D.C.Ⅱ.C.E. ~ダ・カーポⅡ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
ホント、アフターストーリーはいつ終わるのか自分でもよく分かりません(笑)
1週間に1回。
それが、早朝に今のような状況になっている確率だったりする。
俺はいつも通りにベッドに横になって、朝になって意識を取り戻して瞼を開けてこれまでに何千回と見てきた天井を視界に写している。こればかりはいつものことで何も驚くことはないしむしろ今日は大切な約束の日であり外も晴れていて目覚めも良く、何となく充実した1日となりそうなくらい機嫌もいいというのに。
「……」
「……」
右には流れるような黄金色の長い髪が乱れ、その小さく華奢な体が俺の腕へと摺り寄せられ、細く温かい指先が俺の腕を優しく握り締めている。
かと思えば左には栗色の甘い香りがする髪、いかにも甘えてましたとでも言わんばかりの寝相で彼女らしからず背中を丸めて寝ているというのに喜色満面の笑みを浮かべているような気がする。
どちらも美少女で、どちらも大切な人。
俺はそんな人にこんなにも慕われていて、こんなにも幸せな日が、毎日訪れる。
それはいいんだけども。
「こいつらいつ入ってきたんだ……?」
さくらは寝る直前に、彼女の寝室の前で、おやすみ、と言って別れたはずだ。
音姫に至っては間違いなく朝倉邸に帰っているはずだというのにも拘らず、何故芳乃邸の俺の部屋の俺のベッドで寝ているのだろう。
「全くホントにどっちも甘えん坊なんだからな……」
俺は彼女たちの謎の本能に対して少し呆れつつも嬉しく思い、苦笑する。
どちらも俺のことを本当に大切にしてくれているのだ。片や俺の事実上の姉、片や俺の恋人。
そんな2人の頭を、起こさないようにそっと同時に撫でる。どっちも髪がさらさらで触り心地最高です。
やっぱりさくらの方が頭は小さい。この頭で、十代前後の時に博士号をいくつかとったらしいものだから、世界と言うところには色々な人がいるようだ。お疲れ様です。
ほんの少しだけ意識が戻って来たのか、眠りが浅くなったのか、それは分からないが、俺の手が頭に乗っかったことで、元々幸せそうな表情が、更にふにゃりとだらしなくとろける。
もう少しこの寝顔共を満喫するのもいいと思ったけれども、今日はやっぱり大事な日なのだ。
2人には悪いけれども、先にベッドを抜けさせてもらおう。
布団を捲らないように、そっと胴から腰、そして足、爪先を抜く。
衣擦れの音が割と目立ったが、それでも彼女たちは起きる気配を見せない。俺はそのまま部屋を抜けて向かいの義之の部屋に侵入し、義之を踏みつけないようにベッドの上でトランポリンの要領で跳ねまくって暴れ、義之を叩かずに叩き起こした。
~義之side~
朝からとんでもない起こされ方をした。
かつてないほど残虐で冷酷な起こし方だったような気がする。
物理攻撃を食らわしてくる由夢のような起こし方も嫌だが、あれはあれで今となっては懐かしいなぁ、なんて考えてみたりもするんだが。
広辞苑は流石に痛かった。逆に永遠の眠りに就くかもしれないと思ったくらいだった。
「ふぁあぁ~……」
朝から欠伸を噛み殺す姿を音姉に見られたら『しゃきっとする!』なんて叱責されるかもしれないが、光雅はそこまで厳しくもない。
と言うよりあんな起こし方をされては流石に不自然な起床でストレスが溜まっておかしくないと俺は思う。
今日はまひるとそれから光雅が知り合ったとかいう、まひるの友達である、ミキさん、だったか――とさくらパークで遊ぶことになっている。
そう言えば光雅も大変な事件の当事者だったりで、まひると出会った当初もなんだかんだでバタバタしていたせいで彼女に対してまだ何もしてやれてないような気がしていた。こういうのもたまには悪くないと思ったり。
「おはようございます!」
俺と光雅が台所で簡単な朝食の準備をしていたところに、まひるが朝から元気な声で挨拶してきた。
いつも通りの、快晴の日の温かなお日様のような笑顔を携えて、今日はいつも以上にウキウキしている様子だった。それは彼女のちょっと凝った服装からも窺える。いつもとは一味違うような服を選んで、見事に着こなしていた。似合ってるというと、彼女は嬉しそうに頬を染めて喜んでいた。
最初に彼女を見つけたのは俺で、確かアレは冬休みの大晦日、その夜に学園の校舎で肝試しをした時だったっけか。
光雅の魔法によって再現された様々なお化けに、由夢、ななかと共に絶叫しながら逃げ回っている間に見つけた。
自称幽霊、信じられなかったけどどうやらその時の由夢たちには本当に見えてなかったみたいで。
何とか光雅の力で誰からも見られるようになって、今は一緒に生活しているけど、やっぱりまだ生活には慣れてないようにも感じられる。
朝食を終えて食器を片付けた後、俺らは3人でこたつで他愛もないことで談笑に花を咲かせている。
時刻は現在7時50分。そろそろ音姉や由夢も学園に用事で登校するために起きてくる頃だろう。
「何か、持っていくものとかありますか?」
光雅がお茶を汲むために場所を離れた時、ふとまひるからそんな質問が飛んできた。
ソワソワしているというか、ここにきて初めてまともにどこかに遊びに行くという経験に、緊張しているようだ。それに、生きていた頃の親友とも出会うらしいし。
「そーだな、とりあえずお土産とか買いたいなら財布辺りがあれば大丈夫なんじゃないのか?」
女の子が普段どんなものを携帯しているのか俺には分からない。
由夢がその、なんていうか、俺とのデートの時に、普段持ち歩く小さなバッグには何が入っているのか、あまり気にしたことはなかった。
ハンカチとかティッシュとか、それから手鏡なんかも入っているんだろうか。後は例の手帳?
確か夢に見た未来をメモしてるんだっけか。アレは枯れない桜が力を失った今でも、朝倉家としての魔法使いの血がそれを見せているのだろう。
話が逸れたけど、そのことについてはとりあえず音姉や由夢に相談してみればいいとアドバイスしてみた。
「……」
ふと、彼女がじーっとこちらを意味深な視線で見つめてくる。何た言いたげな、そんな眼。
何だろうと思って、少し緊張しながら恐る恐る訊いてみる。
「ど、どうした?」
「義之先輩って、やっぱり優しいなーって」
「なんだよ藪から棒に」
義之先輩――俺がまひるを最初に見つけた時に、彼女が俺をそう呼んだのだが、何故そうなのかはいまだによく分からない。今では俺が『義之先輩』、光雅が『光雅先輩』となっていて、他は大体『さん』付けで呼んでいる感じ。
とにかく、まひるは俺を見てそう言った。
「いえ、先輩って、結局いつも誰か他人のことを考えて行動しますよね」
「それは俺よりももっと適任者がいるだろ――今来たこいつとか」
俺はお茶をお盆に乗せて運んできた光雅を指差した。こいつ程他人思考で動く奴を俺は知らない。
光雅は突然に指を指されて何のことか分からずに困惑しているがここは放置。
「光雅先輩は、また少し違いますよ。なんていうか、光雅先輩は、思った以上に自分思考なんだと思います」
「そういうもんか?」
「そういうもんです」
にっこりと笑って、詳しいことは説明しないで、この話は意外とあっさり終わってしまう。
ただ何となく、理解はできなかったが、そんなものなんだろうとぼんやりとイメージすることだけはできたかもしれない。
あの光雅が自分思考ねぇ。
「何の話だよ?」
「何でもないですっ!光雅先輩、これ、似合ってますか?義之先輩は似合ってるって言ってくれました!」
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さくらパーク、
入場ゲート前。
俺と光雅、それからまひるはそこで、もう1人の到着を待っていた。
時間に意外と厳しい光雅が、集合時間の10分前の更に10分前などと、何とも時間に律儀と言うか、音姉がやりかねないような準備をするのだ。彼女の恋人なのだから、影響されると言えばそうなのかもしれないけど。
そして、その人物らしき人が、こちらに向かって手を振って向かってくる。
「ミキちゃん、おはよー!」
後ろで束ねられた、明るいブラウンの髪。白いブラウスの上から、淡い桃色のカーディガンを羽織り、黒色のジーンズが活発さをイメージさせる。
その姿にいち早く反応したまひるが、今までに見たことのない無邪気な仕草で手を振り返して、その人とハイタッチを交わした。
それだけで分かる。この2人は、尋常じゃなく仲がいい。あの雪月花にも勝るとも劣らない絆を、この2人の間に感じた。
「おはよ、まひる、光雅くん、それと――」
まひるがミキちゃん、と呼んだその女性は、俺を見る。
そう言えば俺はまだ彼女のことを何も知らないし、彼女もまた俺のことは全く知らない。
もしかしたら光雅から話はしてあるだろうけれども、こうして会うのは初めてだ。
「桜内義之です」
「朝比奈ミキって言います。よろしくね、義之くん」
自己紹介を交わしてすぐに、ファーストネームで俺を呼ぶミキさん。
たった今俺も彼女のことをミキさん、とファーストネームで呼ぼうと考えてしまったわけだけど、何となく朝比奈さん、とは呼びにくい気がした。
光雅、まひる、ときて、朝比奈さん、もおかしな話だと思うのだけどどうだろう。
「立ち話もなんだし、一番遅れた私が言うのもなんだけど、さっさと中に入っちゃいましょ」
ミキさんはまひるの背を両手で押すようにして、いそいそと入場ゲートの受付へと歩いていく。
俺たちもその後に続いて、受付でフリーパスを購入し、エントランスをくぐったのだった。
「うわー、すごーい!」
入場してすぐ、まひるは空を見上げてその光景に息を飲む。
ジェットコースターや観覧車、フリーフォールなどのアトラクションが空を覆い隠すように屹立し、人々の賑わいに勢いをつける。
轟という音と共に上空をジェットコースターが駆け抜けていく。
まひるとミキさんはそんな光景に歓声を上げ、その楽しそうな表情から、どれだけこの日を待ち望んでいたかが垣間見える。
「来てよかったろ?」
女性2人から少し離れた後方にいた俺は、隣の光雅からそう声を掛けられる。
「まぁな」
まひるの思い出づくり、なんて言うとまるで別れが近づいているように思えなくもないが、それでも最初からまひると、それから彼女の親友であるミキさんに楽しんでもらえているのなら、俺としても来てよかったと思える。
「ここに来たら、最初はアレだよね、ミキちゃん!」
そう言って彼女が指差すのは、ジェットコースター。
このさくらパークのそれは、日本でもかなり力の入った代物であり、国内でもかなり絶叫度の高いマシンであると評判もある。
それにいきなり乗りたいというまひるは、こういうところに来た時はきっと、テンションが上がってアグレッシブになるのだろう。
「い、いきなりあれかよ。もう少しウォーミングアップがてらに軽いものから――」
「あれ、義之くん、絶叫マシンとな苦手?」
「そんなことはないですけど」
「ならいいじゃない!面白そうだし!」
多分まひるは、ミキさんに影響されている。そうに違いない。
いきなり絶叫マシンと言うのもどうかと思ったが、まひるたちがそうしたいと言うので、渋々ついていくことにした。
乗り場前に並んで数分、すぐに出番は回ってくる。
2席16列、俺たちはその後方に座ることになった。
光雅の隣がミキさんで、俺の隣がまひる。
この席は、何でも疑似ダブルデートを体現するために決定したのだとか。
ミキさんの決定で、まひるは少し泣きそうな顔で嬉しそうにしながら意気揚々と座り込む。
ジェットコースターは後ろの方が怖いとよく聞く。実際に経験したこともあるのだからそれは間違いないと思う。
車両が急降下を始める際、前方の車両が先に下り始めると、後方の車両はそれに引っ張られるように加速しながら下る。その際にゼロGやマイナスGが発生する為、乗客は強烈に引き込まれたり、上方向に飛び出されるような感覚となる――らしい。杏や杉並からそんなことを聞かされたことがある。
そして出発の合図が鳴り響き、少しずつ車体は動き始めた。
ゴトン、ゴトンと地獄へのカウントダウンを奏でるようにレールにそって動き始め、急な坂をゆっくりと上りはじめる。
チェーンリフトの音が混じり始め、少しずつ頂上が近づいてくる。
見下ろすと、とんでもなく地上が遠い。
前を見る。先頭車両が急降下を始めた!
引っ張られるように加速して、俺たちの車両が坂を下りはじめる前に高速の域に達した。
そしてそのまま下り坂へ――
「いやっほーーーーーーーー!!」
隣のまひるは恐怖するような表情は一切見せず、逆に両手をバンザイして楽しそうに風を感じていた。
俺はそれどころではないが――そんなまひるを見て、こちらも少し、楽しくなってきていた。
そんな調子で、絶叫マシンを回りつつ、俺がへとへとになりながら、午前中の時間は大体消費してしまった。
次もまたいつになることやら。
気が向いたら更新しますので、心の片隅に置いていただけたらと。