デーモン炎司祭→デーモン遺跡 上層部
第百二十三話 デーモン遺跡 下層部
篝火を後にした俺たちは、イザリスまで一本道となっている階段を降っていた。
そもそもこの遺跡はイザリスまでの中継地点。
デーモンが住み着いているとは言え、エリア自体は狭いようで、彼の持っている地図にもそこまで広いようには描かれていなかった。
暇潰しに話す事も無くなり、お互いに無言のまま階段を降っていると、その中腹で石像に囲まれてしまった。
正面に二体、背後に三体。
更に正面の二体の後ろには牛頭のデーモンが控えている。
俺は月明かりの大剣を引き抜き、背後の三体に向かって光波を放つ。
彼らは着弾した光波によって、周囲の階段ごと塵となった。
放浪者は墓王の大剣を取り出しながら刃を地面に突き立てて、ニトのように魔力で編んだ刃を投影して石像達を貫いた。
地面から隆起するように現れた魔力の刃は、彼らの足元からその胸を粉砕し尽くした。
ーあからさまな石像だったしな、不意打ちにすらなりゃしねぇー
ーまあな、それに視線も感じた、アレでは何も出来んよー
互いに今の石像の配置についての意見を交わし合いながら、残る牛頭のデーモンに目を向ける。
呪術の火を取り出した彼を手で制し、ソウルからゴーの大弓を取り出して、矢の代わりにハルバードを装填しつつ狙いを定める。
狙うは眉間。
此処からでは猫の額すら狭すぎる状態だが、神経を集中させ、慎重に微調整を繰り返して行く。
周囲の音が遠ざかり、視界に入る全ての物がスローになったような錯覚を覚えながら調節を終えると同時に、引き絞った弦を離し、番えていたハルバードを放つ。
放たれたハルバードは寸分違わずに彼の眉間を射抜き、突き刺さった切っ先が牛頭のデーモンの額を爆破する。
ー……なんつーか、相変わらず無茶苦茶な使い方だよなー
ーそんなんじゃ武器が泣くぞー
ーふっ、聖剣だろうと妖刀だろうと、所詮武器は武器だー
ー発想力さえあればどの様な使い方でも可能なのだよー
ーつまりこの扱いは、この位は可能だろうと言う私なりの信頼さー
ーそれにだー
ー普通の扱いをしていては、普通の事しか出来まいー
ーそれではつまらんだろう?ー
ーそんな物なのかねぇー
ーオメェ見てぇな奇人変人の考えてる事は、俺にはわかんねぇやー
共に射出したハルバードを回収しに行きながら、その道中で俺の武器の扱いに苦言を溢す放浪者へ、俺の考えを伝えてやる。
彼は眉を潜めながら、理解出来ないと言わんばかりに首を振っていた。
ハルバードを拾った際に、隣の地面から篝火の所に居た芋虫が飛び出してきた。
ソウルから黒竜の大剣を取り出しながら芋虫と距離を取る。
放浪者の方も、新たに現れた牛頭のデーモンと対峙しているようで援護は期待出来そうに無い。
彼に当たらない様にカラミットの炎を使おうと思ったら、かなり芋虫まで接近しなければならない。
試しに、月明かりの大剣の光波で彼を討て無いか試してみたが、巣穴に引っ込まれてしまって中々当たらない。
巣穴自体に光波を当てて諸共吹き飛ばそうともしたのだが、相当深いらしく傷一つ付かなかった。
仕方ないな、何時も通りのゴリ押しだが、この手が一番か。
芋虫が顔を見せた瞬間に接近し、彼の間合いに入る。
芋虫は間合いに入った俺に向かって、身を逸らし、反動を付けながら勢い良く噛み付いてきた。
芋虫の大きく開いた口の中に、ハルバードの切っ先をカウンターで捩込む。
切っ先に触れた部分が爆発し、芋虫の顔を大きく跳ね上げる。
その隙に黒竜の大剣を利用して、彼を巣穴ごと焼き払う。
俺が芋虫を仕留め終わる頃には、放浪者も牛頭のデーモンを仕留め終えていた。
ーイザリスに向かうなら、そのまま目の前に見える霧を越えるだけで良いんだがー
ー種火の約束が有ったから寄り道するぞー
そう言いながら彼は脇道に逸れて行く、意外に律儀な男なのだな。
彼の印象が大分変わったが、奴は俺の目的を阻む敵。
俺たちは始まりの火を求め合う敵同士だ。
今は利害の一致によって手を組んでいるだけに過ぎない。
いずれまた彼と刃を交える事になるだろう事を考えると、友好を結ぶ事は無理だ。
だが、今更になって思う。
彼との出会いが普通の物だったら、若しかしたら良い友人になったかもしれないな、と。
あったかもしれない会話 ④
放浪者「そういやよ、俺もテメェの事で前から気になってる事があんだよ」
主人公「何かね?」
放浪者「テメェの髪とか目は生まれつきなのか?」
主人公「君だけに言うが、此処だけの話、私の髪はカツラーー」
放浪者「マジかよ⁉︎、スゲェ質のいいカツラだなおい‼︎」
主人公「ーーだったら面白いが、残念ながら地毛だ」
放浪者「こ、のッ……‼︎」
主人公「しかし、私のこのオッドアイの赤眼の方は魔眼ーー」
放浪者「って、魔眼なのかよ⁉︎」
放浪者「能力はなんだ?魅了か?未来視か?」
主人公「ーーなら良いのにと常々思っているよ」
放浪者「…………この野郎ッ‼︎」
主人公「打てば響くとはこの事か、君は非常に愉快な男だな」