絶対防壁の転生者は平穏に暮らしたい   作:雨風 時雨

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魔法科にわかです
読みづらい、解釈違い、キャラ崩壊、稚拙な文章その他   ...
深夜テンションと勢いで作ってますので更新も不定期になると思いますが暖かい目でよろしくお願いします



第1話

 その時の光景を、司波深雪は今でも鮮明に覚えている。

 

 3年前の沖縄。

 突如として日常を切り裂いた大亜連合による侵略の火の手の中で、当時の深雪と、その兄である司波達也の間には、現在のそれとは似ても似つかない、凍りついたような冷徹な距離感が横たわっていた。

 

 血の繋がった兄でありながら、魔法能力の劣る「欠陥品」として扱われ、それでも四葉の家系から自分の護衛(ガーディアン)としてあてがわれた不気味な少年。

 

 深雪はそんな達也をどう扱ってよいか分からず、ただ無表情に使用人のように従う彼に対して、冷ややかで反発混じりの態度を崩せずにいた。

 

 戦火が間近に迫る中、その護衛は、周囲の戦況に対処するために深雪の元を離れた。

 引き止める言葉も、見送る言葉もない。事務的な命令と、それを諾とする冷淡な視線の交わし合いだけがそこにあった。

 

 主従関係とも家族ともつかない、どこか歪んだ沈黙を残して、達也は戦煙の向こうへと身を躍らせていく。

 だが、戦場という名の混沌は、一人の少年の緻密な護衛計画すらも容易に裏切る。

 

 達也が消えて間もなく、上空から大気を引き裂くような不気味な風切り音が迫った。

 それは意図された狙い撃ちなどではない。前線での衝突の余波として、偶然にも深雪のいる方向へと流れてきた数発の地対地誘導ミサイル。

 

「っ……!」

 

 深雪の美しい貌が引き攣る。

 頼りにしたくもない、けれど自分の絶対の盾であるはずの「護衛」は、今ここにはいない。

 

 頼る者もなく、深雪は一人、右手に握りしめた携帯端末型CADへと意識を集中した。

 脳内の魔法演算領域が励起され、起動式が展開される。凍結魔法を展開し、大気そのものを凍らせて防壁を作る――。

 

 だが、遅かった。

 死の恐怖と、頼る相手を欠いた極限の動揺が、ほんのコンマ数秒、魔法式の構築を狂わせる。

 

 迫り来る破壊の塊。冷たい鉄の先端が、死の象徴として彼女の網膜に焼き付く。

 その刹那。

 

「――『境界無化(ゼロ・アイギス)』」

 

 低く、極限まで感情を排した少年の声が、死の影を完全に遮るように響いた。

 深雪の前に、一人の少年が滑り込んでいた。

 

 彼の手にある無骨な銀色のCADから放たれたサイオンの輝きは、深雪がこれまでに見たどの魔法よりも異質で、そして神秘的だった。

 それは夜空に揺らめく極光(オーロラ)を、極限まで透き通らせて凝縮したような、深い瑠璃色の障壁。

 

 直後、飛来したミサイルがその障壁に接触した。

 しかし、大爆発も、恐ろしい破壊音も響かない。

 

 接触した瞬間、破壊の塊であったはずのミサイルは、まるで最初から存在しなかったかのように、ただ綺麗な瑠璃色の光の粒子となって、音もなく世界に溶けるように霧散していった。

 

 迫るはずの衝撃も、爆風も、何一つ届かない。

 深雪はその圧倒的な「無」の静寂と、あまりに幻想的な光の美しさに、魂の底から目を奪われていた。

 

「……っ、あなたは……」

 

 ようやく絞り出された深雪の掠れた声に、少年はゆっくりと首だけを振り返った。

 感情の起伏の見えない静かな瞳。彼は深雪が無事であることを見届けると、小さく息を吐いた。

 

「……今の魔法、内緒にしてくれ」

 

 ぶっきらぼうに、ぼそりとそれだけを言い残すと、少年は達也が戻ってくるよりも早く、雑踏の中へと姿を消した。

 

 その後、沖縄での数々の激闘を経て、達也の真の実力と自分への絶対的な献身を知った深雪は、彼を心から敬愛し、彼のために生きることを決意して「お兄様」と呼ぶようになる。

 

 それゆえに、この時の思い出は、深雪の心の中で「お兄様」への信仰が始まる直前に起きた、誰にも打ち明けられない、たった一つの『瑠璃色の記憶』として、大切に、そして秘密のまま胸の奥深くに眠り続けていた。

 

 * * *

 

(まさか、本当にあの司波深雪を助ける羽目になるとは思わなかったな……)

 

 桜の花びらが舞い散る中、国立魔法大学付属第一高校の校門をくぐりながら、御守(みもり) (れん)は内心で深いため息をついていた。

 

 漣には、前世の記憶がある。

 ごく普通の、どこにでもいる一般人として生涯を終え、気づけばこの『魔法科高校の劣等生』の世界へと転生していた。

 

 原作小説の知識をしっかりと抱えたまま生まれた漣の最初の感想は、「最悪の魔境に生まれてしまった」という絶望だった。

 国家間の陰謀、テロ、規格外の戦略級魔法師たち。油断すれば、いつどこで巻き込まれて死ぬか分からない恐ろしい世界。

 

 だからこそ、漣は幼い頃から、心に固く誓っていた。

 原作のストーリー、特にトラブルの権化である司波兄妹には、絶対に近づかない。

 

 原作知識を活かして彼らを避けて通り、おとなしく、静かに、無難な一般市民として平和な一生を終える。それが彼の人生のゴールだった。

 

 しかし、運命というやつは容赦がない。

 3年前の沖縄。たまたま観光がてら近くに居合わせてしまった際、よりによって一人残された司波深雪の頭上にミサイルが飛来する現場に遭遇してしまったのだ。

 

 原作知識があるがゆえに、この状況で彼女が死ねば、世界そのものが破滅ルートに突入しかねないことを、漣はよく知っていた。

 

(……最悪だ。関わりたくないけど、ここで深雪を見殺しにしたら俺の生存ルートも消える)

 

 そう判断したからこそ、彼は自身の固有魔法『境界無化』を使ってミサイルを消滅させたのだ。

 あの時、多くを語らず「内緒にしてくれ」と言ってそそくさと立ち去ったのも、これ以上関わりたくないという、転生者としての必死の自己防衛に他ならなかった。

 

 そして現在。

 なぜ、原作の主戦場であり、トラブルの塊である「第一高校」に彼が入学しているのか。

 そこには、彼の生まれ育った「御守一族」という、極めて厄介な実家の都合があった。

 

 国防の一翼を担う防壁魔法の名門。

 彼らは漣の持つ、すべてを「無」へと還元する規格外の固有魔法『境界無化』を、一族の、ひいては国家の隠し札として異常なほど重要視していた。

 

 漣としては、別の地方の適当な普通科の高校か、あるいは難易度の低い第三魔法科高校あたりで穏やかに暮らしたかった。

 だが、親の、ひいては一族の思惑は違った。

 

「お前のその盾は、将来、国家の核心を護るものとなる。最高峰の魔法情報と人材が集まる第一高校に在籍し、その目を養いなさい」

 

 一族は漣にそう命じた。

 しかし、ここで重大な問題が発生する。

 

 漣は自身の固有魔法、およびその気配を他人に知られないよう、普段から体表数ミリの範囲に、極めて微弱な『境界無化』の無化防壁をパッシブ(常時発動)で張り巡らせていた。

 

 この極微弱な防壁は、彼自身から漏れ出るサイオン(想子)の波長や情報を完全に無効化し、外界へ漏らさない。

 そのため、第一高校の入学実技試験における魔力測定器は、彼の魔法資質を正確に計ることができなかった。

 

 測定器には「サイオン量が極めて低く、事象干渉力も最低値」というゴミ同然のデータしか記録されないのだ。

 実技試験は当然、最悪の評価。

 

 普通なら、倍率の極めて高い第一高校には、二科生(ウィード)枠であっても不合格になる成績だった。

 だが、そこは「防壁の名門」である御守家。

 

 漣の親は、防衛省や第一高校の理事会、および魔法科高校の選考委員会へ凄まじい「根回しと権力による裏工作」を敢行した。

 

『我が子の実技数値が低いのは、守備型魔法に特化した偏りがあるためだ。その頑強さは一見の価値がある』

 

 などとそれらしい理屈を並べ立て、親の権力を最大限に使って、無理やり「二科生」の最底辺の枠として、漣を第一高校へとねじ込んだのである。

 

(まったく、親の余計なコネのせいで、よりによってこんな魔境に……)

 

 胸元にエンブレムのない制服の襟元をいじりながら、漣はげんなりとしていた。

 ただ、二科生になれたのだけは幸いだった。

 

 このまま「少し頑丈なだけの使えない二科生」のフリをして、教室の隅で透明人間のように3年間をやり過ごそう。

 

「ちょっと! なんであんたが私の前に歩いてるわけ!?」

 

「あ? そんなのただの偶然だろ。自意識過剰なんだよ、お前」

 

 校門へ続く坂道で、騒がしく言い争っている男女がいた。

 赤髪をポニーテールにした少女と、体格の良い野生的な少年。そしておろおろしている丸眼鏡の少女。

 

 漣は、彼らが誰であるかを原作知識として知っていた。

 千葉エリカに、西城レオンハルト、それに柴田美月。のちの達也の「一味」となる中心メンバーたちだ。

 

(出たよ……原作のトラブルメーカー御一行様だ。絶対に目を合わせない。絶対に関わらない)

 

 漣はだんまりを決め込み、彼らと一切視線を交わすことなく、完全に存在感を消してその脇を通り過ぎた。そのまま静かに、体育館へと向かう。

 

 * * *

 

 入学式会場は、一科生と二科生を隔てる冷酷な格差に満ちていた。

 前方には、誇らしげに花冠のエンブレムを輝かせるエリートたち。後方には、肩身を狭そうにする二科生たち。

 

 演台の上では、生徒会長の七草真由美が、お決まりの上品な笑顔で歓迎の辞を述べている。

 漣は、後方の目立たない席に座りながら、少し離れた場所に座っている一人の少年へと、細心の注意を払って視線を向けた。

 

 司波達也。

 原作の絶対的主人公であり、四葉の最高傑作。

 彼は、新入生総代として壇上に立つ妹の深雪を、いつものように静かに見守っていた。

 

 漣が最も警戒しているのは、達也が持つ、情報体(イデア)を直接スキャンする知覚能力『精霊眼(エレメンタル・サイト)』だった。

 

 どんな実力隠し主人公であっても、達也のあの『精霊眼』の前では、体内のサイオンの流れや、魔法演算領域の異様な構造を簡単に見破られてしまう。

 だが、漣にはその対策が、最初から「パッシブ発動」という形で備わっていた。

 

 漣が体表に常時展開している極微弱な無化防壁は、物理攻撃だけでなく、あらゆる「感知魔法」をも「無」に帰す。

 

 達也の『精霊眼』がどれほど周囲を観察していようとも、漣の防壁に触れた瞬間にそのスキャン波動は相殺され、漣の領域は「ただの空白」として処理される。

 

 厳密には、「情報を遮断された凡庸な人間」としてのダミー情報のみを達也に認識させるシステムだ。

 この鉄壁のステルスがあるからこそ、漣は達也の隣にいても正体を見破られないという、確かな自信があった。

 

「――新入生総代、司波深雪」

 

 真由美に呼びかけられ、深雪が壇上へと上がる。

 誰もがその圧倒的な美しさに息を呑み、彼女の口から紡がれる凛とした答辞の声に聞き入った。

 

 一科生たちの羨望と、二科生たちの諦念。

 壇上の深雪は、ただ総代としての責務を果たすことだけに集中していた。

 

 最愛の兄である達也が、二科生として席に座っていることへの静かな不満を押し殺しながら、凜とした態度で答辞を読み上げる。

 

 そこに、かつての沖縄の少年の姿を探すような、余計な考えは一切なかった。

 彼女にとって、あの日の出来事は今や美しい夢のようなものであり、現実のこの入学式とは完全に切り離された思い出だったからだ。

 

 式は滞りなく進行し、厳かな空気のまま終了した。

 

 * * *

 

 入学式が終わり、新入生たちが一斉に退場を始める。

 一科生と二科生が入り乱れる喧騒の廊下。

 

 漣は、その人混みに紛れるようにして、静かに歩いていた。

 これ以上目立つことなく、早々に教室へと移動し、静かに自分の席を確保する。それだけが当面の目標だった。

 

 だが、不運にも前方の一科生たちが立ち止まり、廊下の合流地点で一時的に人の流れが滞る。

 漣は周囲との接触を避けるように歩調を緩めたが、その背後から、いくつかの聞き慣れた足音が近づいてきた。

 

「深雪、少し人が混んできたな。俺の後ろを歩くといい」

 

「はい、お兄様。ありがとうございます」

 

 現在の二人は、あの沖縄での出来事を経て、互いを「お兄様」「深雪」と呼び合う、原作通りの完璧な関係へと進化を遂げていた。

 

 妹を気遣う達也の低く落ち着いた声と、それに甘えるように答える深雪の鈴を転がすような声。

 そんな二人が、漣のすぐ後ろに迫っていた。

 

 漣は背後を振り返ることはせず、ただ前を見つめたまま歩き続けようとする。

 達也の『精霊眼』は、今も周囲の生徒たちの動向を把握するために最低限の走査を続けているはずだが、漣の体表の常時防壁によって、達也には「ただの歩調の遅い二科生」としか認識されていない。

 

 しかし、予期せぬ突発事象が起きた。

 前方の一科生が急に立ち止まったことで、後方の生徒たちがドミノ倒しのように詰まったのだ。

 

 漣のすぐ後ろにいた深雪が、押し出されるようにして、ほんのわずかにバランスを崩す。

 漣は、背後からの接触を避けるため、無意識に半身を引いた。

 

 その結果、漣の背中と、深雪の肩が、触れるか触れないかという極限の距離にまで接近した。

 物理的な衝突はなかった。

 

 しかし、その極至近距離において、深雪の優れた魔法感応領域が、漣の体表数ミリに張り巡らされている「常時発動の無化防壁」の極微弱な境界線に、ダイレクトに接触してしまった。

 

 その瞬間。

 深雪の脳裏に、すさまじい衝撃が走った。

 

 足が、完全に止まる。

 深雪の全身の肌が、粟立つような感覚に襲われた。

 

 そこにあったのは、ただのサイオンの気配ではない。

 周囲のありとあらゆるサイオンの揺らぎが、その少年の体表に触れた瞬間に「無」へと還元され、完全に消滅していくという、異常極まりない静寂の領域。

 

 音がない。波がない。

 あらゆる事象の干渉を、ただ静かに、冷酷に、そしてこの上なく美しく拒絶する、あの瑠璃色の感覚。

 

(この、感覚……まさか……!)

 

 深雪の心臓が、早鐘のように脈打ち始める。

 間違えるはずがない。

 

 彼女にとって、お兄様を敬愛するきっかけとなったあの一連の沖縄の出来事の中で、唯一「お兄様以外」で、自分の世界を最も美しく彩り、自分を繋ぎ止めてくれた『瑠璃色の光の記憶』そのものの波動なのだから。

 

 深雪は弾かれたように顔を上げ、すぐ横に佇む漣の横顔を、その美しい瞳で真っ直ぐに捉えた。

 だんまりとした、感情の起伏の削ぎ落された静かな瞳。

 

 漣は、深雪が自身の「無化防壁」の波動に気づいたことを察知した。

 

(――しまっ……たっ!)

 

 脳裏を過ったのは、ただその一言だった。

 完璧に隠蔽していたはずだった。

 

 しかし、接近しすぎたことで、彼女の規格外の感知能力が『境界無化』のゼロ領域そのものをダイレクトに踏んでしまったのだ。

 

「あなた、は……あの日、の……?」

 

 深雪の声が、かすかに震える。

 驚きと、信じられないという歓喜が混ざり合った、確信に満ちた呟き。

 

 だが、その瞬間、達也の視線が鋭い不審の光を宿して漣へと向けられた。

 深雪がこれほどまでに取り乱し、目の前の無口な二科生に話しかけたのだ。

 

 達也の『精霊眼』が、一瞬にして漣の全身を暴こうと、その観測波動を極大まで引き上げて踏んでくる。

 

(……くっ、さすがに感づかれたか。だが、ここでボロを出すわけにはいかない……!)

 

 漣は体表のパッシブ防壁の出力を、達也に気づかれない限界の精度で微調整した。

 達也の強力なスキャンは、漣の防壁によって完全に相殺・無効化される。

 

 達也の目には、やはり漣は「ただ驚いて立ち止まっただけの、何の変哲もない凡庸な二科生」としか映らない。

 何も情報が読めない。いや、「情報の空白」があること自体に、達也は深い違和感を抱き始めていた。

 

 漣は何も語らず、深雪に答えることもしなかった。

 ここで下手に口を開けば、達也の疑念は深まり、原作ルートに引きずり込まれる。

 

 彼は深く深く気配を沈め、だんまりを貫いたまま、すっと身を翻して人の波の向こうへと消えていった。

 

「あ、待って……ください……」

 

 深雪が思わず伸ばしかけた手を、達也がそっと制した。

 その瞳には、妹の平穏を乱すかもしれない不審な二科生への、明確な警戒心が宿っていた。

 

 深雪は力なく手を下ろし、胸元でぎゅっと握りしめた。

 あの日の恩人が、まさか自分と同じ第一高校に、それも二科生として入学していたなんて。

 

 彼が何も語らずに去っていったのは、あの日彼が残した「内緒にしてくれ」という言葉を、今も貫こうとしているからに他ならない。

 

(私に、正体を隠したままでいるおつもりなのですね……)

 

 胸の高鳴りは、もう収まりそうになかった。

 全てを拒絶する「無」の盾を持つ少年と、その正体を暴き出そうとする冷徹な兄。

 

 絶対に原作に関わりたくなかった転生者の意図に反して、交錯し始めた彼らの境界線は、桜舞う第一高校で、静かに、しかし確実に崩れ去ろうとしていた。

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