不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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国色天香

「国色」は国内で最も美しい色。転じて国一番の美人。
「天香」は天上のものと思うほどの芳香。
非常に美しい人を形容した語。




不死の英雄伝 30

第三十話 国色天香の魔女

 

嬉しく無いヌードモデルを斬った後、俺は篝火に触れながら装備品の手入れをしている。

 

特に刀は他の武器に比べ耐久力が低く、少々斬れ味が落ちて来ていたのだ。

 

一通り手入れを終えたら、後ろに見える部屋に足を向ける。

 

そこには一つの宝箱が鎮座しており、蓋を開けると鉱石のようなウロコが入っていた。強い力を感じられる所から見ても恐らく竜の物なのだろう。

 

ソウルへとそれを仕舞い、篝火から外に出る。

 

向こう岸には洞窟のようなものが見える、目覚ましの鐘は彼処に有るのだろう。…根拠は無いが。

 

ともかく、他に目指すべき場所も無いことだし先に進もう。

 

 

 

壁沿いに、出来るだけ毒沼に浸からないように歩いていくと、火を吹く虫が二匹此方に向かってくる。

 

 

杖を取り出し、音送りを放つ。

 

虫達は着弾点に向かって誘導されて行く。

 

ハルバードにエンチャントを施し、刃を横薙ぎに振るい虫を一掃する。

 

 

右側を見ると、エレベーターのような水車が設置されていた。

 

帰り道が楽になるかもしれない事が分かり、大分気が楽になった。

 

毒沼を越えて、洞窟のある岸に上陸する。

 

三体の巨漢亡者が岩石を持ち上げて此方に投げて来た。

 

三つの岩石が俺に迫る。

 

側に生えている巨大な木の根っこの陰に隠れ飛来する岩石をやり過ごす。

 

 

轟音と共に岩石が砕ける音と振動が辺りに伝わる。

 

どうやら彼らは脳筋らしく力尽くで俺を物陰から引きずり出すつもりだろう。

 

この根っこが破壊されるのも時間の問題か。

 

 

音送りを使ったとしてもこの轟音だ、まともには効果が無いだろう。彼らが着弾点に気づけば込められたソウルに引き寄せられるのだが、そのためには半身でも身を乗り出す必要がある。この状況でそれはあまり賢い選択とは言えない。

 

そして、そんな状況から閃いた作戦があった。

 

賭けになるが、一つ試してみるか。

 

ヒビが入り始めた木の根っこの下にしゃがみ込みながらハルバードを側に置く。

 

そのまま腰の刀に手を置きながら木が折れるのを待つ。

 

息を殺して待っているとようやくその時が来た。

 

岩石による猛攻に耐えて居た木がへし折れた。

 

その瞬間に合わせて地面に向けて倒れ込み動きを止める。

 

所謂、死んだふりだ。

 

普通ならこんな手には引っかからないだろうが、相手は亡者、それも頭まで筋肉で出来ているような奴らなら可能性もあるだろうさ。

 

もし確認するためにここまで来たとしても切り捨てれば良いのだから案外悪く無い手だ。

 

 

巨漢達は俺が倒れ込んだまま動かないのを確認するとそれぞれ元の持ち場へと戻って行った。

 

ホッとしたのも束の間、やはり気になったのか一匹だけがこちらに近づいてきた。

 

 

目を閉じているため歩く音が非常にゆっくりに聞こえてしまい間合いを測りズラい。

 

 

彼の足音が止まり、頭を掴まれた。

 

どうやら本当に死んでいるのか、分からない為に俺にトドメを刺しに来たのだろう。

 

徐々に頭に力が篭り始めたので彼の口を左手で押さえ、右手一本で刀を抜刀し首を斬り裂く。

 

彼は悲鳴を上げる事すら出来ないまま消えて行く。

 

残りの巨漢達に目を向けるがどうやら気付かれなかったようだ。

 

 

足音を殺して洞窟内へ侵入する。

 

 

奥には霧がかかっている。予想通り、目覚ましの鐘はこの先に有るのだろう。

 

そして、そこにはサインが一つ書かれている事に気がついた。

 

ソラール達だろうか?

 

触れてみて情報を確かめる。

 

 

人喰いミルドレット

 

 

 

さっきの女だった。

 

人間性が手に入ればなんでも良いのかよ…。

 

 

折角なので召喚する。

 

 

現れた彼女は頭を下げ一礼をする、先ほど襲った相手だと言うのに謝罪らしき物は無かった。

 

……最早何も言うまい。

 

 

気を取り直し霧を通り抜けようとした際に女性の声が聞こえた。

 

-この禁断の地から引き返せ-

 

-ここは混沌に生きる者達の領域だ-

 

-彼らは追放という運命を受け入れたのだ-

 

-引き返さぬと言うのならば、炎が全てを飲み込み-

 

-混沌の子どもたちが黒こげた灰を喰らうだろう-

 

-契約に抗う者達、クラーグの住処に侵入する者達よ-

 

-我らの深き怒りを感じることだろう-

 

 

それは警告。この先へ向かわせはしないという決意の籠った声だった。

 

 

だが、俺だって歩みを止めるわけにはいかない。

 

ここで歩みを止めてしまえば背負っている全てを捨てることになる。

 

それだけは、何があっても認められない事、俺の譲れない一線だ。

 

何処か辛そうで、こちらに対しての本当に僅かな思いやりを感じる警告を俺は無視して霧を越える。

 

 

霧の先には巨大な蜘蛛のようなものが俺を待っていた。

 

目の前に映る巨大な蜘蛛からは灼熱の息吹を感じ下手を打てば灰すら残さず蒸発させられるだろう。

 

 

だが、俺が目を奪われたのはそこでは無い。

 

蜘蛛の上には妙齢の貴婦人の姿が見えた。

 

 

美しい。ただそうとしか表現出来ないほどの女性。

 

彼女のような女性の事を絶世の美女と呼ぶのだろう。

 

彼女は悲しい顔をした微笑みを俺に向けて居て、恥かしながらそれに見惚れてしまった。

 

 

-ああ、貴重な生贄よ-

 

-ここは混沌に生きる者たちの禁断の領域-

 

-来なさい、来るがいい-

 

-歓迎しよう贄を運びし者よ。 混沌の子どもたちは腹を空かせている-

 

-さぁ、クラーグの火に己を捧げよ-

 

 

 

 




以上没ボイスでした。

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