第二十五話 棘の騎士
今俺はネズミの腹の中にいる。丸呑みにされたおかげで死ぬ事は無かったが、このままでは胃液で溶かされてしまうだろう。
身動きを取るためにハルバードを胃の壁に突き刺しつっかえ棒代わりにしてスペースを作る。
胃の奥を見ると折れた剣を持ったままの骸骨がゴロゴロと転がっていた、恐らくは途中から見なくなった亡者達が襲われたのだろう。悪食にもほどが有るぞ。
しかし、冷静に考えてみるとこれはチャンスなのかも知れないな。
ここなら向こうからの攻撃は一切届かないし、内蔵に直接攻撃出来る。
大剣を振るう程のスペースは無いので、腰の剣を引き抜き、エンチャントを施す。青白い光を放つ剣を彼の背骨へ向けて振るう。
胃の壁を斬り裂かれるという初めての体験に悲鳴を上げる巨大ネズミ。えずきなから俺を吐き出そうとするがつっかえ棒になっているハルバードに捕まり吐き出されるのを防ぐ。
ただ、失敗だったのは胃の壁を斬ったはいいが馬鹿みたいな量の血が胃の中を満たし始めた事だ。
せり上がる血の海に慌てながら剣を鞘に仕舞ってエンチャントを消し、改めて炭松脂を塗る。
傷口に炎に包まれた剣を押し当て止血しながら切り開いていく。
有る程度切り進め、十分に大剣を振るえるスペースが確保出来た。目の前には背骨が見えている。
剣を腰に仕舞い、背中の大剣にエンチャントを施す。
淡く光る大剣に全体重を乗せ柄まで突き刺す。背骨から彼の毛皮の外にまで刃が貫通しそのまま外界までの道を切り開く。
ネズミの体内からその背中へと脱出し、両手で大剣を握りその頭部に振り下ろす。
頭を割られたネズミは悲鳴を上げながらソウルとなり、食った人間の物であろう人間性を残し消えて行った。
大剣を仕舞って血と胃液で汚れた身体に辟易しながら先を見る。
どうやら坂道となっており、汚水が流れていて下からは帰ってこれそうに無い。
意を決して坂を滑り降りる。
真ん中を滑っていくと途中で道が無くなっているのに気が付いたが下にも道があった事もありそのまま滑り落ちる。
落下地点には大きな目をぐるぐる回しているカエルのような生物が居た。
そして、その周りにはかなりの数の石像があった。
武器や鎧などの造形がある程度分かる点から、あのカエルには何か有り、石像達は犠牲者と言った所か。
触らぬ神に祟りなしと呼ばれるようにあれには触れない方が良いだろうな。
カエルに気どられないように移動し上へと上がる、そこの正面には大扉が見えた。恐らく二つ目の目覚ましの鐘がある病み村はその先だろう。
病み村への旅路に想いを馳せていると。
世界が捻じ曲げられ無理やり自分のテリトリーを荒らされるような不快感、三度目だというのに慣れる事は無い。
また例の放浪者かと思ったのだが、俺の前に現れた闇霊はまた別の男だった。
全身に纏った鎧には夥しい数の棘が貼り付けられている。
いや、鎧だけで無く、彼の手に握られた剣と盾にも同じように棘が付けられていた。
彼は俺を襲おうと盾を構えながら走りこんでくる。
ソウルからハルバードを取り出し構えられた盾の外から横薙ぎに振るう。
棘の騎士は振るわれた斧槍を避けるために、肩から転がるように飛び込んでくる。
そして、ハルバードを振るった際に開いた脇腹めがけてその直剣を突き立てて来る。その棘により脇腹を大きく抉られ大量の出血を強いられる。
ハルバードの石突を使い、懐にいる彼のこめかみを打ち付ける。頭が揺れ僅かながらふらついた隙に彼を蹴り飛ばす。
抉られた脇腹は血が止まらずドクドクと流れているがエスト瓶を飲む暇は無い。
睨み合いが続く。彼の全身はそれそのものが武器となっていて、体当たりだろうが蹴りだろうが出血を強いる物に早変わりだ。
だが、その分彼の剣は普通の物よりも刀身が短く竿武器であるハルバードとは相性が悪い。
短く息を吐き、右足で踏み込みながらハルバードのリーチを生かし突きを放つ。
勢いよく放たれた突きは棘の騎士の胸へ目掛けて鋭く向かっていく。当然だがその突きは盾によって防がれてしまう。
だが彼の盾は棘のあるせいでパリィには向かない、つまり攻撃を弾かれ致命傷を負わされる心配が無いと言う事だ。
盾の上からでも構わないと言わんばかりに突きの連打を放って行く。
金属同士のぶつかる甲高い音があたりに響く。
棘の騎士は足を止めひたすら連打に耐えてはいるが徐々に腕が痺れて来たのか、強引に踏み込んでくる。
彼の踏み込みに合わせてハルバードを握る手を基点にテコの原理で石突の打突を鳩尾に放つ。
踏み込みの勢いに合わせてのカウンター、それをまともに貰い、棘の騎士は肺の中の空気を全て吐き出し足を止める。
その足を払い転倒させ、心臓を貫く。
しかし呼吸を乱された状態からでも腕を回し彼はハルバードの槍の部分を握る。
心臓までのミリ単位の攻防、しかしそれは悪あがきに過ぎず。
俺はハルバードの刃の部分を踏み込み、槍を心臓に捩じ込む。
霊体となっている彼の身体が光の粒となり消えていく。
抉られた脇腹をエスト瓶で癒しながら先へ向かおうとすると
彼の残した血痕の後に彼の剣が落ちていた。
トゲの直剣
悪名高いダークレイス「トゲの騎士」カークの愛剣、刀身にびっしりと鋭いトゲが生えている。
その鋭いトゲの効果により、大量の出血を強いる禍々しい武器。
以上カークさんでした