第十三話 リベンジ
祭壇に祈りを捧げた後、改めて俺は不死教区の攻略に進む。
鉄格子を上げた先の階段の上に亡者兵士が待っていて盾を構えながら向かってくる。
数は一人、篝火の近くと言うのもあって先ほど手に入れた両手剣の試し斬りをする。
ソウルから両手剣を取り出し正眼に構える。
良く剣道などで見かける構えで剣先を相手に向けて真っ直ぐ構えるものだ。
そうする事で攻撃や防御といった行動に素早く移行することが出来る。
他にも天の構え 地の構え 陰の構え 陽の構え があり全てを総称して五行の構えと言う。
まぁ、見よう見まね何だけどね。
前世の無駄知識が始めて役立ったよ。
警戒心の欠片も無いのか亡者は走りながら突きを放つ。
それを手に握る大剣で弾くと同時に大きく開いた胴に目掛けて振り下ろす。
西洋剣は日本刀とは違い叩き斬る事を目的としているため相手の防具の上からでも両断出来る。
それが亡者となり幾年も過ぎて風化しかけている様な鎧なら尚更だ。
その一撃は亡者の身体を鎧ごと両断し上半身と下半身を泣き別れにする。
切り捨てた亡者を見ながら新しい武器の有用性を実感し手数が増えた事を喜ぶ。
腰の剣じゃデーモン相手に決定打にならないから丁度いいや。
大剣を背中に背負う。
この大剣はシンプルな作りの上軽くて扱いやすいが、その分通路や森の中などの障害物が多い場所では大きさが仇となり扱いずらいのと片手剣に比べると剣速がどうしても劣ってしまうだろう。
それに腰の剣は不死院を脱出する際から使用しているので少し愛着心のような物も湧き始めている。
まだまだ引退出来そうになさそうだな。
腰の剣を叩きながら語りかける。
はたからみたら変人だろうが、命を預けている武器に労いの言葉をかけるのも悪くないだろう。
いま自分がいる場所の左側には見張り塔があり、中は下に降りる梯子と上に向かう階段があった。
教会までの道を確認したかった俺は上に向かう。
螺旋階段を進みながら警戒しつつ頂上に出る。
頂上には身の丈程の剣を持った黒騎士が立って居た。
予想外の再会に面食らい棒立ちとなってしまった。
隙だらけの俺に彼は鉄塊と称しても構わない剣を容赦無く振り下ろす。
反射的に剣の軌道に左手の盾を滑り込ませる。
片手で振るわれたにも関わらず、化け物じみた膂力で振るわれた圧倒的質量を持つ鉄塊は俺の腕を盾と鎧ごと粉砕した。
その反動で頂上から弾き出され石畳の地面に叩きつけられる。
その衝撃で腰の火炎壺が砕け炎が身体を焦がす。
俺は叩きつけられた痛みと炎の熱を無視してその場から寝返りを打つように身体を逸らす。
黒い物体が上から落ちてきて先ほどまで俺がいた場所を粉砕する。
腰の剣を引き抜き、杖代わりに地面に突き刺し無理やり上体を起こす。
そして追撃をよけるため、前転の要領で回避する。
追撃は上段から捻り潰すように放たれた突きだった。
何とか距離を離し、エスト瓶で砕けた骨を癒す。
左腕が治癒し砕けた盾をしまいながら背中の大剣を抜く。
牽制用のナイフは全損、火炎壺も半分失った。鎧も半壊している。
幸運は長続きしないってことか。
しかしまぁ、我ながら派手にやられたもんだな。
今の俺は具足以外の防具を全て外して右足を引き体を右斜めに向け大剣を右脇にとる。
さながら居合切りの様な構えで人体の急所である正中線を正面から外す。
これで大剣を身体で隠し死角から切り上げられる。
篝火の側で黒騎士と睨み合う。
俺が戦う姿勢を見せたからか見たことの無い構えをしているからか。
向こうも盾を構え様子を伺っている。
他人から見たら西部劇に出てくるガンマンの様だろう
お互いにジリジリと近づいて行く。
そうして奴の巨大な剣の間合いに入る一歩手前で思いっきり踏み込み懐へ潜り込む。
当然それを迎撃するために黒騎士は後ろに飛び退きながらその鉄塊を振り下ろす。
それは容易く俺を粉砕し肉片に変える凶刃だ。
リーチは向こうに分があり剣の重さでも負けている。
今までならこれで終わって居ただろう。
だが。
俺が狙っていたのはまさにこの一閃。
腰を入れ身体ごと回転しその遠心力を余すところ無く使い向かってくる鉄塊を迎撃する。
裂帛の気合いを入れた一撃は、迫り来る凶刃を黒騎士の手から弾き飛ばし、大通りへ飛んでいく。
そして振り上げた勢いを殺さず体重を剣に乗せ強引に振り下ろす。
黒騎士は剣を弾かれた事が驚きだったのか回避が遅れる。
薄皮一枚で致命傷はまぬがれていたようだったが鎧は袈裟斬りにされ、その隙間から決して少なくない量の血が滴り落ちていた。
しかし相手は歴戦の勇士。
直ぐに気持ちを切り替え、徒手空拳のまま傷も塞がず此方に向かって走り出す。
真意が分からなかったが迎撃する他は無かったので、そのまま丁度心臓の位置を走る鎧の亀裂を狙って突きを放つ。
しかし、その刃は心臓を貫く事は無く黒騎士に握られる。
彼はあえて無謀に突っ込み急所を晒す事で攻撃を誘導させていたのだ。
まんまと引っ掛かった俺はどうにかそれを振り払おうとするが顔面を盾で殴打され剣を奪われる。
黒騎士はまるで片手剣を扱うように軽々と俺の大剣を振り回し今度は俺が追い詰められる。
最早手元に武器は無く、ボウガンでは盾にもならない。
火炎壺は彼に対して足止め程度にしか使えない。
後一歩なんだ。
あの亀裂に刃を突き立てられたら俺の勝ちなんだ。
これまでか。と諦めかけた時に視界の端にあるものが映った。
それに向かう為に火炎壺を黒騎士の顔面に叩きつけ視界を奪う。
黒騎士が炎の熱に目を瞑った隙をつき見張り塔の下まで走る。
そんな俺を逃すまいと大剣の刃が迫り背中に真一文字の傷が走る。
その痛みを堪え見張り塔の下に刺したままだった剣を引き抜く。
後ろを見ると俺にトドメを刺さんと黒騎士が飛びかかって来る所だった。
引き抜いた剣を黒騎士の胸の亀裂に逆手持ちのまま突き立てる。
振り向き様の一撃は見事に心臓を射抜き、黒騎士は力無く崩れ落ちソウルとなって消えて行った。
まさに死闘と言える戦いに勝ち残った安堵感で腰が抜けてその場に座り込む。
危なかった。
こいつの刀身に太陽の光が反射して無けりゃ確実に俺の負けだった。
そういやお前も前回一緒に黒騎士に手も足も出ない悔しさを味わった仲間だったな。
サンキュー、助かった。
これからも宜しくな相棒。
五行の構えはwiki参照