不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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不死の英雄伝 18

第十八話 目覚ましの鐘

 

開戦の合図はガーゴイル達が吐く炎だった。

 

薙ぎ払うように吐かれた炎をそれぞれが回避して行く。

 

俺は回避すると同時に足元の屋根の瓦を剥がし、目の前で炎を撒き散らしているガーゴイルの顔を目掛けて蹴り飛ばす。

 

蹴り出された瓦は炎を吐くために無防備になっていたガーゴイルの横っ面に着弾し砕け散る。

 

瓦に掛かっていた物理的な力の全てを余す事無くその顔に受けた彼は炎を吐くのを中断してしまう。

 

奴が顔を押さえ、怯んでいる隙に後ろに回り込む。

 

子供騙しを、と思うかも知れないが戦いの場では案外使える手なのだ。

 

古来より投石という物があるように、質量とはそれだけで武器になる。

 

例えそれが小石でも投げようによっては相手に隙を作らせる事も可能になる。

 

 

-不細工な顔が随分とマシになったぞ-

 

-やったなガーゴイル君-

 

馬鹿にしているのを察したのか彼は飛び上がり尻尾を振るう。

 

彼の尾には斧が着いており、鞭のようにこちらに飛んでくる。

 

足に力を入れ、尻尾による斬撃を受け止める。

 

その隙に、彼は怒りの咆哮を上げながら右手に持つ斧槍をこちらに振り下ろす。

 

力任せの一撃を盾越しに受けて、俺は屋根の上から教会の下にまで弾き飛ばされそうになる。

 

 

宙に浮き、今まさに落下しようとする身体をハルバードをソウルから取り出し、屋根に突き刺して瀬戸際で落下を食い止める。

 

あっぶね、もう少しで落ちるとこだったぞ。

 

ていうか、あそこまで怒るとか予想外なんですけど⁈

 

多少の挑発で済ますはずだったのが、思いの外相手の沸点が低く激怒させてしまう。

 

気を取り直して大剣を構える。

 

彼の持っている斧槍はどうやら材質がそこまで良いものでは無いらしく、先ほどの一撃を受けた際に僅かながら刃が欠けていた。

 

それに対して、俺が構えている大剣はそうとう作りが良いらしく、先の黒騎士や鎧野郎と打ち合ったにもかかわらず刃こぼれ一つしていない。

 

黒騎士の時のように地の構えをとる。

 

じっくりとガーゴイルを見つめ、カウンターのタイミングを測る。

 

冷静さを失っているガーゴイルの一撃は直線的で合わせるのは難しく無い。

 

 

彼の持つ斧槍は、俺が唯一晒している額に向けて真っ直ぐに突き出される。

 

突き出された斧槍を薄皮一枚で回避する。

 

その際に額を掠め鮮血によって片目が塞がるが斧槍の位置は把握している。

 

腕が伸びきり、突き終わった斧槍の柄を大剣による一閃で叩き折る。

 

へし折れた斧槍に気を取られているガーゴイルの首を大剣の切り返しで両断する。

 

 

断末魔の悲鳴すらなく絶命したガーゴイルは、静かにソウルとなり消えて行った。

 

 

他の二人はどうなっているのか確認するために視線を彼らに向けると、丁度今ソラールが最後の一体を雷の槍で仕留めたところだった。

 

ロートレクはどうやら俺より先に倒したらしく、いざとなったら助太刀するつもりだったそうだ。

 

参考までに、どうやって倒したのか尋ねると。

 

-特に変わった事はしておらぬよ-

 

-攻撃を誘ってパリィを行い首を刎ねた-

 

-ただそれだけだ-

 

いや、それ結構大変なことだろうが。

 

 

役目を終えて消えてゆく二人に礼を言い目覚ましの鐘へ向かう。

 

長い長い梯子を上り鐘楼へと到達する。

 

何の変哲もない鐘。

 

それは、目覚めの鐘などと呼ばれている事が大袈裟に思える程普通の鐘だった。

 

俺は鐘の下にあるレバーを引き、音を鳴らす。

 

 

 

 

 

 

その鐘の音はこの広いロードランの地に鳴り響き、不死の英雄の現れを示す福音となる。

 

二つある目覚ましの鐘、その内の一つはたった今鳴らされた。

 

この鐘の音が始まりとなり、やがて始まりの火は再びその熱を取り戻す。

 

しかし、それを知るものは居ない。

 

何故なら鐘を鳴らした者は彼が始めてだったのだ。

 

不死の使命と呼ばれるそれは曖昧なものが多く、情報も不鮮明。

 

更に並の不死人では道中で力尽きてしまい、鐘までたどり着くことは無い。

 

また、相応の腕を持つ不死人が居たとしても、それらは自分の目的の為に旅をしている。

 

つまり、詳細が分からない物に命を賭ける愚か者など普通は居ないと言う事だ。

 

 

普通ならば。

 

 

しかし、彼は鐘を鳴らした。

 

与太話と思われているそれに命を賭けて挑んでいる。

 

周囲の者から見れば愚か者としか思えない行為。

 

嘘か誠か分からぬ物に全てを賭している死にたがり。

 

誰もがそう思っていた。

 

 

 

しかし英雄とは、その多くは馬鹿正直な愚か者達の総称だ。

 

英雄はなろうとしてなれるものでは無い。

 

それは、成し遂げた功績や軌跡を讃えるための称号だからだ。

 

特別な力を持って居たり、聖剣や魔剣を抜く事が出来るなどと言った事は必要無いのだ。

 

英雄になる条件は何を成したか、これに尽きる。

 

世界を滅ぼす魔王を討つ、人々の安全を脅かす龍を狩る、戦争にて孤軍奮闘し味方を鼓舞するなど、英雄とは力では無く行為に対する名誉なのだ。

 

彼の進む旅の果て、そこに彼は何があるのか知らない。

 

そして、自分がどうなるのかも。

 

だがそれを成し遂げた場合彼は間違いなく愚者から英雄へと変わる。

 

それを本人が望もうと、望むまいと。




ガーゴイル「人の気にしている事を言うんじゃねぇよ‼︎」

ハルバード「本来の使い方をして欲しい…」

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