アンバサ、脳筋、上質、など悩みましたが取り敢えず月光の大剣を使いたいので
第三話 不死の使命
篝火の側から離れ、先へ進むと亡者が弓を構えて此方を狙っていた。
俺の中では亡者達は頭が逝かれた連中で無害だとばかり思っていたからつい足を止めてしまった。
いくら亡者といっても、止まっている的相手に当てるのは簡単らしく。
目の前の亡者が敵だと分かった時には眉間に矢が刺さっていた。
平衡感覚が無くなり身体がふらつくが、不思議な事にこの程度では死な無いらしい。
また、意識自体はハッキリしているので第二射が来る前に左の小部屋に転がりこむ。
助かった、この身体は多少の事では死な無い事が分かったな。
流石にあのデカ物の大鎚の様な代物は耐えられない様だけどな、だからと言って何発も貰えないぞ。
鎧で身を固めるか?だけど代わりに足が遅くなる、俺の技量では鈍重な動きで弓による一撃を避ける何て無理だ。
どうする?幸いあの亡者は此方まで来ない様で先程の位置で弓を構えて居る。
盾になるものが有ればなんとかなるんだが…。
そうやって考えていると、この小部屋に囚われて居たのであろう人の遺体に目が移った。
あのデカ物にやられたのか?あの亡者の様に正気を無くした者に襲われたのか?どちらにせよこの人は此処で力尽きたのか……。
そう思うと不思議と身体が動いて、自然と遺体に対して手を合わせ祈りを捧げていた。
その遺体の側には盾が落ちている、少し悩んだが拝借することにした。
すまない、生きて此処から出るために借りて行く。
当たり前だが返事は無いが、
行ってこい、と言われたような気がした。
壁から覗きこむようにして亡者の方へ目を向ける。
奴は変わらず弓を構えていた。
盾を手に入れたが無策で突っ込みたくは無い。
しかし小細工が出来るような物は生憎と持ち合わせていない。
相手は亡者だし慎重になる必要は無いのかも知れない。
案外盾を構えているだけで大丈夫なのかもしれないが、念には念をという言葉がある、用心し過ぎる事は無いか。
そうして俺は壁から身体を出して亡者へと向かう。
ただし直線的でなくジグザグに狙いを付けさせない様に。
そのおかげか俺は難なく亡者へと近づく事ができその顔を思いっきり殴りつけることができた。
殴られた事がショックだったのか、距離というアドバンテージが無くなったからか。
目の前の亡者は一目散に逃げ出した、未だ殺される事も殺す事にも慣れていないので逃げてくれて有難かった。
足下にはまた誰とも知れぬ遺体が転がっていた。
その手には剣が握られており刃の部分も錆や刃こぼれも無く問題無く使えそうだった。
内心で謝罪しながら剣を頂いた。
奥に進むと階段があり、その上にはさっき逃げて行った亡者がまたもこちらを狙っていた。
そこまでして俺を殺したいのか。
殺し殺される覚悟を決めろとでも言うのだろうか。
剣はある。
盾もある。
此処で戦う事を戸惑えばこの先生き残れないだろう。
目の前で対峙する者は自分の"終わった姿”なのだ。
あの様なザマに成りたく無いなら、戦わないといけないんだ、覚悟を決めろ‼︎
俺は盾を構え奴へと向かう、慌てて弓を引いているが、その動きは遅い。
こいつには威圧感が無いんだ。
怯える必要は無いんだ。
矢が放たれる前に懐へ潜りこみ、先ほど手に入れた剣の一閃を放った。
奴の胸に真一文字の傷が描かれる。
一撃だった。
たった一撃で目の前の亡者が糸の切れた人形の様に膝から崩れ落ちていった。
自分が殺したというのに実感が無く、まるでゲームの中の出来事のようだった。
しかし剣を握る手には先ほどの一閃の感触が残っていて。
刃には血がついている。
今まで自分の命が狙われていた、その恐怖は未だに残っている。
だが、その相手を殺しても、安心感も罪悪感も無かった。
その事がとても恐ろしかった。
本格的に人間を辞めちゃった見たいだな。
不意に前世が懐かしくなって来た。
容姿が悪いから、周りに虐められるから。
そんな理由で転生を望んだが、今の有様に比べたら前世は天国だな。
少なくともこの世界よりは、なんとでもなりそうだったからだ。
前世への望郷の念を抑え込み、階段の先にある霧に視線を合わせる。
近づいて見るが霧の先は何も見えない。
手を当てるとどうやら通り抜けられそうだ。
意を決して霧を抜けると、一番始めの篝火があるエリアの上の階に出ていた。
周囲を警戒しながら先へ進むと、上と下に行ける階段があった。
先ずは下に向かう、篝火へ繋がる道だと思ったからだ。
案の定、この階段は篝火の近くに繋がる道だった。
道を繋げた後、慎重に階段を上りながら考える。
さっき、剣と盾を手に入れた場所では亡者が段差と距離を利用して俺を襲って来た。
下に降りる階段では何も無かった、だが上に上がる階段には何かあると考えていいな。
上への階段を半ばまで登った所で目の前に鉄球が現れた。
古典的な手を使いやがって‼︎
あれに轢かれたく無いので俺は右に転がり鉄球を回避する。
避けた先は階段だったので身体が痛かったが、鉄球よりはマシだろう。
階段を上がった先には鉄球によって破壊された壁があった、どうやら此処も牢屋の様だ。
中を覗くと其処には俺に牢屋の鍵をくれた騎士が居た。
しかしもう虫の息だった、恐らくあのデカ物と戦っている最中に足場が崩れたのだろう。
彼は俺の目を見て、亡者で無いことを確認すると、安心したような雰囲気を出して。
-頼みが有る-
そう言ってきた。