不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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不死の英雄伝 23

第二十三話 因縁再び

 

大沼のラレンティウスと名乗った彼はとある物を探している最中に料理人に捕まってしまったらしい。

 

彼は俺の手を握りながらしきりに有り難う、有り難うと礼を言っていた。

 

ここまで感謝されると思わず背中がむず痒くなるが、ふと彼の手に火種のようなものがあるのが気になった。

 

 

呪術の火。

 

呪術師と呼ばれる者達がその力を行使する為の触媒で、それは信仰心や魔力などに頼らない力らしい。

 

呪術師はこの火を熾し、様々な炎の業を振るう。そのため彼らにとってこの火は特別なものであり、大抵は一生を共にし、大事に育て続ける。彼らにとって、火はまさに半身であり分かち合ったものは火の血縁となるとの事。

 

 

大人しく話を聞いてくれたことが嬉しかったのか彼は呪術の火を分けてくれた。

 

 

話を聞いていただけでそんな大切なものは頂けない。と断わったのだが、呪術師というだけで嫌われる事がある彼らにとって友好的な人は本当に少ないらしく、だからこそ恩人でありかつ呪術師に悪感情を持っていない俺になら分けても構わないと言う。

 

 

何時だったかロートレクが、人の好意は素直に受け取るものだと言っていたのを思い出し、素直に受け取る事にした。

 

 

一旦祭祀場へ戻ると言った彼と別れ先へと進む。

 

 

膝まで浸かる汚水の中を進みながら、天井に張り付いているヘドロのような物体に目を移す。

 

ずるずるとこちらに近付いて来るところを見ると、あれは一応生きているんだろう。

 

 

スライムのようなそれは一定の距離に近づくとボトボトと

落ちてきた。

 

狭い通路なので腰の剣を抜いて構えて見たものの、普通の攻撃はまともに通りそうに無い。

 

 

懐から炭松脂を取り出し右手に持つ剣にそれを塗り炎を纏わせる。亡者を焼き尽くす火力を持つこれならもしかしたらと思ったからだ。

 

パチパチと火の粉が跳ねるそれをスライム達に振るう。

 

紅蓮の炎が彼らを包み込みその身体を燃やして行く。

 

 

よく燃えるな。商人の熱意に負けてつい買ってしまったが今回の場所では本当に役に立つ。

 

 

あたりのスライム達を一掃した後、突き当たりに有る扉を開けようとするが鍵がかかっていて開かない。

 

鍵を探しに下に降りて行くと巨大なネズミが群れて居た。

 

あれが、犬ネズミか。

 

ネズミ達は俺を確認するとぞろぞろと逃げて行く。かなり臆病な性格らしい。

 

 

夢の国とは程遠いな。悪夢と言う点では夢の国だけど。

 

 

ネズミの群れの中で壁に凭れ掛かるように亡くなっている遺体の腰にある鍵を手に入れた後、先ほどの部屋を開ける。

 

 

奥には篝火があり、一度それに触れる。

 

篝火に炎が灯され、その力を再び蘇らせる。

 

一度休憩しようと炎に触れようとした瞬間。

 

 

篝火から炎が消える。

 

 

不死街下層で味わったあの不快感が再び俺を襲う。

 

スライムを倒した水路の先からゆっくりと闇霊が現れる。

 

その姿は放浪者の服を纏ったあの男だった。

 

彼は俺の顔を確認すると歪んだ笑顔を浮かべながらこちらに向かって来る。

 

それに対して前回のように突っ込む事をせず、杖を取り出しソウルの矢を放つ。

 

前回、俺をやすやすと倒せた事から慢心して居たのか、それをまともに食らい、身体を大きく仰け反らせる。

 

その隙にナイフを三つ投げ一気に距離を詰める。

 

放浪者は仰け反った身体を戻す事無く後ろに倒れこむ事で飛来するナイフを回避する。

 

体勢の崩れた闇霊に背中の大剣を振り下ろす。

 

しかし、目の前の放浪者は倒れた体勢のまま俺の大剣を蹴り飛ばす。

 

強烈な蹴りを受けて手が痺れるが、足を使って闇霊の顔を踏み付ける。

 

顔を踏まれながらも放浪者は俺の喉に向かってナイフを投げ返す。どうやら先ほどの回避行動の中で飛来したナイフを一本握っていたようだ。

 

今度はこちらが仰け反り体勢を崩す番となり、その隙に足元の闇霊は俺の足を払い立ち上がる。

 

足を払われ地面に倒れ込む俺の顔を仕返しをするように踏みつける放浪者。

 

腰の剣を逆手のまま抜いて彼を一閃、その裏で盾の裏に貼り付けてあったナイフを左手に握る。

 

 

放浪者は迫る凶刃を盾で受け止め曲剣で俺の首を刎ねようとする、そこを左手のナイフで彼が曲剣を握る拳に突き刺す。

 

曲剣を取り落とし手を押さえる闇霊の腹を蹴り飛ばし距離をとる。

 

その際にどさくさに紛れて、彼の持っていた曲剣を回収し、背中の大剣の下へばれないように隠す。

 

ぶらぶらと右手を遊ばせている放浪者の目の前で堂々と右手の剣にエンチャントを施す。

 

挑発されたと感じたのか、彼は足元に落ちているナイフを拾い突っ込んでくる。

 

左手でナイフを再び彼に投げつける。盾を使いそれを防ぐ放浪者へと背中にしまった曲剣をブーメランのように投げ付け、一気に踏み込む。

 

-忘れもんだ、是非受け取ってくれ‼︎-

 

放浪者は自分の武器を投げ返されたにもかかわらず、パリィをするように曲剣を弾く。

 

だが、そうしてくれると信じていたから曲剣を投げ付けたんだ。

 

パリィによって開いた胴に、心臓を目掛けてエンチャントされた剣が突き刺さる。

 

心臓を貫かれ粒子になって行く放浪者。

 

彼はその瞳に憎悪の炎を宿し俺を睨みつけながら消滅して行った。





この一件で主人公は放浪者に逆恨みされる事になりました。

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