは……全部奪い去られた……!」
泣き崩れるのを必死に堪えながら、ひたすらに運命を憎む声。
それを聞いている俺ですら、悲しくて、切なかった。
「俺は、あの時兄さんと家族になれて本当に嬉しかった!兄さんはあまり表には出さなかったけど、少しずつ笑顔を見せてくれるのを見て、本当に嬉しかったんだよ!俺は、俺はお前の幸せそうな顔をずっと見ていたかった!あのまま兄さんには、幸せになってほしかったんだ……!」
「でも俺は、その微かな希望さえなかったことにされた。それに、結局最後の1人だったお前も死んでこっちに来た。そこでお前は俺を置いて幸せになった……」
「確かにそうだよ、俺は今最高に幸せだ!大好きな人がいて、大切な家族や仲間に恵まれて!そんな世界を、失いたくないから!負けるわけには、いかないんだ!」
「羨ましいよ。俺も、お前に憧れていた。いつでも前向きで、誰かの為になろうと一生懸命で、お前に救われた奴もきっと多いンだろうよ。1度たりとも、嫉妬しないことなんてなかった。お前みたいに強くなりたかった。でも、結局は、ベクトルは逆に向いたンだよ。だから、もう、終わらせたい……。俺たちの確執も、この世界も……」
そして、砲撃の境界は、すぐそこまで迫ってきた。
これまでかと思ったその時、辺りが、薄紅色に輝いた。
~音姫side~
龍雅さんの言葉を聞いて、その言葉には本当に彼の想いが重く圧し掛かっていて、誰よりも悲しい思いをしていたことを痛感した。
そして光くんは、その言葉に影響されるかのように、徐々に龍雅さんの光線に押されていった。
このままでは、光くんが負けてしまう。
最愛の人が、いなくなってしまう。
そして、大好きなこの島が、この世界が、消えてなくなってしまう。
――いやだ。
そんなこと、認めたくない。
でも、私には戦う力などない。
ただ遠くで指を咥えて見ているだけしか、安全なところで戦っている人を応援することしかできないのだ。
そう、ただ、祈るだけ。
でも、さくらさんは言っていたじゃないか。
願えば叶う、祈れば通じる、と。
今光くんの勝利と、奇跡を願わなくて、いつ彼の助けになるのか?
私は、正義の魔法使いだ。
そして、光くんと、今あそこで戦っている光くんと、一心同体なのだ。
ならば、私は願おう、祈ろう。
全ての奇跡を、希望を信じて。
「お願い、光くんに、みんなを守り抜く奇跡を……」
キラリ、と、胸のペンダントが輝きを放った。
それは、小さい頃に光くんが私にくれた、大切な宝物。
そして、私と光くんが恋人同士になった証。
そのペンダントが、私の祈りに呼応するかのように、煌めき始めた。
――この、願いを叶えると言われる桜の花びら、それはきっと、音姉の願いを、1つだけ叶えてくれるんだ。
思い出すのは、あの時自分にペンダントをつけてくれた時の、光くんの言葉。
私の中から何かが湧き上がり、そしてすっと抜けていくのが感じられた。
そして次に視界に入ったのは、青白く輝く――精霊?
神々しく、美しく、それでいて、どこか畏怖を感じる。
お母さんから受け継いだ、あれと同じような印象を感じた。
その正義の魔法使いとしての力の源は、すっと空に解けていき、その姿を消した。
~光雅side~
死を、覚悟した。
俺のじゃなく、世界の死。
全ての人間から、幸福と共に不平等を奪い去る、世界の死は、目の前にあった。
だがなんだろう、この、胸に感じる温かい鼓動は……?
その鼓動は、少しずつ自分の中で形を形成し始める。
俺は、これが何かを知っていた。
これは――音姫の、正義の魔法使い、『鬼』の力だ。
そして、それは音姫自身の想いの力の源、『心』と共に流入していた。
――光くん、負けないで。
音姫の声が聞こえてくる。
温かい、優しい声。
いつまでも聞いていたかった。
――みんなが、待っているから。
その声に応える必要が、俺にはある。
家族として。そして、男として。
――光くんを、明日を、待ってるから。
そして俺は、全てが定まった。
「ハァァァァァァァァァ!!!!」
内から湧き上がる衝動と力をありったけこの手に乗せて、砲撃の威力を更に高める。
少しずつ、兄さんの砲撃を押し返していった。
「ばっ、馬鹿な!?」
兄さんの表情が驚愕に染まる。
「なぁ、兄さん」
俺がしたかったこと。
俺が兄さんに言いたかったこと。
「俺は、救えるものは全て救うと誓ったんだ。他の誰でもない、全てを失った、兄さんの為に。だったら今回は、その兄さん自身を、俺の手で解放させてやる」
「クッ……!」
「兄さん、俺は本当に幸せだった。兄さんのおかげで、毎日が幸せだった。もし俺が兄さんを狂わせたんだとしたら、俺が自分でその落とし前をつける。だから、暇にはなるだろうけど、今は、ゆっくり休んでくれ」
そして、俺の全てをぶつけた一撃は、兄さんを呑み込んだ。
光に包まれる中、兄さんの、優しい声が聞こえた。
「ハハ、負けちまった……。やっぱお前は俺の憧れだわ……。俺は、本当に幸せだったんだな――」
――悪かったな、光雅。
そう言い残して、彼は、消えていった。
これで、全てが終わったのだ。
何もかも。
何か――少しだけ――疲れた――かな――
~さくらside~
光雅くんたちの戦いが終わり、光雅くんもようやく気を緩めることができたようだ。
光雅くんのお兄さんは、きっと、誰よりも幸せになるべき人だったのだ。
ボクは、きっと彼を知っていて、さっき彼に触れた時に見たあのヴィジョンは、彼が過去に自分と会っていたことを意味するのだろう。
その時の彼の表情は――本当に幸せそうだった。
――と、その時。
「さくら――俺――ちょっと――休む――」
――バタリ。
光雅くんが、とぎれとぎれに呟いて、その場に倒れこんだ。
慌てて駆け寄ると、いつかの悪夢のような光景が、そこには再現されていたのだ。
――彼の口から、血のように赤い桜の花びらが、吐かれていたのだ。
「さくらさん、これは一体……?」
音姫ちゃんも、そして、一緒に来た義之くんと由夢ちゃんもことの不自然さに気が付いているようだ。
そう、これは紛れもなく、音夢ちゃんの、記憶喪失の時に現れた現象と、そして、彼女が眠り続けていた時の現象と、全く同じだった。
それはすなわち、光雅くんが死に向かっていることを、意味していた。
少年は意識を失った。
彼の想いを知る人々は、皆悲しみに暮れる。
その中で、たった一人、最後の希望を彼に託した者がいた。
次回『幸せを信じて』