不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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主人公「おしまいだ! おしまいだ!」

放浪者「祈らぬのか?」

主人公「何にっ? ……何にすがれば良いのです!?」

放浪者「知るか。すがるものなど、始めから何も無いのだ」


不死の英雄伝 48

第四十八話 新たな課題

 

 

迫る炎の刃を左手で受け止める。

 

俺の欠点を指摘されてしまったが、その程度で折れてたまるか。

 

実力に差があるからといっても、戦い方次第では勝てない訳じゃ無いのは分かり切ってる。

 

 

俺の抵抗に苛立ちを隠せないのか、放浪者は露骨に舌打ちをする。

 

 

ー一々悪あがきしてんじゃねぇよ-

 

-俺だって暇じゃねぇんだぞ?ー

 

-テメェ以外にも殺さなきゃなんねぇモノができちまったからな-

 

ーだからいい加減終わっとけー

 

 

ー嫌、だねー

 

ーそもそも、君には一つ…見落としが…あるー

 

 

ーあん?ー

 

ー見落としだァ?ー

 

ー苦し紛れの言い訳してんじゃねぇぞー

 

 

ー簡単な…話さ、君は一人でも、俺は…一人じゃ無いって事さー

 

 

ーはっ、何を言い出すかと思えばー

 

ーテメェの仲間はさっき俺が、っ‼︎ー

 

 

その先の言葉が紡がれる事は無かった。

 

何故なら、先ほど両断されたユイが消滅しながらも、渾身の力を込めて自分の剣を放浪者の背中に投げ付けて居たのだ。

 

 

ーな、なん…だと?ー

 

ーこ…の、暗月のダニ共がっ‼︎ー

 

 

霊体には、消滅して行くまでの猶予が僅かながらにあるのを放浪者は忘れていたんだろう。

 

 

激昂した彼の隙を突き、拘束から抜け出して改めて刀を使い肩から腰に掛けてを袈裟斬りにする。

 

両断された彼は、忌々しげな顔をしながら消えて行く。

 

 

ーチッ、その首は暫く預けておいてやるー

 

ーテメェを殺せなかったのは残念だがなー

 

ーさっきも言ったが、俺にはやる事が出来たんでなー

 

 

最後にそう言い残し、彼は完全に消滅した。

 

 

刀を納刀し、指摘された欠点に考えを巡らせる。

 

 

刀を構えて一つ、踏み込んで二つ、抜刀で三つ。

 

彼曰く、これだけ動けば誰でも避けられると言う。

 

だが、今まで戦って来た敵達はこの欠点を見切ることを出来ては居なかった。

 

彼の言葉に嘘は無い。

 

現に彼は、背後から完全に不意を突かれたにも関わらず、俺の居合いを完全に見切っていた。

もしこのまま、彼と同格の者達と戦った場合、今回のように数で優っていても、たったの一撃でひっくり返されてしまう可能性がある。

 

その事が、俺の胸に重くのしかかる。

 

間違いなくあの男は一流だ。

 

 

今回の戦いは、終始あの男に主導権を握られていた。

 

 

今にして思えば、道中の大量のトラップは俺に対しての意趣返しと共に、この部屋に誘き寄せる事が目的だったのだろう。

 

 

俺の投擲癖に辛酸を舐めさせられてきた彼は、物も少なく、万が一投げられても銀騎士を盾に出来るこの部屋に誘っていたのだ。

 

これ以上、罠を張り巡らせまいと勇んでいた俺は、深く考えずに彼の思惑にまんまと乗ってしまう。

 

 

その結果、実力勝負に持ち込まれ、二対一だったにも関わらずこの有様となった。

 

 

動きの無駄を無くすこと、それが俺に出来た新しい課題だった。

 

 

試しに、動きの無駄を無くす事を意識して居合を放ったのだが、踏み込みも抜刀も満足に出来ず、居合の形を保っていなかった。

 

 

流石に、一朝一夕に行かないか。

 

そうだよな、意識しただけで、動きの無駄を無くせるならば世の中達人だらけだよ。

 

一人ではやっぱり気付かない事だらけだな。

 

 

それともう一つ、彼の事で気になる事があったのだ。

 

 

彼の言う目的、あれは一体何を指すものなのだろうか?

 

 

地下墓地で出会った時の彼と、今回の彼では”強さ”のベクトルが違うように感じたのだ。

 

地下墓地の時は、純粋な逆恨みと他人を害する愉悦を目的としたもので、獣のような強さに思えた。

 

本能のまま、その刃を振るう彼は正に猛獣だった。

 

 

だが、今回は違う。

 

確かに、俺への恨みは残っているようだが、彼の表情に見え隠れして居たものはまた別の物だった。

 

以前の彼では考えられないほど、強い意思が篭った目をしていた。

 

 

最後はヘラヘラとした笑いをして居たが、今の彼にはその表情が一種の仮面のように思えてしまった。

 

 

恐らく、彼は彼なりの”戦う理由”を手に入れたのだろう。

 

 

今までの快楽殺人鬼では無くなり、理性を持って刃を振るう男になった。

 

 

随分と手強い敵になりやがったな。

 

 

この先、確実に訪れるだろう彼との再戦、その時に立って居るのは果たしてどっちだろうか?

 

 

戦う理由は人それぞれだ。

 

 

その理由に良いも悪いもなく、ただ”重さ”が有るだけだ。

 

 

俺たち不死同士の戦いでは、その思いの差が勝敗を左右する。

 

折れない心、譲れない思い、それらの強さが俺たち不死にとっては何よりの強さとなる。

 

 

つまり、今の俺は、実力は勿論、思いの強さでも負けてしまったと言う事だった。

 

 

鬱蒼とした気持ちを吐き出すかのごとく大きく深呼吸する。

 

 

難しく考えずに、思ったまま戦えば良いんだ。

 

 

このまま、ぐだぐだとあれこれ考えていても負け犬の遠吠えにしかならないからな。

 

 

俺の思いだって、決して軽いものでは無い。

 

 

不死の呪いを祓う事、それが俺の戦う理由なんだから。

 

 





彼の目的と、殺さなければならないモノとは一体?

察しのいい人なら分かるかもしれませんね。

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