絶対防壁の転生者は平穏に暮らしたい   作:雨風 時雨

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とあるゲームのタイムアタックやってました
なんの報告だこれ?
って事で本編どうぞ


第14話

(俺の『境界無化』の力を本気で振るえば、あの実家のジジイを黙らせることだってできるかもしれない……。いや、そんなことをしたら今度こそ平和なモブ生活はおろか、一族や軍に兵器として目をつけられて一生自由を奪われる。絶対に、そんな無茶はできない。それに――)

 

 アパートのベッドに横たわりながら、御守漣は暗い天井を見つめて奥歯を噛み締めた。

 

(それに――俺が実家と完全に縁を切って逃げ出せば、同じく防壁の適性を持つ『あいつ』が、俺の代わりに……)

 

 思考をそこまで巡らせ、漣は力強く首を振ってその想像を振り払った。

 

 1学期の期末試験が刻一刻と近づく6月中旬。実家の当主から下された無慈悲な命令は、漣のささやかな平穏を根底から揺るがすには十分すぎるものだった。

 

 九校戦へのコネ出場。

 

 目立ちたくない。世界を揺るがしかねない司波達也の戦場になんて関わりたくない。そう強く願ってきた漣にとって、その厳命はまさに死刑宣告に等しいものだった。

 

 なぜ、今になって実家が強引な手段に出たのか。

 

 御守一族は、国防において極めて重要な役割を担う名門だ。その直系の人間が、国内最高峰の育成機関である第一高校において「実技評価Eの落ちこぼれ」というレッテルを貼られたまま放置されている事実は、防衛省の上層部や魔法協会の幹部たちの間で疑念を生み出し、一族の政治的発言力にまで悪影響を及ぼし始めていたらしい。

 

『お前には、あの絶対防壁を瞬時に展開するために培った、極限まで無駄を削ぎ落とした魔法の起動速度があるだろう。九校戦のスピード・シューティングでその初速を見せつけ、御守の技術が攻撃競技でも他を凌駕することを証明してこい』

 

 通信画面越しに放たれた祖父の言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。

 

 断れば、容赦なく本家に連れ戻される。だが、出場すれば間違いなく他の一科生たちから凄まじい反発を受け、最悪の場合はまた別の厄介事に巻き込まれるだろう。

 

 漣は必死に布団を頭から被って現実逃避を試みた。しかし、実家が防衛省のパイプを使って一高の理事会へ強烈な圧力をかけたという事実は変わらない。

 

 嵐の予感に怯えながら、彼はただ、胃をキリキリと痛めて朝が来るのを恐れることしかできなかった。

 

 * * *

 

 翌朝。教室では、初夏特有の少し湿気を帯びた風が開け放たれた窓から吹き込んでいた。

 

「今年の九校戦、1年生からも結構な人数が代表に選ばれるみたいだぜ」

 

「マジで? じゃあ俺たち二科生にもワンチャンあるんじゃねえか?」

 

「あるわけないだろ。どうせ一科生のエリート様たちで枠は埋まるんだよ」

 

 登校してきた生徒たちが、期末試験の噂や部活動の雑談、そしていよいよ来月に迫った九校戦の話題で賑わっている。

 

 漣はいつも通り気配を消して席に座り、電子教科書を開いていたが、その内心は冷や汗で濡れていた。実家からのねじ込みが、いつ生徒会や選考委員会に届くかと、気が気ではなかったのだ。

 

「御守。顔色が悪いな。体調でも崩したか」

 

 不意に、すぐ左隣の席から、静かで感情の読めない声がかけられた。司波達也だった。

 

 漣はびくりと肩を震わせ、大げさにならないよう、慌ててだんまりを装った曖昧な笑みを浮かべた。

 

「あ、ああ……別に、そんなことはないよ、達也。少し、期末試験の勉強に熱が入りすぎたというか、寝不足なだけだ。心配してくれてありがとう」

 

「そうか。試験前だからと無理をするな。お前の実技の成績は、学内でも注目されているからな」

 

 達也は、本を読んだまま、淡々とそう告げた。

 

 その言葉の裏に、漣を自分の目の届く場所に置いておき、いつでも対処できるようにしておきたいという、静かで強固な意志があることを、漣は敏感に感じ取っていた。

 

「……買い被りすぎだよ。俺はただの実技Eの二科生だ」

 

「謙遜する必要はない。事実を言ったまでだ」

 

(頼むから、ただの出来損ないの悪あがきだと思って、これ以上俺に関わらないでくれ……)

 

 漣は机に突っ伏し、達也の無言の圧力に耐えながら、早く放課後が来ることを祈るばかりだった。

 

 * * *

 

 その日の放課後。本館最上階にある生徒会室では、重苦しい静寂と、静かな緊張感が漂っていた。

 

 西日が差し込む豪奢な室内には、普段の和やかな空気は一切ない。

 

 スチール製のデスクの上に置かれた、学校運営の上層部である理事会からの『公式要請書』。

 

 そこに記された「1年E組・御守漣を、男子スピード・シューティングの代表選手として推薦する」という一文を前にして、生徒会長の七草真由美、部活連会頭の十文字克人、および風紀委員長の渡辺摩利の3人は、一様に険しい表情を浮かべていた。

 

「――お断りします、なんて簡単に理事会に跳ね返せれば苦労はしないんだけどね」

 

 真由美が、いつもの上品な笑みを完全に消し、困惑と疲労を隠そうともせずにため息を吐き出した。

 

 彼女は十師族・七草家の長女として、魔法界の政治的パワーバランスを熟知している。防衛省に深いパイプを持つ御守本家から、理事会および魔法協会に対して直接、極めて強力な圧力が届いたのだ。ただの2科生だからという理由だけで無下に突っぱねれば、第一高校の運営そのものに支障をきたしかねない。

 

 だが、風紀委員長である摩利が、苛立った様子でデスクを指先で強く叩いた。

 

「冗談じゃない。御守が二科生で、実技のスコアが学年最底辺なのは周知の事実だ。そんな奴を、家柄のコネだけで代表枠に滑り込ませてみろ」

 

 摩利は真由美と十文字を交互に睨みつける。

 

「血を吐くような努力をして選考を争っている他の一科生の選手候補たちが納得するはずがない。選考の公平性が崩れ、現場で大きな不満が燻り始めるぞ。下手な不満を持たせたまま九校戦に臨めば、一高の連覇に深刻な影響が出る」

 

「渡辺の懸念はもっともだ」

 

 十文字が、その重厚な身体をさらに沈み込ませるようにして、重々しく頷いた。

 

「我が校は実力主義を掲げ、それをもって九校戦の王座を守り続けてきた。いくら名門の御守家とはいえ、このような理不尽な人事をそのまま受け入れることは、第一高の品位とプライドを著しく損ねる。……だが、理事会側もこの推薦を事実上の決定事項として呑む姿勢を見せている。正面から拒絶するのは不可能だ」

 

「そうなのよね……」

 

 真由美も困ったように眉を下げた。

 

 一高は実力主義を掲げているから、理由なしに二科生の彼を代表にするわけにはいかない。でも、理事会の要請を無視することもできない。まさに、八方塞がりの状況だった。

 

 だが、その膠着した沈黙を破ったのは、室内の隅で事務作業をしていた司波深雪だった。

 

「会長、摩利先輩、十文字先輩。……理事会からの要請を完全に無視することができないのであれば、いっそ彼に、その推薦に足るだけの実力があるか、皆様の前で証明させてはいかがでしょうか」

 

 深雪が静かに立ち上がり、凜とした佇まいで真由美たちを見据えた。

 

「証明だと?」

 

「はい。御守さんがスピード・シューティングの代表として出場するに値するかどうか、関係者の間でテストを行うのです」

 

 深雪は淀みなく、透き通るような声で続けた。

 

「既存の測定器は、魔法の出力や事象干渉力の規模を測るのには適していますが、特定の分野に極端に特化した能力を正しく測ることはできません。スピード・シューティングに必要なのは、的を破壊する物理的な威力ではなく、誰よりも早く的に干渉を届かせる『初速』です。御守さんの魔法の起動速度、および弾速の鋭さは、他の一科生にも決して劣るものではないと、私は考えておりますわ」

 

 深雪はあくまで生徒会役員として、この難局を切り抜けるための論理的な提案として口を開いた。唐突に彼を庇うのではなく、理事会の要請と一科生の不満、その両方を解決するための糸口としての発言だった。

 

 だが、その内心にあるのは、生徒会役員としての公平性などでは決してない。

 

(九校戦の代表選手になれば、同じチームとして行動を共にできる……。チャンスがあれば、あの方と誰にも邪魔されずに同じ空間を共有できるのですわ)

 

 1人の恋する少女としての狂おしいほどの独占欲と期待が、彼女の言葉に有無を言わせぬ説得力を与えていた。

 

 摩利は顎に手を当て、深雪の隣で静かに待機していた達也へと視線を向けた。

 

「達也くん。お前は同じクラスで、あいつの隣の席に座っているな。実技測定の様子も一番近くで見ているはずだ。……実際、御守の実力はどうなんだ」

 

 問いかけられた達也は、無表情のまま、静かに空間を見つめた。

 

 達也はすでに、漣の持つ『絶対の盾』と、かつて深雪を救った過去を完全に把握している。漣が有能であることは、達也にとっては周知の事実だ。

 

 だからこそ、御守家が彼を九校戦にねじ込んできたのなら、これを好機として利用すべきだと、達也の冷徹な演算回路は即座に判断を下した。

 

(御守を九校戦のメンバーに入れる。それは、俺が直接奴のCADを調整し、さらに深雪の『盾』として機能させるための最も合理的な手段だ)

 

(彼を東京に残して自分の目の届かない場所に置いておくより、代表チームに同行させ、俺の技術スタッフとしてのサポート下に置いて監視する方が、今後のあらゆるトラブルに対して最も安全である)

 

 達也は、感情の混ざらない、極めて平坦な声で摩利に答えた。

 

「――俺も、深雪の提案に同意します。彼のCADの起動速度、および魔法の初速は、測定器の不具合を疑うほどに特化している。十分に、スピード・シューティングの戦力になり得ると判断します」

 

「達也くんまで……?」

 

 真由美が驚きに目を見開く。

 

「ですが、周囲の1科生たちの不満を抑えるためにも、推薦枠をそのまま与えるべきではありません。明日、他の一科生の候補者たちの前で、深雪の言う通り公開の選抜テストを行いましょう。実力を見せ、全員を納得させれば、誰も文句は言えなくなります」

 

 達也の提案は、あまりにも論理的で、そして冷酷だった。

 

 それは、漣にとって「逃げるための言い訳」を完全に奪い去り、白日の下に引きずり出すための完璧な包囲網だった。

 

「なるほど、関係者立ち会いのもとでの実力検証か」

 

 十文字が重々しく頷く。

 

「期末試験後ならば、日程的にも妥当だ」

 

「……異論はない。実力があるのなら、ニ科生であっても代表に選ぶべきだ。御守に、その初速とやらを見せてもらうとしよう」

 

 摩利も同意し、選考の方向性が完全に決定された。

 

「それじゃあ、本人を呼び出しましょうか。さすがに、まだ何も知らないでしょうしね」

 

 真由美が内線端末に手を伸ばした。

 

 * * *

 

 数分後。

 

 担任からの急な呼び出しを受けて生徒会室へと出頭した漣は、重苦しい沈黙の中で立ちはだかっていた。

 

 彼の目の前のテーブルには、一族が理事会を動かした形跡である推薦状と、達也によって提示された「期末試験後の実力検証テスト」の決定書類が並べられていた。

 

 達也は、感情の読めない冷徹な瞳で漣を静かに見つめている。

 

 そして深雪は、両手を胸元でぎゅっと握りしめ、お兄様の目を盗んで、熱を帯びた瞳で漣を見つめていた。

 

「御守。今回の推薦の件だが、お前が一族の面子を取り戻したいのか、それとも本当に無能なのかは、期末試験後のテストで証明される。お前のその『初速』とやらを、私に見せてみろ」

 

 摩利が腕を組み、漣を鋭い眼光で射抜いた。

 

「御守。お前のCADの調整には、俺も立ち合おう」

 

 達也が、静かに追い打ちをかけた。

 

 それは、逆らえば不可侵の約束そのものを白紙に戻しかねない、有無を言わせぬ無言の決定だった。

 

(……やっちまった。俺を手元に置いて監視したい達也と、ただ一緒にいたいだけの深雪。あの兄妹の相反するはずの思惑が、よりによって『俺を代表に引きずり出す』という最悪の形で一致しやがった……!)

 

 漣は、もはや反論する言葉すら見つけられず、ただ力なく頷くことしかできなかった。

 

 夕暮れの生徒会室。窓から差し込む赤い光が、漣の、胃痛と疲労に満ちた地獄の九校戦の始まりを、冷酷に、そして不気味に照らし出していた。

 

 * * *

 

 生徒会室を後にし、逃げるようにアパートに帰宅した漣は、玄関の扉を閉めた瞬間、その場にへたり込んで頭を抱えた。

 

「――っ、待て。よく考えたら、めちゃくちゃやばいぞ、これ……!」

 

 漣の背中を、本当の意味での嫌な冷や汗が流れ落ちた。

 

 期末試験の直後に、関係者と代表候補たちの前で行われる実力検証テスト。そこで彼は、一科生を納得させるだけの「初速」を見せなければならない。

 

 だが、昨夜実家から無茶振りをされて以降、漣は何をしていたか。

 ただ胃を痛め、現実から目を背け、「どうか選ばれませんように、誰か別の奴が選ばれますように」と、布団を被って現実逃避をしていただけだった。

 

 具体的な対策など、何一つ立てていなかったのだ。

 

「俺のバカ野郎……! なんで実家に言われた時点で、最悪の事態を想定してシミュレーションしておかなかったんだ!」

 

 美月を救った時や、摩利との手合わせの時。漣はダミーの旧式CADを使い、自身の驚異的な脳内演算だけで、どうにか極小展開を成立させていた。

 

 当時は周囲の目が緩く、達也には見破られたものの、他の一科生をごまかすことはできた。

 

 だが、今度の実力検証テストは、代表候補たちや測定器が、漣の一挙手一投足を凝視する完全な監視下だ。

 

 あのゴミ同然のダミーCADのスペックで、完璧に『ただの起動の速い移動魔法』に見せかけるカモフラージュ式を走らせながら、一瞬で的を射抜くなど、そんな曲芸ができるわけがない。

 

(あの貧弱なダミーCADのスペックで、どうやって『空気抵抗の無化』の精密な座標指定をミリ秒単位で処理する?)

 

(魔法の出力を極限まで抑えたまま、起動速度のデータだけを一科生トップに引き上げ、さらにそれを『ただの起動が速いだけの移動魔法』に偽装するなんて、どれだけ繊細な変数調整が必要だと思ってんだ!)

 

 失敗すれば、達也以外の真由美や十文字といった一科生の実力者たちに、自らの異能の正体――事象消去を悟られてしまう。

 

 かといって、全く弾が届かず代表に選ばれなっかたら、実家から即座に回収されて本家の地下に幽閉される。

 

「ただでさえダミーCADの演算能力じゃパンクしかねないのに、他人の目を騙すための『初級移動系魔法』のダミー式まで、同時に並列処理させなきゃいけないんだぞ……!?」

 

 実力検証テストは期末試験の直後。それまでに、魔法式の構築も、ダミーCADへのインストールも、ミリ単位の調整も、すべて完璧に終わらせなければならない。

 

「くそっ、現実逃避している場合じゃない……! 今日から徹夜だ!」

 

 漣はクローゼットから特注の片手用モーションコントローラー型CADを取り出し、それをダミーCADと並列で接続した。

 

 特注CADを開発環境のコンパイルサーバーとして使い、ダミーCADの貧弱な回路でも『境界無化』の極小干渉を安全に、かつノータイムで発動できるように、魔法式を極限まで圧縮・軽量化する作業が必要だった。

 

「変数『空気の粘性』をゼロにする範囲を、弾頭の周囲数ミリに限定……いや、これじゃダミーCADのメモリが足りない。軌道上のベクトルを線として中和する記述に書き換える……」

 

「周囲の目を騙すためのダミー式は、この位置に並列で走らせて……」

 

 手元のコントローラーのスティックを激しく弾きながら、漣は半ば錯乱状態でキーボードを叩き続けた。

 

 目立ちたくない、平穏に生きたいと願いながらも、彼は自らの自業自得な怠惰のツケを払うため、期末試験の勉強と並行して、死に物狂いの徹夜シミュレーションとプログラミングに没頭せざるを得なかった。

 




もう諦めろ目立つのは確定だ
てか名門の落ちこぼれってだけで目立つのに
深雪に事あるごとに話しかけられてそれで今回の件だろ?
無理だね

お気に入り2000人超えてるやん
ありがとございます
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