不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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不死の英雄伝 15

第十五話 魔術の力

 

エスト瓶の中身を補充して改めて教会の前に立つ。

 

中を覗くと先ほどの騎士が二体と奥には巨大な鎧を纏った男が立って居るのが見えた。

 

入り口の影に隠れ、ボウガンを右手に握る。

 

こちらの動きを悟られない様に慎重に矢を装填し照準を自分の正面に居る騎士の眉間に合わせる。

 

ゆっくりとそして確実に狙いを定めて行き引き金を引く。

 

寸分違わず狙い通りの場所に矢が命中し彼は音を立てて膝から崩れ落ちる。

 

仲間が殺された事に反応しもう一人の騎士が辺りを見渡し襲撃者を探している。

 

ボウガンを仕舞って大剣に手を掛けながら入り口の壁を叩き、音を出す。

 

その音を襲撃者を探している騎士は聞き逃してしまった様だが、代わりに入り口から死角になっていた部分にもう一体騎士が居たらしくそちらが反応した。

 

誘っているのがばれたのか彼は極力音を殺してこちらに近づいて来る。

 

なので彼が通るであろう場所に火炎壺を置き、先ほど同じ騎士を倒した階段へ後退しボウガンを取り出し狙いを壺へと向ける。

 

警戒しながら教会の中から現れた彼は足元の火炎壺に気づき拾い上げた。

 

俺はその瞬間に引き金を引き彼の手の中にある壺を射抜く。

 

壺が割れ、爆炎によって全身を火達磨にされた彼は地面に転がりながら火を消火しようとしているが亡者の身体に燃え移った炎は彼の命を燃料に激しさを増して行く。

 

やがて静かになり微動だにしなくなった彼を教会の前まで引きずっていく。

 

中に居た騎士が焼死体に気が付き急いで外に出てくる。

 

彼が仲間の亡骸に目を奪われている隙に背後に回り込みその背中に腰の剣を突き刺し即死させる。

 

残るは奥の巨大な鎧だけだ。

 

改めてその姿を確認する。

 

全身を覆う鋼鉄の鎧、身の丈まである巨大な大盾、片手で持つには少々大型なメイス。

 

鉛をそのままくり抜いた様な彼の鎧には恐らく生半可な攻撃は通らないだろう。

 

しかし俺の手持ちの大型の武器は背中の大剣とさっき拾ったハルバードだ。

 

だがハルバードは槍と斧を合わせた様な物、恐らく彼には無力だ。

 

とどのつまりこの背中の大剣で何とかするしか無いと言うことだ。

 

但し、あれだけの重装備だ

 

俊敏な動きは出来ないだろうから鎧の隙間から刃を捩じ込む事が出来そうだな

 

彼の攻撃に捕まらない様に鎧を外して身体を軽くする。

 

牽制程度にボウガンをその顔に放ち目の前の鎧に向かって走り出す。

 

彼は放たれた矢を盾によって防ぐ。

 

しかしその動きはやはり鈍重でギリギリ間に合ったといった感じだった。

 

その巨大な盾が目の前の視界を塞いでいる間に距離を一気に詰め寄る。

 

俺は彼が盾を戻す瞬間に腰から鎧の隙間に大剣を捩じ込み真っ二つにするつもりだった。

 

しかし、それは意外な形で裏切られる。

 

上から訳の分からない言葉が聞こえると同時に目の前の鎧が真後ろに飛び退く。

 

その動きは先程までの緩慢な動きでは無く、信じられない程素早かった。

 

大剣を振り抜いたままだった俺は後ろに下がり彼との間合いを取る。

 

実力を隠していた訳では無いのだろう。

 

その証拠と言う訳では無いが彼の身体からは謎のオーラのような物が漂っていた。

 

声の発生源を目で辿って行くと、三又の槍を持って珍妙な踊りを踊っている男が居た。

 

彼は踊り終えると何やら新たな呪文のような物を紡ぐ。

 

嫌な予感がし教会の外へ向かって走り出す。

 

彼が呪文を紡ぎ終わると教会の出入り口が質量を持った霧によって全て塞がれた。

 

これが魔術と呼ばれる力か。

 

奇跡とは違う己のソウルによる力。

 

奇跡は神への信仰心により特別な力を発揮する物、その力は清廉な信徒ほど強力になって行く。

 

逆に魔術とは自分のソウルにより特別な力を発揮する物だ。

 

神への信仰心では無く己の魔力を鍛え上げる事で強力となる力。

 

その力は絶大で目の前に居る鎧の動きが百八十度変わった事からも分かる通りだ。

 

閉じ込められた俺は鎧を着直し敵を見つめる。

 

ここは礼拝堂らしく長椅子が並べられており多少の障害物にはなるだろう。

 

しかし悪い事は連鎖して起きるものらしい。

 

上の階、つまり魔術師が居る場所から次々と亡者達が落ちてくる。

 

こいつらも魔術で強化されており高所から落ちてきたにも関わらず平然として居た。

 

亡者の数は五体、目の前には巨大な鎧がいる。

 

そして彼らは全て魔術で強化されている。退路は無く地の利は向こうにある。

 

各個撃破するしか方法は無いが、迂闊には攻め入りたくは無い。

 

頭蓋骨は残り二つ、火炎壺も後一つだ。

 

背中の大剣を抜き正眼に構える。

 

こちらの構えを見て彼等は興奮しているのか尋常では無い踏み込みでこちらに飛び掛かる。

 

亡者らしからぬ動きに対応が遅れ折れた直剣で壁に向かって殴り飛ばされる。

 

鎧を着ていた事が幸いしたのか肋骨を何本か折っただけで済んだものの一歩間違えたら死んでいた。

 

一度自分が居る場所より遠くを目掛け頭蓋骨を投げ亡者達を引き離す。

 

放物線を描きながら飛んでいく頭蓋骨を目掛けて走って行った亡者達は、バキバキと長椅子を破壊しながら落下地点に集まって行く。

 

俺は痛む肋骨を押さえながら破壊された椅子の破片を集めていく。

 

ある程度拾ったと同時に彼らの意識がこちらへ向き今度こそトドメを刺さんと向かってくる。

 

集めた木片をナイフ投げの要領で亡者達に投げていく。

 

しかしこの程度では魔術によって強化された彼らを止めるに至らなかった。

 

手元の木片を全て投げ終えた俺は最後の火炎壺を投擲する。

 

木片に意識を取られていた彼らはこれに反応出来ないと思っていた。

 

 

 

 

 

しかしその思いと裏腹に彼等は足を止め身体を少しズラす事で投擲された壺を回避して見せた。

 

 

俺の起死回生の一手を回避した事が嬉しかったのか集団で指を指し笑っている亡者共。

 

 

 

 

だがな、笑いたいのはこっちだ。

 

 

俺がただ闇雲に、苦し紛れに木片を投げているだけだと思ったのか?

 

 

 

先程粉砕されていた椅子の残骸に火炎壺の炎が引火する。

 

その炎はあっという間に余裕たっぷりだった亡者達を焼き払う。

 

 

気が付いた時にはもう遅く、亡者達は断末魔の叫びを上げながら灰になるまで焼き尽くされた。

 

 

俺が悪足掻きをする風を装い木片を投げていたのは彼等の意識を足元の残骸から逸らすためだ。

 

これなら足元に散らばる残骸を見ても、これを拾って投げているだけ。

 

と言う風に錯覚させられるからだ。

 

エスト瓶を使用し肋骨を治す。

 

奴らの油断を誘うためにわざわざ折れたままにしてあったが、もうその必要は無い。

 

 

 

これで、残る強敵は鎧野郎と魔術師だ。




六目伝道者「ドヤァ」

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