不死の英雄伝
第一話 転生
目が覚めると辺り一面真っ暗だった。
此処は何処だろう?何故自分は此処に居るのだろうか。
思い出せない……。
二次創作などで有りがちな神の手違いだとか、転生する人間に選ばれただとかなのだろうか?
そう考え事をしていたら背後から声が聞こえた。
-ようこそ-
聞こえた声には抑揚が無く平坦な声色だった。
振り向くとそこには男の様な女の様な存在が居た。
あやふやな表現だがそうとしか言えず目の前のソレが老人なのか、大人なのか、はたまた子供なのかさえ分からなかった。
ソレは言う。
-君は転生する事になった-
その言葉に俺は湧き上がる喜びを抑えられなかった。
自分には何一つ取り柄は無く、顔も性格も最悪。
その上口ばかり達者で屁理屈ばかり捏ねている、そんな俺に世の中が優しくしてくれるはずもなく、当然のように学校では虐められ、親には疎まれる。
もしも自分が漫画やゲームの主人公に成れたらなどという妄想を常に抱いていた俺にとって、その言葉はまさに麻薬のような言葉だった。
ソレは更に続けて、
-願いを三つまで聞こう-
そう聞いてきた。
俺は迷わず自分のコンプレックスの一つである容姿、そうして女性にもてたいという欲望から所謂ニコポ、ナデポの能力を求めた。
最後にソレは言った。
-君の願いは聞き届けた。後は目の前のドアを潜れば‘‘君の転生する世界”へ繋がっているよ-
その言葉の後に荘厳な扉が目の前に現れた。
この先に俺の、俺様が主人公に成れる世界が有るのだ。
富、名声、女それら全てが手に入る理想郷、俺様だけの世界が‼︎
そうして俺はその扉をくぐってしまった。
それがいつ終わるともしれない悪夢の始まりとも知らずに。
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目が覚めると俺様は牢屋の中にいた。
身体には見知らぬ鎧が着いていたが、それよりも気になったのが現状だ。
窓すらない牢屋部屋の隅には藁が積んであり、まともな人間が暮らせる部屋とは到底思えない。
何故⁈、どうして⁈、俺様は主人公の筈だ。
ヒロインたちを侍らせ、富と名声を手にし、世界に俺様の偉大さを知らしめる筈なのに。
なのに何故牢屋に囚われて居るのだ‼︎
自分が特別な人間だと、選ばれた存在だと信じていた俺にとって衝撃的だった。
牢屋の外には化け物がいた、壁にもたれ掛かりぶつぶつと何かを呟いていて。
ふと自分の身体に違和感を感じて身につけていた手甲を外し悲鳴を上げた。
どう見ても生きた人間の手ではなく、ミイラのような潤いの無い腕だった。
そんな馬鹿な!何かの間違いだ!俺様は主人公でヒーローな筈なんだ‼︎
それが、それがこんな化け物のような身体だなんて聞いていない‼︎
そっそうかこれは夢なんだな?たちの悪い夢だ早く覚めてくれ‼︎早く、早く‼︎
しかし、残酷な事に自分ではいくら否定しようとも身体が現実なのだと認識させる。
床の感触 、水の音 、檻の外の化け物の呻き声。
現実は何時も残酷だと言ったのは誰だったか、現実逃避の次は恐怖が身体を襲った。
自分はどうなる?化け物の餌か?それともここであいつらの様な亡者に成り果てるのか?もしかして永遠にこのままなのか?
最早主人公云々の話など頭に無くただひたすらに死にたいと思っていた。
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気の遠くなるほど時間が過ぎた。
最早前世の事など殆ど覚えておらずただ亡者に成り果てるのを待つばかりだった。
不意に天井から光が差した。
窓の無い牢屋には蝋燭の火しか光源は無く、久々の日光は目に染みた。
眩しさを堪えて見上げてみればその先には騎士がいた。
彼の鎧は俺の鎧とは違っていた。
恐らく、あちらの方が上位の存在なのだろう、刺繍など細かな装飾が違っていた。
彼は俺と目を合わせると、何かを此方に落として来た。
それは亡者だった。
こいつをどうしろと?そう聞きたかったが彼は既に去った後だった。
改めて亡者を調べてみる。
間近で見るとよく分かる、生気は無く、その目は窪んでいる。
唐突にコレが”終わり”なのだと理解した。
同時にこいつの様にだけは絶対に成りたく無い、成ってたまるかそう強く思った。
そうしている内にこいつの腰に鍵が着いていることに気が付いた。
俺は迷わなかった。
ここで朽ち果てるくらいなら脱獄に失敗して死んだ方がその百倍はマシだとおもったからだ。
そうして俺は牢屋から脱出し先へと進む。
進んだ先には大扉とその前には篝火があった、地下水で身体が冷えていた俺はそこで暖を取る事にした。
不思議な感覚だった。
自分の中に何かが満たされるような、身体中を温かさが包みこんでくれる、そんな感覚だった。
この火にあたっていると精神的にも肉体的にも楽になって行くのがわかる。
眼前にある大扉、この先には何が有るのだろうか?
もしや出口なのでは?
あの騎士は俺を助けに来てくれたのだろうか?
いろんな考えが頭の中をぐるぐる回りだしたので、そこで思考を止め扉を開いた
その先には出口らしき扉が見え。
一目散に走って扉に近付いたその瞬間。
頭上からまさしくデーモンと言う名に相応しいデカ物が大鎚を俺に振り下ろして来た。
自分自身に振り下ろされる巨大な塊を見ながら。
やっぱり脱獄は無理だったか。
そう他人事の様に考えながら俺は潰された。