誕生日デートから数日後、千聖はいつものようにアトリエを訪れていた。
「修司さん」
「なんだ」
千聖は、少し頬を染めながら、もじもじと切り出した。
「あの……また、ドライブ、連れて行ってください」
修司は、手を止めて、千聖の方を見た。
「なに、お前、アルのこと気に入ったのか?」
「アル……?」
「そう、アルピーヌだから、アル」
千聖は、思わずくすっと笑ってしまった。
「アルって……修司さんが名前付けたんですか」
「そっ、可愛いだろ」
そっけない返事だったが、車に愛称をつけているところが、なんだか妙に可愛らしく思えた。
「気に入りました。乗り心地も良かったし」
「そうか」
修司は、少しだけ満足げに頷いた。
「行きたいところ考えとけよ」
「はい」
千聖は、嬉しそうに頷いた。
*
数日後の昼、千聖はいつものように、修司のアトリエに弁当を届けに来ていた。
「修司さん、お昼——」
言いかけた瞬間、足元が大きく揺れた。
「っ……!」
「地震か、千聖っ」
修司が、とっさに千聖の頭を庇うように抱き寄せた。棚の上の生地や本が、いくつか床に落ちる音がした。
揺れは、しばらく続いてから収まった。
「……大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
千聖は顔を赤くしながら頷きスマートフォンを取り出した。すぐに、複数の通知が届いているのが見えた。
「え……」
画面には、鉄道各線で運転見合わせ、ダイヤ乱れの情報が並んでいた。再開の目処は立っていないという表示もある。
「どうした」
「今日、映画の試写会の舞台挨拶があって……このままだと、間に合わないかもしれません」
千聖の声が、だんだん焦りを帯びていく。そこへ、マネージャーからの着信が入った。
「はい、千聖です……はい、今、代官山に……電車が止まってて……はい、わかりました、なんとかします」
電話を切った千聖の顔は、青ざめていた。
「どうしよう……」
「アルを出してやる。ちょっと待ってろ」
修司は、迷わずスマートフォンを取り出した。
「もしもし、俺だ。今すぐ車が必要なんだ」
電話の向こうで、後輩らしき声が答える。
「え、今っすか? アルピーヌなら今オイル交換中で無理ですよ」
「今出せる車、他にないのか? 今すぐ必要なんだ、なんとかしろ」
「無茶言わないでくださいよ、こっちも予定があるんで……」
修司は、少し眉を寄せて考え込んだ。それから、何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ。この間、じいさんのスティングレイ、預かってたよな」
「ああ、C2ですか?ありますけど、今ちょうど定期点検に入れてる最中で……」
「じいさんには俺から話しておくから、心配するな」
「いや、そういう問題じゃなくてですね……無茶言わないでくださいよ」
「いいから、俺のアトリエまで持ってこい!」
修司は、有無を言わさず電話を切った。
千聖は、そのやり取りを、不安げな顔で見つめていた。
「修司さん、大丈夫なんですか……? 点検中の車を、勝手に借りちゃって」
「問題ない」
修司は、平然と答えたが、千聖の心配は消えなかった。
——興山さんの車って、大丈夫なのかな。
窓の外では、緊急地震速報のアラートが、まだあちこちで鳴り響いていた。
修司は、棚の引き出しからサングラスを取り出すと、千聖に差し出した。
「これ、かけとけ」
「え?」
「とにかく派手な車だからな。やたら目立つ。お前の顔も一緒に晒すことになる」
言われてみて、千聖はようやく気づいた。派手な車で街中を走れば、確実に人目を引く。芸能人がそんな車に乗っていたら、なおさらだった。
「……ありがとうございます」
千聖は、渡されたサングラスを、慣れない手つきでかけた。
*
十五分ほどして、アトリエの前に、低いエンジン音が響いた。
窓から覗いた千聖は、思わず息を呑んだ。
キャンディレッドのボディが、夕方の光を受けて艶やかに輝いていた。クロームメッキのホイールが眩しく光り、両サイドから突き出したマフラーが、いかにも旧車らしい重厚な存在感を放っている。
「……すごい」
千聖が呟いた横で、修司はもう玄関に向かっていた。
車から降りてきたのは、作業着姿の青年だった。手には、まだ布巾を持ったままだった。
「先輩、マジ勘弁してくださいよ。点検の途中だったんですから」
「悪い、恩に着る」
「恩に着るじゃないですよ。勝義さんの車ですよ、これ。傷でもついたら俺、先輩と一緒に何言われるか……」
「わかった、わかった今度また上客紹介してやる」
そう言いながら顔を上げた後輩は、修司の後ろに立つ千聖に気づいて、そのまま固まった。
「……え」
「なんだ」
「し、白鷺、千聖……? 本物……?」
後輩は、口を半開きにしたまま、千聖とサングラスを交互に見つめていた。
「あの、大ファンなんです、俺、映画も全部観てて……」
「おっ俺、深澤太一って言います」
「話は後だ。今、急いでる」
修司はそう言いながら、太一が被っていた帽子を、ひょいと取り上げた。
「あ、ちょっと、それ俺の——」
「借りるぞ」
修司は、その帽子を千聖の頭に、無造作に乗せた。
「サングラスだけじゃ、まだ目立つ。これも被っとけ」
「は、はい」
千聖は、少し戸惑いながらも、帽子を目深に被り直した。
太一は、自分の帽子が千聖の頭に乗っているのを見て、感激と困惑の入り混じった表情を浮かべていた。
「……先輩、それ、絶対返してくださいよ。一生の宝物にするんで」
「気持ち悪いこと言うな。ちゃんと洗って返す」
「洗わないでください! そのままでいいです!」
「それより整備、どこまで終わってる」
修司は、後輩の抗議を軽く聞き流しながら、話を進めた。
「オイルとブレーキは済んでます。タイヤの空気圧、まだ見てないんで、飛ばしすぎないでくださいね」
「了解した」
「了解じゃないんだよなぁ……」
後輩は、深いため息をつきながら、それでも渋々、車のキーを修司に手渡した。
修司は、キーを受け取ると同時に、自分のポケットからもう一つ鍵を取り出し、後輩に放った。
「ほら、これ使え」
「……なんですか、これ」
「俺のママチャリの鍵だ。こいつで工場に戻っておけ」
「は?」
後輩は、鍵と修司の顔を、交互に見比べた。
「いや、なんで俺がママチャリで……」
「スティングレイを工場に戻した時、俺の帰りの足がないだろう」
「先輩の足の心配より、俺の足の心配してくださいよ! 電動アシストって言っても、工場まで結構ありますよ!」
「文句を言うな。カゴに、その布巾でも入れて運べばいい」
「そういう問題じゃなくて……」
後輩がなおも抗議していたが、修司はすでに運転席に乗り込んでいた。
「千聖、乗れ」
「は、はい!」
千聖は、慌てて助手席に駆け寄った。ドアを開けると、革張りのシートと、木目調のダッシュボードが目に入る。どこか懐かしい、独特の匂いがした。
「シートベルト、締めたか」
「はい」
修司がエンジンをかけると、低く唸るような、迫力のある音が響いた。今まで乗ったことのある車とは、まるで違う音だった。
「先輩、本当に気をつけてくださいよ! 傷は絶対ダメですからね!」
「心配するな、こいつの扱いはお前よりなれてる」
後輩の声を背に受けながら、コルベットはゆっくりと走り出した。
「……大丈夫でしょうか、あの人」
「大丈夫だ。ああ見えて、口ほど怒ってはいない」
修司は前を見たまま、落ち着いた声で言った。
「それより、時間だ。何時までに、どこに行けばいい」
「あ、はい……六時までに、みなとみらいのホールです」
「早速ドライブデートだな」
「間に合わせるから心配するな」
コルベットは、夕暮れの道を、力強く加速していった。
しばらく無言が続いたあと、千聖はふと口を開いた。
「修司さん、運転、この間と違いますね」
「そんなに違うか?」
「なんか……丁寧、というか。アルの時より、慎重な感じがします」
修司は、前を見たまま、小さく頷いた。
「借り物だからな。しかも、じいさんの車だ」
「そんなに大事な車なんですか」
「昔から乗ってる。俺が免許取った時、最初に運転させてもらったのも、この車だった」
「そうなんですか」
千聖は、あらためて車内を見回した。革張りのシートには、長年使い込まれた独特の風合いがあった。ダッシュボードの木目も、年季の入った深い色をしている。
「じいさん、これ本当に大事にしてて。年に何回か、俺が代わりに走らせて調子を見てる。今日みたいに、非常時に持ち出すのは初めてだ」
「大丈夫でしょうか、私のために、こんな……」
「気にするな。舞台挨拶に遅れる方が、よっぽど問題だ」
修司の声は、いつも通り淡々としていたが、その中に確かな気遣いがあった。千聖は、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
「……ありがとうございます」
「礼はまだ早い。着いてから言え」
信号で車が止まると、修司はちらりと千聖を見た。
「サングラスと帽子、ちゃんとつけてるか」
「はい、つけてます」
「顔、あまり見えないようにしとけ。窓の外、見るなよ」
「わかりました」
千聖は、言われた通り、なるべく顔を伏せるようにした。それでも、窓の外を流れる横浜の景色が気になって、時々こっそり視線を向けてしまう。
千聖は、ハンドルを握る修司の横顔を、そっと見つめていた。
信号待ちのたびに、慎重に周囲を確認し、車線変更のタイミングも無駄がない。使い慣れないはずの旧車を、危なげなく走らせている姿に、千聖の胸が、また少し高鳴った。
——運転してる修司さん、やっぱりかっこいい。
何度見ても、見飽きることがなかった。むしろ、知れば知るほど、惚れ直してしまう気がする。
「……どうした、じっと見て」
「い、いえ、何でもないです」
千聖は、慌てて視線を逸らした。頬が熱くなっているのが、自分でもわかった。
「そういえば、後輩の方、大丈夫でしょうか。帽子、取り上げちゃいましたけど」
「あいつなら平気だ。あとで菓子折りでも持たせる」
「ファンだって、言ってましたね」
「らしいな。知らなかった」
修司は、少し呆れたような口調で言った。
「なら、その帽子に、サインでもしてやったらどうだ」
「サイン、ですか」
千聖は、少し考えてから頷いた。
「……そうします。あと、映画のグッズも、サイン入りで送ろうかな」
「そうしてやってくれ、アトリエに送ってくれれば、俺から渡しておく」
「はい。お願いします」
千聖は、微笑みながら答えた。修司の、ぶっきらぼうだけれど、後輩思いなところが垣間見えて、また少し、好きな気持ちが増えていく気がした。
みなとみらいのビル群が、目に見えて近づいてきた頃、修司が口を開いた。
「さて、そろそろ会場だな」
「はい」
「かなり派手な会場入りになるな」
「え?」
「何しろ、こいつだしな」
修司は、ハンドルを軽く叩きながら言った。千聖は、ここまでの道のりを思い返して、ようやく合点がいった。
「そういえば、信号待ちのたびに、なんかみんなこの車見てましたね」
「まあな。この車自体、かなり古い上に相当珍しい車だからな。車好きなら、見られただけでかなりラッキーだと思うだろうな」
「そんなに珍しいんですか?」
「特にこいつはL88っていって、超がつくほどの希少車だ」
修司は、少し誇らしげに言葉を続けた。
「こんな綺麗な状態の個体は、世界中探しても、二十台もないだろうな」
「……え」
千聖は、絶句した。今、自分が乗っているシートの下に、そんな価値のあるものが眠っているとは、想像もしていなかった。
「そんな車、地震の日に、突然借りて……本当に、良かったんですか」
「良くはないが、仕方ないだろう」
修司は、あっさりと言い切った。
「じいさんには、ちゃんと話す。今日のことは、俺が全部引き受ける」
その言葉に、千聖は、ただただ頭が下がる思いだった。二十台足らずしかない希少な車を、自分の舞台挨拶のために持ち出させてしまった。緊張と申し訳なさと、そして修司への感謝が、複雑に胸の中で入り混じっていた。
「……本当に、ありがとうございます」
「まだ早い」
車がホールの前に近づくと、その音とシルエットに気づいた通行人たちが、一斉に振り返るのがわかった。カメラを構えるスタッフの姿も見える。
「サングラス、外していいぞ。ここまで来れば、堂々としてろ」
「はい」
千聖は、サングラスとキャップを外しながら、深呼吸をした。窓の外には、すでにスタッフたちが、驚いた顔でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「間に合った、みたいですね」
「言っただろう。間に合わせるって」
修司は、そう言って、車を静かに停めた。
会場前には、レッドカーペットが敷かれ、両脇には報道陣のカメラがずらりと並んでいた。注目の新作ということもあり、地上波の中継車まで停まっている。
招待客たちは、次々と高級車で乗りつけては、フラッシュを浴びながら会場に入っていった。黒塗りのハイヤー、外車のセダン、SUV——どれも、いかにも「業界の車」といった佇まいだった。
出演者たちの車列は、まさに自慢の愛車の見せ合いのようだった。真新しいフェラーリ、艶やかなベンツのクーペ、最新型のレンジローバー——どれも、今年発表されたばかりのような、現行モデルばかりが並んでいる。
そんな車列の最後尾に、キャンディレッドのコルベットが滑り込んだ。
年代物のボディラインと、現行車の洗練されたシルエットが、否応なく対比される形になった。周囲の視線が、一瞬にしてそちらに集まる。
「……なんか、私たちだけ場違いじゃないですか」
千聖は、周囲の車列を見ながら、思わず呟いた。制服姿のまま、学校からそのまま駆けつけた自分の格好を見下ろす。スカートも、ブラウスも、朝からずっと着たままだった。
「気にするな。目立つのは車の方だ」
修司は、いつも通り落ち着いた声で言った。
「それはそれで、目立ちますけど……」
修司は、入場の順番が近づくと、ハンドルを軽く握り直した。その口元に、悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
「修司さん……?」
「せっかくだ、目立つついでに、目立っておくかおあつらえ向きに最後尾だしな」
「え、ちょっと——」
千聖が止める間もなく、修司はアクセルを軽く踏み込んだ。低いエンジン音が、一段と大きく唸りを上げる。周囲の現行車の静かな走行音とは、明らかに違う、腹に響くような重低音だった。
「ちょ、修司さん! わざとですよね、今の!」
「さあ、どうだろうな」
修司は、悪びれもせずそう言うと、コルベットをゆっくりとレッドカーペットの前へと進めた。エンジン音に気づいた報道陣が、一斉にこちらへカメラを向ける。
「え、あの車……」「クラシックカーだ、珍しい」「今日、他の出演者と車の系統違いすぎない?」
実況アナウンサーらしき声が、中継マイク越しに響いてくるのが聞こえた。
「おや、ここで一台、雰囲気の異なるお車が到着したようです。ボディカラーも、他とは一線を画す派手な一台ですね……エンジン音も、なかなかの迫力です」
千聖は、その声を聞きながら、思わず修司の方を見た。
「……テレビにも映っちゃいますね、これ」
「そのようだな」
修司は、特に動じる様子もなく答えた。むしろ、少し満足げにも見えた。
「制服のままでいいのか。誰かに気づかれるかもしれないぞ」
「今更、隠しようがない気がします……」
「わざと目立たせておいて、よく言う」
「修司さんが、面白がってやったんじゃないですか!」
千聖が、少し恨めしそうに睨むと、修司は珍しく、はっきりと口角を上げた。
「面白かったからな」
千聖は、覚悟を決めたように小さく息を吐いた。ドアが開かれ、フラッシュの光が、一斉にこちらへ向けられる。
*
中継ブースでは、実況アナウンサーの隣に座るコメンテーターたちも、思わず身を乗り出していた。
「いや、これは……本当に珍しい車が来ましたね。C2型のコルベットでしょうか」
「詳しいですね、さすが」
「趣味なもので。しかし、一体どなたが乗って——」
そこで、助手席から降りてきた人物を見て、コメンテーターの声が止まった。
「……あれ、制服?」
「学生さんですか? こんな車で来場されるなんて、なかなかの——」
そう言いかけたところで、スタジオにいた別の出演者が、画面を覗き込んで声を上げた。
「あ、あの子、白鷺千聖さんじゃないですか!?」
「え?」
「今日、舞台挨拶される……間違いないですよ、制服のまま来られたんですね」
中継スタジオが、にわかにざわめき始めた。
「制服姿で、あんな車に乗って登場とは……なかなかインパクトのある入場ですね」
「学校帰りに、そのまま駆けつけたということでしょうか」
コメンテーターたちが、興味津々に画面を見つめる中、実況アナウンサーが、あらためてマイクに向かって声を張った。
「白鷺千聖さん、本日はどうやら制服姿でのご登場のようです! 一体どんな事情があったのか、気になるところですね」
*
一方、会場内で待機していた他の出演者たちの間にも、ちょっとした動揺が広がっていた。
「ちょっと、外、見た?」
主演女優が、モニター越しに中継映像を見ながら、隣にいた共演者に耳打ちした。
「見ました……なんか、すごい車ですね」
「あれ、絶対やばいやつだよ。うちの兄貴が車好きなんだけど、ああいう年代物のアメ車って、下手したら私たちの乗ってきた車より、桁が違うって昔言ってた」
「マジですか……」
先ほど質疑応答で興奮していた、アメ車好きの男性共演者は、モニターの映像に釘付けになっていた。
「あれ、絶対L88だ……こんな近くで見られるなんて……」
「あんたはさっきからそれしか言ってないでしょ」
主演女優が、呆れたように肩をすくめた。それでも、その表情には、少なからず驚きの色が浮かんでいた。
「千聖ちゃん、意外なところに、意外な知り合いがいるんだね」
その呟きに、周りの共演者たちも、静かに頷いていた。
*
中継が流れると同時に、SNS上のタイムラインは、一気に加速していった。
『え、待って、千聖ちゃん制服で来場した!?』
『あの車なに!?現行車ばっかの中で1台だけ明らかに年代違うんだけど』
『実況の人もコルベットって言ってる、詳しい人教えて』
『白鷺千聖、学校からそのまま来た説濃厚で草』
『制服姿でレッドカーペット歩くの、逆に新鮮で良い』
ハッシュタグ『#千聖ちゃん制服会場入り』が、瞬く間にトレンド上位へと駆け上がっていった。
『あの車、詳しい人によるとC2のコルベットらしい。しかもエンジン音、めちゃくちゃ吹かしてた』
『運転してた人、絶対わざとだよね、あの音』
『他の出演者の車、フェラーリとかベンツとか並んでる中で、あの一台だけ完全に浮いてて草』
『逆に一番目立ってたの草生える』
コメント欄には、車好きらしきアカウントによる考察も次々と投稿されていた。
『L88エンジン搭載モデルだとしたら、正直軽く見積もっても——』
『こんな綺麗な個体、現存してたのか』
『千聖ちゃんの知り合い、何者なんだ』
投稿は、あっという間に数万件のいいねを集めていた。中には、中継映像を切り抜いた動画に、コルベットのエンジン音を強調したものまで出回り始めている。
千聖のスマートフォンにも、控室に入るなり、大量の通知が届いていた。
「……また、こんなことに」
画面を見つめながら、千聖は小さくため息をついた。それでも、コメント欄に並ぶ好意的な反応の数々に、どこかくすぐったいような気持ちも感じていた。
——修司さん、今頃、外でどんな顔してるんだろう。
制服姿での登場も、コルベットの派手な入場も、すべて含めて、今日はまた、忘れられない一日になりそうだった。