不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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不死の英雄伝 16

第十六話 渾身の一撃

 

魔術によって身体能力を大幅に底上げされた鎧はその膂力を持って大型のメイスを振るう。

 

先ほどまで静観して居たのが嘘のように苛烈な攻撃を放ってくる。

 

あらゆる方向、あらゆる体勢から圧倒的破壊力と速度を兼ね備えた大鎚が俺に襲いかかる。

 

一撃を回避する度に石畳は砕け、礼拝堂の柱や石像達も粉砕されて行く。

 

徐々に悪くなって行く足場、魔術師から放たれる魔術による攻撃、避け続けるのも限界になって来た。

 

くそったれめ、脳筋の癖に速いんだよ‼︎上からもバンバン魔術が飛んで来るしなぁ‼︎

 

右へ左へ、前へ後ろへと避け続けながら、焦りのあまりボウガンを取り出し魔術師を狙い撃とうとする。

 

彼奴さえ倒せれば‼︎

 

俺の不審な動きを察したのか、目の前の鎧がその大鎚で俺の手にあるボウガンを叩き潰す。

 

その威力はボウガンの原型を無くす程の威力で、最早修理箱でも直す事は出来ないだろう。

 

後悔は一瞬、反省は次に活かせば良い。

 

それよりも冷えた頭でこの状況を整理する。

 

敵は二体、巨大な鎧と魔術師だ。

 

鎧の本来の動きは緩慢で冷静に対処すれば苦戦しないだろう。

 

しかし彼の身体は魔術によって強化されておりその動きは重装備を感じさせ無い程軽い。

 

一方の魔術師はその力を持って鎧の援護をしている。

 

彼の強化は一定時間で解けるようだが、解けるたびに掛け直してくる。

 

それを妨害しようとしても鎧による一撃が待っている。

 

そもそも先ほどの一撃でボウガンは失っている。

 

ナイフは黒騎士により全損、火炎壺も使い果たした。

 

 

つまり今ある武器によってこの状況を打破しなければならないと言うことだ。

 

二階へ向かう階段はあるものの前後を彼等に囲まれてしまう。

 

振るわれる大鎚の風圧で身体がぐらつくが思いっきり後ろに飛び退き体勢を立て直す。

 

魔術師の射角から外れ背中の大剣を引き抜き、正眼に構えつつしっかりと鎧を見据える。

 

逃げ回るだけでは勝てるものも勝てはしない。

 

今鎧は教会の入り口側に立っている。

 

俺は彼が振るう大鎚を黒騎士の時の様に弾き飛ばそうと大剣を振る。

 

大鎚と大剣がぶつかり合い火花が散る。

 

金属同士がぶつかり合う甲高い音が礼拝堂に連続して響く。

 

一撃一撃が重く、両手で握っているにも関わらず一向に彼の手から簡単に大鎚を弾けそうには無い。

 

だが僅かづつではあるがその重さが軽くなってゆく。

 

お互いの一撃が互いの掌から握力を奪う。

 

持久戦になりつつあるこの戦いの均衡を破ったのは目の前の鎧だった。

 

シールドバッシュと言う言葉がある。

 

主に大盾や棘の様な装飾が施された盾を使い相手を突き飛ばす事を目的とし、相手の盲点を突くものだ。

 

気が付いた時には目の前に巨大な盾が迫っていた。

 

殴り飛ばされた際にすっかり忘れていた事に内心で舌打ちする。

 

これでまた魔術師の援護が追加されるのかよ

 

やっぱり魔術師の方を先になんとかしねーと

 

 

自分の持ち物を確認しながら如何にか魔術師まで攻撃を届かせる方法を考える。

 

 

彼奴に攻撃する為にあたっての問題は二つ。

 

 

一つは高さ、物を投げる程度では届かない高さから魔術による攻撃を放ってくる。

 

だからと言って鎧を撒いて二階に上がり魔術師を倒すのは無理だ。

 

二つ目は攻撃手段 、飛び道具を根こそぎ失ってしまった所為で攻撃手段がかなり限定されている。

 

これで目の前の鎧がただの脳筋ならば幾らでもやり様があるのだが、先のボウガン潰しやシールドバッシュからも分かる通り、そこそこ頭も切れるらしく中々隙を見せないのだ。

 

 

高さをものともせずにあの魔術師に攻撃する方法はあるのか? 畜生。

 

せめてあの鎧さえ攻撃して来なければ……。

 

ん?あの鎧が攻撃出来ない場所?

 

 

周囲の壁を見る。

 

礼拝堂の中の柱や石像は破壊され尽くしたが壁は無傷のままだった。

 

俺はある一つの名案を思い付いた。

 

少々力技だが今の身体なら問題なくこなせるだろう。

 

鎧を外して身体を軽くする。

 

これから行う事は身体が軽く無いと不可能な事だからだ。

 

目の前に迫る大鎚や俺を煎餅の様に潰そうとする攻撃を避けながら位置を調整する。

 

幾度も振るわれる必殺の一撃を避けながら丁度良い位置にたった瞬間に、ハルバードを取り出し柄の部分を真っ直ぐに蹴り飛ばす。

 

蹴り出されたハルバードは魔術師のいる場所の2、3m下に深く突き刺さる。

 

蹴り飛ばした直後の硬直を狙われるがそれは想定内なので大袈裟に距離を取るように離れ回避する。

 

その後、鎧がハルバードの近くまで来るように誘導する。

 

 

そして背中の大剣と左手の盾をソウルにしまい全力で走りだし目の前の彼を踏み台にしてハルバード目掛けて飛び上がる。

 

魔術師が俺が何をしようとしているのか察して迎撃しようとするが、その前にハルバードを足場に更に飛び上がる。

 

 

魔術により彼の胸の前にソウルが収束し俺を射抜かんと狙いを定めているが、それより一瞬早く目の前に着地した俺は勢い良く腰の剣を抜剣し魔術師の首を刎ね飛ばす。

 

 

収束していたソウルは術者が倒れる事によりその効力が四散する。

 

 

魔術師を斬り捨てるとすぐさま大剣を取り出し二階から飛び降り、真下に居る鎧を串刺しにする。

 

 

彼はまさか踏み台にされるとは思っていなかったのか棒立ちのまま兜ごと貫かれた。

 

 

彼らを打倒した後残骸となってしまったボウガンを眺める。

 

 

最早修理云々のレベルでは無く、おかくずのようになってしまっているそれは間違いなく俺の判断ミスによるものだ。

 

 

貴重な遠距離攻撃の手段を失ってしまったな。

 

 

そもそもこのボウガンは亡者から奪った物なので、あまり状態が良いとは言えなかったが、それでも十分に役割は果たせていただけに落胆してしまう。

 

新しく奪いとるのもいいが彼等の所持品はどれも質が悪く辛うじて使える程度のものばかりなので期待はしない方が良いだろう。

 

二階に進む階段の隣にあるリフトを起動させ、火継ぎの祭祀場までの道を開きながらボウガンの代わりになりそうな物を考えていた。




バーニス兵士「俺を踏み台にしたぁ⁈」

ライトボウガン「ギャァァァア‼︎」

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