一次創作は初めてですが、よくある設定です。
ただのコラボ配信で終わるはずだった。
魔物の素材や宝箱のアイテムを適度に集めて、コラボ相手やリスナーと楽しくおしゃべりして、何事もなく終わる予定だった。
「ごぉっぷ……」
喉を逆流し口から零れる血液が、既にべっとりと赤く染め上げられた学校の制服に被さる。失った両脚の粗い断面から流れる血が、岩肌の地面に浮かぶ大きな赤い池へと注がれ、その面積をほんの僅かに広げる。
熱い重創。冷えていく体の芯。孤独に消えていく命。
考える頭が残っているなら、一秒でも早く延命措置をしなくてはいけない状況で、私の両手は不思議と動かなかった。目を……ある光景に奪われていたからだ。
平和から遠く離れた地下深く。
人類の足跡が刻まれていない魔の巣窟。
真紅の池の中央に
…………きれい……。
そう思った。
普通であれば決してそうは思わなかった。
けれども今は、この無二の景色を、この狂気的な美しさを、この非現実的な事実を、少しでも長く味わっていたかった。
……しかし……。
────ガンッ。ガンッ。ガンッ。
強靭、硬質、重厚……思わずそんな言葉を連想させる甲冑鎧のような足音が一定間隔で聞こえ、それが徐々に大きくなっていく。
ぼんやりとした視界の向こうに見える道から、冷ややかな気配をもつ『影』が、私の方へと近づいてきているのがうっすらと見えた。
「だ……ぇ……」
血で汚れる喉を鳴らし問うたが、返事はなかった。
……時は2時間前に遡る。
◀◁◀◁◀
ポールに付けられた電子時計が示す9時ごろ。
青い空に浮かぶ太陽がさんさんと地上を照らし、建ち並ぶビルの窓ガラスが光を反射してギラギラと輝く。点々と浮かぶ綿雲がセメントやレンガで舗装された広場に影を落とし、風と共にゆらゆらと何処かへ飛んでいく。
道行く者には、急ぎ足で自転車を漕ぐ学生や、行きつけのカフェへとお茶をしばきに行くママさん達、重い足取りで自宅へと帰宅する新卒、などが入り混じる。
──その光景がある一方で、盾や剣、布で包んだ長杖を持っている者も僅かながらに混在している。
それを見た人間の内、半数は偶に起きる日常の1ページ程度に捉え、軽く視線で追うも、後は我存ぜぬといった雰囲気を見せ、自然と離れていく。
もう半数は、忌避感や疎ましさを……といった具合である。
少なくとも、憧憬を抱く者はこの場にはいないようだ。
──人々が歩く大通りから少し離れた端の方。
まだ花を咲かせていないサルスベリを背景に、ベンチの横で体をほぐす体操をしている少女がいた。
白いカッターシャツに、丈の短い黒のプリーツスカート。首元に留められた銅筋の入った赤の紐リボン。派手さがなく、動き易さを重視した黒いスニーカー。膝までを覆うニーハイソックス。全体的に真新しさが残るが、短期間で洗浄を繰り返したのか、生地の一部が微妙に色褪せ始めているように見受けられる。
──女子高校生、誰もがそう思うだろう少女の足腰、そして脇下には、本来制服とは結びつかない何やら見慣れぬ物があった。
ミリタリー好きや刑事ドラマを見る者なら分かるだろうが、それはナイフや銃を収納しておき、窮地においても取り出せるよう体に装着しておく
少女は肩程にまで伸びた淡い桃色の髪をフワフワとなびかせ、状態を確認し終えたナイフを、まずは両足首のホルスターへ1本ずつ、左腿に1本、右腰へ短刀1本を手慣れた様子で収めていく。
次に、スカートに通されたベルトへ、3つのポーチを留めていく。
続けて、拳銃を左脇のショルダーホルスターへと差し込み、右の方には拳銃のマガジンを2本──。法治国家らしからぬ、拳銃に予備の弾薬の所持。威嚇のための
──最後に、近くのベンチに掛けておいた、黒い布地に赤いラインが入ったショート丈のジャケットに袖を通す。襟にある銅の
『ピピッ……起動シマシタ。登録済ミノ別デバイスヲ検知……接続シマシタ。自動追従モードON』
──うん、大丈夫そう。
球状の機械──『ドローン』は機械音声を発するとともに、重力に逆らって手からゆっくりと浮上し、少女の正面へと位置取ってカメラレンズを向ける。数秒、ピント合わせのためのキュインキュインという小気味のいい音を奏で、再び喋り始める。
『配信開始マデ……3……2……1……』
「(すぅ~)──リスナーの皆さん、おはようございます! ナベモカちゃんねるにようこそ!」
<こんにちは!>
<キター!>
<この日を待ってた!!>
機械音声のカウントダウンが終わると共に、少女──ナベモカはドローンに向かって独り、定型文のように言い慣れた挨拶を、ここにはいない者たちへと伝える。そうすると、ナベモカの視界の端でゲームのUIのように半透明の短い文の羅列が次々に表示され、みるみる加速していく。これは彼女のライブ配信を何処かで視聴している者たちが、思ったことを打ち込み連ねられていく感想の流れ──『コメント』と呼ばれるものだ。
「今日は2視点の予定なんですけど、これ私視点も見えてますか?」
近くに別のカメラがあるようには見えない中、ナベモカの桃色の目に張っている
ちなみに、ナベモカの視力は悪くない、むしろ良い方だ。カラーコンタクトレンズというワケでもない。彼女の目は生まれた時から綺麗な桃色だからだ。
──すでにお気づきかと思うが、もう一つのカメラは
<見えてる>
<めっちゃヌルヌル動いてる>
<何ならドローンより綺麗に見える>
よかった、ちゃんと機能しているらしい。
……っていうか、このコンタクトレンズ1組いくらなんだろう? 私がいま使わせてもらってるドローンも信じられないくらい高いらしいんだけどなぁ……。自分のモノではないからこそ、もし壊してしまったらと思うとゾッとする。
<どしたん?>
(あっ、やば)
リスナーを置いてお金の事を考えるのはほどほどに、今回の配信についての概要を簡単に説明する。
「今日は『
<うおー! 気持ち久々>
<どっちも好きだから神!>
<[1300
「あ、ジェム投げありがとうございます! ──イリタケさんは先にダンジョンで待っているそうなので、早速合流していこうと思います!」
ナベモカが歩き出し、ドローンは自動制御によって彼女の背中を静かに追従していく。
▶︎▷▶︎▷▶︎
中部地方最大規模の未踏破ダンジョン。
────通称〈
質の良い金属製の武器に防具、そして他のダンジョンでは滅多に手に入らない、服用することで外傷を
そんなこんなで世間では、『ダンジョン攻略のために必要不可欠なダンジョン』とまで言われている。
しかし、どれだけメリットがあろうとも、『魔物の生産工場』であることに変わりはない。
ダンジョンで生まれる〈魔物〉が人を傷つけ、ダンジョンが生み出すアイテムが、微かな心の拠り所としての立場を確立している現状──。私自身、思うところがない訳では無い。
けれど、利用できるものは何でも利用すべきだ。今の
<[750J] 治癒ポーション使ったことある?>
ふと、色の付いたコメントが目に付いた。
視聴者は定められた上限値内で配信者へ金銭を送ることができる。いわゆる投げ銭というシステムだ。『ジェム投げ』と利用者の間では呼ばれている。
配信を視聴するにあたって必ず送らなければならないというワケではない。ただ、それによってカラフルな見た目になるので必然的に気を引かれる。
それになんとなく、わざわざお金を払ってくれたのだから、それに見合った応対をしたいと思ってしまう。
何の話かって? お金ありがとうございます!
「授業では1……いや、2回だけ。探索では……2回だったような」
<授業で怪我?>
「その時は、『回復魔法と比べてどう傷の治りが違うのか』っていう授業で」
<そういうのはマウスですると思ってた>
「『自分で使う機会が来た時の為、効果を正しく知っておく必要がある』って先生が」
<あー(納得)>
<どう違うん?>
「ポーションはこう……長く続いて、魔法は直ぐに効くって感じでした。〈付加効果〉とかにも寄るとは思いますけど」
<へー>
<そういうの聞けるだけでも楽しい>
<ありがとうございます!>
リスナーの皆から質問が来ることは結構多い。どんな配信でも似たようなものなのかと思っていたが、どうやら私のでは結構多いみたい。
ダンジョン関連の配信者は数が少ないのと、ダンジョン発生以後の存在である〈魔力〉や〈スキル〉、果てはダンジョンそのものについて詳しく知っている人はかなり少ないからだろう。
──でも、調べようと思えば調べられる情報ではある。
単に自分で調べるのが面倒くさいという人もいるだろうが、興味関心を向けてくれるのは正直嬉しい。他人事であっても、理解しようとしてくれるだけで当事者としては救われる一面がある。
「ダンジョン内だとあまり長々と話せないので、訊きたいことがあったら何でもどうぞ! 今の内に!」
<え? 今
<
<何これすごい>
<草>
<( ゚д゚)>
「あー…………今度改めて質問コーナーするね?」
ダンジョンに潜る〈探索者〉たる者、これくらいで動ジテイルワケニハイカナイナー。
▶▷▶▷▶
「わぁぁあ! やっぱりいつ見てもすごい!」
<でっっっか!>
<反応e>
<まじで壮大よな>
〈楼檻〉の外観は、巨大な2本の樹木が“X”のように交差して繋がったようになっている。近代化が進んだ建造物に囲まれながらも、どこか神聖で生命力の溢れる雰囲気を強く纏っている。ここが物語の中なら、『世界樹』と呼んでも
樹冠の下は、いつでも曇りの時と同じくらい薄暗くなるが、日差し避けには絶好の条件ともいえる。肌を撫でる心地良い風が夏でも吹いているので、散歩コースから少し外れたおじいちゃん、おばあちゃんたちが快適そうにしている。
地面には巨木から伸びる『根』が張っており、枝分かれして地面から飛び出た大・中・小の様々なサイズの『根』を、体を預けるための壁や、小休憩のためのベンチとして使っている人がちらほらと目に映る。
向こうの方では、男女のカップルがいい感じの雰囲気になっている。隣同士密着して恋人繋ぎしながら座って、お互いの顔を気恥ずかしそうにチラチラと見ながらも、楽しそうにお喋りしているようだ。
両方、私と同い年くらいかな…………
<ナベモカの視線が丸わかりなん草>
「あっ……」
…………デートスポットとして選ばれるダンジョンなんて、日本中探してもそうそう無い。大抵は素朴な洞窟の入り口感が強くて映えないし、環境が厳しいところは珍しくない。
最近になって見つかった〈
それを聞いてからと言うもの、学校の演習場所に選ばれないことを日々願っています。
──そういえば、ここ最近耳にしたことだが、このダンジョン一帯は地面をアスファルトで整備できないらしい。国は『外見の美しさを損なわないために』と謳っているが、実のところは成長した『根』が固まったアスファルトを次から次へと壊してしまい無駄に施工費用が積み重なってしまうからだそう。
このダンジョンの『巨木』は、成長している──。
道中に設置されている案内看板に書いてある内容へ目を通してみると、
サイズを落とすための試みは何度か為されたようだけど、どれだけ削っても凄まじい再生力で1分も経たずに元の状態に戻ってしまったそうだ。蓄えられている水分量も極めて多く、燃焼も困難とされている。
今のところ、完全な破壊の目処は立っていない。
──看板には他にも、『最古のダンジョン』の内の一つということや、元々この場所にあった『デパート』を
発生時期は夏、お昼過ぎの土曜日。デパートは多くの人で賑わっていたそうだ。加えて、多くの学校が夏休みに入っていたタイミングでもあった。
当時の人たちにとって、とても衝撃的な出来事だったはずだ。私が生まれた時にはダンジョンが元々あったから、それが無い時代を想像するのは少し難しいけれど、だからと言って好感がある訳ではない。
…………いずれはダンジョンを全て無くしたいと考えてる。その目標の為に、私は頑張れてる気がする。
「──あ! あそこにいるのナベモカちゃんじゃない!?」
「ほんとだ! ソロ? ……なわけないか」
「おまえサイン貰いにいけよ」
「いや、いいよ……今忙しそうだし! 生ナベモカ見れただけで満足だわ」
「ああー……! ちょっと人が増えてきたっ! ダッシュしちゃうね! 一応画面酔い注意で!」
<おけ>
<ワクワク>
一応、そこそこ知名度があることを自覚しているので、足止めを食らわないように駆け足で〈楼檻〉の入り口へ──。2本の巨木の間にできた、10メートルほどの高さのある洞へと駆け足で向かい、ダンジョン内部へと続く階段を下っていく。
現在の同接数は4,300人。
──今日の配信も大盛り上がりにしていこう!
キャラクタープロフィール
名前:ナベモカ
誕生日:1/31
年齢:15
身長:166
好き:お肉が入った鍋料理・割引券
嫌い:サブスク
スキル:???
備考:桃髪桃目。サラサラ毛ではなく、ふわふわ毛。お腹がうっすら縦に割れ始めて地味にショックを受けている。B。
感想とか誤字報告とか評価とか、もらえると嬉しいです。
次回更新予定:未定