不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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やっちまった…パッチの選択肢にYesと答えちまったよ…。

ゆ、指が滑ったんだ(震え声)

レア様救出もしなきゃなんないのに…。


不死の英雄伝 32

第三十二話 地下墓地

 

クラーグの住処を後にした俺は例のエレベーターを使い、外に出る。

 

途中で吹き矢亡者達の巣窟に足を踏み入れてしまい、毒殺されてしまったが、それと引き換えに火守女の魂を手に入れたので良しとしよう。

 

 

久々の外の新鮮な空気に軽い感動を覚えながら、出口付近にあった鍵を使って小ロンドへと出る。

 

此処は丁度祭祀場の真下に位置するため、昇降機が設置されているのを心の折れた彼から聞いていた。

 

レバーを引き、昇降機を起動させ祭祀場に帰還する。

 

 

祭祀場に帰還して気が付いたのは、篝火の炎が消えている事と火守女が死んでいる事だった。

 

 

俺は何が起きているのか理解できなかった。

 

神の名を呼ぶ事を禁止されたために喉を潰され、逃げ出さ無いように足を潰された彼女は最期、物言わぬ骸になってしまったのだ。

 

彼女に救いは無い。

 

彼女が何をしたというのだろうか?

 

もし、何か罪を犯したとしてもここまでの仕打ちを受けなければいけないものなのか?

 

背負う必要の無い感情かもしれないが、恩人のように思っていた人物の死に動揺を隠せない。

 

そんな彼女の遺体の側に黒い瞳が転がっていた。

 

その瞳はある方角をじっと見つめている。

 

試しに位置を変えたり視界を塞いだりと色々して見たが決して、その方角から目を逸らさなかった。

 

 

周りの人に意見を聞こうと思ったのだがどうも様子がおかしい。

 

 

ロートレクは最下層で呼んだ際に上に行くと言っていたから居ないとしてもだ。

 

 

心の折れた彼がうなだれていたので話を聞くと。

 

 

俺が二つ目の鐘を鳴らした後に化け物が顔を出したらしく、そいつの口臭がきつくてたまらないらしい。

 

彼は俺も少しだけ頑張ってみるかな、と言って手を振りながら旅立って行った。

 

 

そして、俺は彼の言っていた化け物に会いに行く。

 

 

化け物は自分の事を”世界の蛇、王の探求者フラムト”と名乗り、大王グウィンの親友だと言っていた。

 

フラムトは、俺を不死の勇者と呼び不死の使命を伝えたいと言ってきた。

 

不死の使命。漠然とした内容で詳細を知らなかった俺は、鐘を鳴らす必要が有るという情報に今まで従っていただけにすぎず、そこから先の情報を持っていなかった。

 

しかし、フラムトはそれを伝えると言って来たのだ。勿論、俺はその言葉ににべもなく頷いた。

 

 

 

不死の使命の最終目的は、大王グウィンの跡を継ぐ事。

 

そして再び始まりの火を熾し、闇を祓い、不死の微を祓う事。

 

そのためには”王都 アノール・ロンド”へ向かい王の器を手に入れる必要がある。

 

そこに至る道、センの古城。

 

かつて、俺以外にも沢山の使命者達が王都に向けてそこに足を踏み入れ、そして散って行った場所だと言う。

 

 

場所は不死教区の先。

 

まだ終わらない旅路に苦笑いを零し、フラムトに礼を言って古城に向かおうとした時だった。

 

 

 

-待って…くだ…さい-

 

聞き慣れた声に呼び止められそちらに振り返ると、

 

血だらけのペトルスが壁に身体を預けながら俺を呼んでいた。

 

慌てて彼に駆け寄り、その身体を支える。

 

何があった!どうしたんだ⁉︎と思わず声を荒げてしまう。

 

そして、彼は何があったのかを簡潔に話し始めた。

 

地下墓地の先、巨人の墓場にてパッチと言う男に嵌められ、それによって残る二人の付き人が亡者となった事。

 

そして、彼は聖女レアを物陰に隠れさせ助けを呼ぶためにここまで来たと言う。

 

-お恥ずかしながら、お嬢様を置いて此処まで助けを呼びに参りました-

 

-私一人の力では、ニコ、ヴィンス達を退け、パッチの目をかいくぐりながら、お嬢様をここまでお連れする事は出来ません-

 

-そのために、応援を呼ぼうとここまで急いで来たのですが……-

 

-道中、ある男に出会いまして…-

 

-その男は非常に手強く、なんとか撃退する事が出来たのですが…-

 

-こうして…、深手を負った次第で御座います…-

 

徐々にソウルとなって行くペトルス。

 

-あの瘴気の充満した場所で死ねば、亡者となりお嬢様を襲ってしまいます-

 

-それだけは、死んでも御免です-

 

-私が死ぬ前に貴方を見つける事が出来てよう御座いました-

 

-どうか、お嬢様を頼みます-

 

消えゆく身体で俺の手を両手で握り、懇願するように彼は頼みこんできた。

 

彼の目に合わせゆっくりと頷く。

 

-後は任せろ-

 

その言葉に安心したのか彼は次第に瞼をおろして行く。

 

-有り難う…御座います…-

 

-コレで、安心して…冥土に逝けると言うもの…-

 

-それと、これをお嬢様に-

 

彼から手渡されたものはボロボロのペンダントのような物だった。

 

走馬灯が流れているのだろう、穏やかな表情を見せたペトルスは、

 

-おさらばです、お嬢様…-

 

そう、最期に言い残し、息を引き取った。

 

 

背中のハルバードを大剣と取り替える。

 

今、俺の胸に渦巻く激情を自分でも抑えられそうに無く、確実に武器を乱暴に扱ってしまいそうだったからだ。

 

同じ理由で腰の居合い刀もソウルに仕舞う。

 

始めての感覚だった。

 

誰かを思いやる事も。誰かの為に激怒することも。

 

 

思考はかつて無いほど澄み渡り冷静だ、しかし、胸のうちは激情に支配され今にも弾けそうだ。

 

 

 

俺は表現のしようの無い感覚に身を委ね、地下墓地へ足をむけた。





ソルロンドのとある屋敷。

そこでは若い男が日夜頭を悩ませていた。

それは彼が教育係りとして教鞭をふるって居る生徒、レアの事だった。


お転婆、そう表現するのが正しく、彼は何時も彼女に振り回されていた。

あの手この手で、授業を抜け出しては遊び回って居る彼女にどうやって勉学に興味を持たせるか、それが彼の頭痛の種となっていた。


以前に屋敷を抜け出し、スラム街で迷子になってからは少しは落ち着いたと思っていたが、ここ最近また何やらこそこそとやって居るらしく、周囲の使用人達に話を聞いてもはぐらかされるばかり。

以前の一件で彼はレアを庇い大旦那からお叱りを受けている。

-お嬢様は好奇心旺盛なお方でいらっしゃいます-

-今回の一件もそれが災いしただけの事-

-全ての責任はこの私にあります-

-ですのでお嬢様をこれ以上お叱りになるのをお辞め下さい-

-このペトルス如何なる処分も受け入れる所存で御座います-

そう言って彼は額を床に擦り付けながら許しをこう。

その姿勢に免じて大旦那は彼女を半年ほど軟禁状態するだけで済ませた。

しかし、代わりにペトルスは厳罰を受け、暫く牢に入れられた。その際に2度目は無いとも。

故にまた問題を起こせばその任を解かれてしまうだろう。


やはり自分では役者不足だったか。

諦めのような感情を抱きながら授業に向かう。

彼女の部屋をノックすると、珍しくすぐに扉が開いた。

その事に、槍でも降るのでは?と失礼な事が頭に浮かんだが、どうにも違うらしい。

目の前の幼い少女は何やら後ろ手に隠しながら此方の様子を伺って居る。

-どういたしました?-

-そ、その…-

-?-

-この間は、あの…、ご、ごめんなさい‼︎-

それは謝罪の言葉だった。

彼女も自分の軽率な行為がどれだけの人に迷惑をかけたのか理解したのだろう。

彼女は、暫く顔を見合わせ無かった彼を除き、屋敷にいる全ての人に謝罪をして回っていたと言う。


そして内緒で謝罪の品も用意して居たと言う。

そう言って彼に渡された物はペンダントだった。

中を開けてみると、舌を出して悪戯っ子らしい笑みを浮かべて居る彼女の肖像画が入っていた。

謝罪の品にこれは如何な物かとツッコミを入れようとしたら、目の前にいた少女の姿が見えない。


そして、彼女が居た場所には一枚の紙が。


数学きらい。


彼は呆れながら自分の生徒を探しに行った。その顔には優しい笑顔が浮かんでいた。




以上、ペトルスの走馬灯でした。



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