砂糖二つの特等席   作:y@s

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第44話 アルとじいさんのスティングレイ

 

誕生日デートから数日後、千聖はいつものようにアトリエを訪れていた。

「修司さん」

「なんだ」

千聖は、少し頬を染めながら、もじもじと切り出した。

「あの……また、ドライブ、連れて行ってください」

修司は、手を止めて、千聖の方を見た。

「なに、お前、アルのこと気に入ったのか?」

「アル……?」

「そう、アルピーヌだから、アル」

千聖は、思わずくすっと笑ってしまった。

「アルって……修司さんが名前付けたんですか」

「そっ、可愛いだろ」

そっけない返事だったが、車に愛称をつけているところが、なんだか妙に可愛らしく思えた。

「気に入りました。乗り心地も良かったし」

「そうか」

修司は、少しだけ満足げに頷いた。

「行きたいところ考えとけよ」

「はい」

千聖は、嬉しそうに頷いた。

 

 

数日後の昼、千聖はいつものように、修司のアトリエに弁当を届けに来ていた。

「修司さん、お昼——」

言いかけた瞬間、足元が大きく揺れた。

「っ……!」

「地震か、千聖っ」

修司が、とっさに千聖の頭を庇うように抱き寄せた。棚の上の生地や本が、いくつか床に落ちる音がした。

揺れは、しばらく続いてから収まった。

「……大丈夫か」

「はい、大丈夫です」

千聖は顔を赤くしながら頷きスマートフォンを取り出した。すぐに、複数の通知が届いているのが見えた。

「え……」

画面には、鉄道各線で運転見合わせ、ダイヤ乱れの情報が並んでいた。再開の目処は立っていないという表示もある。

「どうした」

「今日、映画の試写会の舞台挨拶があって……このままだと、間に合わないかもしれません」

千聖の声が、だんだん焦りを帯びていく。そこへ、マネージャーからの着信が入った。

「はい、千聖です……はい、今、代官山に……電車が止まってて……はい、わかりました、なんとかします」

電話を切った千聖の顔は、青ざめていた。

「どうしよう……」

「アルを出してやる。ちょっと待ってろ」

修司は、迷わずスマートフォンを取り出した。

「もしもし、俺だ。今すぐ車が必要なんだ」

電話の向こうで、後輩らしき声が答える。

「え、今っすか? アルピーヌなら今オイル交換中で無理ですよ」

「今出せる車、他にないのか? 今すぐ必要なんだ、なんとかしろ」

「無茶言わないでくださいよ、こっちも予定があるんで……」

修司は、少し眉を寄せて考え込んだ。それから、何かを思いついたように顔を上げた。

「そうだ。この間、じいさんのスティングレイ、預かってたよな」

「ああ、C2ですか?ありますけど、今ちょうど定期点検に入れてる最中で……」

「じいさんには俺から話しておくから、心配するな」

「いや、そういう問題じゃなくてですね……無茶言わないでくださいよ」

「いいから、俺のアトリエまで持ってこい!」

修司は、有無を言わさず電話を切った。

千聖は、そのやり取りを、不安げな顔で見つめていた。

「修司さん、大丈夫なんですか……? 点検中の車を、勝手に借りちゃって」

「問題ない」

修司は、平然と答えたが、千聖の心配は消えなかった。

——興山さんの車って、大丈夫なのかな。

窓の外では、緊急地震速報のアラートが、まだあちこちで鳴り響いていた。

修司は、棚の引き出しからサングラスを取り出すと、千聖に差し出した。

「これ、かけとけ」

「え?」

「とにかく派手な車だからな。やたら目立つ。お前の顔も一緒に晒すことになる」

言われてみて、千聖はようやく気づいた。派手な車で街中を走れば、確実に人目を引く。芸能人がそんな車に乗っていたら、なおさらだった。

「……ありがとうございます」

千聖は、渡されたサングラスを、慣れない手つきでかけた。

 

 

十五分ほどして、アトリエの前に、低いエンジン音が響いた。

窓から覗いた千聖は、思わず息を呑んだ。

キャンディレッドのボディが、夕方の光を受けて艶やかに輝いていた。クロームメッキのホイールが眩しく光り、両サイドから突き出したマフラーが、いかにも旧車らしい重厚な存在感を放っている。

「……すごい」

千聖が呟いた横で、修司はもう玄関に向かっていた。

車から降りてきたのは、作業着姿の青年だった。手には、まだ布巾を持ったままだった。

「先輩、マジ勘弁してくださいよ。点検の途中だったんですから」

「悪い、恩に着る」

「恩に着るじゃないですよ。勝義さんの車ですよ、これ。傷でもついたら俺、先輩と一緒に何言われるか……」

「わかった、わかった今度また上客紹介してやる」

そう言いながら顔を上げた後輩は、修司の後ろに立つ千聖に気づいて、そのまま固まった。

「……え」

「なんだ」

「し、白鷺、千聖……? 本物……?」

後輩は、口を半開きにしたまま、千聖とサングラスを交互に見つめていた。

「あの、大ファンなんです、俺、映画も全部観てて……」

「おっ俺、深澤太一って言います」

「話は後だ。今、急いでる」

修司はそう言いながら、太一が被っていた帽子を、ひょいと取り上げた。

「あ、ちょっと、それ俺の——」

「借りるぞ」

修司は、その帽子を千聖の頭に、無造作に乗せた。

「サングラスだけじゃ、まだ目立つ。これも被っとけ」

「は、はい」

千聖は、少し戸惑いながらも、帽子を目深に被り直した。

太一は、自分の帽子が千聖の頭に乗っているのを見て、感激と困惑の入り混じった表情を浮かべていた。

「……先輩、それ、絶対返してくださいよ。一生の宝物にするんで」

「気持ち悪いこと言うな。ちゃんと洗って返す」

「洗わないでください! そのままでいいです!」

「それより整備、どこまで終わってる」

修司は、後輩の抗議を軽く聞き流しながら、話を進めた。

「オイルとブレーキは済んでます。タイヤの空気圧、まだ見てないんで、飛ばしすぎないでくださいね」

「了解した」

「了解じゃないんだよなぁ……」

後輩は、深いため息をつきながら、それでも渋々、車のキーを修司に手渡した。

修司は、キーを受け取ると同時に、自分のポケットからもう一つ鍵を取り出し、後輩に放った。

「ほら、これ使え」

「……なんですか、これ」

「俺のママチャリの鍵だ。こいつで工場に戻っておけ」

「は?」

後輩は、鍵と修司の顔を、交互に見比べた。

「いや、なんで俺がママチャリで……」

「スティングレイを工場に戻した時、俺の帰りの足がないだろう」

「先輩の足の心配より、俺の足の心配してくださいよ! 電動アシストって言っても、工場まで結構ありますよ!」

「文句を言うな。カゴに、その布巾でも入れて運べばいい」

「そういう問題じゃなくて……」

後輩がなおも抗議していたが、修司はすでに運転席に乗り込んでいた。

「千聖、乗れ」

「は、はい!」

千聖は、慌てて助手席に駆け寄った。ドアを開けると、革張りのシートと、木目調のダッシュボードが目に入る。どこか懐かしい、独特の匂いがした。

「シートベルト、締めたか」

「はい」

修司がエンジンをかけると、低く唸るような、迫力のある音が響いた。今まで乗ったことのある車とは、まるで違う音だった。

「先輩、本当に気をつけてくださいよ! 傷は絶対ダメですからね!」

「心配するな、こいつの扱いはお前よりなれてる」

後輩の声を背に受けながら、コルベットはゆっくりと走り出した。

「……大丈夫でしょうか、あの人」

「大丈夫だ。ああ見えて、口ほど怒ってはいない」

修司は前を見たまま、落ち着いた声で言った。

「それより、時間だ。何時までに、どこに行けばいい」

「あ、はい……六時までに、みなとみらいのホールです」

「早速ドライブデートだな」

「間に合わせるから心配するな」

コルベットは、夕暮れの道を、力強く加速していった。

しばらく無言が続いたあと、千聖はふと口を開いた。

「修司さん、運転、この間と違いますね」

「そんなに違うか?」

「なんか……丁寧、というか。アルの時より、慎重な感じがします」

修司は、前を見たまま、小さく頷いた。

「借り物だからな。しかも、じいさんの車だ」

「そんなに大事な車なんですか」

「昔から乗ってる。俺が免許取った時、最初に運転させてもらったのも、この車だった」

「そうなんですか」

千聖は、あらためて車内を見回した。革張りのシートには、長年使い込まれた独特の風合いがあった。ダッシュボードの木目も、年季の入った深い色をしている。

「じいさん、これ本当に大事にしてて。年に何回か、俺が代わりに走らせて調子を見てる。今日みたいに、非常時に持ち出すのは初めてだ」

「大丈夫でしょうか、私のために、こんな……」

「気にするな。舞台挨拶に遅れる方が、よっぽど問題だ」

修司の声は、いつも通り淡々としていたが、その中に確かな気遣いがあった。千聖は、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。

「……ありがとうございます」

「礼はまだ早い。着いてから言え」

信号で車が止まると、修司はちらりと千聖を見た。

「サングラスと帽子、ちゃんとつけてるか」

「はい、つけてます」

「顔、あまり見えないようにしとけ。窓の外、見るなよ」

「わかりました」

千聖は、言われた通り、なるべく顔を伏せるようにした。それでも、窓の外を流れる横浜の景色が気になって、時々こっそり視線を向けてしまう。

千聖は、ハンドルを握る修司の横顔を、そっと見つめていた。

信号待ちのたびに、慎重に周囲を確認し、車線変更のタイミングも無駄がない。使い慣れないはずの旧車を、危なげなく走らせている姿に、千聖の胸が、また少し高鳴った。

——運転してる修司さん、やっぱりかっこいい。

何度見ても、見飽きることがなかった。むしろ、知れば知るほど、惚れ直してしまう気がする。

「……どうした、じっと見て」

「い、いえ、何でもないです」

千聖は、慌てて視線を逸らした。頬が熱くなっているのが、自分でもわかった。

「そういえば、後輩の方、大丈夫でしょうか。帽子、取り上げちゃいましたけど」

「あいつなら平気だ。あとで菓子折りでも持たせる」

「ファンだって、言ってましたね」

「らしいな。知らなかった」

修司は、少し呆れたような口調で言った。

「なら、その帽子に、サインでもしてやったらどうだ」

「サイン、ですか」

千聖は、少し考えてから頷いた。

「……そうします。あと、映画のグッズも、サイン入りで送ろうかな」

「そうしてやってくれ、アトリエに送ってくれれば、俺から渡しておく」

「はい。お願いします」

千聖は、微笑みながら答えた。修司の、ぶっきらぼうだけれど、後輩思いなところが垣間見えて、また少し、好きな気持ちが増えていく気がした。

みなとみらいのビル群が、目に見えて近づいてきた頃、修司が口を開いた。

「さて、そろそろ会場だな」

「はい」

「かなり派手な会場入りになるな」

「え?」

「何しろ、こいつだしな」

修司は、ハンドルを軽く叩きながら言った。千聖は、ここまでの道のりを思い返して、ようやく合点がいった。

「そういえば、信号待ちのたびに、なんかみんなこの車見てましたね」

「まあな。この車自体、かなり古い上に相当珍しい車だからな。車好きなら、見られただけでかなりラッキーだと思うだろうな」

「そんなに珍しいんですか?」

「特にこいつはL88っていって、超がつくほどの希少車だ」

修司は、少し誇らしげに言葉を続けた。

「こんな綺麗な状態の個体は、世界中探しても、二十台もないだろうな」

「……え」

千聖は、絶句した。今、自分が乗っているシートの下に、そんな価値のあるものが眠っているとは、想像もしていなかった。

「そんな車、地震の日に、突然借りて……本当に、良かったんですか」

「良くはないが、仕方ないだろう」

修司は、あっさりと言い切った。

「じいさんには、ちゃんと話す。今日のことは、俺が全部引き受ける」

その言葉に、千聖は、ただただ頭が下がる思いだった。二十台足らずしかない希少な車を、自分の舞台挨拶のために持ち出させてしまった。緊張と申し訳なさと、そして修司への感謝が、複雑に胸の中で入り混じっていた。

「……本当に、ありがとうございます」

「まだ早い」

車がホールの前に近づくと、その音とシルエットに気づいた通行人たちが、一斉に振り返るのがわかった。カメラを構えるスタッフの姿も見える。

「サングラス、外していいぞ。ここまで来れば、堂々としてろ」

「はい」

千聖は、サングラスとキャップを外しながら、深呼吸をした。窓の外には、すでにスタッフたちが、驚いた顔でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「間に合った、みたいですね」

「言っただろう。間に合わせるって」

修司は、そう言って、車を静かに停めた。

会場前には、レッドカーペットが敷かれ、両脇には報道陣のカメラがずらりと並んでいた。注目の新作ということもあり、地上波の中継車まで停まっている。

招待客たちは、次々と高級車で乗りつけては、フラッシュを浴びながら会場に入っていった。黒塗りのハイヤー、外車のセダン、SUV——どれも、いかにも「業界の車」といった佇まいだった。

出演者たちの車列は、まさに自慢の愛車の見せ合いのようだった。真新しいフェラーリ、艶やかなベンツのクーペ、最新型のレンジローバー——どれも、今年発表されたばかりのような、現行モデルばかりが並んでいる。

そんな車列の最後尾に、キャンディレッドのコルベットが滑り込んだ。

年代物のボディラインと、現行車の洗練されたシルエットが、否応なく対比される形になった。周囲の視線が、一瞬にしてそちらに集まる。

「……なんか、私たちだけ場違いじゃないですか」

千聖は、周囲の車列を見ながら、思わず呟いた。制服姿のまま、学校からそのまま駆けつけた自分の格好を見下ろす。スカートも、ブラウスも、朝からずっと着たままだった。

「気にするな。目立つのは車の方だ」

修司は、いつも通り落ち着いた声で言った。

「それはそれで、目立ちますけど……」

修司は、入場の順番が近づくと、ハンドルを軽く握り直した。その口元に、悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。

「修司さん……?」

「せっかくだ、目立つついでに、目立っておくかおあつらえ向きに最後尾だしな」

「え、ちょっと——」

千聖が止める間もなく、修司はアクセルを軽く踏み込んだ。低いエンジン音が、一段と大きく唸りを上げる。周囲の現行車の静かな走行音とは、明らかに違う、腹に響くような重低音だった。

「ちょ、修司さん! わざとですよね、今の!」

「さあ、どうだろうな」

修司は、悪びれもせずそう言うと、コルベットをゆっくりとレッドカーペットの前へと進めた。エンジン音に気づいた報道陣が、一斉にこちらへカメラを向ける。

「え、あの車……」「クラシックカーだ、珍しい」「今日、他の出演者と車の系統違いすぎない?」

実況アナウンサーらしき声が、中継マイク越しに響いてくるのが聞こえた。

「おや、ここで一台、雰囲気の異なるお車が到着したようです。ボディカラーも、他とは一線を画す派手な一台ですね……エンジン音も、なかなかの迫力です」

千聖は、その声を聞きながら、思わず修司の方を見た。

「……テレビにも映っちゃいますね、これ」

「そのようだな」

修司は、特に動じる様子もなく答えた。むしろ、少し満足げにも見えた。

「制服のままでいいのか。誰かに気づかれるかもしれないぞ」

「今更、隠しようがない気がします……」

「わざと目立たせておいて、よく言う」

「修司さんが、面白がってやったんじゃないですか!」

千聖が、少し恨めしそうに睨むと、修司は珍しく、はっきりと口角を上げた。

「面白かったからな」

千聖は、覚悟を決めたように小さく息を吐いた。ドアが開かれ、フラッシュの光が、一斉にこちらへ向けられる。

 

 

中継ブースでは、実況アナウンサーの隣に座るコメンテーターたちも、思わず身を乗り出していた。

「いや、これは……本当に珍しい車が来ましたね。C2型のコルベットでしょうか」

「詳しいですね、さすが」

「趣味なもので。しかし、一体どなたが乗って——」

そこで、助手席から降りてきた人物を見て、コメンテーターの声が止まった。

「……あれ、制服?」

「学生さんですか? こんな車で来場されるなんて、なかなかの——」

そう言いかけたところで、スタジオにいた別の出演者が、画面を覗き込んで声を上げた。

「あ、あの子、白鷺千聖さんじゃないですか!?」

「え?」

「今日、舞台挨拶される……間違いないですよ、制服のまま来られたんですね」

中継スタジオが、にわかにざわめき始めた。

「制服姿で、あんな車に乗って登場とは……なかなかインパクトのある入場ですね」

「学校帰りに、そのまま駆けつけたということでしょうか」

コメンテーターたちが、興味津々に画面を見つめる中、実況アナウンサーが、あらためてマイクに向かって声を張った。

「白鷺千聖さん、本日はどうやら制服姿でのご登場のようです! 一体どんな事情があったのか、気になるところですね」

 

 

一方、会場内で待機していた他の出演者たちの間にも、ちょっとした動揺が広がっていた。

「ちょっと、外、見た?」

主演女優が、モニター越しに中継映像を見ながら、隣にいた共演者に耳打ちした。

「見ました……なんか、すごい車ですね」

「あれ、絶対やばいやつだよ。うちの兄貴が車好きなんだけど、ああいう年代物のアメ車って、下手したら私たちの乗ってきた車より、桁が違うって昔言ってた」

「マジですか……」

先ほど質疑応答で興奮していた、アメ車好きの男性共演者は、モニターの映像に釘付けになっていた。

「あれ、絶対L88だ……こんな近くで見られるなんて……」

「あんたはさっきからそれしか言ってないでしょ」

主演女優が、呆れたように肩をすくめた。それでも、その表情には、少なからず驚きの色が浮かんでいた。

「千聖ちゃん、意外なところに、意外な知り合いがいるんだね」

その呟きに、周りの共演者たちも、静かに頷いていた。

 

 

中継が流れると同時に、SNS上のタイムラインは、一気に加速していった。

『え、待って、千聖ちゃん制服で来場した!?』

『あの車なに!?現行車ばっかの中で1台だけ明らかに年代違うんだけど』

『実況の人もコルベットって言ってる、詳しい人教えて』

『白鷺千聖、学校からそのまま来た説濃厚で草』

『制服姿でレッドカーペット歩くの、逆に新鮮で良い』

ハッシュタグ『#千聖ちゃん制服会場入り』が、瞬く間にトレンド上位へと駆け上がっていった。

『あの車、詳しい人によるとC2のコルベットらしい。しかもエンジン音、めちゃくちゃ吹かしてた』

『運転してた人、絶対わざとだよね、あの音』

『他の出演者の車、フェラーリとかベンツとか並んでる中で、あの一台だけ完全に浮いてて草』

『逆に一番目立ってたの草生える』

コメント欄には、車好きらしきアカウントによる考察も次々と投稿されていた。

『L88エンジン搭載モデルだとしたら、正直軽く見積もっても——』

『こんな綺麗な個体、現存してたのか』

『千聖ちゃんの知り合い、何者なんだ』

投稿は、あっという間に数万件のいいねを集めていた。中には、中継映像を切り抜いた動画に、コルベットのエンジン音を強調したものまで出回り始めている。

千聖のスマートフォンにも、控室に入るなり、大量の通知が届いていた。

「……また、こんなことに」

画面を見つめながら、千聖は小さくため息をついた。それでも、コメント欄に並ぶ好意的な反応の数々に、どこかくすぐったいような気持ちも感じていた。

——修司さん、今頃、外でどんな顔してるんだろう。

制服姿での登場も、コルベットの派手な入場も、すべて含めて、今日はまた、忘れられない一日になりそうだった。

 

 

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