放浪者の扱いどうしようかな。
リリカル世界でラスボスとして殺戮の限りを尽くすか、この世界で綺麗に殺されておくか。
第四十四話 梁の上の攻防
鎧の炎を鎮火しながら周囲に奴が居ない事を確認してから、少し彼の事を考える。
あの放浪者を逃がしてしまったのは非常に痛い。あの男の技量は全てにおいて俺を上回っているため、不意打ちや搦め手などを使わないとまともに戦えないのだ。
今までなら、あの男も俺を何処か格下だと思って舐めていたのだろうが、地下墓地の一件でその考えを改めたのだろう。
あの下卑た笑いは引っ込み、純粋な殺意と闘争心を胸に俺を殺しにきた。
慢心や油断は微塵もない、あらゆる手段を使ってでも勝ちに来るだろう。
一旦、エスト瓶で傷を癒しながら周囲を見渡す。
階段の側にサインが一つ。
暗月の鷹 ユイ
彼の装いは身の丈を越える巨大な弓を抱え、腰には俺と同じ剣を差して居る。左手には掠れては居るが特殊な紋様が浮かんだ盾を着けている。
地面から湧き出るように現れる暗月の鷹、彼はあの火防女と同僚のようで、彼女のようにクールな男だった。
どうやら彼の仕事は道案内らしく、先頭に立って進みだした。
彼の先導で隣の建物のテラスに向かい、壊れたステンドグラスから中に入ったのだが、いきなり目の前が爆発し、その爆風と共にナイフが飛来する。
爆風とナイフを受けて、テラスから弾き出されそうになるが手摺に捕まり事なきを得る。
ユイがステンドグラスの影から中を覗きこみ、何かを発見した。
彼が発見したものは、大量にばら撒かれた壺の破片とワイヤーだった。
あの放浪者は、逃げた際に此処に先回りしワイヤートラップを仕掛けていたのだろう。 周りを見渡すと、所々何かが仕掛けられて居るようだった。
悠長に考え事に耽っている場合では無かったな。
彼に此処までの準備をさせる時間を与えてしまった事は失態だろう。 たった数分の考え事で此処までされるとは思わなかった。
ユイが周囲を確認しながらゆっくりと進んで行く。自分の後を着いてこいとの事なのでそれに素直に従い、足を動かす。
暫く進むと、天井の梁の上から白装束を身に纏った男が飛び降りて来たのだが、その際にワイヤーを踏んでしまったらしく、側頭部にナイフが深く突き刺さる。
急いで仕掛けたくせに、巧妙に仕掛けられた罠に気を付けながら天井の梁に登る。
ユイがその巨大な弓を引き絞り、槍のような矢を放ちながら梁の上にいる白装束を叩き落としてゆく。
一通りの白装束を倒した後に梁の上を歩いていると、後ろから何かを引き絞る音が聞こえ、そちらを振り向くと。
柱の影から、以前使っていたボウガンよりも大きなボウガンが此方に照準を合わせていた。
慎重に梁の上を歩いて居た為か、時限式の罠にまんまと引っかかってしまった。
この場所では避ける事は無理だ、後ろにユイが居るために退く事も出来ない、盾で受けたとしてもアレの威力を考えるとバランスを崩してしまい、下に落下してしまうだろう。
考えている暇は無いため、ソウルからスナイパークロスを取り出し、此方から逆にあのボウガンを破壊する。
精密な射撃により、寸分たがわず設置されたボウガンを破壊する。
矢が放たれなかった事に安堵の息を吐き、踵を返して先に進んだ時だった。
突然、足元が爆発する。
その衝撃で俺たちは足場から叩き落とされる。
センの古城の時のようにハルバードを引っ掛けて落下を回避し、足でユイを挟みなんとか踏ん張る。
二人で梁の上に登り、辺りを改めて良く見ると、先ほど破壊したボウガンの下にもう一つボウガンが隠されていた。
その射角は梁の下に向けられていた。恐らくまた火炎壺が設置されていたのだろう。
味な真似をしてくれるじゃ無いか。
梁を渡り中間まで渡ると、飾られているシャンデリアの上に魔術書が落ちているのが見えた。
ユイに一言断り、鎖を伝いながらシャンデリアの上の魔術書を拾う。
強い魔法の武器、か。
その名の通り、俺が普段使っている魔法の武器の上位互換のようだな。
数々の妨害を乗り越え、なんとか梁の上を渡り切る。
橋を越えた先にはレバーがあり、ユイはそれを指差している、 先に進むための道はこのレバーを回した先にあるのか。
レバーを回し道を繋げる、ガーゴイルを倒した場所とその先が一本道となる。
新たなガーゴイル、そしてその隣に立つ放浪者。
彼は腰の短弓で火矢を放ちながら、此方に突進するガーゴイルの支援をしてくる。
ユイがその大弓で放浪者を迎撃し始める。
奇しくも、壮絶な射撃戦となり、槍のような矢と火矢が飛び交っている。
大剣にエンチャントを施し、ガーゴイルを迎え打つために天の構えをとる。
彼らが撃ち合っている隙に目の前のガーゴイルを始末してしまわなくちゃな。
放浪者が本気を出した場合、ワイヤートラップ程度の罠ならものの数秒で設置出来ます。
もし、彼がリリカルにまで出張った場合、地雷とかバンバン使うようになっちゃいます。