私は奇跡中心の器用貧乏キャラでした。
第十九話 因縁の始まり
鐘を鳴らして梯子を降りて行くと先ほどまで居なかった男が両手を広げて待っていた。
彼はカリムのオズワルトと名乗っていた。
彼は教戒師という者で、何か罪を犯した際にその罪を神に代わり免罪してくれると言う。
俺は特に罪など犯してはいないし、そもそも犯すつもりは無い。
彼に別れを告げ、不死街の下層へ向かう為にその場を後にする。
別れの際に彼が、すべからく、罪は私の領分だよ。と言っていたのが印象に残った。
不死街の下層。
二つ目の鐘がある病み村へ向かう為に経由する場所の一つで盗賊や亡者達がたむろしている場所だ。
それと、最近何処からか山羊頭のデーモンが流れて来て住み着き始めた。と以前、不死街の商人から聞いた覚えがある。
ソラールと出会ったテラスにある扉に、教会の前で拾った鍵を差し込み扉をあける。
中は一本の梯子が降りているだけの通路だった。
梯子を下りきり、外へと出る。
印象としてはスラム街と言った感じだろうか?
右を見ると上に上がる階段がありその先には不死街が見える。
左には見通しが悪く、家の間隔が狭くて窮屈な思いをする街並みが広がっていた。
俺の進むべき道は左みたいだな。
死体が固められて燃やされている所為で悪臭も凄い。
あまり長居したくは無い場所なのでさっさと進んじまおう。
ここの大通りは野良犬も住み着いているようで、こちらの姿を確認すると一斉に飛びかかって来る。
素早い動きに翻弄され鋭い爪で腕を切り裂かれる。
傷口から血がダラダラと流れ出す。
腰の剣を引き抜き太陽の光を反射させ野良犬共を離れさせる。
恐らく彼らも亡者のような状態なのだろう、その証拠に肋骨が丸見えとなっていたり、目玉が潰れていたりと中々スプラッターな事になっている。
俺はそっと、最後の頭蓋骨を炎の中に投げ込む。
それにより彼らは自ら炎の中に飛び込み燃えていった。
我ながら残酷な手を使った。と苦い思いが込み上げるが、一対一ならともかく一対三では彼らに良いようにされてしまう。
使える手は何でも使って行かなくてはいけないからと気を取り直しつつ、先に進むと民家の扉が勢いよく開かれる。
その数は三つ。
中からは盗賊だったのであろう亡者が、それぞれの家から姿を表す。
此処はスリーマンセルでも流行ってんのかよ。
内心で毒づきながら腰の剣を抜く。
ココの連中は身のこなしが素早い連中ばかりらしく、大剣やハルバードでは戦い辛いだろう。
こちらの様子を伺いながらゆっくりと彼らは近づいてくる。
その手には短刀と小盾が握られている、恐らくパリィやバックスタブと言ったような致命傷を与える攻撃を重視しているのだろう。
盗賊と言うよりまるで暗殺者だな。
睨み合いを続けていては先に進めないし、どうせなら此方から打って出るか。
俺は背中の大剣をブーメランに見たててぶん投げる。
回転して盗賊達を斬り捨てようと大剣の刃が彼らに迫る。
彼らは分散するように回避して行く。
一番近くにいる盗賊の顔面を盾でぶん殴り体勢を崩す。
そこへ腰の剣で胸を一閃する。
彼等は身軽さの代償に防御を捨てているのか、あっさりと刃が胸に届き血が噴き出る。
残りの二人は仲間がやられたというのに一切の動揺もなくこちらを警戒している。
足元に転がる盗賊の亡骸から短刀を拾い左手に握る。
盾を構え肩から二人に体当たりをかける。
しかし片方の盗賊が俺の背中に周りこみ、俺を羽交い締めにて首を掻き切ろうとする。
首に当てられた短刀の冷たさを味わい、背筋が凍りつく。
咄嗟に手に持つ剣で自分の身体ごと盗賊を貫く。
背中に張り付いている盗賊を仕留めると同時に、最後の亡者が心臓に短刀を突きたてて来る。
見事に心臓を貫かれ意識を失いそうになるが、その手を右手で握る。
握った手を捻り、短刀から手を離させる。
腕ごと盗賊の体を引っ張りこちらに近づけて左手の短刀で首を切り息の根を止める。
身体に刺さっている物を全て引き抜き急いでエスト瓶を飲む。
なんとか死なずに済んだが、いつまでもこんな戦い方は出来ないな。
投げたままの大剣を拾い、先へ進もうとする。
その瞬間、自分の世界が力尽くで歪められたような感覚が全身を走る。
そして、
自分の背後にナニカが現れた。
それは血のように赤い霊体だった。
ソラール達を召喚した時とは違い、友好的な気配は無く。
変わりにあるものは、目の前の生者の生命を奪おうとする純粋な殺気だった。
地面から湧き出るように現れた赤い霊体に対し大剣を正眼に構え、彼を見据える。
彼の右手には曲剣が、左手にはレザーシールドが握られていて、更には腰に弓も備え付けている。
放浪者のような格好をしているソレは俺の姿を確認すると壮絶な笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。
彼の装備は見るからに軽装で大剣では分が悪い。
目の前の放浪者は曲剣を片手に身を低くしながら俺との距離を一気に詰めてくる。
俺は大剣を横薙ぎにして彼を引き剥がしにかかる。
しかし、放浪者は自分に迫る大剣を左手でパリィし俺の心臓を貫こうとする。
まさかいきなりパリィされるとは思わず思考が止まりかけるが、正面の放浪者を蹴り飛ばす。
大きく距離が離れる。
大剣を背負い直し、腰の剣を抜く。
全身に殺気を受けている所為で冷や汗が止まらない。
目の前のこいつは、今まで戦って来た奴らとは比べものにならないぐらいにヤバイ。
強さとか経験の差とかそんな次元のヤバさじゃ無い。
こいつは殺しその物を目的にしてやがる‼︎
放浪者が弓を取り出し火矢を放とうとする。
彼が俺の額に狙いを定める。
その瞬間盾で額を守りながら身を低くして彼に接近する。
このまま一気に首を刎ねさせて貰うぞ‼︎
だが、俺の剣は彼の身体を斬る事は無く。
変わりに俺の背に心臓に向けて放浪者の曲剣が刺さっていた。
な、にが…?何が起きたんだ?
彼の首を狙った一閃は空を切り。
変わりに俺がバックスタブを貰っていた。
地面に倒れ混乱している俺の首が放浪者によって逆に刎ね飛ばされる。
最後に目に映ったのは、愉快でたまらない。と言った風に笑いながら天を仰ぐ、彼の歪んだ笑みだった。
そして、この戦いが俺とこの放浪者の長きに渡る因縁の始まりでもあった。
誘い弓スタブ
弓で相手を誘い、バックスタブをカウンターで叩き込む不死人達のテクニックの一つ。
クレイモアの初段パリィに誘い弓スタブ…初見でこんなの来たら泣くね絶対。