クロエダ探偵事務所   作:向花いかく

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第4話「Rogue」

 

 

 仰ぎ見たシグマは退屈そうに目を半眼にしていた。

 その視線の先には、電球とネオンに彩られた「GARITY」の文字がある。

 

 シグマは僅かに吐息を漏らした後、両手をジャケットのポケットに突っ込むと、肩を揺らしながらギャリティへ足を踏み入れた。

 

 

 

 入口で所持品検査をしていたのは、犬のデミヒューマン。

 

 デミヒューマンは、()の大戦中に人類が自己進化を加速させる手段として、人工的に生み出したホモサピエンスの近縁種である。

 人間と他の生物の遺伝子を組み合わせ、高い身体能力や五感を受け継ぐ事に成功しており、組み合わせた生物ごとに「○○のデミヒューマン」と区別して呼ばれる事が多い。

 

 犬のデミヒューマンは嗅覚が鋭いため、警察犬や麻薬探知犬のような役割の職に就くことも少なくない。

 ギャリティでは著名人や勢力家が訪れることも珍しくない為、危険物の持ち込みや不審者の侵入を防止するために雇用されている。

 

 

 

 検査を済ませ、店内へと入ったシグマはルイから渡された金をトークンへ変換する。

 薄くはない札束だったが、換えてみると全部で3クレジット。

 

 1クレジットずつ賭けたとしても、3ゲーム以内に勝たなければ店に居る口実が無くなってしまう。

 

 

「足り無ェ」

 

 

 そう呟いたシグマは、トークンを指で弾きながら店内を見渡す。

 

 ギャリティ程の有名店、厳正に運営状況は監査されている。

 不正をしようとすればすぐに見破られ、店側のイカサマも当然存在しない。

 一見、ここにある全てのゲーム結果は、運に左右されるように思える。

 

 シグマの目に入ってきたのはスロット、ポーカー、バカラ、ブラックジャック……

 

 

「――あれだな」

 

 

 そして、ルーレットのテーブルだった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ホイールの上をボールが転がる。

 その様子を観察していたシグマは、レイアウトの5と17、そして32にトークンを1枚ずつ置いた。

 

 

「ノーモアベット」

 

 

 ディーラーによって賭け時間は締め切られ、ボールの勢いは衰えていく。

 やがて、ボールは17のポケットへと吸い込まれた。

 

 ストレートアップで36クレジット分のトークンがシグマへと渡され、シグマの手持ちは79クレジットになっていた。

 

 

「こんなところか」

 

 

 そう言ってテーブルを離れようとするシグマに、一人の男が声を掛けてきた。

 

 

「ちょっと君、僕と話さない?」

 

「あ?」

 

 

 シグマが威圧しながら振り向くと、そこには派手なアロハシャツを着た茶色髪の男が立っていた。

 シャツの胸元は大きく開いており、指ごとに色の違う宝石の嵌った指輪を付け、腕にはギラギラとした金時計を巻いた、成金趣味という言葉がぴったりの男だった。

 

 

「さっきのルーレット、どうやったのかな?」

 

 

 何よりもシグマの目を引いたのは、男がかけていたサングラスだった。

 室内でサングラスを掛けている奴はあの女(ルイ)と同様に面倒臭いに違いないとシグマは思っているのである。

 

 

「最初は手堅くアウトサイドに賭けてたのに、途中からいきなり数字を狙い撃ちして、見事に大勝ちしてたよね?」

 

 

 こんな奴と関わるのは御免だと、シグマは無視して立ち去ろうとしたが、ここへ来た目的を思い出して立ち止まる。

 

 

「お、話してくれる気になった?」

 

「黙れ。お前、ここに詳しいか?」

 

 

 シグマは他人の顔に興味はないが、常識的な美醜は認識出来ている。

 

 目の前の男はサングラスで隠してはいるが、顔立ちは整っている。

 一発狙いのギャンブラーではなく有名な俳優か何かかもしれない。

 元々真面目に調査などする気もなかったが、この男がギャリティの常連であるのなら、話くらいは聞いておこうかとシグマは考えた。

 

 

「ここ? アハハ、そうだねぇ……まあ、それなりかな」

 

 

 男は苦笑いをしながら答える。サングラスで隠れたその目は、どこか遠くを見ているようだった。

 常連ならば、ザックが来店した日の事についても知っているかもしれない。

 

 

 

 しかし、シグマは人の名前を覚えるのが苦手――というよりも、(もと)より覚える気が無かった。

 

 

「この店に何日か前に来た……ナントカとかいう奴が死んだらしいんだが、なにか見たか?」

 

「え? いつ? 誰?」

 

 

 シグマの抽象的過ぎる質問に対し、男は戸惑いながら聞き返す。

 しかしもとより依頼に興味は無いシグマに、詳細な情報は期待できない。

 

 

「知らん。覚えてない」

 

「えぇ……」

 

 

 雲を掴むような話に、答えようのない男は呆れた反応を示した。

 

 

「もういい、ここ最近の変わった出来事を教えろ」

 

「いいけど……僕の質問にも答えてくれないかな?」

 

 

 一方的に命令してくるシグマに、男はそう提案してきた。

 

 

「なぜ俺様がお前の質問に答えなきゃならない」

 

「僕だけ答えるなんて不公平じゃあないか。後、僕は"お前"じゃないよ」

 

 

 そう言って男はサングラスを親指で押し上げ、その顔を見せた。

 

 

「これで分かるだろう?」

 

 

 男は慣れを感じる作り笑顔を見せたが、当然シグマに心辺りは無い。

 

 

「分からん。何がしたい?」

 

「……」

 

 

 シグマの言葉を聞いた男は笑みを浮かべたままサングラスを元に戻すと、コホンと咳払いをした。

 

 

「――驚いた、本当に知らないのか。じゃあ、そうだな……僕はスティーブンだ」

 

 

 そう言ってスティーブンと名乗った男は右手を前に差し出すが、シグマは無表情のまま黙ってその手を見ているだけだった。

 

 

「……名前くらいは教えてくれないかい?」

 

 

 握手を待機していたスティーブンは伸ばしていた手を所在なさげに下げると、笑みを浮かべてシグマを見た。

 困り眉も併せてではあったが、その表情は先程よりも自然だった。

 

 

「…………Σ(シグマ)だ」

 

 

 渋々といった様子のシグマの返答を聞き、満足そうにスティーブンは頷いた。

 

 

「よろしくシグマ」

 

 

 改めて挨拶をした後、スティーブンはパンと手を叩くと「話を戻そうか」と続ける。

 

 

「僕の質問に答えてくれたら、シグマの質問にも答えてあげよう」

 

「……お前の質問とはなんだ」

 

 

 スティーブンの提案に乗ることにしたシグマだが、名前を聞いてもなお"お前"以外の二人称を使う気は無い様子である。

 

 

「最初から言っているけど、さっきのルーレットの事だよ。どうやったんだい?」

 

「勘」

 

 

 シグマは手早く話を終わらせようとするが、スティーブンはその嘘に気付く。

 

 

「いいや違うね。明らかに徐々に精度が上がっていた」

 

 

 振り切れないと悟ったシグマは、溜息を吐いてから語り始めた。

 

 

「はぁ……簡単な話だ。あの台の癖を把握した」

 

「台の癖、だって?」

 

 

 予想していたよりも古典的な答えに思わず聞き返すスティーブン。

 

 

「円盤の摩耗具合だ。表面の傷や凹みによって完全なランダムではなくなっている。よく観察すれば、締め切りの直前でならどのあたりに落ちるか大体の予想がつく」

 

 

 シグマは当然のように話すが、それを聞いたスティーブンは渋い顔をしていた。

 

 

「確かに摩耗具合が結果に与える影響はゼロじゃない。だけど、この店(ギャリティ)のホイールの精度はかなり高い。その影響はかなり小さい上に、君が観察をしていたのは高々数回だ」

 

 

 スティーブンは指摘する。

 シグマが言った予測を行うためには、同じホイールを長時間かけて徹底的に観察し、数多の試行を計測する必要がある。

 当然シグマがギャリティを訪れたのは今回が初めてであり、様子見をしていたラウンドも10回未満であった。

 

 

「俺様はお前等下等生物と違って、目も頭も良いんだ」

 

「……」

 

 

「自分の尋ねたい人物の名前もよく覚えていないのに?」とスティーブンは思ったが、実際に結果を残している以上、シグマのシンプルな回答に異を唱える事は出来なかった。

 

 

「まあ参考にはならなそうだけど……一応納得したよ」

 

「じゃあお前の知っていることを教えろ」

 

 

 シグマが急かすようにそう言う。

 それを見ていたスティーブンは、シグマの方を見つめながら首を捻った。

 

 

「何だ」

 

 

「言いたいことがあるなら言え」といった様子で、スティーブンを睨みつけるシグマ。

 

 

「……シグマは何かを知りたがってる。だけど、その何かに対して君は全く興味を持っていない」

 

 

 スティーブンは話しながら顎に手を当て、シグマの顔を覗き込む。

 

 

「だとすれば、誰かに頼まれた? でも、シグマって他人(ヒト)の言う事素直に聞くタイプには見えないんだよねぇ」

 

「お前が質問する番は終わった筈だ」

 

 

 詮索するようなスティーブンの言葉に対し、シグマは発言を許したことを後悔しながらそう吐き捨てた。

 やはりこの男(スティーブン)あの女(ルイ)と同じ面倒なタイプであると再認識したのだ。

 

 

「……それもそうだね」

 

 

 しかしシグマの予想に反し、スティーブンはあっさりと引き下がった。続けざまに、シグマの質問に答え始める。

 

 

「最近変わった事、だったよね? 実は、僕の会社で新しい分野を開拓することにしたんだ。エネルギー業界に参入しようと思ってて……」

 

「誰がお前の近況を話せと言った。この店の事だ」

 

 

 スティーブンの話に割り込み、問いただすシグマ。

 顔の割に芸能人ではなく、どうやらスティーブンはどこぞの企業の社長らしいという事が判明したが、シグマにとっては心底どうでもいい情報だった。

 スティーブンは一瞬キョトンとした表情になったが、直ぐに合点がいった様子で話を再開する。

 

 

「すまないすまない。ええと、この店について…………あぁ、そうだ!」

 

 

 そう言いながらスティーブンは掌に拳を打ち付けた。

 

 

「何だ?」

 

 

 シグマは身を乗り出して聞き返す。

 せっかく目の前のこの面倒臭い男とここまで話したのだから、せめて何かしらの情報は得ておきたいと思っていた。

 

 

「新しい台が入荷したんだよ! スロットの!」

 

 

 スティーブンの言葉を聞いたシグマは、無言のまま踵を返してその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「おい、そこの下等生物」

 

「なんだ君は。私を誰だと思ってる?」

 

 

 中年の男は不快そうにそう告げると、そのまま去ってしまった。

 

 

「そこのお前、ここに詳しいか?」

 

「いきなり何? ナンパならお断りよ」

 

 

 妙齢の女に早々に会話を切り上げられる。

 

 

 

 

 

「……クソッ。こうなったら意地でも何か持って帰ってやる」

 

 

 シグマは店内を歩き回りながら吐き捨てる。

 無駄な時間を使わされたスティーブンに対する憤りにより、向きになったシグマは一周回って本来の役割を遂行しようとしていた。

 しかし、それから店の客に幾度か対話を拒否されたことにより、シグマはスティーブンはまだマシな方であったのかと思いつつあった。

 

 

「あ、助手さん」

 

 

 そんな時、聞き覚えのある声がシグマの耳に届く。

 

 

「お前は……」

 

 

 そこに居たのは白いシャツに黒いベストのウェイトレス姿に身を包み、金髪をサイドテールに纏めた女。

 この店で働く今回の依頼人、エリカ・アマリだった。

 

 

「なにか進展はありましたか?」

 

「チッ……()えよ。何も()え、ゼロだ」

 

 

 エリカが訊ねると、シグマはばつが悪い表情をしながら答えた。

 

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「俺様が知るか。ルイに聞け」

 

 

 シグマはにべもなく言うと、「情報収集はアイツの役目だ」と続けた。

 

 

「じゃあ、助手さんは何を? 尾行とか張り込みとかですか?」

 

「…………」

 

 

 エリカがシグマの役割を予想するが、シグマは黙ったまま視線を余所に向け、回答を拒む。

 

 

「……?」

 

 

 その様子を見ていたエリカは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

「ところで、件のルイさんは?」

 

 

 エリカがシグマに訊ねる。当のシグマは何やら思案する様子を見せていた。

 

 

「別行動中だ。それより、お前にも聞いておきたいことがある」

 

「ご相談した時に話した事以上の情報は無いと思いますけど……なんでしょう?」

 

 

 質問に端的に答えると同時に訊き返すシグマ。

 エリカは戸惑いつつもそれに応える。

 

 

「この店のオーナーは何処にいる? 話がしてえ」

 

 

「ギャリティ」の支配人兼オーナーのギャリティ・ギルアス。エリカの話によれば、ザックが自殺を踏みとどまるきっかけを作った人物であり、エリカと共に彼が亡くなる直前の姿を見た人物でもある。

 ルイも話を聞きたがるのではないかとシグマは予想していたが、今日の予定には入っていなかった。

 ならば代わりにしてやろうとシグマは思いついたのである。

 

 ……当然、自身の言葉遣いの悪さは全く計算に入っていない。

 

 

 

 しかしそんなシグマの思いつきは、エリカの答えによって出鼻を挫かれることとなる。

 

 

「あの人はこの店に居ませんよ」

 

「何? どういう事だ」

 

 

 シグマは眉間に皺を寄せながら問いただす。

 

 

「ギルアスさんは、この店だけでなく他にも様々な事業を掛け持つビジネスマンです。この店も普段は支配人代理に任せていて、偶に顔を出す程度なんですよ」

 

「チッ……じゃあアイツ(ザック)が死んだ日、店に居たのはたまたまか」

 

 

 ルイの予定に彼への聞き込みが無かった理由を察したシグマは悪態をつく。

 

 

「ということは、お前もあれからソイツ(ギルアス)には会ってないんだな?」

 

「ええ。……多分、ザックさんが亡くなった事すら知らないと思います」

 

 

 気の毒そうな表情で答えるエリカ。

 

 

「他に何か知ってることは無えのか」

 

「ラクルガムの発展に貢献してくれている、みたいな誰でも知ってるような事しか……娯楽施設や工場だけじゃなく、公共施設の運営(コンセッション)までやっているんですよ?」

 

 

 エリカのオーナーに対する熱を感じ始めたシグマは、退屈そうな顔で首を横に振る。

 

 

「あぁ……もういい、此処に用は無い。じゃあな、下等生物」

 

 

 そう言い残すと、シグマはギャリティを後にするのだった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……結局アイツ(ルイ)の思惑通りか」

 

 

 気に入らねえと吐き捨て、不満げな表情で通りを歩くシグマ。

 そんなシグマに対し、背後から声がかけられる。

 

 

「そこのデミヒューマン!」

 

 

 しかし当のシグマは聞こえていない様子で歩き続ける。

 

 

「アンタだ! 黒いトカゲ頭!」

 

 

 再び呼び止められながら腕を捕まれ、ようやくシグマは振り返った。

 そこに居たのは見覚えのない男。他人の顔に興味が無いとはいえ、流石のシグマでも初対面かどうかは判別できた。

 

 

「誰だテメェ」

 

「いいから、ちょっとこっちに来てくれよ」

 

 

 そう言って男は腕を引き、シグマを強引に横道へと連れて行こうとする。

 しかし、動く意思のないシグマはびくともせず、腕を引っ張っていた男は逆につんのめった。

 

 

「お、重……」

 

「キャッチなら他を当たれ。それと、俺様はデミヒューマンじゃねえ」

 

 

 不機嫌な様子で言い放つシグマに、客引きらしき男は怪訝な表情を向ける。

 

 

「はあ? アンタどう見てもデミ――」

 

「あんな下等生物と同じにするなと言ってる!」

 

 

 男の言葉を遮って、シグマは男の胸倉を掴み上げたまま路地裏まで運ぶと、奥にある金網に押し当てた。

 

 

「痛って……お前、デミヒューマンの癖にGMアンチ(純身主義者)かよ。難儀なこった」

 

「……なんでも良い、とっとと失せろ」

 

 

 そう言い捨ててから男を開放すると、シグマは路地裏から去ろうとする。

 しかし、それを阻む二人の人影が現れた。

 

 

「アンタ、ギャリティで派手に稼いでたらしいじゃねえか」

 

 

 立ち塞がったのは、下卑た表情でナイフをくるくると回す細身の男。もう片方は仏頂面でナックルダスターを嵌めた、シグマと互角の体格を持つ屈強な大男だった。

 

 

こっち(ラクルガム)の治安もあっち(タンハットマン)と左程変わらねぇな」

 

 

 シグマは面倒そうな表情しながら舌打ちをする。

 

 

「死にたくなければ金を寄越せ」

 

 

 細身の男がシグマの胸元にナイフを向けるが、対するシグマは眼前の悪漢など気にも留めずにギャリティの入り口にいた犬のデミヒューマンの事を思い出していた。

 

 

「……下等生物とはいえ、ここまで無能とはな」

 

 

 シグマの口をついて出たその言葉は、ギャリティのセキュリティに対してのものだったが、目の前の男は自身に投げかけられたものであると勘違いした。

 

 

「どうやら死にたいらしいなぁ!」

 

 

 憤った男がナイフを突き出してくると、シグマは半身に構えて避けながら、ナイフを持つ手首を掴む。

 そのまま手首をひねり上げ、がら空きとなった胴体に膝蹴りが叩き込まれると、細身の男はナイフを取り落とした。

 

 

「ぐあっ! ……ビリー!」

 

 

 手首を掴まれたまま男が誰かの名を呼ぶと、それに呼応するように隣の大男が丸太の様な腕を叩きつけるように振り下ろしてきた。

 

 それを見たシグマは一度男の手首から手を放し、大男の脇の下をすり抜けるように背面に回ると、背中を殴りつけた。

 大男は振りかぶった自身の勢いに、背後からの衝撃を加えられ大きくよろめく。

 

 なんとか大男は体勢を保ち、振り向きざまに腕で薙ぎ払いを放つが、既に半歩後ろに下がっていたシグマに命中する事はなく、大男の腕は空を切った。

 

 仕切り直すように大男がシグマの顔面目掛けて殴りつけようとするが、その拳をシグマは右手で受け止め、もう一方の左手で大男の顔面にジャブを放つ。

 

 

「ぐ、がぁ……」

 

 

 頭部への衝撃により軽く仰け反った所でボディへ更にワンツーを叩き込まれると、大男は完全に体勢を崩して前かがみとなった。

 その隙にシグマは大男の懐へ踏み込み、その上腕を掴んで体を沈めると、男の巨体を背負い上げて投げた。

 

 

「──ッ」

 

 

 大男は受け身を取れずに背中を地面に強打し、肺から空気が強制的に吐き出される音が漏れる。

 シグマは大男の胸を起き上がれないよう片足で踏みつけながら、あっという間に制圧された助っ人を呆然と見ていた細身の男の首を掴んで持ち上げる。

 

 

「がああああ! は、なせ……!」

 

「……で、誰から俺様の事を聞いた?」

 

 

 シグマのギャリティでの振る舞いを知っていたという事は、この強盗達に情報を流していた存在がギャリティの店内に居たことになる。

 先ほど、ギャリティのセキュリティを(そし)ったのはこのためだった。

 

 

「知、らねぇ……よ!」

 

「言え」

 

 

 シグマは男の首を掴む手の力を強める。

 その表情はいつも通り眉間に皴を寄っていたが、内心はようやく事件の手掛かりとなりそうな情報が手に入るのではないかという期待も存在していた。

 

 

「ぐっ、がっ……」

 

「潜入役か? 情報屋か?」

 

「ビ、ビリー! やれ!」

 

 

 細身の男は仲間に合図を出すような言葉を吐くが、大男はシグマの足により身動きを完全に封じている。

 反撃の目は微塵もないはずだったが、シグマの直感が危険信号を発した。

 

 

「……!」

 

 

 その瞬間シグマは別の考えに思い至る。

 

 

 

 まさか、足元の大男は「ビリー」ではないのではないか?

 

 

 

 そう思い振り返ると、先程の客引き男がシグマの真後ろに立っていた。

 その手に握られた拳銃の銃口が、振り返ったシグマの眉間と丁度重なる。

 

 

「ああ、クソッ!」

 

 

 乾いた銃声が、ラクルガムの裏路地に鳴り響いた。

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